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67 JUNCTION

「ホントに大丈夫?やっぱあたしついてよ~か…」


「…大丈夫だっつってんだろぉ…ゴホッ…俺の風邪ぐらいでお前が学校休む理由にはならねぇよ」


「だってさぁ…」

「気ぃ付けていけよ」


「お昼ごはん用意しといたからちゃんと食べるんだよ?それと薬も…」

「わかったってば…いいから早く行け」


「もぉ~…いってきまぁす…」


 勝也が風邪をひいた。

普段からバイト尽くめであまりゆっくり休む時間もとれない上に元々風邪をひきやすい体質で、おまけに一回ひくといつも長引くタイプだった。


朝からアパートに来てご飯を食べさせ、薬も飲ませて着替えまでさせてから一人で学校に向かう優奈。

すでに頭の中は今日の夕方病院に連れていく事とその後何を食べさせるか、完全に母親のような心境で一人寂しくバスに乗って登校する。


そして昼休み


「あ…お弁当無かったんだ」


勝也の世話に必死で自分の弁当など忘れていた事に気づくと、パンでも買おうと学食の横にある売店へと向かう。

ちょうど入り口前を通った時


「おっ?優奈~」


蘭の声がする方に顔を向けると、久しぶりにJUNCTIONのメンバーが全員揃って一つのテーブルに座っていた。

なかなか壮観である。


「あれぇ…なになに、またなんか企んでんの?」


笑いながらそのテーブルの空いた席にチョコンと座る。


「別になんも企んでねぇよ、たまたま揃っちゃったんだ」


「旦那は?」

「風邪」


「またぁ?よくひくよなぁ」

「おまけに長いしな」


「ほんっとに毎回大変なんだからね」


「もうこれは優奈の背負った宿命だね」

「楽しんでるでしょ、蘭…」


大爆笑だった。

だがやはりこのメンバーが集まって談笑していると相当目立つらしく、かなりの注目を浴びている。


「安東先輩って勝也さんと一緒に住んでるんですよね?」


「別にずっと一緒に暮らしてる訳じゃないよ、家も近いからほとんどあの部屋にいるだけ」

「それってほぼ一緒に住んでるじゃん」


「結局『安東』ってさぁ…」

「ねぇ、いつまで『安東』なの?いい加減『優奈』で良くない?」


「え?」


「アンタたちだけだよ、身内で『安東』って呼ぶの」


「…身内…」

「…いいの?優奈って呼んでも」


「逆に何でダメなの?」


一連の会話を聞いて蘭がクスッと笑う。


「ホンット優奈って変わったよね、昔に比べたら」


「え~?なんにも変わってないよ」


「確かに変わったな。前からずっと目立ってたけど話しかけられないオーラとかあった」

「わかるわかる。男になんて返事もしないような雰囲気だったし」


「うっそぉ…」


「仲いいヤツとしか話したくないバリア出てたよな」

「勝也と付き合ってからだよね、変わったの」


「…え?」


ずっとブランカファミリーに言われ続けてきた言葉。


優奈と出会ってから勝也は人が変わったという。

それを聞いて悪い気はしなかったのだが、同じ言葉をまさか自分に対して言われるとは思っていなかった。


「あたしってヤな奴だったんだ」


「そういう意味じゃねぇよ、ただ前とは目が全然違うんだよ」

「優しくなったって言うか」


「それってさ、いつもブランカのメンバーさんとかに言われてた。昔と比べて勝也の目が変わったって」


「そりゃ最初はあいつのバリアの方が強烈だったもんな」

「そぉそぉ!なんか陰気なフリして大人しくしてたもんねぇ」


「あ、そっか…みんなだけは最初からホントの勝也を知ってたんだもんね」


「あの陰キャ見て笑い堪えんのも大変だったけど、あの頃はまだ直接話したりとか出来なかった頃だしなぁ」


「いつも言うけどそれなんでなの?別に声かけたら返事ぐらい返ってくるでしょ」


「そんな事出来るわけないでしょ、ブランカのKATSUYAだよ?」

「今普通に話せてる事自体不思議に思う時あるもんな」


「でも同い年だし同じ学校なんだし…」

「それがそう簡単に出来ないほどの存在だったって事だよ」


「ゆ…優奈はブランカから勝也を知ったわけじゃなかったんだもんな?」


「うん、あたしはなんでか陰キャの勝也の頃から気になってたから(笑)」


少し緊張しながらも初めて名前で呼んでみた勇太。

それをきっかけにようやくみんな『安東』から『優奈』に呼び方を変えることが出来たのだった。


「みんなは初めて勝也見たのってやっぱライブの時?」


「そうだよ、ブランカのベースが抜けた後誰が入るのか結構話題になってたんだ。それでようやく決まったって聞いてそのお披露目ライブ見に行ったもん」


「それ俺も行ったよ」

「俺も~」


「そりゃみんな行くよね(笑)でもこの学校で本人見た時はさすがにビビった」


「みんなその頃からバンドやってたんだ?」


「でもさ、勝也の名前なんて聞いたことなかったしどこのバンドにいたとか全然情報もないし不思議で仕方なかったなぁ…」

「実際に見るまでは信じられなかったね」


「おまけに後から聞いたらブランカが初バンドだったんだよな…ホントバケモンだよあいつ」


「やっぱブランカってその前から凄いバンドだったんだ?」


「凄いっていうか、ウチらからしたら別格だったから」

「そういえば今思い出したんだけど最初この学校来て初めて勝也見た時さ、1回だけこのメンツで話した事あったよな」


「おぉ!あったあった!勇太にいきなり『なぁなぁ、お前インパラの洋司だよな?』って声かけられてびっくりした」

「俺もいきなりだったぞ。で、次の言葉が『あいつってブランカのKATSUYAに似てると思わない?』だった(笑)」


「だってキャラが全然違うから確信持てなかったんだもん…(笑)そんでみんなで蘭のトコ行ったんだよな」

「そうそう。でもしょっぱなはガン無視だったけど」


「だってなんかイヤな予感したんだもん、みんなの事は知ってたけどそんなヤツらが揃って声かけてくるなんてただ事じゃないし」


「けど『あいつブランカのベースじゃない?』って聞いたら急に話し始めたじゃん」


「あたしもちょっと気になってたからね」


まだ優奈が勝也のことを気にかけ始める前にバンド界にいる者にとっては一騒動あったようだ。

これもまた優奈の知らない頃の勝也のエピソードであり食い入るように聞いている。


「で、結局はどうやって判明したの?」


「蘭が直接本人に突撃した」


「うわぁ~~…さすが蘭…」

「すっごいビビりながらだったけどね」


「で、勝也もちゃんと認めたんだ?」


「うん。すれ違いざまだったけど『あたし萬壽釈迦の蘭っていうんだけど』って言ったらすっごい目でギロッと睨まれて、そんでビビッて『ナイショにしてんの?』って言ったら『あぁ』だけ返ってきてそれっきり(笑)」


「うわ~…バンド仲間なのに態度悪ぅ…」

「さすがに優奈が最初声かけた頃はそんな不愛想じゃなかったろ?」


「ううん、もっと最悪だったよ」


「そ…そうなの?」


「声かけても返事もしてくれないし無理矢理隣歩いてもずっと無視だったし…あ、でも『ついてくんな』とか『ほっといてくれ』とかはいっぱい言われた」


「信じらんねぇ…優奈にそんな態度とる男いるんだ」

「ま、結局あいつは何から何まで規格外って事だね」


「なんか…今でも信じられないです。そんな人やここにいるみんなと一緒にバンドやれたなんて」


「俺達だって未だに夢だったんじゃないかって思う事あるよ」

「ま、その本人が今年の文化祭でまたやろうって言ってくれちゃってるもんだからヤベぇよな(笑)」


「…え?…えぇぇぇぇぇっっ?!?!」


「え…耕平…聞いてなかったの?」

「そんな!聞いてないですよっ!!!」


「はぁ?ちょっと勇太!どういう事?」


「え?いや…えっと…了が言っとくって言ってなかったっけ…」

「そんな事言ってねぇよバカ!」


「信じらんない…そんなリーダーっている?」

「お…俺がリーダーなのぉ??」


「はぁ?誰が集めたバンドだよっ!」


「そんな…こんなメンバーで俺にリーダーは無理だろぉ…」

「っていうか僕も今初めて聞いたのに…」


どんどん騒然となってくると同時に会話のボリュームも自然と上がる。

そして気づけば近くにいた生徒たちの耳にもしっかりと『JUNCTION再結成』という事実は伝わり


「えぇ~!!また見れるんだぁ♪」

「やった!待ちどぉしすぎるっ!!」


食堂が騒然とし始める。

そしていつの間にか優奈達のテーブルに視線が集まってしまっていた。


「あ~りゃりゃ…こんだけの騒ぎにしちゃったらまた不機嫌になる人がいるかもよぉ?」


「特に今の勇太と耕平の言葉聞いたらガチギレかもね」

「俺、知~らないっと」


「ちょ…ちょっと待ってくれよぉ…」


「…僕はやりますっ!ぜひやらせてくださいっ!」

「あ、じゃあ耕平はセーフだ(笑)」


「ちょ…おい!耕平!裏切んのかよぉ…」


また大爆笑になった。

たった一度の寄せ集めバンドのはずが、今ここにいない勝也を中心にして驚くほどの結束力になっていた。

それぞれが自分のバンドを持ちながらもこのJUNCTIONというコピーバンドが大事な存在である事は間違いない。


そして優奈にとっても今はバンド活動をしていない勝也がステージに上がる唯一の機会である今年の文化祭が待ち遠しくて仕方ないのだった。


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