39 レコーディング ①
平穏な日々が続いていたある日の夜。
久々にアパートで2人一緒に夕飯を食べている時
「そういえばレコーディングの日程が決まりそうだってよ」
「え…やっぱり始まっちゃうんだ…」
これが終わるとCDが完成する。
それはブランカのFINALライブへのカウントダウンが始まることを意味しているため、優奈にしてみれば始まってほしくないレコーディングだった。
少しションボリしていると
「そんでさ、今度の土曜日ミーティングがあんだけど」
「うん、わかった。また遅くなるんでしょ?あたしの事なら気にしなくていいよ」
「お前も行くの」
「…は?」
「涼ちゃんもみぃちゃんも、仙台から紗季ちゃんも帰って来る。まぁ紗季ちゃん呼ぶために土曜日になったみたいだけど。そんでお前も連れて来いって」
「…あたしなんかが行っていいの?」
「イヤならヤメとく?多分みんなにガチギレされると思うけど」
「行く!絶対行く!」
今まで遊びや飲み会、ライブ翌日のバーベキューなど数えきれないほどいろんな場に呼んでもらってはきたが、ブランカのミーティングに呼ばれたのは初めてだ。
涼子やみぃでさえミーティングにだけは行った事が無いと言っていた。
いつもとは違う緊張感に襲われながら週末を迎える。
金曜の夜から泊まっていた優奈は朝からソワソワしていた。
「なに着ていったらいーの?あんまハデじゃない方が…」
「ちょっと落ち着けって。初めて会う訳じゃないんだから」
「だってミーティングなんて行くの初めてだもん!涼ちゃん達もミーティングだけは行った事無いって…」
「いつもと変わらねぇよ。ただいつもはしないようなバンド内部の事を話すだけだってば」
「だからそれが緊張するんじゃんかっ!」
「なんで俺が怒られなきゃいけねぇんだよ…」
緊張からか昨日の夜もなかなか寝れなかった様子の優奈。
朝もかなり早くから起きており
「あのぉ…朝ごはんとかって」
「それどころじゃない!」
「…ですよね」
仕方なくパンを焼き、卵やベーコンを焼くとテーブルに並べる。
そして優奈に声を掛けると、落ち着こうとしているのかおとなしく食べ始めた。
「なんでウチらまでミーティングに呼ぶことになったの?」
「ん?まぁ行ってから聞きな」
結局それからも服選びで大騒ぎし、ようやくいつも通りの服装に落ち着いた。
夕方になり2人でアパートを出るといつもライブの打ち上げに使う居酒屋へ電車で向かう。口数の少なくなった優奈を見てクスッと笑いながらその店の前に着くと、ちょうど同じタイミングでSyouと涼子が来たところだった。
「おはよー、ちゃんと優奈も来たか」
「おはようございまーす」
「まぁうるせぇのなんのって…服選ぶのに一日かかってんだよ?コイツ」
「ちょっと!バラさないでよ!」
それを聞いて笑う涼子の元にスルスルと擦り寄る優奈。
ガシッと腕を組むとヒソヒソ声で
「ねぇねぇ涼ちゃん…なんであたしまで呼ばれたの?」
「知らないよ、あたしだって急に『お前も来い』って言われたんだもん」
「…なんかすっごい怖いんだけど」
「大丈夫、あたしもガチでビビってる」
店に入り階段を上がっていつもの座敷へ入るとJunとKou、そして平蔵とみぃも来ていた。
「あ~!優奈~」
「…あんたホントに優奈好きだよね」
みんなに挨拶すると涼子に手を引かれて、勝也の横ではなく女子だけ端っこに集まるように座った。
ほどなくしてBanと紗季も到着する。
再会を喜んだ後いつものように女子軍団が適当に注文する間に男連中はすでに全く関係ない話で大笑いしている。
飲み物が届きみんなで乾杯をして続々と食べるものも揃った頃…
ついにレコーディングに関しての打ち合わせが始まった。途端に女子達は黙ってしまう。
「とりあえずスタジオの期間は抑えた。一応再来週からだ。それと…クリックでいく?それとも一発録ってからカブせる?」
「俺はクリックはヤダな」
「俺もBanクンのドラムで弾きたい」
「まぁリズムはBanと勝也の音じゃないと俺もムリだ」
大体Syouが大まかな流れを提案して最終的にはメンバー全員の意見を聞いて決めるのがブランカのやり方である。
今この状況の中で口を開く女子は一人もいない。
「けどホントに全部入れんの?何曲になるんだ」
「だってよぉ、どれ削っていいのか決めらんねぇじゃん」
「あ!じゃあ2枚組にすれば?やっぱ全部思い入れはあるし」
「ふむ…それだと選択肢は増えるもんな」
「勝也が入ってからの曲だけにしても2枚にはなるだろ?」
「じゃあ平蔵の2枚組案でいいじゃん」
「あとは曲順だよね。2枚にするならどっちにもメイン置かないと…」
さすがにバンドの事になると誰もふざける者はおらずどんどん話は進んでいく。
(いつもとは違う人たちだ。やっぱいざとなると凄いなぁ…)
大体のレコーディングについての決め事は決まってきた。
しかし誰もFINALライブの事には触れなかった。
「と、まぁ大体決まったトコで…」
Syouの視線が女性たちの方に向く。
「みんなそれぞれ聞いたと思うけど…ブランカは解散する。理由は聞いた通り、最初の約束だったからだ。お前らには散々迷惑かけて来たけどもうちょっとの辛抱だからな」
明るく話すSyouだがそれを聞いて笑顔を見せる女子はいない。
「今日来てもらったのは、レコーディング始まったらもっとバタバタするから今のうちにと思ってさ。コレ俺達から」
紙袋から小さな箱を4つ取り出すと、一人ずつ彼女たちの名前が手書きで書いてある。
それをそれぞれに渡すと「開けろ」と言った。
みんなが不思議そうな顔でその箱を開けると
「え…これ…」
箱に入っていたのはブランカのメンバー達が全員身に着けているお揃いのブレスレットと同じ物。
間にプレートがついており、そこには「BLANCA」の文字が彫られている。
そしてその裏にはそれぞれの名前が入っていた。
サポートであるKouも含めたメンバー6人しか持っていなかった特注品だが
「今日から解散までみんな一緒に行こうな」
その言葉で彼女たちは号泣した。
彼氏達だけの世界だと思っていたブランカの肩書を最後の最後に貰えたのだ。
今までずっと支えてきた想いが報われた瞬間だった。
「よし!ミーティングはここまで。今日は思いっきり飲むぞー!」
涙でボロボロになった彼女達も大いに盛り上がり、結局はいつものような宴会になった。




