57 文化祭 ⑤
このバンドを集めたという責任から勇太が代表して出演順番を決める会議に出た。
本来は毎年くじ引きで決まると言う出演順だが、今年は他のバンドからの強い要望でくじ引きすることなくJUNCTIONがトリと決まってしまった。
出演する全バンドから『JUNCTIONの後に演奏するぐらいなら出演を辞退する』という申し出があったからだ。
寄せ集めのユニットバンドとはいえ、このメンバーを見れば仕方ないだろう。
2日間校内は大いに盛り上がり文字通りお祭りだった。
そしていよいよ文化祭最終日。
トリに出るという事は当然リハは1番手である。
各バンドの入り時間はリハの順番に合わせたスライドになっているにも関わらず、JUNCTIONの入り時間には全てのバンドが揃っていた。
全員がリハの時点からこのバンドを見てみたいという出演者の特権を利用したようだ。
ステージ上でセッティングしているJUNCTIONのメンバー達も、制服のままではあるがやはり楽器を持ってステージに上がると相当な存在感である。
全バンドが見守る中
「やっべぇ…もうすでにオーラがスゴい…」
「こんなメンバーよく集まったよなぁ。こんなの反則だよ」
ヒソヒソと小声で話す他の出演者の声がガチガチになった耕平の耳にも届く。
それを聞いて余計に緊張しまくる耕平を心配していた優奈。
「耕平!そろそろマイクチェックだよ!」
「あ!…は…はい!」
右手と右足が同時に前に出るほど緊張しまくる耕平。
ステージに上がる時にもつまづいてしまう。
「おいおい…大丈夫かよあの1年坊主」
「このバックバンドだからな、多分ムリだろ。ヘタしたら大恥かくぞ」
そんな陰口まで叩かれ始める。
するとその気配を察知した勝也がいきなり
「おい耕平。今日いつも通りに歌えたら蘭姉さんがご褒美にキスしてくれるってよ」
「…え?…え?!…蘭さんが?!」
「はぁぁ???何を勝手に!そんな事一言も言ってないけどぉぉ!」
「おおお!うらやましすぎるぞ耕平!!」
「こりゃ本気ださねぇとな」
「だから言ってないってばぁ!!信じらんないこいつら…」
ドキドキしながら蘭を見つめる耕平。
そのあまりにも真っ直ぐな目に
「歌詞間違えて失敗しちまえ!エロ坊主!」
「って事は失敗しなかったらOKだってさ、耕平♪」
「ちょっと!優奈まで!」
そんなバンド内での盛り上がりに
「なんだよ、めっちゃ仲良くて楽しそうじゃん…」
この大騒ぎで耕平の緊張はかなり和らいだようだ。
音チェックの時点で他のバンドの大注目を浴びる中、通しリハは1曲のみと決まっている。明らかにバックのオーラに比べて何の華やかさもない耕平だが
「じゃあいくか」
1曲目のROCKET DIVEが始まると、その演奏と耕平の歌唱力は対バン全員を黙らせてしまった。
リハが終わり楽屋として指示された教室へ向かう。
1番目だったJUNCTIONがその教室へ一番乗りで入るとようやく耕平も落ち着いた。
机を寄せ集めてバンドの数だけブロックで別れているが低めの仕切りしかない。
当然着替えもここでする事になるが…
「よし、男連中で飲み物とか買いに行くぞ」
そういって立ち上がる勝也の行動にキョトンとした蘭。
「え?あたしも行くよ」
「お前は先に着替えとけ。優奈、カーテン閉めてブース作れ」
「はいはーい」
おそらくメンバー達は自分のライブ時の衣装で来るだろう。
そうなれば萬壽釈迦での蘭の衣装はものすごいモノである。
右半身は腕も脚も隠れているが左半身は胸の膨らみが見えるほどのノースリーブに脚は付け根から全て見え、体の側面は何本かのベルトで繋がれているだけで下着はどこも見えていない。
つまり全裸にその服を纏っているだけという露出の高さである。
そしてド派手なメイク。ただでさえ大人な雰囲気の蘭がそんな衣装を着るのだから人気が高くて当然だ。
その服装に着替える蘭を気遣い一度男性陣を全員外に出そうという勝也の配慮だった。
「なるほどね、天下の安東優奈がホレる訳だ」
「でしょ?でもいくら蘭でも勝也だけはあげないよ」
まだ制服姿のままだがJUNCTIONが揃って歩くとさすがに注目度は高かった。
それぞれのバンドのメンバー達もチケットを手に入れて見に来ているようだ。
勇太のメサイアや洋司のインパラなどは全員来ているらしく、バッタリ会った場面で勝也を紹介される。
明らかにド緊張の表情で紹介されていくメンバーにも
「知ってるよ。俺何回か見にいったもん」
と、気さくに返事する勝也。それを聞いて大喜びするメンバー達。
すると
「ん?…あっれぇぇ?Syouクンじゃん!涼ちゃんも!」
「おっと!いきなりバレたぁ!」
「なんで?どーしたの?…あ、優奈か!」
「お前が弾くって聞いたら涼子がどうしても見たいっていうからよ」
「言い出したのSyouだし(笑)しかもなんかすっごいメンバーなんでしょ?」
「あぁ、こいつらだよ。メサイアとインパラとメッシュの混合バンド、おまけにKeyは萬壽釈迦の蘭」
「またすげぇの組んだモンだな」
平然と会話する勝也の横で勇太達は直立不動になっていた。
「あ、あの!は…はじめましてっ!メサイアでギター弾いて…」
「知ってるよ、勇太だろ」
「…え?」
「で、インパラの洋司にメッシュの了か。まぁまぁ『最強』じゃん」
あのブランカのボーカル・Syouが自分達の事を知ってくれている。
それどころかバンド名と名前まで。
男達の目はあまりの感動に人目もはばからずに涙目になっていた。
「他にも楽し過ぎてジッとしてないヤツもいるぞ」
Syouがアゴでクイッと指した方向には、両手にジュースやたこ焼きを持ち口にフランクフルトを咥えた平蔵がみぃと一緒にこちらへ向かっていた。
「おー♪勝也ぁー!」
「なんだなんだ、怖ぇのがもう一人…」
瞬間にみぃに頭を叩かれる勝也。
そのシーンも周りから見れば驚きの光景なのだが
「はっへひぃはひろひろはぇっへひうはら…」(だってみぃが色々買えって言うから…)
「あー!もうわかんねぇ!後で聞くわ」
「う…うわ…へ、平蔵さんまで…ヤベぇ…」
宣言通り紗季の住む仙台に行ったBanと仕事のためJunとKouは来れなかったがSyouと平蔵は勝也がまたステージに上がると聞いて優奈からチケットを手に入れてわざわざ見に来てくれたのだった。
「ところでボーカルは1年生なんだって?」
「あぁこいつ。耕平っていうんだ」
「ふぅん、初ライブだってな」
「どこまで話してんだあのバカ」
すると、以前FINALのビデオで見たあの強烈なボーカリストに会えて緊張丸出しだった耕平に向かって
「相当緊張してそうだな(笑)…まぁバックは完璧な演奏してくれるだろうからよ、あとはもし舞い上がりそうだったら正面の壁だけ見て歌え。集中さえできりゃ観客の顔は見えなくなる。絶対に顔は下に向けるなよ?声まで下向いちまうぞ」
「…え?…あ…は、はい!!」
あの憧れのSyouが自分にアドバイスをくれた。
しかもそれは自分が一番心配していた『ライブ中ドコを見ていればいいのか』という悩みに対する的確過ぎる答えだった。
急に悩みが晴れたような表情に変わる耕平。
そして隣では
「あ、あの…サイン貰ったりできませんか?」
平蔵にサインをせがむ洋司の姿もまた笑いを誘っていた。
「じゃあまた後でね。あ、優奈にみんなが来た事言っとくよ」
「もう知ってるよ、ウチらの連絡網ナメんなよ(笑)」
さすがに顔を知られているSyouと平蔵は色々なところで写真や握手をせがまれている。
そしてまたJUNCTIONのメンバーも至る所で写真を撮られ、外部からの客にはサインまでねだられる始末だった。
ようやく楽屋に辿り着いた頃にはリハを終えた数組のバンドも入っており、一番奥のJUNCTIONエリアでは優奈と唯とロングコートを着た蘭が楽しそうに話していた。
「はいお土産。好きなの選んでいーよ」
「やった、ありがとー!」
「適当に食うモノも買ってきたから」
「お、着替え終わったじゃん。いつもの萬壽釈迦のヤツ?」
「そーだよ?」
そういってコートの左半身をチラッとめくって見せる蘭。
ライブ中の蘭を見た事はあるがこの至近距離でのこの露出度は高校生たちには刺激が強すぎるようで
「近くで見るとそんなに肌出てたんだ?」
「エロすぎる♪」
「本気のヤツじゃん」
「しかもねー、蘭の裸めっちゃ綺麗だった」
「バッカじゃないの(笑)」
「おい、あんま見せたら耕平がヤバい事になるぞ」
ふと全員がみると耕平の視線は蘭の肌に釘付けで
「こいつホンットにエロ坊主だよね」
「もー…恥ずかしー!」
そんな盛り上がりさえも結束力の高さに見えるJUNCTION。
ワイワイ楽しそうに談笑している中、ふと勝也が
「蘭、お前髪立ててみれば?」
「えーいいよぉ。自分じゃ出来ないし」
「じゃああたしがやったげる」
「え?安東そんな事も出来んの?」
「俺のFINALの時の髪、優奈作だぞ?」
「…え…うっそぉ…」
真っ直ぐ立てるには時間がかかり過ぎるが大きめにふかす程度ならさほどかからない。
スプレーとドライヤーで逆毛を入れてテキパキと優奈が仕上げた蘭の姿は…
「ヤベぇ…カッコ良すぎる」
「蘭、それすっごくいい!」
「わー…カッコい~…」
見事な出来栄えだった。
外は徐々に夕暮れが始まり、祭りの盛り上がりもピークになり始めている。
そろそろ1番目のバンドの出演時間も迫り始めた頃…別の教室で着替え髪をセットし、メイクまで施したJUNCTIONの男達がぞろぞろと楽屋に戻ってきた。
「うわ…みんな本気のやつだ」
「一気に緊張感でるね」
普段外バンでライブに出ているミュージシャンの時のままの格好で集まった。
それだけでも他のバンドから大注目を浴びる中、再び教室のドアが開く。
「お待たせ~!」
そこにいる全員が絶句し、その姿に釘付けになる。
優奈の後に続いて入ってきたのは紛れもなく『ブランカのKATSUYA』だ。
「なんだよ、なんかヘンか?」
「…ホ…ホンモノだ…」




