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51 解散

 ふと優奈が目を覚ますと、目の前にはまだグッスリ寝ている勝也の顔。


さすがに今日はゆっくり寝かせてあげようという思いからソ~ッと一人起き出した。

音を立てないように忍び足で寝室から出るとまずシャワーを浴びる。


 今日は恒例のライブ打ち上げ2次会バーベキューの日。

これから先ももちろんみんなには会えるだろうがこの恒例行事として集まるのは最後だ。感慨深い思いと一緒にワクワクも高まり、優奈はみんなに今までの御礼としてクッキーを焼き始めた。


甘い匂いに気付いて目を覚ます勝也。

ふと隣を見ると優奈はもういない。

いつもよりも若干重く感じる体を起こして寝室を出ると


「おはよぉ…」


「あ、おは…ちょっと!パンツぐらい履いてよ!」


「お前だっていつも素っ裸でウロウロしてんじゃねぇかよ」

「あれは夜だもん!」

「そういう問題か?」


「ほら、早くシャワー浴びてきて」


普段ならどうってことは無いが昨日のライブがまだ頭から離れないため勝也の裸を見るのが少しだけ照れくさかったのだった。


渋々シャワーを浴び今度は下半身にバスタオルを巻いて出てきた勝也。

ふと見るとテーブルの上には人数分の袋に小分けされたクッキーがほぼ完成していた。


「なんだコレ、すっげぇな」


「でしょ?おっきな袋で持ってくよりみんなに一つずつ渡したいなーって思って」

「お前こんな女の子みたいなモン作れんだ」


「…ケンカ売ってんの?」


クッキーの準備も終わり軽く朝食も済ませた2人。

軽く部屋を片付けた後少しソファに腰かける。

ピッタリくっついてくる優奈に


「そんなくっつかなくてもどこにも行かねーよ」

「いーの!」


いつの間にか優奈も勝也と同じ匂いをつけるようになっていてそれもまた心地良かった。


「ねぇ、ウチの子弾きやすかった?」


「あ…お前に謝らなきゃいけなかったんだ。ごめんな許可なく勝手に弾いちゃって」


「ううん、すっごく嬉しかった。勝也のkiller触れるのはあたしだけだしあたしのkiller触っていいのも勝也だけだもん。1回でもあの子にライブのステージでおっきな音出させてあげてくれてホントに嬉しかった。あたしのトコにいたんじゃ永遠にあんな経験させてあげられないし」


「永遠にって…お前も練習してバンドとかやってみればいいじゃん」


「…あのRhythm Battle見た後にベース始めようとする人いないよ?」


ベッタリくっついたままキスしてみたりイチャイチャしてみたり、久しぶりにマッタリとした時間を過ごした。


今日はJunの家ではなく先に昨日のインフィニティに機材を取りに行かなければならない。あやうく火が点きそうになった優奈をなだめて外出着に着替えるとアパートを出た。

駅までの道のりで優奈が腕を組もうとするとこれもまためずらしく勝也の方から手を繋ぐ。少しだけ頬を赤らめた優奈と2人、本当に高校生カップルのような初々しさが漂っていた。


 インフィニティに着くとちょうどJunも到着して、後は続々と集合してきた。

総勢10名での搬出で、Junのハイエースと平蔵が仕事場から借りてきたキャラバンに一瞬にして全てを積み込む。


これからこの2台は別行動になり、それぞれ楽器を積んでいるメンバーの家をグルッと回って全ての機材を下ろしていく。

Junの倉庫に置いていたアンプや備品、大きなものから小さなものまで全てをメンバーの家へと配達して回るのだ。

この作業もまた寂しさを伴うものではあったが全員がそれを隠すように明るく振舞っていた。


 勝也の機材もアパートに届けてもらい、そのまままた乗り込んで平蔵の家へ。

そこでまた下ろすのを手伝うと車を返しに行ってようやく搬出完了。

そこからタクシーでJunの家へ向かった。


 ソファやテーブル、冷蔵庫にアルミラック…

いつも通りの見慣れた倉庫だが楽器類が全て無くなっている。

ガランと感じるその光景を見てグッと堪える優奈。


食材や飲み物などをみんなで手分けして準備している中、作ってきたクッキーを全員に一つずつ今までの御礼を伝えながら渡していった。


「まさかコレ渡してもうここには来ませんとかいうんじゃねぇだろうな」

「え~!うっそぉ嬉し~~!」

「うわー、俺こういう事してくれるコに弱いの。やっぱ勝也ヤメて俺にしない?」


みんな大喜びで受け取ってくれた中


「うん!このレーズン入ったヤツ旨い!!」


「…それチョコチップなんですけど」


相変わらずの平蔵にいつもの大爆笑が起きて、ようやくバーベキューがスタートした。


 酒盛りが始まり食材を焼き、それを食べながら大騒ぎする。

そんないつもの光景が何よりも居心地よかった。

みんないつもよりも酔いいつもよりも食べていたが誰一人それを終えようとはしない。

これが終われば…そんな寂しさの中、突然みぃが叫ぶ。


「温泉だ!」


「……は?」


「みんなで温泉行こ!予定立てよ!」

「なんだ急に」


「だって…だってぇ…」


みぃの涙腺がヤバくなり始める。

そこへ涼子まで


「あたしも!行きたい!」

「お前らはいいけどよ、俺らみたいな一番温泉似合わねぇ奴らがゾロゾロと…」


女性陣が大盛り上がりし始め、それを見た「元」ブランカ全員もため息をつきながらそれに従う決意をした。


そんな大騒ぎの中


「Banはどっか入んの?」


解散が決まってから初めて、この先の身の振り方の話題を切り出した平蔵。

一瞬にして沈黙になった。


「そ…そんな急に静かにならなくても…」


お互い口には出さなかったものの全員が気にしていた事でもある。


「ん~…とりあえずまだ決めてはねぇけどさ。まぁ紗季がこっちに帰ってくるまでの間は仙台行って一緒に住もうかなとは思ってた」


「え~!うっそぉ!マジで?ねぇねぇ、ホントに?」


本人も聞いていなかった事実に大喜びする紗季。


「そういう平蔵は?」


「…俺は一応「ライアー」には呼ばれてんだけど、どうしよっかなって」

「はぁぁ???ライアーって…あのライアー??聞いてないんですけど!!」


ブランカにひけを取らないほどの有名バンドに誘われていた平蔵。

これもまたみぃは聞いていなかったようだ。


「Kouは自分のバンドに専念か」


「あぁそうだな。Junは?」

「俺は一からメンバー集めてみよっかなって思ってる。どんなバンドが作れるかやってみたい」


ここまでKouだけがサポートメンバーだった理由は他にバンドを持っているからだった。そしてJunもまたブランカとは違う路線のバンドを立ち上げるようだ。


「勝也は?」


一番年下でありながらこのバンドに入るためにこの街へやってきた勝也。

2年という短い期間だが一番バンドに影響を与えたと言っても過言ではないこの『弟』の事はみんなが気にしていた。


「俺は…どうしよっかなぁ」


みんなが注目する。

そして誰よりも一番強い視線で見つめていたのは優奈だった。


「まぁもし『ちょっと手伝って』って言われたら弾くかもしんないけど決まったトコに入る気は無いんだよね」


勝也にとってブランカを超える存在などこの先もあるはずがない。

ある意味納得の答えだった。


「Syouクンは?」

「俺かぁ…ま、気が向いたらどっかその辺で歌ってっかもな」


涼子が言っていた「歌をやめるかも…」という心配は現実になる可能性を残していた。

シンミリとした空気が流れる中で


「誰も…一緒にはやらないんですね…」


ボソッと呟いた優奈。

それは彼女達もみんな思っていた事だ。


これだけのミュージシャンが集まりながら解散と共に全員がバラバラになる。

もったいないという想いと共に、せめて一緒にやろうという者はいなかったのか…


「それが俺たちの『解散』だからな。だって誰かと誰かが一緒に演ってたら絶対うらやましくなるじゃん」


「…は?」

「『あいつらだけいーなー』とか思っちゃうもんな」


「だ…だったら解散しなければよかったじゃんっ!!」


「そー、ソコなんだよなぁ。なんであんな約束しちゃったんだろーな」

「結局てめーらバカなんだよ(笑)」


「…ホントは解散したくなかったの?ホントに…ただの『約束』ってだけ?」


「当たり前だろ、じゃなかったらこんな『最高のバンド』誰が解散なんかするかっつーの!」


そう叫びながらついに平蔵が隠し持っていた水風船を投げ始めた。


いつものバカ騒ぎが始まり、平蔵対策としてBanが用意していた水鉄砲で応戦が始まり、気づけばこれも恒例である全員がずぶ濡れという遊びに発展していく。

ただ、メンバー達もブランカという輝かしい経験を宝物のように大事に思っていたという再確認だけが全員をいつも以上にはしゃがせていた。


案の定全員が水浸しになり、いつものようにポタポタと雫をたらしながら片付けをする。

最後にソファやテーブル、ラックなどを隅っこに寄せるとガランとした空間になった。


「じゃあな、楽しかったよ」


「あぁ、最高に楽しかった」


「みんな頑張れよ」


「また遊ぶ時は呼んでくれ」


「どっかで対バン出来たらいーな」


そして最後に勝也が


「仲間に入れてくれてありがとう。最高の『バンド』だったよ」


メンバー同士の最後の言葉に彼女達は号泣した。

そして最後に全員が握手を交わし



伝説のバンド・ブランカは解散した。


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