61 クリスマス
加入こそ断ったものの、あのBeastRushから声がかかったという騒ぎも収まらないままで冬休みを迎えた。
去年の今日はJunの家に集まり仙台遠征へ向かっていた頃だ。
あれからもう1年経ったんだなぁと感慨深げに思い出しながらアパートの鍵を開ける優奈。
「おっはよ~!」
まだ布団の中で眠りから覚めない勝也の上に飛び乗り、大きく体ごとユサユサ揺らして強制的に起こす。
「…ん~っ…重てぇ…お前ちょっと太ったんじゃねぇの?」
「はぁぁ??全然体重変わってませんけど!!」
更に派手な攻撃を受け、仕方なく渋々起き出す。
ブランカ解散以降は2人きりで過ごす事も多くなっていたが元々あまり外に出かけるというタイプではない。
だが今日はクリスマスイブという事もあり、めずらしく優奈がどうしてもデートがしたいと言い出したため街へ出る約束をしていた。
勝也が顔を洗いリビングへ入ってくると朝ごはんの準備が始まっている。
休みの日はいつも優奈が焼いたパンを食べてから行動が始まるのだが
「お前がいなくなったら俺餓死するかもな」
「勝也の方が料理上手じゃん」
「自分の為に作るって考えなんか無くなっちゃったよ」
「じゃあ餓死しないように一生面倒見てあげる」
テレビを見ながら2人で朝食を終えると暖かい部屋でマッタリし始める。
ソファに並んで座り、優奈の頭は勝也の肩にポテッと乗っていた。
チラッと横目で見てみると目が半分閉じかけている。
この時間に用意を整えてここに来るには化粧や着替え、朝食用の下準備などを考えると相当早くに起きていたはず。
いつも自分の為に頑張って尽くしてくれるその顔はとても気持ちよさそうで
「ちょっと寝とけ、あとで起こしてやるから」
その言葉でパチッと目を開けると
「ダメっ!今日はデートするんだから時間がもったいない!あっぶな~…さ、動くよ!!」
どうやら逆効果で目を覚まさせてしまったようだ。
仕方なく勝也も着替えを始めるとその間に洗い物や片づけを済ませる優奈。
今年のクリスマスはお互いプレゼントを用意するのではなく、一緒にいて一緒に出掛け2人で何か見つけたら買おうという『一日デート』がプレゼントみたいなもので、優奈はこのデートをかなり前から楽しみにしていたのだった。
「さっむ~!!こりゃ肩凝るなぁ…」
雪こそ降っていないものの外はもちろん真冬の寒さ。勝也が好きだからと最近はショーパンやミニスカを選ぶことが多くなった優奈には相当堪えるはずだがそんなことは表情の片隅にも出さない。
その優奈の肩を抱いてグッと抱き寄せると
「こうしたらまだちょっとマシかな」
敢えて自分が寒いからだと言わんばかりに密着して歩く。
以前は考えられなかったことだが最近は勝也の方から肩を抱いたり手を繋いだりする事が増えてきた。
駅から電車に乗り街へ出る。
さすがにカップルも多くいるがこの2人は特に目立っていた。
「さぁてドコ行く?」
「てきとー」
優奈にしてみれば2人で街にいる事自体が既に現在進行中のプレゼントだ。
ブラブラとあっちへこっちへ勝也の手を引いては店を覗いたり雑貨を見て回ったりと笑顔で楽しむ。
勝也も一言の文句も言わずに付き合った。
「あ~!おなかいっぱい」
初めて2人で入ったあのパスタ屋で昼食を済ませると、涼子の店に遊びに行ったり島村の店に顔を出したりといつもと変わらない行動パターンに
「なんかいつもと一緒じゃねぇ?」
「いーの!いつも通りで」
ただずっと手を繋いでいるか優奈の腕が勝也の腕に巻きついている以外は本当に日常と変わらないデートだった。
結局買ったモノと言えば普段使うような食器や調理器具などばかりで特別なものは欲しがらない優奈。
最終的には生まれて初めて下着屋さんに一緒に入り、勝也チョイスの少し過激にも見える下着を買って帰路に就いた。
明日の25日は優奈の家の家族パーティーに呼ばれている。
最初は頑なに拒否していたものの最後は父からの「いいから来い」の一言で決まった。
交換条件という訳ではないがケーキは勝也が用意するという提案を飲んでもらい、そのケーキを近くの可愛いケーキ屋さんで予約しスーパーで買い物をしてからアパートに戻った。
今日は2人っきりで夕飯を作りパーティーをする。
最近は休み前の夕飯時には2人で酒を飲むこともあり、今日はクリスマスということもあってシャンパンを買ってきていた。
仲良く夕飯を作りそして乾杯し、優奈の念願だった2人っきりのイブを堪能する。
風呂に入ると今日買ってもらった新品の下着を身につけ、そして結局それをベッドで脱がされ最後は意識を失うように眠りについた。
翌日、明るいうちにケーキを取りに行き一旦2人は別々の行動になる。
夕方頃になって勝也が到着するともう準備はすっかり出来ていてほどなくして父が帰宅するとそこからパーティーが始まった。
優奈の父は勝也が多少お酒に付き合えるのが嬉しくて仕方ない様子で、初めてお邪魔して以来何度か夕飯にも招かれていた。
夕飯も終え、勝也が買ってきたケーキをみんなで食べている頃
「そういえば勝也君は年末に帰省するんだったっけ」
「あ、はい。正月しか帰ってないんで」
「という事は今年も?」
「そうですね」
「ちなみにだが優奈を地元に連れて行った事は?」
「まだ無いです」
「そうか。実はね、今年の大晦日なんだが私と母さんがちょっと仕事先の人に招待されてしまって家に優奈一人になってしまうんだ。さすがに一人で年を越すのはちょっとな…そこで勝也君の実家に一緒に連れていってもらうわけにはいかないか?」
「…え??そ…そんなの初めて聞いた…」
もちろん優奈は初めて聞いただろう、父が母と2人で企んだウソなのだから。
去年の大晦日、勝也がいないことで寂しそうにしていた優奈へのクリスマスプレゼントのようなモノだった。
父の表情からそれをなんとなく察知した勝也。
クスッと微笑むと
「もちろんです。もしよければ優奈さんをお預かりします」
父の表情からも勝也には魂胆がバレている事は気づいたようだが
「すまないね優奈。そういう事だから正月は勝也君の実家にお世話になってくれ」
「…え?…え?」
「迷惑かけないようにちゃんとお手伝いとかしてね?あと挨拶とかもキチンと。それからお土産に持っていくモノも…」
「大丈夫だよ母さん。もう優奈もそれぐらいわかる」
「ありがとうございます」
「礼を言うのはこっちのハズだろう(笑)」
優奈が驚いて言葉を失っている間に全てが決まってしまった。
勝也の地元に行ける。
勝也の両親に初めて会える。
勝也が生まれ育った街をこの目で見れる。
優奈の表情は感激と驚きが入り混じって固まっていた。
その日の夜遅く、丁寧にお礼を述べてから帰る勝也を玄関の前まで見送りに来た優奈。
「ホ…ホントに行ってもいいの?」
「そうみたいだな」
「なんか夢みたい…」
「ちゃんとお父さんとお母さんに御礼言っとけ」
「え?…あ、うん」
結局優奈だけは、帰省が両親からの優しさだという事には気づかなかったのだった。




