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33 樹(いつき) ②

 勝也にバレないように涼子のガードが始まった。


朝の登校と帰り道のいつもの曲がり角までは勝也と2人で歩いているため襲われる心配はないだろう。

いつもの角で別れる時はその周辺に涼子が車で待機し、アパートまで送る。

2~3日そんな生活が続いたころ…


優奈がAlesisでバイト中にふと外を見ると、何人かの男達が遠巻きに店の中を覗いている。そして優奈が気づくと目を反らすといった事が何回かあった。

背筋に寒いものが走るのを覚えつつバイトを続けるが、店内ですれ違いざまに涼子が


「外あんまり見ちゃダメだよ」

「え?」


「あの女ホントに動きやがった」


不安は的中したのか。

どうやらあの男たちは優奈を狙っているのかもしれない。


「優奈、アンタしばらくバイト休みな」


「…え…でも…」

「ここはバレてるからとりあえず身を隠した方がいい」

「でもそんな事したら余計に…」


「勝也にバレるのとどっちがいい?」

「それは…」


「とにかく今日はもう着替えて。送ってくから」


仕方なく着替えると涼子に付き添われて車で送ってもらう。


どうしても勝也の耳には入れたくない。また樹の事を思い出させたくない。

その一心でいつも通りに振る舞う優奈。


そして翌日、バイトのシフトを入れ替えるのと仕事着のエプロンを一旦返すためにAlesisに行く。

もう辺りも暗くなり始めた頃、それらの用事を済ませて帰ろうとすると


「ちょっとだけ待ってて?一件だけメール返さないといけないんだけどまだ来てないの。もうすぐだと思うから」


「あ、じゃああたし電車で帰りますよ。今日は外にも変な人いないみたいだし」

「ダメ!待ってなさい!」


「…はい…」


仕方なく店内をブラブラしていると女性の客が入ってきた。

いつものクセで


「いらっしゃいませー」


「あ、店員さんですか。あの…外に出てるカバンって色違いとか無いですか?」

「えっと…どれですか?」


そういうとその客に連れられて外に出てしまった。


店内からは見えない入り口脇のワゴンの方へ行くと…3人の男に囲まれ、ガシッ!と腕をつかまれる。


「やーっと出てきたじゃん」


「…えっ?!」

「おう、そこのねぇちゃん。もう行っていいぞ」


客の女性はこの男たちに脅されていたらしく走って逃げていった。


「ったくよぉ、なかなか一人になってくれねぇから大変だったんだぞ?」

「こんな可愛いのマワしていいってんだからガマンした甲斐あるけどな」


両手と口を押えられて声も出せずに抵抗もできない優奈。


するといきなりその中の一人の体が吹っ飛ぶ。


 バキイイィィィッ!!


驚いた優奈がそっちを見ると…


「ヒャッホーイ♪正義のお兄さん登場!」


平蔵だ。後ろにはみぃとSyou、BanにJunもいる。


恐怖のあまり涙を浮かべていた優奈が一瞬の隙をつき押さえられていた腕を振り払ってみぃの胸に飛び込むと


「大丈夫?優奈」


と、抱きしめてくれた。


「みぃ~、やっちゃっていいの?」

「今日は許す!」


それを聞いた途端に平蔵が3人相手に暴れ始める。


笑顔でケンカする平蔵の異常なまでの強さに、3人が逃げ出すまで一瞬の出来事だった。


「こ、こいつ…強えぇ!」

「こんなの出てくるなんて聞いてねぇよ!」


男たちが逃げ出したと同時に涼子が店から飛び出してくる。


「優奈ぁっ!…優奈どこっ?!」


みぃに抱きしめられて泣いている優奈を見つけると


「あれ…みんな…」


「ギリギリだったよ。昨日アンタに話聞いたもんだからみんなでちょっと見にきてみたら」

「…よ…良かったぁ…」


ホッとしているのもつかの間、Junがある気配に気づく。


「おう、久しぶりじゃん」


その声で視線を向けると、そこに樹がいた。


「えー!ブランカがみんないるぅ!久しぶりぃ!」


何も知らないような顔をして愛想を振りまく樹を見るや逆上するみぃ。


「こんのアマぁぁぁぁ!!!!」


優奈を突き飛ばすように涼子に預け樹に殴りかかろうとするもBanに止められ


「離してよ!こいつだけは絶対に…」


「え…みぃちゃん、なぁに怒ってんのぉ?何のことかわかんないんだけど」

「このヤロォ…」


涼子に抱きしめられた優奈の頭をポンポンと軽く撫でながらSyouが前に出て


「…樹ぃ、お前また勝也にちょっかい出そうとしてんだって?」

「ちょっかいとかじゃなくてまたやり直そうと思ってるだけだよ」


メンバー全員が優奈を守るように立ちはだかり


「もう勝也にはちゃんと彼女がいんだけど」

「違うよ、勝也はその子に騙されてるだけ。一番アイツの事わかってんのはあたしだもん」


「見つけたのが勝也だったらアイツら殺されてるぞ?」

「なんでみんなそんなにその子の味方するの?あたしが悪者みたいじゃん」


「…みたいって(笑)」


「もし優奈になんかしたら今度こそアンタ殺すよ」


「だったら勝也に聞いてみればいいじゃん!今すぐ呼んでよ!」


「お前がいるって分かっててアイツを呼べるわけねぇだろ」

「あぁ、樹の顔見せる訳にはいかねぇな」


「なんでよ!ちゃんと顔見て話したら絶対勝也だって…」


その時平蔵が驚いた顔で


「……あ!!」


みんながそっちを向くと勝也が立っていた。


「お…お前…なんで…」


「今日急に欠員出たからバイト入ってくれって言われて急いで来たんだけど…みんなこそ何やってんの?」


「きゃぁ~っ!勝也じゃーん!やっと会えたぁ!」


その声に驚き


「……樹?」


「そぉ!ひっさしぶり~元気だったぁ?」


全員が驚き、そして後悔した。


勝也と樹を会わせてしまった。しかも優奈の目の前で…。


突然現れた勝也に驚き固まっている優奈をギュッと強く抱きしめるしかできない涼子。


テンションの上がっている樹の横を黙って通り過ぎて優奈の所まで来ると


「どうした優奈…なにがあった?」


声を出せずにブンブンと顔を横に振るだけの優奈。その顔は恐怖に怯えている。

優奈に視線を向けたまま


「樹ぃ…お前こいつになんかしたのか」


「何が?『あたしは』なんにもしてないよぉ」

「…こんの女…」


クルッと体ごと振り返り、優奈を背中で隠すように立つと


「俺になんか用か」

「モチロンじゃん、また勝也と前みたいに戻りたいなと思って」


「俺にはもうこいつがいんだよ」

「だから…騙されてんだってば、あたしの方が絶対勝也の事理解してるし絶対楽しいってわかるでしょ?」


「何言ってんのかもわかんねぇ」


「えー忘れちゃったのぉ?だったら思い出させてあげる。ね?一回付き合ってくれれば間違いなくまた元に戻りたくなるって」


「そんな時間はねぇな」

「いつでもいいよ、あたし勝也が時間出来るまで待ってるから。確かに前の時は待つって事が出来なかったけどあたしもちょっとは成長したんだぁ」


「時間があるとしたら、俺はそれを優奈の為に使うっつってんだよ」


「…え?」


みんな黙って勝也の言葉を聞いていた。


「たった1分でもお前の為に使う時間は無い。たとえ一人で部屋にいたって『どんな顔して帰ってくんのかな』『もうそろそろでっけぇ音たてて階段上がってくんだろうな』って…そんな事考えて優奈を待ってる時間の方が俺には大事だ」


「…ちょっと待ってよ…何言って…」


「どれだけほったらかしにしたっていつも待っててくれて、俺の前ではいつも笑顔でいてくれて、俺の事ばっかり心配して自分のことは二の次で…なのに少しでも俺が何かしてやるとすっげぇ喜んでくれる。俺の頭ン中にはこいつしかいねぇんだよ」


「そんなぁ…また一緒にご飯食べに行こうよ…」

「………………」


「…またみんなで遊ぼうよ…」

「……………………」


「なんで?…そんな子よりあたしの方が絶対勝也の事幸せにできるもん!」


すると少し時間をおいて


「俺がいくら『好き』って気持ちをぶつけたつもりでも…コイツはいつもそれよりもっと大きな気持ちを返してくれる。毎日毎日これでもかっていうぐらい俺の事想ってくれるんだ。幸せってのはそういう事だ」


「…なんであたしじゃダメなの?」


「俺が…優奈じゃなきゃダメだからだよ」


優奈の泣き声はどんどん大きくなってくる。

そして勝也の想いを聞いた涼子とみぃもまた涙をこぼしていた。


「あたしあきらめない。またブランカのライブ通って勝也の事振り向かせてみせるもん!」


その言葉を聞くなりメンバーが口を挟む。


「あーそりゃ無理だ。悪いけどブランカは解散すんだよ」


「…え?…えぇっ?!…ウソでしょぉ?!」

「ホントだよ」


「…そんなの聞いてないっ!」

「そりゃまだ公表してねぇもん」


「だったらあたし何の為に…友達にブランカに会わせてあげるって言っちゃったじゃん!」

「やっぱりな、どうせお前のことだからそんな理由だと思った」


「なによ!それだったらもういい!」


あっさりと態度を変えた樹。やはり中身は全然変わっていなかった。

そして怒った表情で去っていく。


ようやく騒動が収まると、またクルッと振り返って優奈のもとにやってきて


「大丈夫か、優奈」


言葉を発することも出来ず泣きじゃくる優奈。


「涼ちゃん…いつから?」


「ちょっと前…いきなり店に来て勝也の連絡先教えろって」


「なんでそういう事俺に言わないの?」

「だって樹と勝也を会わせる訳には…」


「コイツに何かあってからじゃ遅ぇんだよっっ!!!」


勝也が涼子に向かって大声で怒鳴るなど初めての事だ。


「…ごめんなさい…」


「…違う…の…涼ちゃんは…あたしの事…守って…」


途切れ途切れに泣きながら説明する。

優奈が泣き止むまでの間誰も言葉を発する事なく待った。


辺りも真っ暗になり、ようやく落ち着いてきた頃


「みんな…ごめんなさい。あたしいつも迷惑ばっかりかけて…」


「バァカ。身内守んののどこが迷惑なんだ」

「…身内……あたしも?」


「かー!やだやだ…こういう自覚のないトコ完全にブランカに汚染されてるね」

「どういう意味だそりゃ」


「まぁまぁとにかく収まったんだからいいじゃん。今日はもう帰ろ?」


みんなで駅に向かう…が、Banがふと思い出したように


「あれ…そういえばお前、急にバイト入ってくれって言われたんじゃ…」


「…………え?」


勝也は固まり、みんなの視線はその顔に集中する。

そして次の瞬間


「ヤッベエエエエエエエ!!!!!」


猛ダッシュで居酒屋に向かう。

だがいきなり立ち止まると優奈の方を向いて


「優奈!お前、店ン中で待ってろ!一緒に帰るぞ!」


「…え?」


初めて優奈が勝也のバイト先に入ることを許された。一気に場が和み


「しょうがねぇな、ったく…。勝也がバイト終わるまで飲むか!」


急に宴会が決まったのだった。


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