47 FINAL ③
会場がOPENするとなだれ込むようにファンが会場入りする。
まず目当ては今日しか発売されない初CDだ。
ほぼ全員がその物販ブースへと向かうため、ごった返すような雰囲気ではなく会場入りしてもまだ列が物販ブースへ続いているといったように並んでいる。
CDの販売は一人2枚までという張り紙を見て『知り合いに頼まれている』とゴネるファンも多少はいたが、ほぼスムーズに流れていた。
もちろん同級生達もその列に並んでCDを購入するが優奈は買おうとしない。
「あれ…あぁそっか。優奈は本人から貰えるもんね」
「ん?あ、うん」
確かに彼女達は特別仕様のCDをメンバーから貰ったが、実はOPEN前にこっそりブースへ行きちゃっかり「聴く用」と「保存用」の2枚購入していた優奈。
そこだけは彼女である特権を最大限に利用していたのだった。
CDを買った列はそのまま会場へと入っていく。
このホールクラスの会場に同級生達も
「…広っ!こんなトコでワンマン?」
「ステージがあんなに…」
まだ白い幕が下りていてステージ自体は見えないもののその幕の大きさから広さは感じ取れる。
フリーシートではなく今回は座席番号が決められているのだが、勝也が手配した席はしっかりと同級生達が密集出来るように前後にも並んでいてしかもかなり前の方の席だ。
岳や芽衣も隣に並ぶように配置されていて、芽衣は落ち着かない様子でキョロキョロしながらやっとみんなと合流した。
「あ、岳ちゃん芽衣ちゃん!来てくれてありがとね」
「最後ぐらいはと思ってきたんだけど…僕ら場違いじゃないかなぁ」
「な~に言ってんだ、今からここに出るヤツの一番の親友のクセに」
「…こんなスゴいトコでライブやるような人、親友なんて呼べないよ…」
「あんた『親友じゃない』なんて言ったら勝也に殺されるよ」
席についてSTARTを待っていると相当な数の人がわざわざ優奈に声を掛けに来る。
「おっす優奈ちゃん」
「優奈ちゃんっひさしぶりっ…ホントに最後なんだねぇ」
あまりにも顔が広くなっている優奈にも驚く友人達。
続々とみぃ達も知り合いを引き連れて入ってくる。
どうやらメンバー手配の席はエリアとしてひと固まりになっているようだ。
そこへ涼子もやってきた。
「お~みんな揃ってんね」
「…な…何?この超美人のみなさんは…」
「きゃ~!嬉しい事言ってくれちゃってぇ!」
ワシャワシャと涼子に髪を乱されながらもご満悦の康太に
「…結局お前は顔が良ければすぐなびくな」
これにはさすがに全員大爆笑だった。
続々と人が入り、客席は相当埋まってきている。
いくらFINALとはいえこれだけの会場を満席に出来るブランカの人気はやはり凄まじかった。
「優奈ちゃぁん…緊張しすぎて…トイレ行きたぁい」
「あ、わかった。連れてったげる」
高2の初めにケガをしたあの時とは逆に芽衣の面倒を見る優奈。
芽衣の手を引いて人混みをかき分けながらトイレへ連れて行った。
ロビーから外を見ると「まだこんないる…入れるの?」と疑ってしまう程まだまだ行列は続いている。
トイレ前で芽衣を待っていると
「お、優奈じゃん」
「あー!蘭っ」
勝也に連れられて萬壽釈迦のライブを見に行って以来、親友とまでは行かないもののお互い名前で呼ぶぐらいの関係になっていた。
「最後だねぇ…アイツこれからどうするか決まってんの?」
「ううん、これが終わるまでは先の事は考えないって」
「だろうね。他のバンドでも暗黙の了解になってるよ、FINAL終わるまでは声かけないって」
「みんな気ぃ使ってくれてるんだ」
「でも逆に言えばこれが終わったら一気に争奪戦が始まるって事だよ。なんなら今のメンバーをクビにしてでも、ぐらいの勢いで来るだろうしね」
「…そ…そうなの?でもなんかそれってヒドくない?」
「それほどのミュージシャン達だって事だよ。多分みんな本気で狙ってくる。ウチも含めてね」
「…え…」
ガールズバンドのはずの萬壽釈迦までもが争奪戦に名乗りを上げるようだ。
ターゲットが誰なのかはわからないが…
芽衣がトイレから出てくるのを待ってまた客席へ向かう。
今の蘭の話を思い返しながら、あのメンバー達がどれほど凄いミュージシャンなのかを再認識する。
席に戻るとSTART5分前。
会場の熱気はすでに上がり始め、もうメンバーの名前を叫んでいるファンもいる。
「しかしこうやってあらためて見るとすっごいヤツの彼女になったモンだねぇ」
「だって最初は知らなかったんだもん、こんな凄い人なんて」
「知ってたらどうしてた?」
「わかんないけど…それでも関係なく好きだったと思う」
「それがあいつがアンタを選んだ理由の一つでしょ」
「ホントに色々あったねぇ、なんかもう懐かしい気もするけど」
みんながこれまでの事を思い出していた。
優奈が勝也を追いかけ始めた頃から今まで…それぞれが頭の中で振り返っている。
そしてしばらく無言の時間が流れていた頃
会場内の照明がスーッと落ち、それまで鳴っていたBGMが消えた。
真っ暗になった会場ではファンの声援が大きくなり、ついにSEが流れ始めた。
一瞬にして耳をつんざくような大歓声が沸き、緊張感とともに心臓の鼓動が早くなる。
最後のSEはやはりブランカの定番The end of the world。
そのイントロが終わるころ、ステージに下りていた白幕に映像が映し出された。
それはブランカの結成から今までのヒストリーで、結成当初のベーシストを含んだ歴史が画像や動画と共に流されていく。
まだ勝也が加入する前のブランカの写真はメンバーも若く、髪も短かったりして別人のようだった。
その時系列が進んでいき、先代ベーシストの脱退が過ぎると、
【Bass・KATSUYA(15歳)加入】
というクレジットに大歓声が巻き起こり勝也の名前も叫ばれ始める。
優奈も知らない頃のブランカの写真には、今と変わらず楽しそうな「若いKATSUYA」が写っていた。
それからのヒストリーはどんどん大規模なバンド活動になり、そして次第に優奈にも見覚えのある写真が増えていく。
ブランカの歴史を思い出し、涙ぐむには充分なほどの感動だった。
徐々に壮大な音楽に盛り上がっていったSEがついに終わる。
観客の大声援がさらに大きくなると1曲目の打ち込みのイントロが流れ始めた。
それはブランカのライブでは定番となったイントロだが…その最中に、白幕へメンバーの名前が一人ずつ変わった配置で映し出される。
そしてイントロが盛り上がると幕の向こうからバックスポットが徐々に明るくなり、その名前の位置へと人影が浮かび上がる。
その配置はメンバーの立ち位置だった。
そして打ち込みのイントロがMAXに盛り上がると
Banのハイハットカウントによって大きな爆発音のような演奏がついに始まり、同時にその白幕が切って落とされた。
大熱狂となった客席は一瞬にして温度が数度上がり、観客は総立ちになっている。
スモークを纏いながらバックスポットで浮かび上がったメンバー達はまだそのシルエットしか見えないものの、圧倒的なオーラと演奏で怒涛のライブが始まる。
鳥肌どころではない。
全身の毛が逆立ち、体中に震えが走る。
いつも一緒に遊んでくれていつも可愛がってくれる、ついさっきまで一緒にいたあの仲良し軍団達がこの広いステージに立っていた。




