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64 帰省 ③

 バスに乗ってもよさそうな距離だがお互いそれは口に出さず、手を繋いでデート気分で街へ出た。


勝也が少し早く帰省した去年は父の店で集まったのだが、今日はもう大晦日で休みに入っており街の方の居酒屋が会場になっている。


その店に入ると奥の座敷から


「おーい!ここ!」


「おう」


勝也の後ろに着いて優奈もドキドキしながら入っていく。


「ホントに彼女連れだぁ」

「信じてなかったのかよ」


「久しぶり。一応紹介しとくわ」


そういって後ろにいた優奈を隣に並ばせると


「はじめまして、安東…」

「…え…ちょっ…ひょっとして…安東優奈…さん??」


「え??…えっと…はい…」


優奈の自己紹介の途中で食い気味に先に名前を呼ばれる。


「ええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!」


「うっそぉぉぉぉ!!!ホ、ホンモノォ???」

「きゃ~~~!!!!信じらんないっっっ!!!!」


「なんで?…ねぇなんでぇ???」


急にテンションの上がる友人達。


「なんだよ、なんで名前知って…」


「なんでって!逆になんでお前がこんな有名人連れてんだよっっ!!」


「こいつ有名人なの?」


「はああ????あたしインスタもTiktokも全部フォローしてるしっっ!!」

「え?…嬉しい、ありがとうございます!」


「きゃー!しゃべったぁぁ!!」


「すっげぇ有名なの知らねぇのかよっ!」

「こっちでもすっごい人気なんだよぉぉ??」


優奈の人気はここでも凄まじいらしく、SNSの威力を改めて思い知る。


「はは……どうしよぉ…(汗)」

「とりあえず座るか…」


前もって『彼女を連れていく』と勝也が報告していたため席が2つ用意されていた。

そこへ2人が並んで座るのだが友人たちの視線は優奈に釘付けで、女子3人の目は瞬きも忘れる程見開いている。


「なんで?なんで付き合ってんの?」


「なんでっておかしくねぇか?1年の時おんなじクラスだったんだよ」


「どれぐらい前から付き合ってんの?」

「…ん~と…1年ぐらいか?」


優奈の方を向いて問いかけると


「1年と3ヶ月!」


「…だそうです」


「じゃあ去年の大晦日に帰ってきたとき言ってた彼女っていうのは…」

「あぁこいつの事だよ」


高校生の間で芸能人並みに有名らしい優奈を隣に置き、しかも『こいつ』と呼ぶ勝也は男子からも羨望のまなざしで見られている。


勝也が一人ずつ名前を優奈に紹介し始めると、結局それぞれが自ら自己紹介してくれた。


「よろしくお願いします。一緒について来ちゃってすいません」


「なぁに言ってんだよぉ、来てくれてみんな嬉しすぎるんだけど!」

「ほんとほんと、まさかこんなところで会えるなんて夢にも思わなかった!」


「こっち来たの初めてなの?」


「はい。今年やっと連れてきてもらいました」


「勝也は年一回しか帰ってこないもんな。っていうか優奈ちゃんが彼女じゃずっと向こうにいたくなるのも無理ねぇか」


「そんなんじゃねぇよバーカ」


初対面ながら当然勝也の友達にも受け入れられた優奈。

会話に参加するどころかほぼ優奈への質問などで時間は経っていく。


そして勝也がトイレへと立った時


「ねぇねぇ、勝也に何て言って口説かれたの?」


「え?」

「気になる~!勝也が女の子口説くなんて全く想像つかないもんね」


「逆ですよ」


「…逆って?」

「あたしが口説いたんです。最初は見向きもしてもらえませんでしたけど」


「………え?…ええええええぇぇぇぇぇぇ?????」


「なんかヘンですか?」


「いや…いやいやいや!…優奈ちゃんのほうから?…ウソォ…」

「ど…どこが良かったの?って言い方も失礼だけど…」


「ん~…ドコっていう事もなかったんですよね。気づいたら『あの人』しか見えてなかったから」


「あの人…かぁ」

「なんか信じらんねぇ、あの優奈ちゃんが…」


「最初は相手にもしてもらえなくて何回も怒られたり突き放されたりしたけど…でも諦められなくて強引に押し切っちゃいました」


「スゴいなぁ…なんかそういうトコも憧れる」

「なぁ、優奈ちゃんは俺達とも友達になってくれる気ってある?」


「もちろん。勝也の大事な友達ですから」


「じゃあ敬語ヤメよ?普通に話そうよ、同い年なんだしさ」


みんなもまた優奈のことを『有名人』ではなく『勝也の彼女』として認めてくれたようで


「…うん、わかった」


勝也がトイレから戻ってくる頃にはもうすでに大盛り上がりになっていたのだった。


「そろそろ行くか」

「あ、もう時間?」


結構な時間をみんなで過ごした後、家へ向かう時間になる。


「えーまだいーじゃん!」

「今年も除夜の鐘?」


「あぁ、恒例のな」


勝也が席から立ち上がると同じく優奈も立ち上がる。

そして上着を手に取るとまだ会話を続けている勝也に袖を通させて上着を着せる。

その甲斐甲斐しい行動にもみんなからは神々しいものを見たようなため息が漏れるのだった。


「また来てね優奈ちゃん!」


「うん、ありがとう。勝也に捨てられなかったらまた来るね」

「優奈ちゃんを捨てるような事あったら俺が勝也を殺す」


「なんだよ、俺が悪者かよ…」


「あったりめぇだろ?こんなすげぇ彼女見せびらかしやがって!」

「そーだそーだ!なんならあたしが優奈ちゃん貰う!」


楽しかった宴会に別れを告げ自分たちの分を払って店を出た。


その帰り際


「楽しかったぁ!みんな仲良くしてくれた」


「まさかみんなお前の事知ってるとはな」

「ね、びっくりした。でもちょっとはあたしの事見直してくれた?」


「1ミリぐらいな」


キャッキャとふざけ合いながら家に戻る。そして家族でお寺へ。

道中も母は優奈にベッタリで、姉も交えた女性3人はもう本当の家族の様に打ち解けていた。


 無事に年を越した1月2日、去年より1日早くに地元を出る。

快く送り出してくれた安東家での正月を過ごすためなのだが


「おかあさーん…帰りたくない~…」


「うん、もうこのままいなさい。勝也だけ帰らせとけばいいから」

「なんか顔がマジなんですけど」


「向こうのご両親にくれぐれもよろしく伝えてくれ。多分気を利かせて優奈ちゃんをこっちによこしてくれたんだろ?」

「あぁ、そうみたい。ちゃんと伝えとくよ」


「え?え?…どういう事?」

「お前は知らなくていーの」


「もー!!」


駅まで見送りに来てくれた両親と姉。

別れ際には母も泣き出し優奈と抱き合っている。


「次の正月までなんて待てないからね?時間出来たら何回でも帰っといでね」

「はい。勝也さんが連れてきてくれなかったらあたし一人でも来ます」


あながち冗談ともとれない表情で固い約束を交わし帰省は終わった。


その帰り道…


「ねぇ」

「ん~」


「あたしちゃんと出来てた?失礼な事とかしてなかった?」

「…ん~」


「え?…ちょっと…なんかマズかったの?」


しばらく黙った後で


「一旦アパート寄る?」

「え…あぁ、勝也の荷物とか置いてからと思ってたんだけど…ねぇそれより…」


すると横並びに並んだ二人掛けの座席で優奈の方に顔を向けると


「100点満点だったからアパート着いたら押し倒してやる」


心配そうだった優奈の顔がみるみる笑顔になり


「うんっ!!!!」


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