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53 文化祭 ①

 ライブの忙しさもあり学校行事へは全く意識が向いていなかったのだが、学校では文化祭の準備が進んでいた。


チケットさえ手に入れれば他校の生徒も入れる一大イベント。

クラス単位や部活単位で催しや屋台での出店も出る文字通りの祭りなのだが、毎年体育館がライブホールに変身するメインイベントがある。


校内でバンドを組んでいるコピーバンドや多少はオリジナルをやるバンドもいるが、学校外でいわゆる「マジバン」をやっているミュージシャン達がバンドを引き連れて出演する事は無く、もちろん勝也が出ることも無かった。

 

そんなある日の事。


「あの…安東、ちょっといいかな…」

「ん、なぁに?めずらしいじゃん」


 大石 勇太(おおいし ゆうた)

外バン組でメサイアというそこそこ名の売れたバンドのギタリストである。

優奈と同じクラスにいたのだが、その勇太に呼び出されて廊下に出ると


「あのさ…勝也って今どっかやってんの?」

「あぁ、その事?ううん、どこもやってないよ。でもどこにも入る気無いって。争奪戦も全部断っちゃったから…ごめんね?」


「ち、違うんだよ。ウチに入ってくれとかそういうんじゃなくて…ちょっと話だけ聞いてもらえないかなと思ってさ。今度の文化祭の事で…」


「ベース弾いてくれって?だからそれが無理なんだってば」


「ちょっと事情があるんだ…今は言えないけど。もちろんダメ元で言ってんだけど話だけでも聞いてくれたら…ダメならダメでいいからさぁ」


「ん~、まぁ一応聞いてはみるけど…期待は1%もしないでね」


「直接なんてどう頑張っても言えないからさ…頼むよ」


高校生レベルではかなりの腕前を持っていると噂の勇太。

だがそんな男でも勝也に直接話しかけることが出来ないという。

ブランカは解散したとはいえ、ミュージシャンとしての勝也はやはり別格の扱いなのだった。


「あ?勇太ってたしかメサイアのギターだっけ…で、何の話?」


「詳しくは教えてくんなかったけどなんか事情があるんだとかなんとか」

「ふ~ん…まぁ話聞くだけなら別にいいけどやんないよ」


「それは言っといたけどなかなか食い下がられちゃって…ごめんね」


めずらしくその話の場に行ってもいいという勝也。

一応はこれでお役御免な優奈だが


「待ってていい?」


「お前は来ねぇの?」

「だってあたしは関係ないじゃん」


「誰が聞いてきた話だ?お前が来ねぇならやっぱ行かない」

「わーかったってば!邪魔じゃないなら行くよ」


呼び出されたのは放課後の美術室。

部活も無く他には誰もいないその教室に入ってみると


声を掛けてきたメサイアのギター・勇太。

そしてインパラのギター・倉田 洋司(くらた ようじ)

メッシュのドラム・立石 了(たていし りょう)

更に萬壽釈迦のキーボード・桐川 蘭(きりかわ らん)までもがそこにいる。


「うわ…ホントに来た…」


勝也が入ってきたのを見て緊張感が高まったのが分かる。


「おっと…なんかすっげぇのが集まってんじゃん」

「ありゃ…」


「勝也に『スゲェの』って言われてもイヤミにしか聞こえないんだけど」

「たしかにな(笑)…っていうか俺達の事知ってくれてんの?」


「当たり前だろ、有名人ばっか揃いやがって」


その言葉を聞いてその場にいる男達の顔がほころんだ。

この高校生レベルではないミュージシャン達とは別に女子生徒と男子生徒が一人ずついる。


その2人は顔も知らない生徒だったが、さっそく勇太が説明を始めた。


「わざわざ来てもらってごめん。実は今度の文化祭のライブで、コイツをボーカルにして一回でいいからユニットバンドをやりたいんだ。で、ここにいるみんなに声かけてみんな引き受けてはくれたんだけど、どうしてもベースが…」


それを聞いて思わず優奈が


「ちょ…ちょっと待って。ごめんね口挟んで。そのコってどこのボーカルなの?」


大人しそうな雰囲気で未だに口も開かない暗い感じの男子生徒だった。


「いや、どこのっていうか…バンドとかはやった事ないんだけど」


「は?…いくらこのメンバーだからって勝也に頼むのはちょっと失礼過ぎない?」


未経験者のバックに勝也を誘ってきたという部分が腑に落ちない優奈。


「お前は黙ってろ。…で、なんでソイツの為にこれだけのメンツ集めたんだ?ただの『やってみたい』だけにしては遊びで済むレベルじゃねえだろ」


「そこなんだけどさ…」


勇太の話によると、ここにいる女子生徒は勇太の「彼女に近い存在の幼馴染・唯」でこの男の子はその弟である。


この学校に入学してきたもののクラスでいじめられるようになり、その度合いがどんどんヒドくなってきたそうだ。

気晴らしにでもなればと勇太がカラオケに連れて行ったところその歌唱力は目を見張るものがあり、この大人しくて引っ込み思案な性格を直す意味も含めて唯の願いで勇太が動いたという事らしい。


「でさ、みんなに声かけたらやってくれるって言うんだけど後はベースだけってなった時にどうせならダメ元で声かけてみようって…その…」


「…あの…お願いします…」


姉の唯も頭を下げたものの勝也からの返答はない。

しばらく沈黙が続く中でそこにいた全員が「やっぱりダメか…」といった表情を浮かべた時


「ふ~ん…『音楽を使ってイジメを無くそう!』って事?」


その言葉で勝也を含めた全員が優奈を見た。


「あ…ごめんなさい、黙ってます…」


「いや、そういう事なんだけど…やっぱごめん。さすがに勝也に頼める話じゃないよな。時間取らせちゃってごめ…」



「いいよ」


 

空気が張り詰めた。

全員の目が真ん丸になる中で


「俺で良かったら弾いてもいいけど」


「え?」


「ウ…ウソォ…」

「…マジで?」


みんな信じられないと言った表情である。

だが勝也を動かした一番の理由が優奈の言った「音楽を使って」という部分だったことは明らかであり


「へぇ~…あのKATSUYAが落ちる訳だ」


蘭の小さな囁きは誰にも聞こえなかったが、勝也が優奈を選んだ理由の一つが垣間見えた気がしたのだった。


「あの…ホントに?ホントに弾いてくれんの?」


「なんだよ、弾けっつったり疑ったり」

「いやその…まさか引き受けてくれるとは…」


「うるせぇな。で、何やんの?」


「コピーなんだけど…コイツ歌い方と声がhideにすっごく似てんだよ。だからROCKETDIVEとピンクスパイダーと…あとever freeで…」


「わかった、とりあえず音源くれよ。あとスタジオの時間とかはまた連絡して?じゃあ俺バイトあっから」


そういうとスッと立ち上がる。

まだ勝也が引き受けた事に実感が湧かないメンバーを残し2人は教室を出た。


廊下を歩きながら


「ねぇ、ホントにやるの?」


「は?お前があんな事言うから…やれって意味だったんじゃないの?」

「そんな…あたしが『やれ』なんて言える訳ないじゃん!」


「なんだ…ま、いいんじゃねぇの?あのメンバーだったらちょっと面白そうではあるしな」


「…killer出すの?」


「出さないよ、Fenderでやる」


「やっぱりね…じゃあさ、あたしのkiller使わない?」

「いいの?」


「全然いい!っていうかよかったら使って」


「わかった」


突然のサプライズではなく今度はちゃんと自分のkillerを勝也がライブに持ち込む。


優奈にとっても待ち遠しい文化祭になった。


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