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63 帰省 ②

片づけを終えると店の電気を消して2階の実家へ。

ここで初めて勝也の姉と顔を合わせた。


「はじめまして、安東優奈と申します。年末のお忙しい中お邪魔して申し訳ありません。よろしくお願いします」


キチンと正座しあらためて両親と姉に挨拶をする。

初めて見た弟の彼女に


「すご~、勝也がこんなちゃんとしたコに付き合ってもらってんだ…しかもヤバいぐらい可愛いし」


それから優奈の両親が持たせてくれたモノや優奈自身が買った土産などを渡しようやく落ち着いた。

両親の晩酌や軽い夜食などにもつきあい、姉とも仲良くなっていく。


「勝也の部屋に布団2つ敷いといたから。優奈ちゃん疲れたでしょ、お風呂入っといで」


一番風呂は断ったのだがほぼ強制的に入らされ、そしてスッピンの顔で家族の前に現れた優奈を見てさらに驚く姉。


「…スッピンでこれだけ可愛いってどういう事~?」


入れ替わるように勝也が風呂に入る。

すると


「あの子普段は連絡もよこさないし何にも言わないけど…優奈ちゃんにワガママばっかり言ってるんじゃない?」


「全然そんな事無いです。あたしの方がワガママばっかりで迷惑かけてしまってて…」


「優奈ちゃんが何言ったってワガママにはならないでしょ」

「そりゃそうだ」


やはりこの家庭は相当居心地が良さそうだ。

初めて来た優奈を快く受け入れ、大事にしてくれる。


「怒られたり教わってばっかりなんです。勝也さんはちゃんと自分で働いて生活してるし考え方も大人だし…」

「大人ぁ??アイツが?ないない!!(笑)」


「ホントにねぇ…高校受験前になっていきなり姉のトコ住みたいとか言い出して、自分で生活するからとかホントにもう勝手な事ばっかり」


「バンドがやりたいって言って出てったけどまだやってるのかい?」

「…あ…えっと…」


どこまで話していいのだろう。

元々自分から話すタイプではない勝也はおそらく詳しい事などほとんど話していないだろう。

自分が勝手に話していい内容ではない気がして返事に困っていると


「ま、ちゃんとご飯食べてちゃんと生活出来てるんならそれでいいけどね」


「どうせならブレイズとかぐらい売れてくれればいいのに」


「え、お姉さんブレイズ好きなんですか?」

「好きだよ~、CDも全部持ってるし部屋にはポスターも貼ってる」


余計に話すわけにはいかなくなった。

まさか自分の弟がそのブレイズから誘われるほどのベーシストなのだとは。


すると母が立ち上がって奥の部屋に入り、あるものを持って出てくる。


「これ何だと思う?小学生の時勝也が自分で作った『ベース』なんだって」


一瞬にして涙が込み上げてきた。


母が手に持っていたのはあの時勝也が話してくれたまま、ほうきの柄に細長い板を貼り毛糸で弦を張った勝也の『ベース』だ。

勝也を音楽の世界にのめり込ませたあの手作りのベースを母は今でも大事に残していたのだった。

姉は


「おかしいでしょ、もうこんなのバラしてちゃんとほうきとして使えって何度も言ってるのにこれだけはずっと大事にとってるんだよ、この人」


「…いえ…聞いたことがあります。これが自分にとって初めての音楽で…その後お父さんに本物のベースを買って貰ったって…」


「あの黒いヤツの事?あいつまだあんな安物使ってるのか」


「安物じゃありません。彼にとってはこの世に1本しかない大切なベースなんです…」


少し沈黙が続いた。

優奈のその言葉で、父から買って貰ったベースを今でも勝也がどれだけ大事にしているのかが伝わってきたからだ。

そこへ風呂から上がった勝也が戻ってきて


「ふぅ~…って…何出してきてんだよっ!」


目の前にはあの懐かしいほうきベースが置かれていて、たった今までその話をしていた事がわかる。


「昔話で大笑いしてたのよ。さ、今日は疲れたでしょ。2人とも早く寝なさい」


勝也の部屋に2人で入る。

綺麗に整理されていてほとんど私物はないものの、ここに勝也が住んでいたんだという感慨深い思いもある優奈。


「…いい家族だね」

「そうか?なんか余計な事話してねぇだろうなお袋のヤツ」


2つ並んで敷かれた布団に入り、お互い近寄り手を繋いで目を閉じる。

電車での移動と初対面の緊張、客商売の手伝いと目まぐるしい一日の疲れから優奈は一瞬で寝息を立て始めた。


翌朝勝也が目を覚ますともう隣に姿は無く、台所から母と姉と優奈の楽しそうな笑い声が聞こえてきた。


「おはよぉ…」


「あ、おはよー」


「やっと起きた。今ね、優奈ちゃんが勝也の好きな料理教えてくれっていうからみんなで作ってたの。向こうに戻ったら作ってくれるんだってよ」

「こんなに可愛くて性格までいいって…こんな彼女どこで見つけてきたの?」


「ん~?向こうのスーパーに売ってたんだよ」


顔を洗いに行くついでのような言葉に


「あ!ヒッドー!!せめてデパートって言ってよー!!」


もうこの女性陣は相当打ち解けた様子で


「えらく賑やかだなぁ、ウチとは思えんぐらいだよ」


「あ…おはようございます。すいません、はしゃいじゃって…」

「家の中がパァッと明るくなったみたいだ。ずっといてくれればいいのに」


父の言葉もまた優奈を大歓迎しているのが伝わってくる。

年末の片付けやご飯の準備、近くへの買い物まで母や姉と共に過ごしている優奈。

もうずっと前からの付き合いの様に仲良さそうに話し、お互いがその空気を気に入っている。


「そういえば今年も例の年末集合行くのか?」


「あぁ、ちょっとだけ顔出してくるよ」


みんなで昼食を食べていた時だった。


「年末集合って?」

「こっちの友達と会うんだよ。俺がこの時期しか帰ってこないからそれに合わせてくれるみたい」


「出かけちゃうんだ」


「は?お前も一緒に決まってんだろ」


「え?…えぇぇ??だってこっちの友達って…そんなトコ行っていいの?」

「イヤなら置いてくけど」


「行く~!」


勝也の友達に会う。

共通のではなく、自分の知らない頃の勝也を知っている人に会うのが楽しみだった。


夕方頃になって


「んじゃちょっと行ってくんね」


「おう。あ、お前アレ帰ってこれんのか?」

「あぁ、時間までには帰るよ」


 準備を終えた優奈を連れて家を出ると


「アレってなんかあるの?」

「毎年年越しには除夜の鐘突きに行くんだよ。かなり寒いけどな」


「除夜の鐘ってお坊さんが突くモンなんじゃないの?」

「ここのお寺は突かせてくれんの。まぁ誰でも出来るわけじゃないけどそこの住職さんがウチの店のお客さんでさ、突かせてやるから来いって。毎年行ってんだ」


「じゃああたしも?」

「当たり前だろ」


「なんかここ来たら普段絶対できないようなことばっかりできる♪」


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