41 レコーディング ③
レコーディングの流れは優奈が想像していたのとは違った。
全員で1曲ずつバンド演奏を録音すると思っていたのだが、実際は各楽器バラバラに個人で演奏したものを重ねていくという方法だ。
音源として収録曲を全て一発録りし、それを聞きながらまずはドラムのBanから録音が始まった。
他のメンバーはその日に来てもすることは無いのだが、さすがにブランカのメンバーが全員揃う事こそ滅多にないものの誰かは必ず覗きに来ているという相変わらずの仲良さだった。
「明日ベース録りあるんだよね?」
「うん、明日は俺だけ」
「一緒に行っていい?」
「いいよ」
「やった!」
ついさっきまで優奈の声が響いていた週末の寝室で明日の約束を取り付けた。
翌日、昼前からスタジオ入りしブースの中で音出しをしている勝也を眺めていると
「おーっす!もう録ってんの?」
「あー!涼ちゃん!みぃちゃんも!まだこれからだよ~」
「なんか始まったって感じだねぇ。はいコレ差し入れ」
「わー!ありがとー」
「後で紗季も来るって。なんかあのコこれからはよっぽどの事がない限り毎週帰ってくるってよ」
「毎週って大変じゃん」
「出来るだけ自分の目で見ておきたいんだってさ、最後まで」
「そっかぁ…そうだよね」
あまりにもみんながいつも通り過ぎて解散するのがウソのような気さえする。
だがレコーディングが進むという事はそれだけ解散が近づいてきているという事でもある。
「そういえばジャケ写っていつ撮んのかな」
「ジャケ写?」
「ジャケット写真。要はCDのジャケットとか中のINDEXとかの写真撮る事」
「あ~…そういうのも要るんだねぇ。なんかすごい事になりそう」
「平蔵とかすぐ変顔するしねぇ」
「さすがにコレはちゃんと撮るでしょ(笑)」
本番テイクが始まると聞いてロビーに移動する。
勝也もエンジニアも集中するため話し声さえ邪魔になるからだ。
ロビーでまた話していると
「おーっす、もう録ってんの?」
「紗季ちゃん…涼ちゃんとまったく同じ登場だね(笑)」
また騒がしい4人が集合した。
色々話も盛り上がってきた頃、紗季が呟く。
「…やっぱCDにrhythm battleは入らないよねぇ」
「あぁ、あれはないだろうね」
「そういう曲があるの?」
「あ、さすがに優奈は見てないか。しばらく演ってないし」
「Banと勝也、2人だけでやんの。ギターもボーカルも無しで」
「…え?」
「簡単に言えばドラムソロとベースソロを同時にやるみたいな感じかな」
「あれが勝也とBanが他のバンドから『最強のリズム隊』って言われる理由だよ。バケモノ2人が持ってるテク全部使って戦うみたいな…でも完全に曲として成り立ってるけど」
「…き…聴きた過ぎる…」
「音源も何も残ってないもんねぇ。アイツらってホントにライブビデオとか撮らないしね」
「自分達が楽しければそれでいいヤツらだもん。周りとかファンの事なんてなーんにも考えてないよきっと」
「だからCDだって今頃になってようやくだもんね」
勝也とBanのリズムバトル…勝也が持てる技術全てを開放するというその曲をどうしても聞いてみたい。
だがそれを聞ける可能性はほぼゼロだろう。いつかブランカが『再結成』でもしなければ…。
ふとそう考えた時
「いつか再結成とかしないのかなぁ…」
「どうだろうね。ガンコ者の集まりだから」
「頭の中ではどう考えてんだろ。解散したくないってのは間違いないと思うけど」
「なんであんなに頑固なのかな…やっぱ楽しいから解散すんのやーめた!とか普通に言えばいいだけなのに」
やはりこの4人が集まれば自然と話題はそれぞれの彼氏の事になり
「Banは解散した後どうするとか言ってた?」
「一回聞いたら『まだ今はブランカなんだから余計な事聞くな!』ってめっちゃ怒られた」
「ウチと一緒!平蔵のクセにすっごいキレられた」
「優奈んトコは?」
「キレられはしなかったけどバンドはやらないって。どんな人と組んだってあんな音は出せないからって」
「あれだけのメンバーだもんねぇ…Syouは?」
「わかんない。でも、ひょっとしたら歌ヤメちゃうかもね」
「…え?」
「勝也が言うようにあんな音出せるバンドは他には存在しないでしょ?みんなは自分が出す音だけどさ、Syouにしてみればみんなの音があって初めて自分が歌えるわけだから。他のバンドで歌うぐらいならカラオケの方がマシだって前に言ってた。だから…ヤメちゃうような気がする」
「それこそ一番もったいないじゃん!あんなボーカル…」
ブランカの顔とも言えるSyouの歌声。
リーダーを置かないブランカの中で実質的なリーダーとしてバンド内をまとめてきたSyouが音楽をヤメてしまうかも知れない。
あの透き通るようなハイトーンや、あれだけの音圧のバンドの中にいて決して負けない圧倒的な声量を持つボーカリストが…
みんなの表情が一気に暗くなる。
するとそこへ数テイク録り終えた勝也が休憩に来た。
「うわ!めっちゃヤバいメンツ…」
「どういう意味よ」
「なんか寄ってたかって怒られそうじゃん」
「それはアンタが口答えするからでしょぉ」
「いくらもう優奈がいるったってアンタの『姉ちゃん達』である事に変わり無いんだからね」
「だって(笑)なんかあったらいつでもチクるからね」
「この人ら女のくせに暴力振るうからなぁ」
「暴力じゃないでしょ!あれは『しつけ』!」
「…犬か、俺は」
こんな温かい雰囲気で3人もの『姉ちゃん』に守られてきたのだと少しウルッとくる優奈。
「あ、そーだ。差し入れ貰ったよ」
「なになに?」
差し入れの袋をガサガサといきなり開け始める勝也に
「ちゃんと御礼言ってよぉ!」
「いいのいいの。勝也がウチらに御礼なんか言ったら鳥肌が立つ」
「うん、確かに気持ち悪い(笑)」
恐ろしいほどの美人3人組を前に本当の弟のような勝也。
そして差し入れのドーナツを色々出してきては
「甘いのばっか…なんであのハンバーグのヤツ入ってないの?信じらんねぇ」
甘いモノが得意ではないため文句まで言いだす勝也の頭をみぃがパァン!と叩き
「惣菜系はこっちの袋だバカ」
「あ、なるほど」
こんなやり取りを見るのもみんなの楽しみだった。
あっという間に食べ終わるとまたブースに戻っていく勝也を見送り
「あれでベース弾かせたら超一流って…絶対おかしいよねぇ」
「今でもライブの時の『KATSUYA』と同一人物とは思えない…」
「あたしもソレ思う~(笑)」
結局レコーディングは進みながらもロビーは彼女軍団がいつも集まって女子会をする場所になっていた。
ベーステイクが録り終わると勝也の仕事はほぼ無くなる。
それからも優奈は差し入れを持って会いに行ったりと勝也よりもスタジオに行く回数が多かったのだった。




