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48 FINAL ④

 初めてブランカのライブを見るクラスメイト達や学校の生徒たちもその圧巻のオープニングに度肝を抜かれていた。

有名なバンドであることは耳に入っていたもののこれほどのライブだとは想像をはるかに超えていたようだ。


勝也の親友と呼ばれる岳も、勝也と優奈に関わった事で学校中にその優しさを知られる程人気者になった芽衣も、言葉を失うほどに見とれている。


圧巻の演奏は怒涛の進行で進み、曲数が過ぎるごとにその勢いはどんどん加速する。

これまで数えきれないほど観てきた涼子やみぃでさえも『間違いなくこれまでで1番』と思えるほどの最高のライブだった。


かなりの曲数と結構な時間が過ぎた頃、SyouがPA側の方に合図を送りステージのライトが落とされた。

今までにない演出なのかと観客もソワソワし始める…と、しばらくの沈黙の後Kouのシンセサイザーが幻想的な音を奏で始めた。


「え?!…ちょっと…これって…」

「やられた、まさかここで…」


驚く涼子達に


「え…なに?何が始まるの?」


キョトンとした優奈に向かって涼子、みぃ、紗季が笑顔を向ける。


「よかったね優奈、よぉく見てな。これが『Rhythm Battle』。KATSUYAとBanがどれだけ凄いヤツらなのか、これでわかるよ」


以前彼女たちの会話の中だけに出てきたベース&ドラムだけのソロ曲。

もう見ることは出来ないだろうと諦めていた唯一の曲が今目の前で始まろうとしている。


両手を胸の前で組み、ジッと目を凝らして真っ暗なステージを見つめていると…シンセサイザーの音に割り込むようにBanのドラムロールが始まる。

昔からブランカを観てきたファン達はもうそれが何の曲なのかに気付きザワザワし始めた。


Banのドラムロールが徐々に大きくなり、そしてパァン!というアタック音と共に止まったと同時にピンスポットがドラムとベースにだけ当てられた。


そのKATSUYAの姿を見て息が止まりそうになる。


勝也が持っているベースのボディにいつもの大きなkillerのペイントが無い。


「…あれ…あたしの…」


心臓が口から飛び出そうなほど大きく高鳴り始めた。


このブランカの最後のステージで最後のソロを演奏するのに勝也が選んだベースは、自分のkillerではなくブランカのメンバー全員から贈られたあの「優奈の宝物」だった。


ハードロック調ではなくジャズ風の変則的なBanのリズムが始まった。

その出だしだけでもスティックの残像しか見えない細かくも速いリズムだ。

そこに乗っかるように弾き始めた勝也。

それはいつものピック弾きではなく指弾きで、優奈のkillerがステージ上で初めて音を奏でる。


誰一人声援を送る者はおらずみんな固唾を飲んでこの2人のソロを見守る。

文字通りBattleにも聞こえながら、完璧に息の合った『曲』でもある。


みさやありさなど普段の勝也を知る友人達も呆気にとられた顔で口を開けたまま見入っていた。


この2人のBattleは徐々に盛り上がり、ついにBanのドラミングが大きく派手なアクションに切り替わると同時に勝也のベースが指弾きからスラップに変わった。


ベース一本とドラムだけ。それが信じられないほどの音圧と迫力に一気に客席は大歓声に包まれた。

何より優奈は、自分の目に映った2人のあまりのカッコよさに


(何なのあの人達……あんなに凄い人だったんだ…)


普段自分と一緒にいる彼氏と重ねられない、凄まじいテクニックを持った『ベーシスト』に目を奪われていた。

その男が操るベースが自分のモノだという事も信じられなかった。


曲が進むにつれて2人の勢いは加速し、ついには勝也の指もBanの腕も残像が残るほどに速くなっていく。

それは涼子達があれほど絶賛する2人の実力を認識するには充分すぎるほどの演奏だった。


こんなに凄い演奏をしながら涼しい顔をして、時折顔を見合わせて笑い合いながら超絶なソロプレイを繰り広げた2人の『Rhythm Battle』が最大の盛り上がりを見せて終了した。


会場中から割れんばかりの歓声が巻き起こる中、気づけば息をする事も忘れていた優奈。

これほどの観衆から大歓声を受ける自分の彼氏を潤んだ瞳で見つめていた。


また一旦照明が落とされ、次にまた照らされたステージにはメンバーが戻っていた。

このRhythm Battleを挟んで、後は一気に最後まで突っ走るようだ。


SyouのMCは今日発売された最初で最後のフルアルバムの事にも触れていた。

レコーディングでのエピソードや選曲、そしてそのアルバムに込めた思いなどを話していくうちに話題は今までのブランカの歴史ヘと変わっていく。

結成当時から現在に至るまでの経緯や大きな出来事などを話していくと会場内からはすすり泣く声も聞こえ始めた。


シーンとした会場内へ次の曲が発表される。

それはこのFINALのためだけに作られた最後のバラードで、アルバムにも収録されていない。

ただ…優奈達4人分の特別盤にのみ収録されている特別な曲。


Kouの静かなピアノから始まったその曲は前半半分をピアノ伴奏だけで歌うという珠玉のバラードで、Syouの透き通るようなハイトーンが会場内に響き渡る。

その声は聴く者全員を魅了し、その目から自然に涙を誘った。

間奏に入ったところで全員が参加する。

それはあまりにも壮大な曲で圧倒的な音圧ながらも心に染み渡るバラードだ。

その音色だけでも人を感動させる平蔵のギターソロが涙モノのメロディーを奏でる中、メンバー達の目が光り始める。


平蔵、Jun、Ban、Kouは涙を流し勝也も必死に堪えた表情でいる。

声を震わせながらも唯一真っ直ぐに前を見つめたSyou以外のメンバーはみんな感極まっていた。


それを見たファン達もまた号泣する。

涼子、みぃ、紗季も大粒の涙を流しながらそれでも自分の彼氏達の最後の雄姿を必死に目に焼き付けていた。

たった一度の演奏のために作られたそのバラードは聴く者の心に焼き付き、そしてまた最後はKouのピアノ伴奏だけに戻って静かにその演奏を終えた。


 終了後、なかなか言葉を発しないSyou。

会場からも泣き声と共に声援が飛び始める。

そんな中でついにSyouの口から解散という事実が告げられた。

大きな悲鳴にも似た大歓声が巻き起こり、これほどまでのバンドの解散を受け入れられないファン達の解散撤回を懇願する声が飛び交う。


「照明さん…ちょっと客席明るくしてくんねぇかな」


Syouの言葉で真っ暗だった客席が明るくなった。

メンバーからも観客の顔が見えるようになると


「こんなにたくさん来てくれたんだな…。ここにいるみんなの事は忘れない。…最後まで付き合ってくれてありがとな」


涼子やみぃ、紗季ももう涙は止まらない様子で


そんな中、声を発することなくただ一点を見つめるように立ちすくんでいた優奈。


「優奈…どうかした?」


その質問に視線を動かすことも無くただそこを見つめながら


「…勝也が……泣いてる…」


「…えっ…」



みんなが視線を勝也に向ける。

そこには今まで涙を見せた事のなかった男が客席に背中を向けていた。

顔を下に向け、そして明らかにその肩は小刻みに震えている。

汗を拭く用のタオルを手に取ると俯いたままそれを目に当て、大きく肩が震えはじめた。


涼子達でさえも初めて見る勝也の涙。


それは今までの感情が溢れ出して堪えきれなかった解散に対する想いであり最後の訴えの様にも見えた。

最愛の人の涙を見た優奈の目からは一気に涙が溢れだして止まらなかった。


今すぐ駆け寄って抱きしめたい……自分があの人を支えてあげたい…


その思いを必死に堪えながら、その後ろ姿を見つめている。

勝也の号泣に気付いた平蔵が歩み寄り、肩を抱いて何やら声を掛けた。

そのあたたかい光景にファンからも大歓声が飛びかう。


しばらく時間を空けていたSyouがその続きを語り始め、そして徐々に観客をあおり始めた。本当に最後の曲へのカウントダウンだ。


優奈は両手を顔の前で組み、とめどなく溢れ出る涙を拭う事もせず目を見開いて願いを込める。


(神様お願いします…あの人を…あたしの大事なあの人を…もう少しだけあの場所にいさせてあげてください…)


その願いも虚しくSyouの煽りは最高潮を迎え、そしてその絶叫と共にBanのカウントが始まった。


ブランカが最後の最後に選んだ曲は、あの勝也のオーディションにも使われたブランカの代名詞ともいえる『WILD SIDE』だった。


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