42 カウントダウン
2週間弱で全曲のベーステイクを録り終えた勝也。
その後もレコーディングは続き、最後にSyouの歌入れ完了となって後はMixを待つだけとなった。
再録があるかもしれないが一旦は終了となりいつものように打ち上げが開催される。
アパートで打ち上げに備えて2人が着替えをしていると、
「ねー、レコーディング始まってから1回もシてもらってませんけど」
「そぉ?まぁ毎日忙しかったからなぁ」
「…それだけ?」
「それだけって…まさか今からとか言い出すんじゃねぇだろうな」
「まだ時間大丈夫じゃん」
「バカかてめぇは!こんな明るいウチから…夜にしろ夜に」
「だったら夜はホントに大丈夫なの?打ち上げだよ?あのメンバーだよ?」
「…え~っと…」
「はい決定!アッチ行こ」
着替え途中で2人とも下着姿だったのが影響したのか、結局優奈に押し切られて寝室に向かう。
今までブランカの活動に関する事に対してだけは何の文句も言わず応援してきてくれた優奈。大きく肩で息をしながらグッタリしているその顔を見て
「ほら見ろ、なかなか動けねぇだろ?」
「…だ…大丈夫だもん…久しぶりだったからちょっと疲れただけだもん…」
意地を張る姿も可愛いのだが、そろそろ動き出さないと遅れるかもしれないという時間になっていて
「立てるか?ホラ」
先に起きて優奈の手を引き起き上がらせる。
腰から砕けそうになる優奈を支えて浴室に行きシャワーを浴びてから急いで着替えてアパートを出た。
ブランカの飲み会と言えば定番となっているいつもの居酒屋。
予約する個室も決まっていていつしかそれぞれの座る位置も暗黙のウチに決まっている。
Syouと涼子以外は全員もう揃っていて雑談をしながら2人の到着を待っていると
「悪りぃ悪りぃ。インフィニティ行って日程の打ち合わせしてたら遅くなった」
集合時間より少し遅れてやってきたSyouと涼子。
だがその第一声で出た『インフィニティ』という名前に、FINALライブという事実が込められている。
「いつになった?」
「一応11月。一週目の土曜日で押さえた」
「結局ワンマン?」
「あぁ」
「Mixとプレスは間に合うのか?」
「それは大丈夫。一応10月末には納品の予定だよ」
「あそこってMAXどれぐらい入んの?」
「2500は入るだろ」
「プレスは3000だっけ」
「うん。再プレスはしないって言ってあるからマスターごと帰ってくる」
「あと3ヶ月か…ホントにそれまでライブはしないの?」
Kouのその言葉にみんな黙ってしまう。
今までならこんなにライブ間隔が開くことはなかった。
本当なら今すぐにでもライブをやりたい。
メンバーの顔にはハッキリそう書いてある。
そして紗季も含めた彼女達も黙って聞いていた。
本当にこのメンバーでの最後のライブが決まってしまった。
解散という事実は曲げられないものの今まではまだ『いつか来る』解散だったのが現実的に決まったのだ。
じんわり目に涙を溜める優奈の腕をみぃがチョイチョイとヒジでつつく。
『ここはまだガマンしろ』という意味が伝わってくる。
Kouの言葉に誰も返事をしないまま打ち上げが始まった。
無理にはしゃいでいるようにも見え、それがまた残り少ないこの飲み会を寂しい気分のものにしていた。
珍しく平蔵とBanが酔い潰れてしまう。
そして他のメンバー達もいつもより酔っぱらっている中で勝也だけは何とか意識を保っている。
その理由は
「ヤだぁ!解散なんかかしなくていーじゃんっ!」
「だからそれはさっきから何度も聞いたってば…」
初めてというぐらい、みんなの前で優奈が泥酔している。
男連中もほぼ潰れているが、彼女軍はそれもほったらかしで優奈の面倒を見ていた。
そして徐々に隣の紗季にもたれかかり肩に頭を預け、最後には膝枕で寝てしまう。
「…よっぽど言いたいのガマンしてたんだろうね」
目尻を薄っすらと濡らしたままスヤスヤと眠る優奈の髪をなでながら紗季が呟くと
「ウチらもホントはこうやって言いたいぐらいだよ。優奈にしてみればもっと長く見てたかっただろうしね。ホントに色々あってここまで来れたんだもん」
スッと視線が勝也に集まる。
「…な…何?」
「感謝しなよ?優奈が彼女になってくれてなかったらまだアンタは前のままでしょ」
「前のままって…俺そんなにヒドかった?」
「ヒドいとかいう意味じゃなくて、今みたいに優しい顔にはなってないって事」
「俺コイツと付き合ったからって何にも変わってないよ」
「そう思ってんのはアンタだけだよ。こんなに一生懸命なのに苦労させて泣かせてばっかりで…それでもついて来てくれたんでしょ?これからは大事にしてあげな」
「…なんで俺が怒られんだよ」
これ以上続くと男連中は全員潰れてしまうだろうと判断した涼子が打ち上げを締める。
平蔵とBanは叩き起こされ、Syouも涼子に酒を取り上げられた。JunとKouはまたしてもこの後2人で飲みに行くようだ。
そしてフラフラになりながらメンバー達が見たのは酔い潰れたまま勝也におんぶされている優奈の姿。
さすがの平蔵も少し我に返ったのか
「優奈が潰れちゃってる…めずらしいな」
「アンタの方が寝るの早かったけどね」
タクシーを呼んでもらい、階段を下りてそれに乗り込みみんなに見送られて一番にその場を後にした。
車内でも勝也の膝枕で寝続け、アパートについてからはお姫様抱っこで階段を上がって部屋に入り、上着だけ脱がせてそのままベッドに寝かせた。
翌朝、リビングのソファで寝ていた勝也。
ふと声がして目を覚ますと寝室の方から優奈がか細い声で名前を呼んでいる。
起き上がって寝室へ行くと
「…勝也ぁ…頭いたぁい…」
まだ目も開いていないながら目覚めていた優奈。
二日酔いでアウトなようだ。
「あんなバカみてぇに飲むからだろ、ちょっと待ってろ」
氷水を作って寝室に戻り、優奈を座らせて飲ませる。
「…つめたぁい」
まだ目は開いていない。
またそのまま横にならせ
「とりあえず今日は寝てろ。食えるようになったらなんか作ってやるから」
「やだ…休みがもったいない…」
「それは目ぇ開けれるようになってから言えよ」
とりあえず優奈の服を脱がせ部屋着に着替えさせる。
されるがままに着替えるとそのまままた眠りに入ってしまった。
昨日の涼子達の言葉を思い出してしばらく寝顔を見ていたが、起きた時用にうどんの用意をするべく買い物に出かけた。
帰ってくるとまた優奈の呼ぶ声がする。
寝室に行き
「今度は何だ」
「あ…いたぁ…ドコ行ってたのぉ?」
「ただの買いモンだよ、目ぇ覚めたか」
「…なんであたしここで寝てるの?」
「ソコからかよ…」
まだ起き上がることも出来ない優奈を宥めすかしてそのまま寝かせうどんの用意をする。
結局優奈が起き上がれるようになったのは夕方近かった。
「ハァぁ~…スッゴイ胃袋に染み渡る…」
「オヤジかお前は」
まだ少しは頭痛も残りながら勝也が用意したうどんを食べてようやく復活したようだ。
「ねー昨日あたしヘンな事とかしてない?」
「酔ってみんなに絡んで服脱いで全裸で走り回ってたぞ」
「…え…ウ、ウソでしょ?」
「冗談だよ、紗季ちゃんの膝枕で爆睡(笑)」
「もぉぉ!…でも紗季ちゃんにごめんなさい言っとかなきゃ…」
「今日は多分みんな使い物にならねぇよ。あとでLINEでもしとけ」
しばらく部屋でのんびりしていた。
さすがに昨日の後半の記憶は無いものの前半は覚えている優奈。
「FINAL…決まっちゃったんだね」
「そうだな」
「…悔い残さないように頑張ってね」
「うん」
「最後まで見てるから」
「当たり前だろ、お前が居たからここまで来れたんだ」
「え…あたしなんて何の役にも…」
「それは聞き飽きた(笑)」
「その先なんて終わってから考えればいいよね」
「あぁ、あと3ヶ月…カウントダウンだ」
来てほしくはないが…その日が来れば終わってしまう。
だがそのFINALがおそらく伝説に残るライブになる事だけは優奈も確信していた。




