73 春休み
激動の高校2年が終業式を迎えた。
勝也の失踪未遂や樹事件、ブランカの解散に文化祭でのJUNCTION結成。
そしてBeastRush騒動に初の勝也の実家への帰省と本当に目まぐるしい1年だった。
去年の春休みはバイトとライブでほとんど潰れ、丸1日何もなく一緒にいれたのはたった1日だけ。
だが今年は優奈の両親から誕生日に貰ったディズニーランドの1泊旅行もあり、さらに2人で休みを合わせて家でノンビリ過ごすといった日も取れた。
新学年が始まる寸前のある日、勝也がバイト先の仲間と飲みに出るという日があった。
珍しい事もあるもんだと思いながら見送ったその夜、優奈の電話が鳴る。
「もしもーし優奈ー?帰ってきたよ~」
「きゃー!紗季ちゃん!おかえりなさーい!」
仙台に転勤していた紗季が配属替えでやっと地元に戻って来れたのだ。
「女子会やるよ!今から来れるー?」
「もちろん行くー!」
急いで準備すると電車に乗って街へ出る。
言われた店に行くと2階のガラス張りの窓際の席ですでに3人揃っていた。
「お待たせー!紗季ちゃんおかえりなさい!」
「ただいまぁ。やっと帰って来れたよ、予定よりかなり遅くなったけど」
「FINALの時以来だよね」
「あの後Banが仙台行っちゃってから全然帰ってこなかったしねぇ」
「だぁって…向こうでずっと一緒にいれたんだもん」
「そりゃわざわざ帰って来ることもないわな(笑)」
久しぶりの4人での女子会はやはり大盛り上がりで、優奈にとっても最高に居心地のいい空間だった。
結構な時間を楽しく過ごしていた頃、ふと外に目をやったみぃが
「あれ?…ねぇちょっと…あれJunと勝也じゃないの?」
「えっ?」
みんなで窓際に詰め寄りみぃの指さす方を見ると
「あ…ホントだ…」
「ちょっと!その後ろ…みんないるじゃん!」
「平蔵のヤロォ…今日は仕事仲間と飲み会だって」
「え?Syouもそう言って…」
「…勝也もなんだけど?」
しばらく沈黙の後、顔を見合わせ
「ほっほ~う…アイツらいい度胸してんじゃん」
「こりゃぁお仕置きかな」
「許される事じゃないよねぇ」
「よし、とりあえずここはまとめて払ってくるからアンタ達は尾行開始して!」
「了解」
みぃが一旦立て替えてレジで支払いをしている間、3人は店を出て彼らを尾行する。
6人が向かった先はコンビニだった。
そしてみぃが合流した直後、全員がアイスを咥えて出てきたところで…目の前にはブランカが一番恐れるメンツが勢揃いで腕を組んで仁王立ちしていたのだった。
「…え?」
「…う…うわ…」
全員が完全に固まり唖然としていると
「仕事仲間と飲み会だったんですよねぇ?」
「そのわりには全員の顔よーく知ってる気がするんですけど」
「とりあえず言い訳でもしてみます?」
「ウチらが納得できる言い訳じゃないとねぇ」
「ぎゃははは!だからちゃんと言ってから来いっつっただろーがよぉ!!(笑)」
彼女のいないJunとKouが笑い飛ばすものの
「アンタらも同罪だけど?」
「…あ…はい…」
完全に怯えた顔の元ブランカ達は誰一人女性陣と目を合わせることなく俯いている。
そして散々責められたあとようやく
「…ごめんなさい…」
と頭を下げたのだった。
だが彼女たちの本心は、今でもこうして6人で集まって遊んでいる彼らを見て嬉しくて堪らなかった。
バンドという繋がりを『約束だったから』という理由で断ち切ったブランカ。
だがそれでも彼ら6人の繋がりは途切れるどころか何一つ変わっていない。
こうして彼女達の目を盗んでまで集まっては遊びたがるこの男達がやはり可愛くて仕方ないのだった。
「で、どう解決してくれるの?」
「…えーっと…」
「どうしましょ…」
「あ!…その…もっかいイチからみんなで遊ぶ…とか」
「は?ドコで?」
「…えっと…FINALの前に行ったRound1…とか」
「乗ったぁ!!」
「よし、それなら許す」
「はぁぁ~…また暴力振るわれるかと思った」
「だからアンタのは暴力じゃなくて『しつけ』だって言ってんでしょぉ?」
「まぁもうバレちゃったんなら仕方ねぇや。あんトキの続きしに行こーぜ!」
あの楽しくて楽しくて何度も夢にも出てきた全員での大騒ぎがまた今から始まる。
元々アパートに泊まる予定ではなかった優奈だがその場で急いで家に連絡し、勝也も電話口に出て事情を説明してくれて許可を得た。
「よぉし、行くぞー!」
前回を上回るほどの盛り上がりでまたしてもカップルなどという概念は無く全員ごちゃまぜの大騒ぎとなった。
そして例によってお腹が減ったあたりでカラオケルームに入る。
マイクを持つ者は一人もおらず、飲むわ食べるわの大宴会に発展した夜中ごろ
「Syouさんの歌聞きたいなぁ~」
優奈がポロッとこぼした言葉で一瞬その場に静寂が広がる。
「あっ!ご…ごめんなさい!あたし、なんて事…」
慌てる優奈を見てフッと笑顔を見せた平蔵が
「可愛い『妹』のお願いだってよ~(笑)」
固まる女性陣とは反対にニヤニヤと笑顔でSyouを見る男達。
「ったく…優奈の頼みじゃ仕方ねぇか」
Syouがスッと立ち上がる。
「えっ?」
「…ウ…ウソ…」
あのFINAL以来初めてマイクを持ったSyouの姿はやはり強烈なオーラを身に纏っている。
選んだ曲はハード系ではなくEXILEの『Your eyes only』。
天賦の才を持ったこのボーカリストの歌うバラードは彼女達の目から大粒の涙をとめどなく溢れさせたのだった。
涼子の目にも涙が溢れ、そして隣に座っていた優奈にギュッと抱き着き
「…ありがとう優奈…」
始発の電車が動き始めた頃この大宴会もお開きとなりそれぞれが帰宅の途に就いた。
やはりこのメンバーの集まりは何にも代えがたい至福の時であり、その余韻に浸りながらの帰り道
「あ~まだ遊び足りないぃ…」
「どんだけ遊べば気が済むんだ(笑)」
「だってぇ…Syouさんの歌も聞けたし~」
すると勝也の顔からスッと笑顔が消える。
「優奈…ありがとな」
「なにが?」
「Syouクンに歌わせてくれて」
「…え?」
駅からアパートへ向かう道のりで語り始める。
「あの人、あのFINAL以来一度もマイク持たなかったんだ。自分が立ち上げたブランカの最後のライブで燃え尽きて…俺達はまだ家でも弾けるし手を伸ばせばそこに楽器はある。でもあの人は鼻歌とかでさえもためらうほど歌から離れてた。いや…歌えなかったって言う方が正解かな。だから誰もSyouクンに『歌え』って言えなかった。でもあのお前の一言でやっと歌えたんだ。…ありがとな」
「え…やっぱりあたしとんでもない事…」
「あそこであの言葉を口に出せるのはお前だけだよ。お前だったからSyouクンは『しょーがねぇなぁ』って顔出来たんだから」
「…あたしなんにも考えないで口走っちゃって…」
「大丈夫、みんな今日はお前に一番感謝してるよ。特に涼ちゃんは」
「次どんな顔して会えばいいのかな…」
「いつものバカ面でいいんじゃねぇの?」
「…うん…いつものバカ……はぁぁ?!ヒッドー!!バカ面って…さいてー!!」
「わはは!ホレ、早く来ねぇと置いてくぞ~」
追いかけっこのようにはしゃぎながらアパートまで走る。
そしてそのまま2人で帰った翌朝…
ギュッと抱き合って眠っている優奈のスマホには、昨日のメンバー全員から感謝のLINEが届いていた。




