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38 経験

 ある日の放課後、帰り道で


「ねぇ、最近あの2人よく一緒にいるね」

「あの2人って?」


前を見ると康太とありさが一緒に歩いている。


「ひょっとしたら…ひょっとしてんのかなぁ」


「さぁな、もしそうだとしたら今はそっとしといてやる方がいいんじゃねぇの?」

「そぉなんだけど…」


自分たちの事でありさには随分と世話になってきた。

康太にしてもあの一件以降は本当に応援してくれているのが伝わる。その2人がもし接近しているのであれば自分に何かしてあげられる事は無いかと気になっている優奈。


 翌日、トイレでたまたまありさと2人になった時


「なんか最近よく康太と一緒だね」


「えっ?…あ、あぁ…そうかなぁ、今までと一緒だけど…」

「そぉ?それならあたしの勘違いかも」


それ以上は掘り下げずに会話を終わらせてトイレを出ようとすると


「あ、優奈…あの…ちょっと相談したい事あるんだけど…」


「いいよ。なぁに?」

「出来たらちょっと時間取ってくれない?」

「わかった。今日ならバイト無いから」


今日は勝也はバイトでいつもの曲がり角までしか一緒に帰れない。

そこで勝也に事情を説明し放課後は別行動にしてありさと落ち合う。


「ごめんね、勝也大丈夫だった?」

「ちゃんと話しといたから。どっか行く?」


「…そこの公園でいい」


2人で公園まで歩くとあまり人目につかないベンチに座る。


「どうしたの…なんかあった?」

「ん~、なんかっていうか…えっと…」


「そんな深刻な感じ?」


「…あのね、今日優奈が言ってたの正解なんだ」

「今日?あたしがって…康太の事?」


「うん…」


「えー?!付き合ってるの?」

「まだちゃんとは…そういう告ったりとかはないけど」

「へー♪でもお互いそういう感じなんだ」

「お互い…だと思うんだけど」


「え…向こうは?」

「…好きとか言ってくれたりはするんだけどさ」


「だったらそうなんじゃん。なんで心配してんの?」


するとしばらく沈黙の後


「…変な事聞いていい?」

「なんか怖いけど…なぁに?」


「優奈ってさぁ、勝也とその…エッチとかしてる?」


「は?!…ちょ……え?」

「まだ?」


「え~…そりゃまぁ一応…それなりには…ねぇ」


「それって付き合う前から?それとも付き合ってから?」

「…付き合ってからだよ」


「それまでは何にもしてこなかった?」

「うん」


「やっぱそうだよねぇ…」

「なんで?…え?まさか康太と」


「…うん…」


「ひゃあぁぁ…なんかすごい事に…」

「でもなんか…それ以来しょっちゅう言ってくるの」


「え…その…したいって?」

「うん」


「それはちゃんと話し合った方がいいんじゃないかな」

「そうなんだけどなんか怖いっていうか…」

「でも聞かないでこのままズルズルの方が怖いじゃん」

「そうだよね…」


あまりの衝撃にしばらく沈黙が続く。すると


「勝也ってさぁ…その…普通?」


「普通って何が」

「その…する事っていうかやり方っていうか…」


「そんなこと言われても…あたし勝也しか知らないからわかんない」


「え…あんた初めてだったの?」

「そうだよ」


「優奈ってそんな顔してるから知ってるんだと思ってた」

「ちょっとどういう意味よ」


「だって可愛いしすっごいモテるし…いつでも出来たでしょ」

「ヒドー!そんな軽い女じゃありませんけど!」

「ごめんごめん」


「で、康太が普通じゃないの?」

「なんかさぁ、終わったらさっさと…みたいな感じ」

「えー、それはちょっとツラいなぁ」


「勝也はそんな事ない?」

「うん、それは無い」


実際のところ終わった後も優奈が抱きついて離れないというのも理由だったが、それでも勝也もさっさと離れるようなことはしなかった。

いつも腕枕をして色々話したりふざけたりしてくれる。そして最終的にギブアップした後は気を失うように寝てしまうが…


「勝也は初めて…ではないか、さすがに」


「…え?」

「あれだけカッコ良くてあんなにファンもいっぱいいてそれはないよね」


あらためて聞いた事は無かった。

樹とはもちろん無かっただろう。そしてその後は女性不信のようになっていた勝也だけに、自分が初めてだと信じて疑わなかっただけ。

ありさが言うようにあれだけ人気がある男だけにひょっとしたら…。

急に不安が押し寄せてくる。


「あのさ、まだみんなには言わないでね」

「大丈夫。でもちゃんと話した方がいいと思うよ」

「わかった、ありがと」


ありさと別れて一人でアパートに向かう。だが頭の中はその事でいっぱいだった。


ひょっとしたら自分より前に勝也に抱かれたことのある女性がいたかも…そしてそればかり考えていると、徐々にそれが事実だと勝手に思い込み始めている自分がいた。


アパートに着くといつものように夕飯の準備…もする気になれず、リビングではなく寝室のベッドの上にチョコンと座る。

いつも自分はここで勝也と…だがそれより前にここに横たわっていた女性は誰なのだろう、どんな人なんだろう。

勝手な思い込みはどんどん膨らみ気づけば外が真っ暗になる時間までそこに座っていた。


家に帰る気にもなれずにそのまま待っていると玄関の鍵が開き


「ただいま~。…ってお前なんでいるの?」


「おかえり。いたらダメだった?」

「ダメじゃねぇけど…今日は来てもいいって?」

「聞いてない」


「は?んじゃ送ってくから帰りな」

「ヤだ」


「はい?」

「帰らないって言ってんの」


「ったく…今度は何があったんですか」

「…したい」


「てめぇ…俺は今帰ってきたトコなんだぞ」

「お願い…」


どうやらいつもとは様子が違うようだ。

だがさすがに帰ってきてまだ座りもしていない状況でなかなかそうもいかず


「メシは?」


「あ…ごめん」

「はぁ…とりあえずなんか食うわ。話はそれからな」


部屋を出て冷蔵庫を開けなにやら探し始めるとようやく優奈も出てきた。


「あたしが作る…」

「座ってろ。とんでもねぇモン出てきてもヤだからとりあえず今日は俺が作る」


冷蔵庫にある物で適当にいくつか作りテーブルに並べた。

だがやはり箸を伸ばそうとしない優奈。


「なんなんだ、勝手に不機嫌そうなツラされたってこっちは何にもわかんねぇぞ」

「…うん」


「俺に怒ってんのか?ちゃんと話せよ」


「勝也の…初めての人ってどんな人だったの?」

「あ?初めてって何の」


「…初めて…した人」

「は?お前じゃんか」


「ウソだ…あんなに人気あってファンもいてそんなはずないじゃん!」


するとテーブルをバァン!と大きく叩き


「いいかげんにしろよお前。俺がウソついてるとでも言いたいのか」


「だって…だって女は初めてだってわかるけど男の人はわからないもん!」


「だから信用できないって事か。だったら勝手にそう思えよ。…樹に振り回されてその後ずっと女を寄せ付けるのが怖くて、それでようやくそれを打ち壊してくれたのがお前だったよな?だからお前とならって思ったのに。俺がファンに手ぇ出して内緒でコソコソそんな事してお前にはウソついて…そんな男に見られてるとは思わなかったよ」


「そうじゃない!…そうじゃないけど急に不安になったんだもん…」

「不安になるってことは信用してないってことだろ」


「違う!信用はしてる。でも今日ね…」


それから今日あった事を話した。

さすがに勝也も驚いてはいたが


「それでなんでそのとばっちりが俺んトコに来んだよ」

「だってぇ…ありさにそんな事言われたんだもん」


「あんのバカ…っていうかさ、お前もありさに『初めてじゃないと思ってた』って言われたんだろ?」

「うん、ヒドいと思わない?」


「お前それそっくりそのまま俺に言ったんだぞ」


「あ…」


「あ!じゃねぇよこのヤロー」

「そっか…ごめんなさい…」


「もういい、お前がそんな風に思ってたってのがよーくわかった」


一人で食べ始める。

下を向いたままの優奈が


「…ごめん…ホントにごめんなさい」


「いいから早く食えよ」

「だって怒ってるモン」


「当たり前だろうが。そう簡単に許せる話じゃねぇからな」


「…どうしたらいい?」


「当分ナシ」

「えーーっっ?!それは…だってそれでなくても最近全然してくれてないのにぃ!」


「文句言える立場かよ」

「…でもそれはちょっとヒド過ぎない?あたしはどうしたらいいの?」

「ガマンしろよ」


「出来る事と出来ない事ってあるでしょぉ?!」


するとパタッと箸を置いて


「お前さぁ、もし俺がお前に『他の男とヤッたりしてるだろ!』とかありもしない疑いかけて理不尽に怒り出したらどうする?」


「そんな事ありえないもん」

「そのあり得ない事を疑われたら悲しくない?」


「…この世の終わりほどに…」


「俺は何でも一つの事しか出来ねぇんだよ。ベースやるならベース、他の楽器に興味はない。女だって優奈と決めたら優奈しか見てねぇの!大体こんなメンドくせぇヤツ2人も3人も相手なんかしてられるかバカ」


「…ごめんなさい」


「わかったら早く食え。…する時間無くなっちまうぞ」


パッと驚いた表情で顔を上げると


「…え…ホント?」


「1回だけならな」

「いっただっきまーす!」


普段見た事のない早さで食べきってしまう優奈だった。


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