46 FINAL ②
メンバー達は楽しそうに会話しながらそれぞれ楽器を出してウォーミングアップを始めた。
女性陣は与えられた役割を行動に移し始める。
紗季は取り置きリストを預かってゲートに向かい、みぃと優奈は台車にCDを乗せゴロゴロ押してエントランスへ向かう。
「なんか始まっちゃったって感じ」
「そーだね。もうこれで最後かぁ…」
シンミリした空気に包まれながらエレベーターでエントランスに出ると、いつものライブハウスとは比べ物にならない広い空間が広がる。
ただ長テーブルを置いただけではないちゃんとした物販エリアにその箱を運び、待ち構えていたスタッフに挨拶をしてCDを渡した。
「配置の方は何枚ずつとかありますか?」
「あ、お任せします」
「ポスターの方は指示通りに貼っておきました。余った分はどうします?」
「余りました?」
「予備として指定箇所より多くお預かりしてましたんで」
「じゃあ頂いときますね」
大きめのポスターを巻いた筒が数本返却されると
「ねぇねぇみぃちゃん…それってこのポスター?」
物販ブースやゲート前など至る所にブランカのポスターが貼ってある。
これもFINALライブとCD発売の告知としてブランカが初めて作ったジャケットと同じポスターなのだが
「心配しなさんな(笑)ちゃんとウチらも貰えるように多めに作ったから」
「やった!余らなかったらあとでそこのヤツ剥がしに来ようと思ってたの」
「あんたそういうトコ大胆だよね…」
与えられた役割を終えると楽屋へ戻る。
メンバー達はさっきと同じくそれぞれの楽器を軽く弾きながら談笑していた。
音出しを始めるというスタッフからの連絡にようやく腰を上げて
「さぁ行きますか」
「リハも最後だな~」
平蔵の言葉に女性陣はピクッと反応した。
ライブでの音出しやリハなど今まで何度も見て来た風景もこれで最後。
ステージ自体はもちろんの事、よく考えればハコ入りや機材搬入、楽屋での談笑など今日の一日全てが最後だったのだ。
「ね、ねぇ!…カメラ回しちゃダメ?」
突然涼子が言い出した。
今日のライブをどうしても映像に残したかった涼子はコッソリビデオカメラを持って来ていたのだが、今この準備風景から残したいと思い立った。
「は?こんなトコ撮ったって…」
「いーじゃん!お願い!」
「だってもう二度と…」
今日は涙腺が弱くなっている女性陣が涙目で訴えると
「…別にいいんじゃねぇの?」
Banの一言で一日の密着録画が始まった。
リハ風景は三脚に立てるとしてそれ以外はまるでロケのように誰かがカメラを持って回し続ける。
それが始まると一番ふざけ始めるのはやはり平蔵だ。
ステージへ移動する。
ホールクラスのこの会場は当然ステージも広く、いつもよりメンバーの立ち位置も離れている。
マイク位置を合わせるJun、アンプ調整する平蔵、ドラムの位置を微調整するBanにチューニングをする勝也。
マイクスタンドの前ではSyouがただ黙って立っていた。
ベースアンプの前にはもう一本のkillerが立ててある。
自分のベースがステージ上にいる光景を見て優奈は涙ぐみ、スマホを取り出して写真に収めた。
ステージスタッフがラインを全て繋ぎ、そしてドラムから音出しが始まる。
三脚に据えたカメラを回すと女性陣は固唾を飲んで見守った。
もうここから先は自分達の彼氏ではなく最後のブランカとして彼らを目に焼き付けていく。
それぞれの楽器の音が決まりボーカルマイクとコーラスマイクの調整が終わるとPAからの指示が響く。
「じゃあ何か曲くださーい!」
いよいよリハ。
メンバー同士がアイコンタクトを交わすとBanのカウントから爆発音のような音圧の演奏が始まった。
今まで数えきれないほど聞いてきたブランカの演奏。
何度聞いても彼らの演奏は毎回度肝を抜かれるほどの迫力である。
リハであろうと本番であろうと彼らの楽しそうな表情は変わらない。
まだ衣装でもなくメイクもしていなければ髪も普段のままだが、演奏している時の彼らはやはり圧倒的なオーラを纏っていた。
音が決まり、リハが終わった。
楽屋へ戻っていく風景さえもみぃがカメラを回している。
ここからしばらくは動く用事はなくのんびりと楽しいいつもの仲間たちに戻っていた。
女性陣はみんな普段よりも写メを撮る回数が増え、はしゃぐテンションもいつもより高めだ。
続々と大量に届く差し入れや花束などに一喜一憂しながら過ごしているところへ
コンコン!
楽屋がノックされるとそのドアが開き、入ってきたのは
「島村さん!」
「よく来てくれたねぇ、店は?」
「お前らがFINALだっつぅのに店なんか開けてられるか」
この島村もブランカの歴史をずっと見続け、そして何より勝也をブランカへ導いた張本人である。
「ほら、彼女たちにケーキだ」
大きめの箱を涼子に渡す。
「きゃーありがとー!島村さん大好き!」
「えー俺達には無いの?」
「バーカ、お前らはただ自分達のやりたい事をやってきただけだろうが。ホントに今日まで辛い思いもしながらずっと頑張ってきたのはこのお嬢さんたちだよ。お前らがケーキ食うなんざ100万年はえぇ」
妙に納得できる言葉だった。
メンバー達は「確かにそりゃそうだ…」と頷くも箱を開けるとしっかり全員分以上にケーキは入っている。
缶コーヒーで乾杯しケーキを食べ、島村関連の昔話で盛り上がると
「じゃあ俺はそろそろ入り口に回るわ。あ、もう結構な行列出来てたぞ」
「もう並んでんの?」
「ドコがいいのか知らねぇけどそれだけ人気があったって事だよ。じゃあな」
既に外には行列が出来ているらしい。
一気に緊張感を漂わせる彼女達に比べてメンバー達はまだノンビリしているものの、そろそろ着替えやメイクを始める時間でもある。
これだけの人気バンドになっても髪型やメイクは自分達でやるブランカ。
お互い順番に髪を逆立てたりし合っているが
「優奈ぁ、髪やって」
「…あたしが?」
「うん」
勝也が優奈にヘアメイクを頼むのは初めてである。
最後の最後に任された大役に手を震わせながらも、それを任された嬉しさから断る事なく引き受ける。
いつもどんな髪型でライブに出ているかは完璧に頭に刷り込まれているため、出来る限りそこに近づけるように必死な優奈。そして気づけば
「なぁんだいつもよりいいじゃん。もっと早くから優奈に任せときゃ良かったのに(笑)」
そんな言葉も出るほどに完璧な仕上がりになった。
メンバーのメイクも終わり髪のセットも終わり全員衣装に着替えた。
彼氏達の姿が「ブランカ」へと変わる。
もうすぐすれば会場がOPENとなり、その後ライブが始まる。
するといつもよりも少し早めの時間で涼子が立ち上がり
「さ、あたし達はそろそろ客席に行こっか」
「ちょっと早くない?」
「ここから先はメンバーだけの時間だもんね」
「そっかぁ…」
最後はメンバーだけにしてあげようという想いだった。
「バーカ、そんな気ぃ使わなくていいって」
涼子とともに彼女達もみんな立ち上がり、そして入口前で4人が並ぶとこちらを向いた。
みんな明らかに涙を堪えた表情でいる中、涼子が最後に
「今までずっと見て来たけど…やっぱりブランカは最高のバンドでした。ここまで一緒に連れてきてくれてありがとう。最後のライブ…思う存分楽しんできてください」
みんなそれぞれの彼氏の目を見つめている。
そして名残を惜しむような目で4人が楽屋を出ていった直後、ドアの向こうからは彼女達の号泣がハッキリと聞こえてきたのだった。
4人で抱き合って泣いた後、『ブランカのファン』として会場へ向かう。
4人ともそれぞれが見に来てくれた友人や関係者へのあいさつのために一旦バラバラになり、優奈もまた見に来てくれた親友たちと合流する。
「あ~ぁ…ホントに最後なんだねぇ」
「勝也どうだった?やっぱシンミリな感じ?」
「ぜーんぜん。いつも通りみんなでふざけてたよ」
「優奈はすでに思いっきり泣いてきましたって感じだね」
「え…うそ、化粧崩れてる?」
「あんた鏡みてないの?ボッロボロだよ」
慌てて化粧を直し始める優奈。
この親友たちはもちろん康太や陽平、いつの間にか仲良くなっている岳と芽衣、そして桐川 蘭やクラスメイト達の顔もところどころに見えた。
あの康太事件でブランカのメンバーだという事が知れ渡ってしまったものの、みんなその最後を見届けに来てくれた。
化粧を急いで直し会場入り口のゲートへの列に向かっていると、ふと優奈のスマホが鳴る。
「あれ…勝也だ…」
その言葉で周りにいた友人たちも立ち止まって優奈に視線を集めた。
「もしもし…どうしたの?」
「あぁ、最後にお前に言っときたい事があってさ」
「…最後?」
「うん…『ブランカのKATSUYA』として話すのはこれが最後だから」
「……え……」
「お前のおかげで最後までブランカをやり遂げられたよ。ありがとな」
「え…ちょっと待っ…ヤだ…なんでそんな事…」
たった今化粧を直したばかりの優奈の目にまた涙が溢れる。
「さっきはみんないたから言えなかったけど、お前があの時消えようとした俺を引き留めてくれたからここまで来れたんだ…感謝してるよ」
その場でしゃがみこみ、もう返事さえも出来ないほど号泣する。
周りの親友たちもそれがどんな内容なのかは想像がつき、黙って見つめていた。
「…あたしの方こそありがとう…最初に言ってくれた『誰にも見れない景色』…ちゃんと見せてもらったよ。最後までしっかり見届ける…あたしは最後まで勝也から目を離さないから…思いっきり楽しんできてね…」
途切れ途切れになりながらも想いを伝える優奈。
そして
「あぁ…約束通り今までで一番のライブを見せてやるよ」
その言葉を残して電話は切れた。
いよいよブランカ最後のライブの会場がOPENする。




