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55 文化祭 ③

 勝也の後を黙って歩く優奈。


エレベーターを降りて建物の外に出た辺りで隣に並ぶ。


「どう思った?」


「ん~、まずノドが膨らんでなかった。あと腹式呼吸じゃないから全然張りのない声だったかな、声自体はいいと思うんだけど…」


「やっぱお前の耳はごまかせねぇな(笑)」


「どうするの?ホントに降りるの?」

「とりあえず2週間…だろ?」


学校では学年によって校舎自体が違うため耕平と顔を合わすことは無い。

勇太や洋司、了、蘭とはすれ違う時に目で挨拶する程度で特に会話はなく耕平の現況を聞くことも無かった。



 2週間後、また勇太からスタジオの時間が伝えられもちろん優奈も呼ばれる。


前回同様に2人揃ってブース前まで行くとメンバー全員に耕平の姉・唯も来ていた。


「…顔つきは確かに違うね」


耕平を見た優奈が小さく囁く。

どこかしっかりした視線にも見える。


「じゃぁやるか」


ブースに入ると黙ったまま全員が楽器を準備する…が勝也はまだベースを出す気配はなく


「とりあえず1回聞かせてくんねぇ?」


勇太達も「予想通り」とばかりに頷く。

耕平はマイクは持つもののボリュームは切ったまま。

そして準備が整うと了のカウントでベース抜きのROCKETDIVEが始まった。


イントロ~Aメロ~Bメロと進んだ頃、勝也の視線が優奈に向いた。

優奈が少しだけ微笑むと勝也が椅子から立ち上がり、ケースを開けてベースを出し始める。


演奏が止まり、みんながそれを眺めている中


「…どーだ?勝也」

「あぁ…まだまだだけど少しはマシになったんじゃねぇの?」


安堵のため息が全員から漏れた。

ワナワナと震えている耕平を見て勝也が少しだけ笑みを浮かべ


「蘭、ボーカル上げろ」

「はいよ♪」


やっと耕平のマイクのボリュームが上げられる。

そして勝也も参加してもう一度初めから始まったROCKETDIVE。


そこに耕平のボーカルが入ってきた時には『たった2週間で…』と優奈も少し驚くほどに声がちゃんと聞こえてきたのだった。


 ここからは即席の単発セッションとはいえ『バンド』としてのリハに変わる。


ブレイクの長さだったりドラムとベースのリズム合わせだったりと1曲通せる事はほとんどなく、みんなの意見の出し合いとなる。


「ん~…ここってオリジナル通りに行かなきゃダメかなぁ」

「メロディライン変えてないから大丈夫じゃない?」


「けどここ変えたら繰り返しのトコも同じようにしないと…」

「2回目のそこはブレイクだろ」


そこそこ名の売れたミュージシャン同士の会話は耕平にとってもうチンプンカンプンで、ただ黙って聞いているだけだったが


「耕平はどっちの方が歌いやすい?」


「…え!…いやボクはみんなの言う通りに…」


モジモジと蚊の鳴くような声で答えた途端全員に睨まれる。

あっという間に2時間が終了した後もブース前のロビーでまだ話し合いは続いていた。


そして最後に勝也が


「優奈ぁ、バランスは?」


「勇太の音がちょっと弱いかな。洋司のとはあんまシンクロしてないかも。あと了のバスドラが硬い。ビーターをフェルトに変えた方がkillerには合うと思うけど…今はまだみんな蘭にまとめてもらってる感じ」


メンバーが固まる。


「…え…な、なんでそんな詳しいの…」


「優奈の耳をナメんじゃねぇよ、俺にさえダメ出しする女だぞ?」


「…う…うそぉ…どんな耳してんだよ…」


それ以来このバンドのリハには必ず参加するようにと何度も何度も頼まれた優奈だった。


「ところでバンド名は?」

「あ、そーだ…どうしよう…」


「なにも考えてなかったの?」

「だって勝也が弾いてくれるかどうかで必死だったんだもん」


「でもそろそろエントリーすんだろ?考えとかないと」


「よし!じゃあ『嶋 耕平とゆかいな仲間たち』でどーだ」


この勝也の提案には白い視線だけが向けられた。


「まぁ、寄せ集めっちゃぁ寄せ集めだし…」


ここで初めて姉・唯が口を開く。


「あ…あの…」


「ん?」

「色んな道が合流するっていうか…高速道路の集まるトコみたいなのってなんて言うんだっけ」


「インターチェンジか」

「それは乗り降りするトコだろ。ジャンクションじゃなかった?」


「あ、それ!その『ジャンクション』っていうのカッコいいかなと思って…」


「どう書くの?」

「J・U・N・C・T・I・O・N。悪くないかもね」


蘭以外のメンバーは英語がまったく読めなかった。


「じゃあそれで行こ。『JUNCTION』でエントリーするよ」


たった1回のユニットバンドとはいえこれで勝也がまたステージに上がる事が決まった。


 主催する生徒会と学校側へエントリー用紙を提出し、校内へ宣伝ビラを貼ることを正式に許可される。

ビラを作るのは自身のバンドでもそれを担当している洋司の役目になったのだが


「ライブ写真とかあったらくれない?」


「写真?別に耕平の写真だけ載せとけばいいじゃん」

「わざわざウチら載せなくても…ねぇ」


「ま、洋司に任せるよ」

「ん~…わかった。じゃあ作ったの見て文句言うなよ?」



 数日後、校内が騒然となった。


文化祭出演バンドとして貼り出された「JUNCTION」のポスター。

大きく表示されたバンド名と共に円を描くようにそれぞれのメンバーのライブの時の写真、そしてメンバーの紹介。


 G・ 大石 勇太(Messiah)

 G・ 倉田 洋司(impala)

 Key・桐川 蘭 (萬壽釈迦)

 Dr・ 立石 了 (Mesh)


 そして最後に


 B・ 松下 勝也(ex-BRANCA)


それぞれのバンドで演奏しているシーンを載せそしてその中央にはまるで生徒手帳の写真かと思うほど普通に制服姿で正面を向いた耕平。


まずはこの夢のようなメンバーに驚き、そして耕平を見てさらに驚く。


「こ…こんな凄いメンバーでやるの??」

「こんなの普通に金とれるバンドじゃん!」


「これは反則だろぉ~…」


「っていうかこのボーカル…誰??」


「1年2組…嶋 耕平?…どこのバンドなんだろ」

「嶋…って、あのいつもイジめられてるヤツ?」


数か所に貼り出されたポスターの前はどこも人だかりになっておりいたるところでそんな会話が交わされていた。


そして当然というか必然というか、騒動も起こる。


その日の昼休み、勝也へ弁当を届けて自分の教室へ戻る途中で蘭に呼び止められた。


「優奈~、ちょっと付き合ってくんない?」


「ん?どしたの?」


何も言わずに「ついてこい」と言わんばかりに歩き始める蘭。

意味は分からないもののとにかく蘭についていくと向かったのは1年の校舎裏で


「ほら、やっぱりね」


蘭がボソッと呟く。

その視線の先を辿ってみると耕平が数人のやんちゃっぽい生徒に囲まれていた。


「あいつら…」


バッと出ていこうとする優奈の肩を掴んで制止する蘭。


「ちょっと見てようよ」

「え…でも…」


一旦止まった優奈。

すると声が聞こえてきた。


「なんかの間違いだろーが!」


「なんでてめぇがあんな凄いバンドのボーカルとか調子乗った事言ってんだよ!」

「いくら積んだんだ?どうせ金で雇って集まってもらったに決まってんだろ!」


「…ち…違う…」


「あぁ?!口答えすんのか?」


結構な強さでドカッと蹴られる耕平。

たまらず優奈が出ていこうとすると


「ぼ…僕は…ちゃんと認めてもらったんだ!JUNCTIONのボーカルだって!」


初めて言い返した耕平。

蘭はこれを待っていたのだった。


「じゃあ今すぐ辞退しろよ!ったく…何がJUNCTIONだ、生意気なんだよ!」


そこで初めて蘭が口を開く。


校舎にもたれ、腕を組んだ体勢のまま


「ボクたち~。それは『JUNCTION』自体をバカにしたって事だよねぇ」


突然後ろから聞こえた声に驚いて視線を向ける生徒達。

そして鋭い眼光の蘭と優奈を見て一瞬にして血の気が引く。


「えっ!…いや、あの…バカになんて…えっと…」


「耕平は間違いなくウチのボーカルだよ。それが何か文句でもあんの?」

「いえ…文句とか…」


優奈からも突き刺さるような視線と共に


「さっきの剣幕はどこいった?ちゃんと聞いたげるからもっかい言ってみなぁ」

「そ…そんな…」


「ウチらに言えないんだったらメンバー誰か一人だけでも連れてこようか?例えば…『ベースの人』とか♪」


蘭の言葉を聞いた途端に真っ青な顔になる生徒たち。


「す!すいませんでしたぁ!!」


体を直角に曲げて蘭と優奈に頭を下げる。

しかし


「謝る方向が違うんじゃない?」

「うちのボーカルに手ぇ出されたらライブが出来なくなんのよ。そうなったらJUNCTION全員敵に回すことになるけど…どうする?」


するとクルッと向きを変え、耕平に向かって


「すいませんでしたぁ!!!」


大きな声で謝るとそのまま走って逃げていった。


「あ…ありがとうございま…」

「ちゃんと言い返してたじゃん、えらいえらい♪」


蘭に頭をポンポンと撫でられる。


「ま、あそこで言い返してなかったら蘭に殴られてただろうけどね」


「ちょっとぉ、あたしはそんな乱暴な…」

「でも目ぇ見た時は背筋凍りました…」


「なんだこのヤロォ!罰としてジュースおごれ!」


普段は飛びぬけて大人っぽい雰囲気で物静かな佇まいの蘭もまた、勝也と同様気を許した相手にはよくしゃべる可愛さを持っていた。


結局蘭の奢りでジュースを飲んだ3人。


その光景が口コミで広まると、耕平に手を出すイジメっこは当面鳴りを潜めたのだった。


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