50 打ち上げ
Syouと涼子は2人だけ1台で先に店へ、後はJunとKouとBanカップルで1台、平蔵カップルと勝也と優奈で1台という組み分けでタクシーに分乗する。
車内ではもういつもの雰囲気に戻っていてさっきまでのあの圧巻のステージ上にいたミュージシャンの顔ではなくなっていた勝也と平蔵。
いつものノリで騒ぎ過ぎみぃに怒られるといういつも通りの光景だった。
打ち上げの定番となったいつもの居酒屋に到着すると、あの圧巻のライブが嘘のように普段通りの『仲間』の飲み会のような居心地の良さを感じる優奈。
いつ頃からか座る席さえも自然と決まっていてそれぞれが指定席に座る。
「あーハラ減ったぁ」
「お前今日もなんにも食ってねぇもんな」
「え~!朝からなんにも?」
「この人は歌だからね。お腹にモノが入っててあんなにシャウトしたら出てきちゃうんだって」
「そぉなんだぁ…大変…」
「平蔵はそのSyouの前で平気でメシ食うけど」
「おぉ、毎回あんトキだけは『コイツ今日こそ殺してやろう』って思う」
やはりいつも通り…あれだけのライブを終え、そしてもう明日からはブランカというバンド自体存在しなくなるというのにこのメンバー達はいつもと変わらなかった。
宴会は早くも盛り上がりみんなのテンションも上がってきた頃、みぃが思い出したように
「あー!そういえば勝也さぁ、今日のRhythm Battleで最初から優奈のベース使ってあげるつもりだったの?なかなかのサプライズだったじゃん」
「あ…アレめちゃくちゃ嬉しかったぁ」
その言葉にキョトンとして
「は?最初からって…Syouクンがいきなりやれっていうからその場で決めたんだよ」
「そーだ!Syouに文句言ってやろーと思ってたんだ!」
急に怒り出したBanを見て今度は彼女達がキョトンとする。
「コイツさぁ、急に照明落とさせたと思ったら『ちょっと疲れたからお前らRhythm Battleでもやっとけ』っつってサッと引っ込みやがったんだよ。横見たら平蔵とJunもいねーし…そんでKouに最初だけなんかイントロ弾いてくれって頼んでその間に考えたんだ」
「ホントビックリした。予告もなんもナシでいきなりだしね」
「だって前半飛ばし過ぎて疲れちゃったんだもん」
「ちょ…ちょっとちょっと!ちょっと待って?…あのRhythm Battleって……まさかアドリブだった…の?」
「そーだよ」
「だからフレットにしっかり指掛かる方がいいなと思って、気づいたら優奈のkillerの方持っちゃってた」
彼女達の開いた口はなかなか閉じなかった。
あれだけのクオリティと2人のテクニックが融合した圧巻のソロバトルがその場の思い付きの即興演奏だったというのだ。
「ウ…ウソでしょ…」
「やっぱりコイツらバケモノだったんだ…」
みぃに至っては言葉を発することも出来ずに口を開けてBanと勝也の顔を交互に見ていた。
他のメンバーは「こいつらならそれぐらい当然でしょ」といった涼しい顔で笑っている。
優奈の願いが叶った最初で最後のRhythm Battle。
それは自分の彼氏のもの凄さを改めて再認識する結果になった。
FINALライブという事は打ち上げもこれが最後という事になる。
だがみんな感傷に浸る間もなくいつもの大宴会となり、店も閉店時間が近づいていた。
「さぁてそろそろ帰るか」
Syouの言葉で彼女達が一瞬ピリッとした。
本当に今日という日が終わる。
もう明日からはブランカは存在しないバンドになる。
だがその時間は必ずやってくるのだ。
「あ、あの!…えっと…みんなと写真撮りたいなぁ…」
優奈の素直な希望に
「別にもう会わなくなる訳じゃないですよぉ」
「それはわかってます…でももう明日からはブランカじゃなくなるし…」
まだみんながブランカという肩書を背負っている今の写真が欲しかった優奈。
その気持ちがよーくわかる彼女達は
「よし、全員とツーショットだ!時間かかるぞぉ」
それはみんなが欲しかったモノでもある。
結局全員がそれぞれとツーショットを撮り始め、会計が済んだ店の前はなかなかの盛り上がりだった。
明日の機材撤収も全員集まる事になっている。
そしてその後はこれもまた恒例でありながら最後になるJun宅でのバーベキューだ。
明日の集合時間と場所を確認すると、それぞれがようやく帰路に就いた。
もう終電もとっくに無くなっており全員それぞれタクシーで帰る。
勝也と2人で後部座席に乗り込んだ優奈は、バレないように勝也の横顔を見つめながら今までの事を思い返していた。
まだ勝也がブランカのメンバーだとは知らなかった頃からなぜか目で追ってしまっていた事…
偶然誘われて行ったライブに勝也が出ていた事…
そんなキッカケから勝也を追いかけ始めた事…
ようやく付き合えるようになった事…
自分の軽はずみな行動で勝也がブランカを脱退しかけた事…
仙台でお揃いのネックレスを買ってくれた事…
勝也とお揃いのベースをみんながプレゼントしてくれた事…
走馬灯のようにいろいろな出来事が頭の中を駆け巡り、そして今日のFINALライブ…
圧巻のステージを魅せた最高のベーシストが、全てをやり終えて今は彼氏として2人っきりで隣にいる。
今日一日で体中の水分が抜けてしまうほど涙を流したはずなのに、勝也の横顔を見ているとまた涙が溢れてきた。
「な…なんだ、なんで泣いてんの?」
「…泣いてないっ」
勝也の腕にしがみつくように抱き着くとそのまま顔をうずめる。
これほど一人の男を一途に愛せる自分を少し誇らしくも思えるほどに愛情が溢れて止まらなかった。
昨晩もアパートに泊まったのだがさすがに今日は夜中になることが分かっていた事もあり、そして何より解散という最大のイベントでもあったため2連泊の許可を貰っていた優奈。
アパート前でタクシーを降りると大きなカバンを担いだ勝也よりも先に階段を上がり先にカギを開けて迎え入れる。
玄関に入ったところでまだカバンを降ろしてもいない勝也の首に両腕を巻き付け、そのまま唇を重ねてきた。
「…っ!!」
今日一日の想いをぶつけるかのようなキスから少し唇を浮かせる。
「せめて靴脱いでからにしてくんねぇかな」
「…ずっと我慢してたんだもん、待てる訳ないじゃん」
それからようやく靴を脱ぎ、部屋に入ってカバンを下ろす。
いつもライブの後はどれだけ遅くても優奈がカバンを開け今日着たステージ衣装をしわが残らないように洗濯してくれる。
今日もまたそうしようとカバンを開ける優奈に
「今日はいいよ、もう着る事ねぇし」
「ダメ!もう着ない事ないの!」
そういっていつものルーティンをこなすのだった。
洗濯機を回しカバンの中身を出して元の場所に戻すと部屋着に着替え勝也が座るソファの隣にチョコンと座って落ち着いた優奈。
夜中という事もあり大して面白いテレビもやっていない中でようやく誰もいない2人っきりになれた。
「…終わっちゃったね」
「あぁ」
「明日からどうするの?」
「わかんない。とりあえずしばらくはゆっくりするよ」
「ずっと突っ走ってきたんだもんね…」
「お前のために時間作ってやることもあんまりなかったし、これからはちょっとそっちも大事にしていかねぇとな」
「え…ホントに??」
「『ちょっとは』って言いましたけど」
「…ぶぅ…」
「冗談だよ、バーカ」
優奈の首にグッと腕を回し少し強引目に引き寄せて唇を重ねる。
滅多に勝也の方からしてくることは無いがたまにくるこの強引気味なキスも優奈は好きだった。
「エヘ…じゃあ早速…」
勝也の服を脱がせようとしてくる優奈に
「風呂ぐらい入らせろよ」
「えー…後でいいじゃん」
「今なら一緒に入れますけど」
「お風呂沸かそっと♪」




