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43 夏

 FINALライブの日程が決まってから優奈はある意味覚悟していた。


当然勝也はピリピリしだし、今までよりもっとブランカに集中するだろう。

機嫌も悪くなるだろうし会える時間も減るはず。


…だがそんな優奈の想像とは違い勝也は何も変わらなかった。

いや逆に今までよりもっと笑顔も増え、優奈のために時間を使う頻度が増えたようにも思える。それはそれで嬉しくはあるのだが…


FINALまで残り2か月ほどになった頃


「ねー…なんかヘンなんだけどどうしたの?」


「何が?」

「なんか今までと変わんないっていうか逆に優しくなったような…」


「別になんもないよ。っていうかそれってダメな事か?」

「あたしは嬉しいけど」

「だったら何の文句があんだよ、変な奴」


「ん~…確かに」


 いつものようにベッドの中の会話だった。

今度のライブで最後…話題に出すことは無いが頭の中には常に存在している事実である。確かに今までとは違い優奈の買い物に自ら付き合ったり、優奈がインスタやtiktokなどに投稿する写真や動画の撮影まで引き受ける事もある。

理想と言えば理想の状況なのだがそれでも優奈には少し違和感があり


「忘れようとしてる?最後だって事…」


「そんなんじゃねぇよ。ただ今はまだブランカのメンバーとしてベースが弾ける、それが楽しいだけだよ。しばらくリハもなんも無かったから」

「あ、そっか…」


最後だという事を一番気にしていたのは優奈だった。

だが勝也は今はまだ自分の居場所がある。

あの大好きなバンドであのメンバーと一緒に音を出していられる。

ただそれだけを楽しんでいたようだ。


しばらくのリハ中断期間がたまらなくストレスだった分、今思いっきり発散できているのだった。


それからは優奈の違和感も解消し、お互い楽しんだ生活を続けていく。


夏休みに入るともちろんバイトとリハメインの生活になるが会える時間も増えた。


そんなある日


「ねー、海かプール行きたい」


「日焼けすんじゃん」

「ダメなの?」


「別にいーけど」


「何それ(笑)…岳ちゃんの妹、ミキちゃんだっけ。一緒に行く約束してるんでしょ?」

「あーそれもあったな」

「誘ってみよ~よ」


「それは今度でいいよ」

「なんで?」


「2人で行こ」

「え?……うん!」


まさか勝也の方から「2人で」と言われるとは思わず大喜びの優奈。

お互いのバイトの日程を調整し来週に1日休みを入れた。


その前に買い物に行く事になり、ある日のバイト前の昼間に2人で出掛ける。


「どんな水着がい~い?」


「ん~…ビキニ。っていうか俺も水着買わないと」


「去年岳ちゃんと行ったんじゃないの?」

「ただのハーパンで行ったもん」


「じゃあお揃いがいい!」

「やだよ恥ずかしい…」


勝也が拒否するもすでに優奈はペア限定で水着を物色し始めている。

そして結局優奈の意見が押し切られて同じ柄の水着を買う事になった。


初めて行くなら海がいいという優奈の意見で海水浴に決まり、ようやくその当日を迎えた。


朝からカバンがパンパンになるぐらい荷物を詰めている優奈。

珍しく勝也も準備を手伝い、夏ど真ん中の格好をした優奈といつもよりもあまりミュージシャンを連想させない服装の勝也がアパートを出た。


荷物は当然勝也が持ち、歩いて駅へ。

駅へ向かう間も電車に乗っている間もずっと笑顔ではしゃぐ優奈を見て勝也も笑顔になる。


海へ着くと、朝早くから出てきたこともあってまだそれほどの混みようではなかった。


海の家でパラソルを借り、適当な場所に立てて陣を取るとその海の家で更衣室を借りる。

先に出てきた勝也が待っていると…後から出てきた優奈を見て思わず息をのんだ。


少し露出の高めなビキニにパーカーを羽織っているその姿があまりにも綺麗で、無言で見つめていると


「なぁに?なんかヘン??」


「い、いや…別にヘンじゃ…」

「ヘンなの。さ、行こ!」


ただでさえとびきり可愛い上にSNSでも大人気の優奈が水着で浜辺に現れると当然ながら絶大な注目を浴びる。

だがそれを気にも留めずに陣取った場所へ座るとそこからは2人の世界だった。

チラチラと見てきたりしまいには隠し撮りする男まで現れてきたものの、さすがに彼氏と2人でいるところへ声を掛けてくる者はいない。


時には海に入り、お腹が減れば海の家でご飯を食べ、仲良くシートに寝転がって焼いてみたりと普通のカップルがするような海水浴を楽しむ。

こんな普通の事が嬉しくて仕方ない優奈は一日中笑顔が絶えなかった。


だが同時に、おそらくこんなゆっくりとしたデートを楽しめるのは最後…今日が終われば勝也はFINALに集中するだろうとも分かっていた。


そしてその後がどうなるのか…どれほどの争奪戦が待っているのかも不安でたまらない。


それを払拭するように一日を楽しんで過ごした優奈だった。


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