49 FINAL ⑤
曲の開始と共に客席の方に体を向けた勝也。
バックスポットのせいでその表情は確認できないものの、最後の曲を弾き始める。
観客の声援はこの日一番のモノとなり、ここにいる全員がその雄姿を目に焼き付けようと腕を振り上げて盛り上がった。
ブランカのメンバーもまた最後の曲へと自分の持てる全てを出しきるようにアクションを起こしている。
そしてそんな中…勝也は一人、自分の立ち位置にいた。
それぞれ演奏するメンバー一人一人の方に顔を向けてはそれを確認するように眺めている。
優奈にはその意味が伝わっていた。
この位置から見える、ブランカのメンバーとして演奏するこのミュージシャン達を最後にその目に焼き付けていたのだ。
Syou、平蔵、Jun、Ban、Kou…一人一人に別れを告げるように視線を向け、それを最後に噛みしめると目を閉じて大きく深呼吸した。
全てが吹っ切れたように腰を大きく落として両脚を開くといつものプレイスタイルに戻る。
ここから最後まで全力で演りきる覚悟が出来た勝也の視線は最後に客席の優奈に向けられた。
動くことが出来ないBanとKou以外のフロントマン達は、代わる代わる一番年下であり可愛い弟分だったKATSUYAと絡みに寄って来る。
その光景も優奈にとっては涙を誘うモノであり、仲の良さを再認識していた。
そして曲も佳境に入ってくると観客の熱狂も最大のモノになっている。
ブランカ名物であるJunと平蔵がハモってのツインギターソロ。
その寸前に平蔵が体ごとグイグイ押して勝也をステージ中央へ連れていく。
そこから勝也を間に挟んでの3人による配列はファン達にとってあまりにも壮観な姿だった。
この曲のギターソロ後の間奏に恒例のメンバー紹介がある。
いつも一番に紹介されるのは
「On Bass!!KATSUYAぁぁ!!」
圧倒的な音圧の演奏に負けないほどの絶叫で勝也の名前が客席全体から叫ばれる。
自分の彼氏がこれほどの人気を持つミュージシャンであることが今更ながら信じられない優奈も今は一人のファンとしてその名前を叫んでいた。
その後全員の紹介が終わるとそこから勝也が動き、数段上に設置されているドラムとキーボードの台に上がっていく。
絡みに来れないBanとKouの元へと歩み寄るとそれぞれとアイコンタクトを交わしながら一緒に弾いている。
それを察知したメンバーが続々上がってきて、この広いステージにありながら密集した形で楽曲を続けた。
どれだけ大きな舞台でもこの男達の最後はやはりこの距離感なのだった。
長いシャウトと共にSyouの歌が歌い終わり終メロへと移行する。
もう本当の最後が目の前まで来ていた。
名残惜しそうに最後の演奏を続けるブランカ。そしてそれを涙でクシャクシャになりながら見守る彼女達。
その曲は最後のトーンへと続き…今までよりも長い時間をかけ、ついにその時を迎えた。
会場全体が揺れるほどの大歓声を受けてついにブランカのすべての演奏が終了した。
BanとKouもフロントまで出てくる。
勝也は最後に自分のkillerのボディに軽くキスをしてからスタンドに立て、そして隣のスタンドに立ててある優奈のkillerのヘッドにも同じようにキスをした。
メンバーは誰一人言葉を発することなく客席を見渡す。
しばらくその光景に酔いしれた後Syouが口を開く。
「…終わっちまったな…」
観客の大絶叫は止まることは無かった。
「あ、みんなCD買ってくれたか?」
大歓声の返事が、ここにいるすべてのファンがCDをゲットしたことを伝える。
「今日でブランカは消えちまうけど…もしみんなが俺達なんかの事を思い出してくれる事があったら、その時はそのCD聞いてくれりゃいつでも『逢える』からよ…」
最後まで涙をこぼさずしっかり歌いきったSyouの目にようやく涙が光る。
「楽しかったよ、みんなありがとう…これでお別れだ」
そこからメンバーは思い思いに散らばり、客席に向かって手を振ったりピックなどを投げたりし始めた。勝也も優奈達がいる席の正面に来て手を振っている。
最後に中央に集まったメンバー全員が深く深く頭を下げ、そして振り返るとドラムとキーボードの間にあった階段を上っていく。
その向こうにスモークが焚かれ、最後に客席に向かって両手を振り白い靄の中にブランカ6人の姿が消えていった。
会場からは大歓声と共に大号泣の声も聞こえながら、ブランカのFINALライブは文字通り幕を下ろした。
「ダメだぁ…もうムリ…」
「…立ち直れない…」
友人達もみな号泣し、腰が抜けたように席に座って動けないでいる。
会場中もそんな光景ばかりでなかなか客足も引いていかない。
出待ちに向かう人もいたが何よりも今日の圧巻のライブが体を動かなくしているのだった。
誰もいなくなったステージをただ茫然と見ている優奈に声を掛けることが出来ずに見守っている彼女達。
「なんか楽屋行きにくいなぁ」
「…ちょっと時間置こっか」
「優奈もまだコレだしね」
スタッフ以外で唯一楽屋への入室が許されている彼女達でさえも今の楽屋へ入る勇気は無い。それほどにバンドの結束を見せつけられたライブだった。
どうしても勝也の顔を見てから帰りたいという友人達に一旦外で待つように伝えてスタッフオンリーの通路へと向かう4人の彼女達。
だがその足取りはなかなか進まない。
本心は一刻も早く逢いたいという想いで一杯だったものの、今はメンバーだけにしてあげたいという想いもあった。
ようやく楽屋の前に辿り着いたがドアノブに手を掛けるのをためらう涼子。
すると突然楽屋の中から
「ぎゃあっはっはっはっはっはっはっは‼‼‼‼‼‼」
メンバー全員の大きな大きな大爆笑の声が聞こえた。
驚きのあまり目を見合わせた彼女達だったが、そのまま勢いで涼子がドアを開けた。
「おう!お疲れ~!」
いつものライブ後となんら変わりのないメンバーがそこにいた。
呆気にとられる彼女達に
「なにやってたの?来んの遅かったじゃん」
そのいつも通りの態度を見てみぃが半ギレになる。
「あ…あんたらなんなのぉ??…こっちは気ぃつかってちょっと時間遅らせて…ほんっと信じらんないっ!!」
なぜ怒られているのか意味が分からないメンバーはキョトンとしていた。
だがやはりこれがブランカなのだ。そうあらためて実感するとまた目に涙が溢れてくる。
その空気を断ち切ったのは優奈だった。
もうガマン出来ずに楽屋へ飛び込むと一目散に勝也の元へと駆け寄りそのまま飛びかかるように抱き着き号泣した。
さすがにこういう空気になるとふざける者はおらず、それぞれの彼女を抱き締めたり宥めたりしている。
しばらく泣いた後ようやく顔を上げた優奈。
「…お疲れ様でした」
「うん、ありがとな」
勝也に御礼を言われると、ライブ前の電話の事を思い出してまた涙をこぼす。
「どんだけ泣くんだ、お前」
「…だってぇ…ふえぇぇぇぇぇぇん…」
頭をポンポンと撫でながら笑う勝也。
ふと思い出したように
「あ、そうだ。コレやる」
ポケットの中から優奈の目の前に出したのは一枚のピック。
「え…コレ…今日の?」
「終わったらお前にやろうと思って今日はこれ一枚で最後まで弾いたんだ」
「…うわ…」
ブランカのFINALで使った最後のピック。
この世に一枚しかない今日使われた大切なモノを自分にくれた。
最後のライブが終わった後もいつも通りだったブランカ。
友人たちが待っていると聞くものの今外に出れば相当危険な事になるため特別にスタッフロビーまで入ることを許可された。
他のメンバー達の友人も同じく小人数だけならという事で許可を受けると、それぞれ彼女達が呼びに行く。
「ええええ~!!は…入っていいの?」
「うん、スタッフロビーまでだけど」
「ヤベぇ、いつもの勝也と同じようにしゃべれる自信無い…」
康太の本音はみんな同感だった。
さっきまであのステージ上で演奏していたベーシストが、いつも同じ教室で授業を受けている「仲間」と同一人物だとは到底思えなかった。
そして何よりも圧巻だったRhythm Battleのせいで勝也を雲の上の人のような存在に感じていた。
「なんかさ…今ならあの桐川 蘭が言ってた『気安く声を掛けれるヤツじゃない』ってのがすっごいわかる」
「…それな」
ライブを終えたばかりの勝也に会えるという嬉しさの反面、強烈な緊張感にも襲われている友人達。
岳と芽衣に至っては無言でガチガチに固まっている。
「あんまり時間無いから急いで?」
優奈に促されてスタッフオンリーの入り口から中へ入る。
みさ、ありさ、千夏、康太、陽平、岳、芽衣…優奈を先頭にゾロゾロと1列になって奥へと進んでいくと
「おー!全員いんじゃん、今日はありが……わっ!!」
メイクはしたままだがいつもの笑顔で出迎えた勝也にみさを皮切りに全員が飛びつくように抱き着いてきた。
さすがに今日ばかりは優奈も笑顔でそれを許している。
女子達は号泣し、男子たちも緊張の面持ちのまま目を潤ませていた。
するとその奥からメンバーがゾロゾロと現れる。
「うわ…うわわ…ホンモノだ…」
みさ達は何度かあった事もあるが男子たちは初対面である。
「おー、勝也がすっげぇモテてやがる」
「ちょっとなんとかしてよコレぇ」
徐々に盛り上がりかけるもスタッフに制止されて騒ぎをヤメる。
感激してロクに話すことも出来ない友人達とはここでお別れとなった。
「ありがとな…最後、見届けてくれて」
この言葉で親友たちは号泣した…が、その後なぜかこの親友たちにサインをせがまれるという勝也にとっても初体験がありそこで面会は終了した。
これだけのホールクラスになると器材搬出も全てスタッフがやってくれる。
会場の外はごった返しているため撤収は翌日となり、メンバー達は自分の荷物を片付けてここを出るだけ。
Syouが担当者と終了後の打ち合わせや翌日の段取りを話し終わると
「はい、これでぜーんぶ終わり。そういえば打ち上げってドコ?」
「いつものトコ抑えてあるよ、今日は専属スタッフもいないから完全に身内だけ」
「って事は遠慮なく騒いでいーんだ」
「平蔵さん、あれで遠慮してたんですか?」
優奈の言葉で大爆笑が起こりようやくいつもの「仲間」に戻る。
バンドメンバー、彼女達、10人でこっそり裏口からバレないように抜け出すとタクシーに飛び乗り、そのままいつもの居酒屋へと向かった。




