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45 FINAL ①

 朝、優奈が目覚めると隣に勝也の姿は無かった。


体を起こし、勝也のT シャツだけを着て寝室を出てみるとリビングのソファに一人で座っている。

テレビもつけず何をしているわけでもなくただそこに座っている。


「おはよ」


「あぁ、おはよ」


「…眠れなかったの?」

「寝たよ。ちょっと早く目が覚めただけ」


「…そっか」


そのままの姿で隣に座る優奈。



いよいよブランカとしての最後の一日が始まった。


まだ早朝の部屋の中黙ったまま会話も無く時が過ぎる。

ハコ入りは昼前の予定で、それまでする事がある訳でもない。


「朝ご飯作るね」


「今日はいいかな」

「でも何か食べとかないと」


「うん…でも今はまだいい」


昨日まで普段通りに過ごしてきた2人だがさすがに今日はいつもと違う。

今日が過ぎればもうブランカは解散するのだ。


「シャワー浴びて来いよ、昨日あのまま寝たろ」

「…うん」


優奈が浴室に向かうとようやく動き出した勝也。

いつものカバンを取りだし、衣装や着替えなど必要なモノを手際よく詰めていく。

今まで何度もしてきたライブ当日の準備を今日もいつも通りに終える。


玄関にそのカバンを置いて用意は整った。

シャワーから戻ってきた優奈が全裸で髪を乾かしている間もソファに座ったままで


「普通先に服着るモンじゃねぇの?」

「ん~、見たいかなと思って」

「いつもそうじゃねぇかよ(笑)」


そんな冗談を交わしながら優奈も準備を終えた。


「ちょっと早いけどそろそろ出るか」


「…うん」


それぞれの荷物を持ち、玄関を出る前に最後に勝也がkillerを肩にかけた。

その姿だけでグッと目に涙を溜める優奈。


「ねぇ…キスして」

「なんだ、めずらしいな」


そういうと優奈の唇に軽くキスをした。

普段から隙さえあればしょっちゅうキスしてくる優奈だが家を出る前にせがむのはめずらしい。


それから玄関を出て駅に向かって並んで歩く。

いつもとは違い口数の少ない優奈に


「なんだよ、何ヘコんでんの?」


「別にヘコんでるんじゃないもん…」

「まだ終わってねぇぞ、これから始まるんだからちゃんと笑ってろ」


そういうと自分の分身ともいえるベースを優奈の肩にかける。


この世で唯一勝也のベースを預けられる存在になれたとはいえ今日のkillerはいつもより一段と重く感じた。


優奈のkillerはもう既にJunに預けてあり機材と一緒に搬入される。

いつものライブハウスではなくFINALはこの街一番のキャパを誇る「インフィニティ」。



 会場前に着くとその大きさに怯む優奈。


その入り口には「BRANCA/FINAL LIVE」という大きな告知ポスターが張られている。

それを見て涙ぐむ優奈に


「ほら、裏行くぞ」


正面玄関から裏に回り関係者入り口へ向かうと


「お、早いじゃん。おはよー」


「おはよー。そういうSyouクンだって早すぎじゃない?」

「そーか?あれ見てみ」


Syouがアゴで指した方向にはもうすでに全員が揃っていた。


「ほんっとバカばっか」

「お前もなー(笑)」


メンバー達はいつも通りのテンションだが彼女達4人は緊張と寂しさがはっきりわかる表情でうまく笑えていない。

みぃや紗季までもがこわばった顔をしている中で


「さぁて…暴れに行きますか」


Junの一言で会場に入っていく。


いつもとは違う緊張感に包まれながら楽屋へ入ると、さすがに大きくて綺麗な部屋で


「なんか有名人みてぇ(笑)」


平蔵もまた自分たちの人気を理解していない男だった。


入ってすぐに涼子が彼女たちを集め


「いい?いつもやってるような手伝いは今日はここの人がやってくれる。ゲートも物販もスタッフ入れてくれてるからあたしたちはその手配だけ。紗季は前売り以外の取り置き分のリストをゲートに廻して枚数の確認。SOLDOUTだから当日券は無いからね。みぃと優奈は物販とポスターの配置を指示して?それから…」


「おいおい涼子、まだ早いってば」


「だってぇ…」

「ちょっとゆっくりしよーぜ」


するとそこへドアがノックされ今日発売のCDが入った大きな箱がいくつも運ばれてきた。


「危なかったな、結局ギリギリかよ」


たった今届いたばかりのブランカ最初で最後のCD。

それを彼女達が息をのむほどにジッと見つめているのを見て


「開けてみな」


勢いよく飛びつく涼子。

丁寧にテープをはがすとそこから震える手で一枚取り出す。


「う…うわぁ…」


そのジャケットは自分たちの彼氏だとは思えない完全なミュージシャンの顔をしたメンバーそれぞれのプレイシーンを繋ぎ合わせた恐ろしいほどカッコいい代物だった。


「あ…あの…あたしも買っていいんですよね?」


優奈の言葉に同意するように彼女たちはメンバーの顔を見るが


「お前らのはこっちだよ」


そういうと一緒に届いた小さな紙袋を開ける。


そこに入っていたのは販売用とは違うモノで、みんなで撮ったスナップがたくさん詰まったブックレット付の特別仕様。

この世に4枚しかないメモリアル盤だった。


「もうダメだぁ~…」


堪えきれずに泣き始めるみぃ。

それを皮切りに彼女たちはみんな泣き始めた。


「だからまだ早いってば」

「そんなのムリにきまってるじゃんかぁ~…」


「あ~ぁ…紗季ちゃん化粧ボロボロだよ」


勝也だけは紗季に泣きながら蹴り飛ばされてしまう。


それから女性陣の希望でメンバー全員のサインがその4枚に書き込まれた。


そしていよいよブランカ最後の長い長い一日が始まる。


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