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40 レコーディング ②

 レコーディングが始まるとまた勝也は尋常ではない忙しさになった。


だがその代わり優奈とバイトがカブった日は待っててもいいという事になり、学校からそのまま一緒にバイト先まで行って帰りも一緒に帰ることで少しでも会える時間を作るようになった。


今日は勝也だけバイト。

優奈がアパートで夕飯の支度を終えノンビリしているとスマホが鳴った。


「Syouさんだ、めずらし」


ブランカのメンバー全員とも番号は交換している。


「もしもーしお疲れ様でーす。どうしたんですかー」


「おう、今一人か?」

「そうですよ」


「ドコにいる?」

「勝也のアパートです」


「ちょっと出れるか」


「いいですけど…ドコ行けばいいですか?」

「迎えに行くから」


しばらくしてSyouが着いたと連絡がありアパートを出る。


Syouから電話が来ること自体は初めてではないが呼び出されるのは初めてだ。

階段を降りるとJunのハイエースが止まっていて、近寄ってみると横のスライドドアが開いた。


そして中を見て驚いた。

Syou、平蔵、Jun、Ban、Kou……勝也以外の『ブランカ』が全員乗っている。


「…え?」

「急に呼び出して悪いな。勝也が帰ってくるまでには送るから」


そういうと後部座席に優奈を乗せる。


「なんかすっごい状況なんですけど…」


このメンバーに会って勝也がいないと妙な緊張感がある。

なぜ自分が呼び出されたのかもわからないままこの男たちとカフェに入ることになってしまった。


5人で席に着くと初めはいつものように他愛もない話をしていたが…

口を開いたのはJunだった。


「なぁ優奈。正直に答えてくれな。…解散決まってから勝也の様子どうだ?」


「…あ…」


ようやく自分が呼び出された意味がわかった。

この男たちは勝也を心配していたのだ。


自分たちのバンドに加入させるためにこの街に呼び、そして自分たちの決めた事のためにそのバンドを解散する。

全て自分たちの都合で人生を変えさせてしまった勝也がどういう心境でいるのか…一番わかるのは確かに優奈しかいない。


「…素直に受け入れているのかどうかはあたしにもわかりません。でも『初めからこうなる事は聞いてたから』とは言ってました。…今は普通にはしてくれてるけどあんまり普段から気持ちを言ってくれる人じゃないし」


「決まった時いなくなろうとしたんだって?」

「多分、実際に解散っていう日を迎えるのがイヤだったんだと思います」


「指が裂けるまでベース弾いてたって…」

「それも…ジッとしてるのがイヤだったんだと思います。ベース弾いてる間だけは何も考えなくて済むから」


「確かにアイツには酷な話だよな」


「俺たちと居る時はいつも通りにしてるけど、もし優奈が居なかったらどうなってたんだろうな」


「そんな…あたしなんて何の役にも立ててないし…」


シンミリした空気の中、みんな勝也の想いを想像していた。


「解散を伝えた時…あいつ俺達に『ごめん』って言いやがったんだ」


「…え?」


「自分がみんなの最初の約束を覆してでも手放したくないベーシストになれてたらこんな事にはならなかったって」


「あいつがいたからここまで来れたってのにな」

「ホントの事言ったら、あいつは意地でも手放したくねぇよ」


「でも…だったら解散なんて…」


「優奈、ブレイズの話は涼子から聞いただろ?」

「…はい」


「あいつはブランカ以外でベースを弾こうとしないんだよ。でもそれはアイツの成長を止めてるとも思うんだ」

「こんなトコでくすぶってるようなヤツじゃねぇよ勝也は」


「こんなトコって…それが勝也の一番望む場所だったとしてもですか?」


「お前はもっとデカいステージに立ってる勝也を見たくないか?」


これだけの凄いメンバーがそろっているブランカでさえベーシストとしての勝也は別格だという。

彼は優奈の思っていたレベルをはるかに超えているのだと今改めて分かった。


「あたしは…KATSUYAじゃなくて勝也が好きだから一番楽しい場所にずっといて欲しい。あの人が一番望む場所で弾かせてあげたいです」


メンバーも言葉を失う。

勝也といい優奈といい…これほどブランカを愛しているのだと。

涙をこぼし始める優奈に声を掛けることが出来ず静かな時間が流れた。


「でも…バンドが無くなっても友達であることには変わりないですよね?」


「あぁソコは譲れねぇな」


「あのバカがいねぇと水風船の的が居なくなる」

「お前は誰でも見境なく的にしてるだろうが!」


「優奈も平蔵にずいぶん狙われたよなぁ?」

「パンツまでずぶ濡れにされましたよ」


「そ…そぉだっけぇ」


結局最後は笑いながらの会話になった。

だがメンバーの本心を聞けたことは優奈にとって大事な決心をするには充分だった。


「何があっても自分だけはずっと傍に居よう」と。


勝也が帰ってくる前にアパートまで送ってもらう。

そして優奈が戻ってきてすぐぐらいに勝也が帰ってきた。


「お帰り」


「ハラ減ったぁ」

「はいはいすぐ用意するね」


夕飯をテーブルに並べると勝也が食べるのをジッと見つめる。


「ん…何?」

「なんでもなーい」


「あんまジロジロ見られると気持ち悪いんですけど」

「なんで?彼氏の顔見ちゃダメ?」


「…なんかあった?」

「なんにも。ただ今日も大好きだなぁと思っただけ」


「なんか欲しいモンでもあんだろ」

「ん?…早く食べて、その後シよ」


「…は?もうこんな時間だぞ」

「だから大急ぎで食べてよ」


「信じらんねぇ…」


確かに優奈の頭の中にはこの後の気持ちもあった。


だがそれよりも、ジッと顔を見続けていたのは…

勝也という男の本当の実力が分からなくなったからだった。


今目の前にいる自分の『彼氏』は本当はどれだけのポテンシャルを持った男なのだろう。


以前勝也狙いでベースを習いに来た沙耶や、学校内にいる他のバンドをやっている人達から見て別格というのは判る。

だがあれほどの実力者をそろえたブランカの中でもそう言われるこの男。

本当に勝也がそのスキルを全て開放したらどんな演奏をするのだろう。


今更ながら自分はとんでもない男と付き合っているんじゃないだろうか…そんな気持ちが頭の中を渦巻いていた。

勝也がやっていることがどれだけ難しい事なのか、それを知るにはどうすればいいのだろう。


答えは一つだった。


「ねぇ、ベース教えて?」


「ん?また音がちゃんと鳴らねぇの?」

「ううん、そうじゃなくてイチからちゃんと」


「ベーシストになりたいって事?」

「ベーシストじゃなくていいの。少し弾けるようになりたいだけ」


「どーしたの」

「やっぱウチの子、部屋の飾りにしとくには可哀想だから」


「指太くなるぞ」

「それでもいい」

「指先の皮、分厚くなるぞ」

「うん」


「習いたい時は持って来いよ、お前ならちゃんと教えてやる。俺と同じkiller使いだしな」


それから毎日とはいかないもののベースを習い始めた優奈。


だが自分が弾いてみて初めて、ベーシスト・KATSUYAに対してすぐ実感するのだった。


「…ホントにバケモノだったんだ…」


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