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72 世話

 誕生日以来優奈の両親は今まで以上に勝也の事を気に入り、事あるごとに家に招待してくれるようになった。

父にいたっては勝也と2人で飲みに出ようと企み優奈にバレて本気で怒られるという事件もあったほどだ。


高校2年も終わろうかという年度末、何十年振りという大雪が降った。

街は銀世界になりさすがに歩いていくには危険も伴うため久しぶりにバスで登校した。


校内も至る所で地面がスケートリンクのように固まり、教師達がカラーコーンでせっせと立入禁止の区画を作っている。

 

その日の休憩時間の事


「ヤッバー…ちょっとでも気ぃ抜いたら一瞬で転びそう」


「それ朝から2回転んできた人の前で言う?」

「あ、それで千夏だけジャージなんだ(笑)」


「2回って…痛そ~」


そんな会話をしながら裏門から校内へ続くカーブ斜面の下を歩いていると


「…どっ!…どっ!…どいて~~っ!!」


「…えっ?!」


声のする方を振り返ると、1枚のレジャーシートをボブスレー代わりに並んで乗った4人がその斜面をものすごいスピードで滑り降りてきたのだ。


「きゃっっっ!」


優奈達4人のちょうど真ん中を突っ切るように滑りぬけていったのは、岳を先頭に康太、勝也、陽平といつもの連中で…


「わあああ~っっ!!岳!まっ…曲がれ~!!」

「ムリだってぇぇぇぇ!!」

「なら止まれぇぇぇぇ!!」

「それもムリ~~!!」


そのまま直進していったかと思うと……正面の植え込みに4人とも突っ込んでいった。


どれが誰の足ともわからないほどグチャグチャに折り重なった男達。

呆気に取られた顔で優奈達が見ていると


「こぉらぁぁぁお前らぁ!立入禁止って書いてあるだろうがぁぁぁ!!!」


「ヤッベェ逃げろッ!!」


植え込みから脱出するようにして起き上がるとそのままダッシュで逃げていった。


「…はぁ~~……」


俯き、手をおでこに当てて大きなため息をつく優奈。


結局数人がかりの教師に挟み撃ちにあい、連行されてこっぴどく絞られた4人が教室に戻ってくると


「なぁにそのカッコ~~(笑)」


制服はボロボロのドロドロで岳にいたってはまだ髪に葉っぱのついた枝が刺さっている。みんな顔が擦り傷や切り傷だらけになっていて植え込みの危険さを身をもって表していた。



みさが保健室から消毒液や絆創膏にガーゼなどを貰ってくると

岳は芽衣に、康太はありさに、陽平は千夏に、そして勝也は優奈に椅子に座らされて治療中で


「いたたたたた!!!」

「ちょっとジッとして!」


「もぉ子供じゃないんだからさぁ」


「だってよぉ、康太が…」

「あ~!俺のせいにすんのかよぉ!元はと言えば岳が先頭切って…」


「僕は強制的に一番前に行かされただけだもん!」

「強制ってお前がじゃんけんに負けたからだろぉ?」


「あーもぉ!うるさいっ!おとなしくしてなさい!」


その光景をクラス中の生徒が笑いながら見ている中、勝也は顔に絆創膏を貼られながら


「まったく…泥汚れはまだマシだけどこういう葉っぱの緑色とかついちゃったらなかなか落ちないんだからね?洗う方の身にもなってよ」


「…ごめんなさい…」


もう今では洗濯まで優奈がやっている事を知り、周りの男子生徒からは諦めにも似たため息ばかりが漏れるのだった。


「あー!ここ破れてるじゃんっ!!」

「え、どこどこ?」


よく見ると袖のヒジ辺りが破れている。


「もぉ…縫うから脱いで!」

「破れたんなら捨てちゃえば」


「あんな遊びするからでしょぉ?!簡単に捨てるとか言わない!」


「…はぁい…」


結局怒られ続けた勝也だった。


その日の帰り、今日は勝也が島村の店でバイトのためいつもの曲がり角で別れると


「今日は優奈はバイト休みなんだ?」


「そうなんだけどやっぱ勝也のシャツだけ買いに行ってくるよ」

「じゃあ付き合っちゃおっかな」


「ホント?ラッキー♪」


久しぶりに学校帰りにみさと2人で街に出ることになった。

街に出るととりあえず最初の目的である勝也のシャツを買いに店に入る。

そこで優奈はサイズに迷うことなくシャツを選び


「ん~、もう一枚もくたびれてきてるし2つ買っとこっかな」


「もう妻じゃなくて母みたい」

「なんで母なのよ(笑)」


そういうとシャツを2枚カゴに入れて今度はTシャツを見始め、黒系のモノをまた2枚ほど入れる。


「勝也のモノばっかりじゃん」


「だってあの人自分で服買ったりしないんだもん」


「え、そうなの?いつも私服とかカッコいいのに」

「同じ服でも着こなしでイメージ変えちゃう人だからね。出かける時も用意しとかないと引き出しの一番上にあるのしか着ないし」


「なんか意外~」


「制服もそうだったでしょ。あの時ブランカだってバレる前と後で全然イメージ違ったけど、アレおんなじ制服なんだよ?」


「そっかぁ、言われてみれば確かにあの時は違う服に見えたもんね」

「まぁ何買ってっても文句言わずに着てくれるから楽だけど(笑)」


結局勝也のモノばかりをいくつか買い、店を出て歩いていると相変わらず色々なところで知り合いに声を掛けられる。

やはり今でもブランカ時代の名残は残っていて勝也の彼女としての知名度も健在だった。


付き合ってくれたお礼に2人でカフェに入る。


「でもさぁ、今日見てて思ったんだけど勝也って変わったよねぇ」

「最初の頃と比べてって事?」


「うん。アンタが勝也の事好きになったりしてなかったら今でもあの頃のまんまだったのかなぁって思ってさ」

「どうなんだろうね。もしあのままだったとしてブランカが解散したらホントの一人ぼっちになっちゃってたのかなぁ…それ考えるとちょっと怖いかも」


「そう考えたらアンタのおかげなんじゃないの?」

「別にあたしはなんにも…」


「ねぇ、もしウチの学校で優奈より先に勝也の事好きになった人がいてその人が彼女になってたらどうしてた?」


「ダメダメ、前にそれ考えたことあったんだけどしばらく寝れなかった(笑)」


それからは懐かしいあの頃の話で盛り上がった。


「しかし今日のアイツら楽しそうだったね」

「楽しそうはいいんだけど結局こうやってシャツ買いに来なきゃいけないハメになっちゃったじゃん」


「でもそれが勝也のやりたかった事なんでしょ?」


「…やりたかった事?」

「BeastRushの話断った時言ってたじゃん。『卒業までみんなと遊びたいから』って」


「…あ…」


「もちろんその後の『優奈一人残して行けない』ってのが一番の本音だってのは分かってるけど、それでもあれは嬉しかったなぁ」


確かにそうだ。

勝也が今こうして友達と楽しそうに遊んでいる姿など最初の頃を思い出してみれば信じられない話ではある。

周りに壁を作り、一人ぼっちで誰とも話すことなく過ごしていた1年生の頃。

それを思えばあんなに楽しそうな「1人の高校生」になれた勝也もまた微笑ましく思える。


「みんなのおかげだね、あぁやって楽しそうに遊んでるのも」


「アンタのおかげでしょ(笑)でももうバンドはやらないのかな」

「うん…それだけはあたしも口出せないからね」


「優奈が見たいって言えばやるんじゃない?」

「それは無いよ、あの頑固男がそう簡単に考え変えると思う?」


「…ナイな」


カフェを出てみさと別れ一人で帰る途中色々と考えていた。


もし勝也がベースをやっていなかったら。

もしブランカに入っていなかったら。


おそらくこの街には越してきていないだろう。

地元の高校に通い、優奈とも出会わずに高校生活を送り彼女の一人も出来ていただろう。

もしどこかの街で偶然すれ違う事があったとしてもお互い気づくこともなく他人として通り過ぎていただろう。


そんなことを考えているとどうしても逢いたくて逢いたくてたまらなくなった。


家に向かっていた足を止めて引き返し、その足でまた駅に戻る。

そして電車に乗り


「こんにちは~」


「お、優奈ちゃん。どした?…おーい勝也ぁ!優奈ちゃん来たぞー」


それを聞いて奥から勝也が出てくる。


「おう、どした?」


「ん、別に…みさとすぐそこまで来てたから寄ってみた」

「ふ~ん。んじゃあと一時間ほどだから待ってろ」


「うん」


「おい、お迎え来たんなら今日はもういいぞ」


「ダメですよ、ちゃんと時間まで働かせないと」

「厳しいねぇ(笑)んじゃコーヒーでいいかい?」


「いただきまぁす!」


奥で勝也がベースのカスタムをしている間、島村と楽しそうに話しながら待つ。


結局予定よりも少し早い時間で終了にしてもらい、店を後にした。


「そのカッコって事はまだ帰ってないんだろ?」

「うん、誰かさんが破いちゃったシャツとか買いに行ってたから」


「あ…お手数おかけします…」


「ねーこのままどっかでご飯食べて帰ろ?」

「そーすっか」


久しぶりに2人で初めて行ったパスタ屋に入る。

しばらくして


「なんかあったのか?」


「なんかって?」

「いくら島村さんトコとはいえバイト中に急に来るなんて初めてじゃん」


「別になんにもないよ。ただ顔見たくなっただけ」

「ふーん…」


優奈の頭の中には初めてここに来た時の事が浮かんでいた。


優奈を守るためにブランカのベーシストだという事を学校で認めさせてしまったあの日。

どん底まで落ちていた自分を救い出し手作りのおにぎりをくれて学校帰りに初めて島村の店に連れていってくれた。

そしてこの店で初めて2人でご飯を食べた。

まだ彼女にもしてもらえていない頃だったが、緊張で味など全く分からなかった事は今でもはっきりと覚えている。

ベースの話題を切り出し、そのおかげでたくさん話すことが出来た。

それが今はこうして彼女として向かいに座り、当たり前のように2人でご飯を食べている。


今自分がいるこの位置にどれほどの時間と出来事を経て辿り着けたのかを思い出すと今更ながら泣けてくるほど幸せだった。


その帰り道、電車を降りてアパートまでの途中で


「ねぇ…もし出逢ってなかったら今頃どうなってたと思う?」


「なんだ急に」


「勝也はあのまま陰キャ続けてたのかな」

「さぁな」


「もし勝也がブランカに入ってなかったら…もしそのまま地元の高校とかに行ってたら…あたし勝也の存在を知らないままここで生きてたんだよね」

「そりゃそうだろ」


「なんか、そういう事考えてたらすっごく寂しくなって…」


「それで来たのか」

「うん…ごめん」


「ふん…やっぱりバカだなお前は」


「だって!もし何かが一つでも欠けてたら逢えてなかったんだよ?こんなに幸せじゃなかったんだよ?そう考えたら…」


「逢えてたよ」


「…え?」


「たとえどんなに今と状況が違ってようが絶対俺はお前を見つけてた」

「…どうしてそんな事言えるの?」


「俺の人生にお前がいないって事がありえないから」


「…え…」


「いいか?出会いってのは偶然かもしれないけど必要かどうかは自分達で決めるモンだ。俺が生きていく上でお前がいないって選択肢はないの。そりゃもし何かが違ってたら出逢うのは高校生の時じゃなかったかもしれない。もっと大人になってからかもしれないしこの街じゃなかったかもしれない。けど絶対見つけ出して俺のモンにしてた。だって…俺はお前じゃなきゃダメだしお前も俺じゃなきゃダメな女だもん」


気づけば隣にいたはずの優奈がいない。

パッと振り返るとすぐ後ろでしゃがみこんで号泣していた。


「ふええぇぇぇぇぇぇぇん…………」


「あ~ぁ本気のヤツだ」

「…だってぇ…そんな事言うから…」


「お前が自信無さげな事言うからだろ、ったく…偶然付き合った訳じゃねぇんだから。お前と出逢ってなかったら俺はいまだに彼女なんて作ってねぇよ」


「…それ以上言ったら立てなくなる~…」


「ったくよぉ、早く来ねぇと置いてくぞ」

「…ヤだぁ…」


ボロボロと涙をこぼしながらも子供の様に手を引かれて歩き始める優奈。


 

翌週、雪はほぼ解けてソリ遊びはもう出来ないだろうと安心していた校内のあの場所でまたしても叫び声が聞こえる。


「…どっ!…どっ!…どいて~~っ!!」


「…えっ?!」


坂の上から猛スピードで降りてくる自転車。

見れば1台に例の4人が乗っている。


「わあああ~っっ!岳!まっ…曲がれ~!!」

「ムリだってぇぇぇぇ!!」

「なら止まれぇぇぇぇ!!」

「それもムリ~~!!」


 ドンガラガッシャァァァン!!!!


そのまま直進していったかと思うとまたしても正面の植え込みに突っ込んでいった。


「こぉらぁぁ!!またお前らかぁ!!」


「ヤッベェ逃げろッ!!」


ポカンとした顔で見つめる女子4人。


「あ~ぁ(笑)」


「…はあぁぁぁぁぁ……またシャツ買いに行かなきゃいけないじゃん…」


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