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74 クラス替え ②

「うぇぇ~ん…一睡もできなかったぁ…」


 新学年が始まるその初日、今日から高校3年生になる。

今日ももちろん朝から勝也を起こしに来た優奈だが、その行動はモタモタしていつもより遅い。


「何落ち着いてんだよ、そろそろ行くぞ」


「…ん~…やっぱ今日はヤメとかない?」

「何言ってんだ。今日行こうが明日行こうがクラスはもう決まっちゃってんだよ。早くしろって」


「…う~…怖いぃぃ…(泣)」


自分一人だけ別のクラスになってしまった悪夢の1年前。

それからの1年を優奈は必死に耐えてきた。


確かに今の教室でも岳や芽衣、JUNCTIONの勇太もいてまったく一人ぼっちという訳ではなかったが、やはり最大の問題は勝也と離れていた事である。


今日登校すればこれからの最終学年での運命が決まる。

絶対勝也と同じクラスになるんだという今年最大の目標を持ちながらも、それを見るのが怖くて仕方無かった。


渋々アパートを出るも優奈の足取りは重い。

あまり文句を言い過ぎれば勝也に怒られるとは分かっていながら口から出るのはため息ばかり。


「離れんのは授業中だけだろ?去年みたいのがもう1年続くだけじゃんかよ」


「…ねー、それ離れる前提で言ってない?」

「あ、ホントだ(笑)」


「もし今年も離ればなれだったら学校に火ぃつけてやる…」


「そういう事を真顔で言うなって…」


3年になればまた同じクラスになれるかもしれない。

わずかな望みに賭けて1年を過ごしてきた優奈にとって今日はこれからの学校生活において何よりも重大な日である。


足取りは重いながらも着実に学校が近づいてくる中


「あ、コンビニ寄ってこ?」

「…まだ桜は咲かないのかなぁ」


現実逃避にしか聞こえない言葉を並べる優奈だった。


「めんどくせぇヤツだな、ったく。じゃ、もし離れちまったら帰りにどっか好きなトコ連れてってやるから文句言うな」


「え?ドコでも?好きなトコ??」

「あぁ」


「じゃあラブホ行ってみたい!」


「…はぁ?!…バカか、お前はぁ!」


「ドコでもって言ったじゃん…」

「そぉいう事じゃねぇよ!大体制服なんかで行ったら通報されちまうだろうが!」


「もぉ!今はそれよりクラス分けの方が大事なの!怒ってばっかりいないでよ!」


「…1回しか怒ってねぇんだけど」


学校が近づいてくるとともに優奈の表情は険しく、そして目つきは鋭くなっていく。

徐々に勝也でさえも迂闊に話しかけられない状況になってきた。


ちょうど出くわしたみさにも気づかない優奈。


「おは………おっと…恒例のヤツ?」


「おぉ、今MAXだから気をつけろよ」


「おーっす!さて、最後の1年間は誰と一緒のクラ…」

「…ちょ、ちょっと!康太!」


鬼もビビるような目で優奈に睨まれる。


「…ご、ごめんなさい」


ついに校門を通過する。

2年で優奈と同じクラスだった生徒たちは1年前のあの寒気がするような目つきを思い出し、声をかけられずに足早に通り過ぎていった。

優奈を取り囲むように歩く親友たちも自分が何組かという事よりも優奈の想いが叶うのかどうかの方を気にかけていた。


掲示板にはすでに人だかりができている。

その光景が目に入ると優奈がピタッと止まり


「…ちょっと待って…」


「あ?」


「やっぱムリ…勝也見てきて…」

「ったくめんどくせぇな!ここまで来たら覚悟決めろってんだ!」


そういうと優奈の腕をガシッとつかみズンズンと掲示板に向かっていく。


「ちょ、ちょっと待ってってば!…まだ心の準備が…」


「うるせぇ!準備しようがしまいがもう結果は決まってんだよ!」


勝也の怒鳴り声で掲示板前の人垣が割れる。

そして最前列まで進むと


「ほれ!自分で見ろ!」


下を向いたままの優奈だったが覚悟を決めてゆっくりと視線を上げる。

まず探したのは、女子列では最上段近くに書かれているであろう自分の名前。


それは2組にあった。

すぐさまその組の男子列の下の方、ま行の辺りに目を向ける。


そこには


「…やっ…やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」


勝也の名前もしっかりと2組に載っていた。

あまりの緊張と恐怖から目にうっすらと溜まっていた涙は喜びのモノに変わり、多くの生徒が周りにいるのも忘れて飛びかかるように勝也に抱きつく。


それだけではない。みさ、ありさ、千夏、康太、陽平に、岳と芽衣。

それに勇太、洋司、了、蘭とあのJUNCTIONのメンバーまでも全員2組に揃っている。


1年間耐え抜いた優奈に神様は最大級のご褒美をくれたようだ。


「おー!おめでとー!」

「はぁ…やっと肩の荷が下りたぁ」


「これで誰も八つ当たりされなくて済むな」

「学校側もみんなの安全を一番に考えたんだろうね」


さっきまでの恐ろしい目つきがウソのようにポロポロと涙をこぼしながら喜ぶ優奈に、友達からは『おめでとう』の言葉が飛んでくるのだった。


「ったく、毎回大騒ぎしやがって」


クラス分けを確認するとそのまま一旦教室へ入る。


同じく掲示板に表示された新しい教室へと全員が向かった。

勝也と同じクラスになれた事に女子生徒は喜び、優奈と同じクラスになれた事に男子生徒が喜んでいる中


「おぉ、来た来た」

「良かったねぇ優奈」


「あ~!蘭~っ」


おもむろに蘭に抱き着く優奈。


この学校内において『有名人』と扱われる人全員が集まったようなこのクラス。

特にこの美女ツートップが揃っていることが男子生徒にはたまらなく幸せなようだ。


まだ席の配置も決まっていない状況で、


「ドコに座ってればいーのかな」

「とりあえず適当でいーんじゃね?」


「ふ~ん…」


そういうと勝也が中央の列の一番後ろにカバンを置く。

1年、2年とまるで定位置のように座り続けてきたその場所にあまりにも自然に腰を下ろすと、当然のように優奈はその隣の席に座る。

特にモメる事もなくみんなが思い思いに席を選ぶと勝也と優奈を中心にして放射状に取り囲むようにこの有名人達が配置された。

クラスメイトから見るとその光景はあまりにも壮観で、自分たちが彼らと同じクラスであることが嬉しすぎる様子だ。


新担任が入ってきた。

それは2年の時の優奈達のクラスの担任で、今年はあの突き刺さるような視線ではなくニコニコと幸せそうな笑顔の優奈を見てホッとしている。

そして挨拶を済ませると


「えーっと…みんな席にはついてるが一応名簿順に『席替え』を…」


そこまで言ったところで優奈の視線が去年と同じモノに変わった事に気づくと


「…とりあえず…しばらくはこのままでいいでしょうか?」


この時点で優奈は勝也と同じ教室でしかも隣の席という最高の位置を獲得したのだった。



全員で体育館へ移動し始業式が行われる。

そしてまた教室へ戻ると新しい教科書が配られて、明日以降の予定の説明があった。

その間も終始ニコニコと笑顔の優奈。その表情だけでもこのクラスに明るい雰囲気をもたらしている。


今日は始業式だけで学校は終わり。

その帰り道


「あー良かったぁ!これで毎日気分良く学校行ける♪」


「大体朝からギャーギャー騒ぎ過ぎなんだよ」

「だってぇ…」


「1年間ガマンしたんだもんねぇ」

「そーだよ!ちょっとは勝也も喜んであげれば?」


「別に同じ教室じゃなくたっておんなじ学校通って…」


「あー、そんな事言ったらまた怒られるぞぉ」

「優奈がキレたら手ぇつけらんねぇからな(笑)」


「…去年の安東さんの目、ホントに怖かったもん」

「あー…岳ちゃんまでそんな事言う…」


「ま、優奈の執念が実ったって事でしょ」

「だってそれにみーんないるんだもん。これからの1年楽しみでしょーがない♪」


このグループが固まって歩いているとやはり相当目立つようで周りからは注目を集めていた。

そして帰り道が徐々に別れていき、最終的には2人になる。


「今日はバイト休みだよね」

「あぁ」


「お昼どうする?」

「ラーメン食いたい」


「じゃ食べて帰ろ」


たまに2人で行くラーメン屋に寄ると


「あー幸せ」


「勝也あのお店好きだねぇ」

「うん。なんか夜ごはんいらないかもなぁ…ハラはち切れそうだし」


「あ!ねぇねぇ、んじゃどっか行ける?」

「ん?別に今日は予定ないけど…ドコ行きたいの?」


「ラブホ♪」


「はぁ?!バ…バカかお前は!」


「だってどうしても1回行ってみたいんだもん」


「それはもしクラスが離れちゃったらって…」

「だってこれだけは絶対に勝也としか行けないトコなんだよぉ?!」


「そ、それはそうかもしれないけど…」


「じゃあ誰かに連れてってもらえばいーの?」

「あ?!キレられてぇか?」


「ほらぁ…だから勝也に頼んでるんじゃんか」


「だって…あ!ほら、制服だと色々問題が…」

「今日は予定ないんでしょ?帰って着替えてからいーじゃん」


「そんな…わざわざそのために出かけんの?」

「制服じゃダメなんでしょ?」


「そりゃ…あ、それに今からだと遅くなっちゃうかもしれないし…」

「晩ごはんいらないんでしょ?」


「えっと…」


するとシュンとした顔になり


「じゃあもぉいーよ…」


今日一日嬉しそうな笑顔を見せていた優奈がまた寂しそうな表情になると


「あー!もぉめんどくせぇな!…わかったよ!」


「ホント?!やったぁ♪早く行こ!」


急にまた笑顔に変わると勝也の手を引いてアパートへと走り出す。

結局優奈に押し切られるカタチとなり、初めてのラブホへと向かうハメになったのだった。


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