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4 電話

 翌朝、早めに家を出て昨日勝也と別れた曲がり角で少し待ってみたが会えなかった。

仕方なく学校へ向かうとすでに勝也はもう席で寝ていて、相変わらず廊下には女子達が群がっている。その人込みをかき分けて教室へ入るといつものルートで


「おはよ、昨日はありがとう。それとご馳走様でした」


 小さく囁くようなその声を聞いてムクッと顔だけ起こし


「おう」


 たったそれだけの返事だったが優奈には十分だった。笑顔になって自分の席へ着くとすぐにみさ達に囲まれ


「おはよー!っていうかわっかりやすー!昨日までと全然顔が違うじゃん」


「おはよー。えー?そんな事ないよぉ」

「メンドくせぇ女ー」


「ねぇねぇ、昨日ドコ連れてかれたの」

「えー…言ってもいいのかなぁ」


 そういうと4人で顔を近づけヒソヒソ話が始まる。一連の行動を大雑把に説明すると


「それってデートじゃん!」

「かぁー!楽器屋さんまで連れてったって事は特別なんじゃないの?」

「その幸せそうな顔がなんかムカつくー」


ようやくいつも通りの4人に戻り、久しぶりに優奈の笑い声も響いていた。

そして昼休み、今日からはまた優奈もみんなと一緒にパンを食べていたが


「ねぇ、勝也ってなんでいつもお昼食べないの?」


「うーん…そこはまだ聞いてないけど、バイトばっかりしてるから眠いのとあとは節約もあるんじゃないかな。あの人、一人暮らしだから」


「え…一人暮らし?高校生なのに?」

「両親いないの?っていうか、そもそも勝也ってドコの中学だったの?」

「えー、全然わかんない…やっぱまだ知らない事だらけだぁ」


 またショボンとした顔をし始めるが


「またそんな顔する。知らないことあってもこれからはちゃんと聞けるんでしょ?」

「…うん、そーだ!これからいっぱい聞けばいいんだ」


 前向きになれた優奈は少し強くなっていた。

そして授業が終わった放課後。徐々に廊下に群がる女子の数も減ってきてはいるがまだ注目は浴びている勝也が教室を出ようとする。いつもなら校門を出て少し行った所ぐらいで追いついていた優奈だが、まだ教室内にいる勝也に近寄ると


「今日もバイト?」

「そうだけど」


「じゃあいつもの曲がり角までなら一緒に歩いてもいい?」

「メンドくせぇからいちいち聞くなっつってんだろ」

「…あ、ごめんなさい…」


 今までからは想像できないほど純真で一途で、キツい言い方をされてもそれでも着いていく健気な優奈。傍から見てもそれは驚きの光景で、あの完璧な外見ながら一生懸命に尽くしている姿に男女問わず人気はうなぎのぼりだった。


「いーなー…あたしもあんな風に想える人欲しいなぁ」

「っていうか人って相手によってあんなに変わるもんなんだねぇ」


 初めて学校を一緒に出る2人。山ほどいる優奈のファンに恨めしそうな目で見られながら校門を出てしばらくすると


「あのね…これ」


 優奈が差し出したのは一枚の小さな紙。


「もし…もしだよ?なんか用事とかあったらいつでも電話して?」


 書かれていたのは優奈の携帯番号で


「いつか携帯持つ日が来たら、その時は番号教えてね」


 しばらくその紙切れを見つめると


「携帯出してみ」


「……え」

「一回しか言わねぇぞ。…〇〇の○○○○。一応家には電話引いてっから。いつも留守電にしてるけど」


「えっ?!あー!ちょっとぉ!早っ…ね、もう一回!」

「一回しか言わねえっつったろ」

「イジワルー!お願い、もう一回だけ!」


 昨日の帰りのようにまた笑いながら歩く二人。それは周りから見ている人さえも気持ちが温かくなるような微笑ましい光景だった。ようやく連絡先を交換した二人だったが、あっという間にまた分かれ道に来てしまう。


「じゃあな」


「うん、今日も島村さんのトコ?」

「いや、今日は居酒屋」


「え、居酒屋さんもやってんの?」

「言わなかったか?他にもショットバーもやってるし…全部で4つかな」


「そんなに働いてんだ…だからいつも学校で寝てんだね」

「ショットバーの時は朝になったりする事もあるからな」


「その居酒屋さんってドコにあるの?」

「来たって無駄だよ?俺、厨房だもん」


「えー…それでもいい!勝也が働いてるトコなら行ってみたい」

「変なヤツ。お前突然来そうだからまた今度教えてやる」

「ヒドーい!行くときはちゃんと言うから!」

「ま、そのうちな。んじゃな」


 以前と同じくバイトに向かうため曲がっていく勝也。そしてこれも以前と同じく姿が見えなくなるまで見送ろうと立ち止まっていた優奈。だが、ふと振り返った勝也が


「言うの忘れてた。来週の土曜日ライブあるけど…来る?」


「え!…うそぉ!行く!絶対行く!」


「一人で?」

「…え…誰か連れてっていいの?」

「どうせもうバレちゃったし、お前が連れてくるヤツならいいよ」


「じゃ…じゃあ4人!4人で行く!」

「わかった、明日チケット持ってくるわ」


 それだけ伝えると去っていった。ようやくブランカのライブに友達を連れていける。しかも自分で調べたのではなく勝也がライブの日を教えてくれて、チケットまで用意してくれるという。飛び上がるほど嬉しい気持ちをグッと抑え、猛ダッシュで学校へ向かって戻っていくと途中でみさ達に会った。


「あれ、勝也は?」

「バイト行った!それよりみんな来週の土曜の夜って空いてる?」

「今んとこ空いてるけど」


「あのね?ライブがあるんだけど、みんなを連れて来てもいいって!」

「うっそ!ブランカの?…マジで?」

「行ってもいいの?」


「しかもねぇ、明日チケット4枚持ってきてくれるって!」

「えっ……本人から直接?!ヤッバー!」

「絶対行く!」


 一気に盛り上がった4人。


「どんなカッコしたらいいの?場違いだったらイヤだし…」

「あたしが前に行った時はやっぱ黒系とか多かったと思うけど」

「どんなのでも大丈夫だよ(笑)」


「えー、なんかそれっぽい服買いに行きたーい!」

「今から行かない?駅の方」

「うん、行こ行こ!」


 久々に4人での寄り道が決まった。

優奈が勝也を追いかけ始めて以来初めてこの4人で出掛けるとあってみんなテンションは高かった。向かったのは昨日2人で来た楽器屋のある駅で、2人で入ったパスタ屋の前を通ってはニヤけ2人で歩いた道を通っては微笑む優奈に


「…気持ち悪っ!なにニヤニヤしてんの?」


「んー?なんでもなーい」

「ははぁん、昨日この辺にいたなぁ」

「わっかりやすー!」


 笑いながら歩いていると


「昨日の彼女じゃん!元気ー?」

「あー、昨日も会ったねぇ。今日は勝也いないの?」


 昨日通りすがりに出逢った勝也の知り合いが何人か声を掛けてきた。


「あ!こんにちはー」

「今日は友達とです」


 昨日愛想良く会釈をしていたおかげでみんな気さくに声を掛けてくれる。


「何あんた…そんなに顔広かったっけ」

「昨日ね、勝也と歩いてたらすっごい数の人に声かけられて、みんな覚えてくれてるみたい」


「一緒に歩いてただけで優奈まで有名人になっちゃったの?」

「ううん、それだけあの人が凄い人だって事だよ」

「…なんかライブ行くのちょっと怖くなってきた」


 それから4人で何軒も店を回り、思い思いにライブに合いそうな服を選んで買った。最後にみんなでカフェに入り、いつもの女子会のように楽しい時間を過ごし家に帰る。


 夜になり寝支度を済ませて布団に入りまたkillerの雑誌を読みふける。ちょうど日も変わった頃、そろそろ寝ようと携帯チェックをしていた時ふとアドレスを開くと、そこには今日教えてもらったばかりの勝也の家電の番号。またもやニヤニヤと笑顔になりながらそれを見つめていたが


「いきなりその日に電話とかしたら引くかな…でも留守電だって言ってたし」


 ブツブツ言いながら発信ボタンに指まで伸ばすも押すことが出来ないでいたが…勇気を振り絞り、目をつぶって「えいっ!」と発信を押す。呼び出し音は鳴るもののやはり出ない。そして留守電に切り替わるが応答メッセージは期待していた本人の声ではなく機械の音声だった。その音声を聞き終わると


「あ…優奈です。…教えてもらったその日にかけちゃってごめんね?なんか嬉しくてかけてみたくなっただけ。まだバイトなんだよね、お疲れさ…」


 ドキドキしながら留守電に入れていると途中でガチャッ!と音がして


「もしもし?おぅ、安東か。どした」


 なんと本人がでた。


「え!…あ!…い、いたの?」


「今帰ってきた。部屋入ったら電話からなんかブツブツ声が聞こえたから。まだ起きてんのかよ」

「あ、そうなんだ。お疲れ様~。うん、今から寝るとこ。バイト疲れたでしょ、ご飯食べた?」

「いつもはまかない作るんだけど、今日は忙しすぎて作ってる暇無かったから食ってない」


「えー、どうすんの?今から食べるの?」

「もうメンドくさいから今日はいいや」

「えー!ダメだよ!お昼も食べてないじゃん!せめて夜ぐらいなんか食べなきゃダメ!」


「だって何にもねぇもん」

「じゃああたしが今から何か持ってく!」

「バカかお前は、今何時だと思ってんだ」


「だってそのままだったらホントに何にも食べないじゃん」

「わーかったよ、うるせぇな。なんか食うよ!」

「…食べるモノ無いんでしょ?」

「コンビニ行ってくる」


「えー、あたしも行きたぁい」

「キレられてぇか?」

「…ごめんなさい」


 そこからは他愛もない話を少しして


「あ、そういえばライブ行ってもいいって言ったらみさ達がすっごい喜んでたよ。ありがとね」

「けど、あいつらハードロックなんて興味ないだろ?退屈かもな」

「そんな事ないよ。みさなんて前にブランカのライブ行ったことあるって言ってたし」


「そーなの?…そん時バレなくて良かったぁ」

「それは勝也が今まで学校で気配消してたからでしょ」

「お前には一発でバレたじゃん」


「だって…あたしはずっと前から勝也の事見てたもん」


「…え?」

「あ!…いや、何でもない!」


 しばらく気まずい沈黙が漂う。話の流れとは言えつい余計なことを口走ってしまった…。

 そしてしばらくして


「あ!勝也コンビニ行かなきゃ…ちゃんと食べなきゃダメだよ?」

「あぁ、わかった」

「約束だよ?」

「わーかったよ!」


「あー…でも切りたくない…」

「んじゃ行かなくてもいい?」

「ダメ!…って事は切らなきゃ…。ねぇ、明日もバイト?」

「うん」


「何時まで?…何時ごろ帰ってくるの?」

「明日も居酒屋だから今日と同じぐらいかな」


「…じゃ明日も電話していい?」

「別にいいけど」

「んじゃ今日は切る」


「相変わらず変なヤツ」

「いいの!じゃ、また明日ね?おやすみ…」


「あ、…安東?」


「ん?」


「さっきの話だけどさ、ライブ見て俺だって気づいたのがお前で良かったよ。じゃあな、おやすみ」


 一方的にそれだけ言い残してガチャッと電話を切った勝也。あまりの驚きの言葉に耳から受話器を離す事も忘れて呆然とする優奈。気づけば目には涙が溢れ、頬を伝っていた。


「ズルいよ…最後にそんな事…」


 泣き声を我慢するため枕に顔をうずめる。そしてそのままなかなか寝付くことは出来なかったが…気づけば朝になっていた。


長文読んでいただきありがとうございました。


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