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44 FINAL目前

 FINALを翌週に控えたある日の夜。


LIVE前の最後のリハに出かける前のアパートで


「んじゃ行ってくるわ」


「いってらっしゃい。頑張ってね」

「今日はちょっと遅くなるかも」

「わかってる。気にしないで」


「実家に電話しとけ」


「え?」

「今日はここで待っててくれ」


「いいの?」

「うん。お前のいる部屋に帰って来たい」


「…わかった」


そう言い残すとベースを担いで最後のリハに向かった勝也。

その背中を見送ると一気に涙が溢れる。


もうブランカのリハに向かう勝也を見送るのはこれが最後…そしてここで待っててくれという言葉。

何もかもが切なくて寂しい思いが溢れ出した。


今頃はスタジオに着いた頃か…

もうリハが始まる頃か…

みんなどんな顔でどんな想いで演奏しているのだろう…

相変わらず明るい笑顔で冗談ばかり言い合っていてくれれば…


頭の中はブランカの事でいっぱいで何も手に着かない。


夕飯を作る気も起こらずふいにカバンを持って実家へ戻ると、両親に今日は帰らない事を伝えて明日の制服とそれから自分のkillerを持ってアパートに戻った。

部屋に戻るとベースの弦を外し、それから丁寧に丁寧に拭き始める。 


まさか自分が楽器を持つなど夢にも思っていなかった。


ブランカを知り、勝也と出会い、そしてそのメンバーから贈られた人生最大の宝物。

今まであった数々の出来事を頭に思い出し泣きながらベースを磨き上げた。


ピカピカになったベースをスタンドに立てるがそれでもまだ時間は全然経っておらずしばらくボーっとしていたものの、いきなりカバンと上着を持って出かけた。


バスで駅まで向かいそこから電車に乗り向かった先はブランカがリハをしているスタジオ。

もちろん中まで入る気はなくただそのスタジオを見たかっただけだったのだが…


「ありゃぁ、おんなじこと考えるねぇ」


「えっ?…あ!涼ちゃん!」


振り返ると涼子がいる。

どうやら同じ想いでここへやってきたらしく


「最後だもんね」

「…うん」


そう言いながら2人で建物を見上げていると


「あっれぇ、何やってんの?」


後ろから、これもまた見なくても誰だかわかるみぃの声。

誰一人シンミリとした表情ではなく明るい笑顔で笑い合った。


しばらくそこでスタジオを見上げていたが


「今日って4時間だよね」

「うん、そうらしいね」


「それでも足りないとか言いそう」


顔を見合わせて笑いながら


「そこの店で待ってよーか。スタジオも見えるしまだ2時間以上もあるし」

「そーしよそーしよ!」


「え?待ってるって言ってもあたしここに来る事言ってないしスタジオ見に来ただけのつもりだったんだけど…」


「あたしもだよ」

「わざわざ『スタジオだけ見に行くねー』とかいわないでしょ普通」


「そっか、ウチらはウチらで楽しんでもいーよね」

「そぉそぉいつもあいつらばっかり楽しんでるからね」


3人で向かいの居酒屋に入る。

窓際の4人掛けのテーブル席には一人の女性がすでに座っていて


「あ…取られちゃってる」


と言った瞬間に3人とも気づいた。


「…紗季?」


「え…はぁ?みんな揃って何してんの?」


「あんたこそ今日平日だよ?」

「無理矢理今日から目一杯有給取ってやったの」


「…すっごぉ…」


「だって…その日だけじゃイヤだったんだもん」


照れ臭そうな顔で話す紗季。

どうやらブランカの彼女連中は全員同じ思考回路だったようで思わず大爆笑が巻き起こる。

当然その席に全員で座ると思いがけない宴会が始まった。


平日の夜という事もありそれほど混んでいない店内でこの恐ろしいほどの美人4人組の飲み会は群を抜いて目立っていた。

なぜか飲み物や食べ物が出てくるスピードが以上に早く、持ってくる店員も毎回変わる。

そして頼んでもいないサービス料理が増えていくのであった。


「どんな気持ちでやってんだろうね」


「あたしもそれ思ってた」

「まぁ合わせてる時はウチらの事なんて全く考えてないでしょ」

「それは間違いないな」


思えばこの4人だけで会うのはあの解散が決まった時のシンミリした集まり以来で、こうして4人での女子会は初めてだ。

以前は過去の思い出話もほとんど優奈の知らない事ばかりだったが、今となっては同じように話せる事がかなり増えている。

それだけブランカの歴史に関わってきた時間が増えてきたという事でもある。


徐々にお酒も進み、ほろ酔い気分になってきた4人。


「あいつらが解散したってこの女子会は続けよ~ね」


「っていうかなんで今までこういうのしなかったんだろ」

「だよね、ウチらはウチらでもっと遊べば良かった」


「あたしもそれ参加できそう。来月か再来月にはまたこっちに転勤になるっぽい」


「うっそぉ!やったぁ!」


紗季の帰還を聞いてさらにテンションが上がると


「ねぇ、もうあそこ突撃しちゃう?」

「うん!行ってやろ!」


「…怒られたりしないかなぁ」


「その時は全員張り倒す!」


紗季の一言で襲撃が決まった。


会計を済ませると他の客や店員達の残念そうな視線を浴びながら店を出る。

ロータリーの向かいにあるスタジオまでズンズン歩いていくとその建物に入り


「おはようございまーす!ブランカって今日何階ですかー?」

「いつもの3階のDですよ」


それは勝也の脱退と優奈の浮気騒動の時のあのブースだったが


「ぎゃぁ~~…トラウマがぁ~(笑)」


頭を抱えるポーズでそれさえも笑い飛ばせるほどあの壮絶な事件が過去の笑える思い出になっていた。


エレベーターで3階に上がる。

そのドアが開くとブランカのメンバーはみんなブースから出てロビーの椅子に座っていた。


「はぁ??」


「え…紗季?」

「なんだなんだ…みんな揃って」


真ん丸な目で驚くブランカを見て大爆笑する4人。


「へへ、来ちゃった」

「来ちゃったってお前ら…」


エレベーターを降りて4人が近寄ってくる。


すると慌てて平蔵が一枚の紙を隠そうとした。


「ちょっと!何隠してんのよ!」


問答無用でみぃが取り上げたその紙にはなんとあみだくじが書いてあり、そのゴールには


「なになに?…居酒屋…ビリヤード…ボーリング…何これ?」


「いや、その…えっと…はは」


「まさか今から何して遊ぶか決めてたとか言うんじゃないでしょーねぇ」

「え~っと…その…ちょっと早めに終わっちゃったもんだから……」


「信じらんねぇこいつら!あたしらがどんな思いで集まってどんな思いで待って…あ~!ムカつく!なんなのあんたらぁ!!」


涼子の激怒は笑顔のままだった。…が内心彼女たちはホッとしていた。


ブランカ最後のリハ。

それが終わった後この男達はどんな想いでこの場を過ごすのだろう。

それが一番気がかりだったのだが、やはり彼らはいつも通りだった。


「ちょっと遅くなるかもってコレの事?」


「いや、あの…えっと……ごめんなさい…」


勝也まで怒られた時点でもう我慢の限界となり、全員涙が出るほどに大爆笑となった。


「バレちまったらしょーがねぇや、こうなったらみんなで行くか!」


 全員揃っての大遊びが始まった。


どうせならあみだくじに書かれていた遊びを全てやってしまおうという事になり、Junのハイエースに全員の楽器を積み込んでからRound1に向かう。


カップルの組み合わせなどごちゃ混ぜになり、ビリヤードの構えを紗季に教えているのが平蔵だったり迷路に入っていくペアが涼子とJunだったり…そしてみんながスマホで写メを取りまくる中、Syouに抱き着く優奈やみぃとほっぺたをくっつけてどアップの勝也など一生の思い出になるような全員入り乱れての遊びになった。


「あーハラ減ったぁ!いい加減なんか食わねぇ?」


よく考えれば居酒屋に行っていた彼女達以外は夕飯も食べていない。

そういう彼女達もはしゃぎすぎてお腹が鳴っている。


「よし、カラオケだ!」


全員でパーティールームに入り、メニューを全部頼んだのかというほど大量の料理が並ぶ。

そしてそこでもまた酒盛りが始まり、再びほろ酔いになった涼子が


「よぉし久しぶりにあたしが歌ってやる」


そう言って歌った涼子の歌は度肝を抜かれるほどの上手さ。


「う…うわぁ…」


「優奈は聞いたこと無かった?涼子の歌はヤバいんだよ」

「ボーカリストの前であんだけウマく歌うなっつってんのに…涼子の歌聞いたらヘコむんだよなぁ俺」


Syouにここまで言わせるほど涼子の歌はホンモノだった。


楽しい時間はあっという間に過ぎ


「そろそろ帰らねぇと仕事だぁ」

「ホントだ、もうすぐ朝じゃん」


「え~まだ遊びたぁい!」


「だから今日は平日だっての(笑)」


渋る優奈をみんなでなだめてお開きとなる。

楽器はこのままJunのハイエースに預ける事になりこの場で全員が別れる事になった。


その帰り道の電車で


「いつもあんな風に遊んでんの?」


「今日は全員揃ったから特に激しかったな(笑)でもメンバーだけでもスイッチ入っちゃったらあんな感じだよ」

「いーなー…勝也だけズルいぃ…」


スネた表情をしながらも「全員」の中に自分も入っているのだという嬉しさもあった優奈。誰もが解散などという事は忘れ切っていただろう全員での大はしゃぎな夜は忘れられない思い出となった。


そして一旦2人のアパートに着くと


「シャワー浴びる時間ぐらいはあるな、お前先に浴びて来い」


「ホントに学校行くのぉ?今日は休んじゃわない?」

「んな事言うなら二度と連れてかねぇぞ」


「ぶぅ…じゃあせめて一緒に浴びようよぉ」

「ったくメンドくせぇな、わかったよ」


浴室から出て着替えのために2人が寝室へ行くと


「ベース持ってきてたんだ」

「うん。昨日ここでちょっと磨いてたの」


いつ見てもピカピカで本当に大事にしているのがわかる優奈のkiller。

しばらくそれを見つめ


「なぁ…お前のkiller、FINALの日ちょっと貸してくんない?」


「え、全然いいけど…なんでこの子?」


勝也同様、優奈もこのkillerは家族にも誰にも触らせたことは無い。

勝也が触るのなら全く問題はないがライブに貸せという意味が分からず困惑する。


「弾いたりしねぇよ。ただスタンドに立てるだけでもいいからコイツにもステージってのを見せてやりてぇなと思ってさ」


「え…い…いいの?連れてってくれるの?!」


驚きと嬉しさの入り混じったとびきりの笑顔を見せる。


自分の宝物がブランカのステージに上がる。

それは想像もしなかった事で一気にテンションがあがる。


「お願い!絶対連れてって?約束ー!」


「わかったわかった、じゃあ借りるな」

「貸すとか借りるとかじゃない!あたしのkiller触っていいの勝也だけだもん!」


あまりの嬉しさに学校の準備も鼻歌交じりの優奈。化粧が終わると一緒に家を出る。


徹夜明けには厳しいはずの徒歩での通学も全く苦にならずに登校するが…


結局授業が始まると爆睡モードになり、授業中や休み時間関係なく一日寝続けていた2人だった。


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