表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/234

77 体育祭

 あの騒動以来、優奈の献身的な行動にはさらに拍車がかかった。


ただでさえ反則的なほどの美貌でありながら、女としてただひたすら一人の男に尽くすその姿は男性にとって究極の理想像でしかなかった。


新学年が始まるとまず最初の大きなイベントとして体育祭がある。

ところが勝也は今まで一度も参加していない。


1年の時は誰とも話さず一人ぼっちだったためこっそり気配を消している間に参加競技のメンバーが全部埋まり何にも出なくてよくなったのをいいことにここぞとばかりに休んだ。

2年の時はちょうど風邪をひいてしまい自宅療養中だった。


しかし今年は逃げ切れるはずもなく…


「今年こそはなんか出るでしょ?」

「え~出来たらあんま出たくないんだけど」


「おいおい頼むよぉ、なんか出てくれないと…」


くじ引きで体育委員に決まってしまった康太。

おまけに周りに乗せられて応援団長まで引き受けてしまった手前、自分のクラスから参加しない者を出すわけにはいかなかった。


「勝也って球技大会も出てないじゃん。そろそろなんか出といた方が…」

「また風邪ひくかもしんねぇよ?」


「意地でもひかせない」

「なんなんだよ…」


「とりあえず一番楽そうなヤツでいいから…な?」


「…ホントに楽そうだったら考えるよ」


結局勝也の意見は通らず、そしてなぜか借り物競争にエントリーされてしまった。


「大体高校生にもなって借り物競争とかするか普通…」


「毎年3年だけやってるよ?」

「あんなの区民運動会のおばさん達がやるモンだろ」


「ま、その代わりあんまり必死になって走らなくてもいいヤツだから」


「…はぁ…気が重い…」


帰り道、ひたすら愚痴をこぼす勝也だった。


体育祭は当然ながら全校生徒で行われるとあって勝也にしてみれば本気でイヤな行事だった。


一方、中学時代本気でバレーボールをやっていた優奈。

今でも驚く程スリムで綺麗な体形をしているのも納得がいく話だがその運動神経は相当なモノ。

実力を買われて今年はリレーに出ることになった。


 いよいよ体育祭当日。


自分の出番まで教室で寝ていようと企んでいた勝也だったが、全員に起こされ仕方なくグランドに連行された。


午前中最後の競技が優奈の出るリレーである。

しかもアンカーとあってちゃんと見ておかないと後で何を言われるかわからない。


眠そうな目をしながらその姿を目で追うと3番手でバトンを受けた優奈は結局トップでゴールした。


「あー疲れたぁ」


「お前あんなに足速かったんだ」

「へへー惚れ直した?」


「いや別に…」

「ぶぅ!!」


一旦教室に戻って昼休み。

食後にまた突っ伏して寝ようとする勝也に


「昼一番に出るんでしょ?起きとかないと走れないよ」

「どーせそんな真剣に走んなくていーんだろ?」


「それアイツの前で言ってみる?」


見れば康太は応援団長として張り切り過ぎている。


「めんどくせぇなぁ、やっぱ休みゃあよかった…」


 昼休憩が終わりまた全校生徒がグランドに集合した。


そしてそこから午後の競技が始まるのだが


「よぉし勝也の初参加だ!みんなしっかり応援しろよ!」

「わざわざでっけぇ声で言うんじゃねぇよ!人知れず終わってくるわ」


「頑張ってねー!」

「コケないようにねー(笑)」


「あーうっせぇ…。おい康太、ちゃんと楽なモノ用意してんだろうな」


「任せとけ!一番悩まなくていいヤツ置いてやる♪」


各レーンの先に椅子があり、そこにお題を書いた紙を置くのが康太を始めとする体育委員の仕事である。

生徒たちは勝也がこの種目に出るために集合場所に向かっている時点で騒ぎ始めた。


「きゃー!松下先輩が出るー」

「借り競ってなんか意外~」


「頑張ってくださーい!!」


走る前からすでに声援を受け、余計に表情を曇らせる勝也。


康太の指示で勝也の順番はなぜか最後に回された。

そして競技が始まると、赤ブチのメガネだとか自分の担任だとかありがちなネタで順番が進んでいく。


徐々に勝也の出番が近づいてみんなのワクワク感も上がってきた頃…


「ねぇ、そういえば毎年この借り物って…」

「ん?」


みさが何かを言いかけた途端ひときわ大きな歓声が起こった。


「ホラ来た!」

「まーあの不機嫌そうな顔(笑)」


「おまけに大注目浴びちゃってるモンだから余計に」


遠目に見ても眉間にしわが寄っていそうな顔の勝也がスタートラインに立つ。

大きな歓声の中、借り物競争最後のスタートが切られた。


「あんま走るのは得意じゃないみたいだね」

「アハ、ホントだ(笑)」


他の生徒から少し遅れたタイミングで椅子の上にあるメモを取った。

それを開いた途端、勝也の動きが止まる。


「康太は悩まなくていい物って言ってたけど…」


しばらく固まっている勝也。

その直後すぐ近くにいる康太に向かって何やら叫び始めた。

その内容までは聞こえないが


「なんかすっげぇ文句言ってない?」


「まったくもぉ…」


しばらく押し問答したかと思えば重い足取りでグランドの真ん中を横切るようにポテポテとみんなのいる方へと向かってきた。


「お?こっち来るみたい」


「まさか…」


他の生徒がゴールし始めた頃ようやくみんなの前に到着するが、モジモジしてなかなか声を発しない様子。


「おーい!何借りに来たんだぁ?」

「早くしないとビリになっちゃうよー!」


クラスメイトから色々と声がかかり始めると


「…うっせぇな!」


叫んだあと大きくため息をつき


「…チッ…優奈ぁ!!来い!」


「…え?」


ようやくみさが確信した。


「やっぱそうだぁ!!」


訳も分からないまま優奈が立ち上がって歩み寄る。


「なぁに?」


「…こんなの置きやがった」


勝也が見せたメモ。


そこには


【一番大事な人を抱っこしてゴールせよ】


「…え?…ええぇぇぇ!!!!」

「あのヤロー…ハメられた…」


すると勝也が、驚いて固まっている優奈をバッとお姫様抱っこした。


『キャアアァァァァァァァ!!!!!』


その光景を見た途端に全生徒から悲鳴のような大歓声が起こる。


「ちょ、ちょっと…」

「うるせぇ!」


優奈を抱きかかえたままゴールに向かって走り始める。

間違いなく今日一番の大歓声の中、この大きなグランドのど真ん中を校内で一番有名なカップルが進む。


「やっぱそうじゃん!毎年1人だけこれ当たるんだよ!」

「そういえば…」


「完全に康太の仕業だな(笑)」


大きな歓声の中、公衆の面前で勝也に抱っこされている。


「あの…ものすごーく恥ずかしいんだけど…」

「俺だって顔から火ぃ出そうだよ、恥ずかしかったら顔隠してろ」

「…う…うん…」


勝也の首に両腕を回したまま、首元に顔をうずめて隠れるように抱きつく。

だが逆にその光景が余計に2人の親密度を見せつける結果となりさらに大きな歓声を浴びてしまうのだった。


友人たちはもちろん、下級生にいたるまでが2人をうらやましそうに見守りながら大歓声を送る。

そしてゴールを見るとニヤニヤと笑顔を浮かべた康太が腕を組んで立っていた。


「優奈、両足まっすぐ伸ばせ」


「え…こ、こう?」

「そう、そのまま踏ん張っとけよ」


そういうとゴールラインを超えてもまだ走り続ける勝也。

そして一直線に向かっていき


「…え…ちょ…ちょっと…おい!」


 ドカァッッッ!!


「ぐええぇぇっっ!!!」


康太の体が吹っ飛び仰向けに転がる。

優奈の両足を武器にそのままの勢いでドロップキックをお見舞いしたのだった。


やんややんやの大歓声の中で大爆笑も起こりようやく降ろされた優奈。

大盛り上がりとなった借り物競争も終わり自分たちのエリアに歩いて戻る途中も大歓声を受けながらの帰還となる。


「いや~!最高だったぁ!」

「見せつけてくれちゃってぇ」


「うるせぇ!」


「これは康太にヤラれたな」


「あのヤロー絶対に許さねぇ」

「えー?さすがに今回はみんな康太の味方だと思うよぉ」


「はぁ?!…ちくしょー…」


勝也がみんなに冷やかされている中、みさがすり寄ってきて


「どんな気分でしたか、お姫様♪」


「えー…すっごい恥ずかしかったけど…『一番大事な人』ってのは嬉しかった」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ