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31 限界

 思いがけず始まった本当の同棲生活。

『つもり』ではなく本当に一緒に暮らすことになった。


持ってきたカバンの中身をタンスに入れ終わったのはもう日付が変わる寸前で


「風呂は?」

「まだ入ってない…」


「メシは?」

「食べてない…」


「はぁ……とりあえず風呂入ってこい、なんか作っといてやる」

「今日はシャワーでいいや」


優奈が着替えを持ってシャワーを浴びに行った間に冷蔵庫にあるもので簡単に夕飯を作る。


Tシャツにハーパンというラフな部屋着で出てきた優奈が先に髪を乾かそうとすると


「冷めるから先に食え。髪乾かしてやるから」


そういうとテーブル前に座らせ、食べ始めた優奈の髪をドライヤーで乾かし始める。


「なんか逆だねぇ」


「何が?」

「色々勝也の介護してあげようと思ってたのに」


「介護ってなんだよ…」


今まで何度もここには泊まっているがそれはいつも休みの前の日で平日に泊まったことは無い。

これからは一緒に起きて一緒に家を出て一緒に学校へ行く。そんな日が来るとは夢にも思わなかった2人。

いつもより優しい勝也といつもより楽しそうな優奈。


髪を乾かし終わるとソファに移動する。

まだ食べている優奈の顔を見て、自分の為に父親に土下座までしてここに来てくれた事に感動しながらも


「俺のベースはいつ帰ってくんの?」


「まだ今朝の話だよ?早く弾きたかったら早く治さないとね」

「でも治ったらお前は実家に帰るんだぞ」


「……このまま治らなくてもいいよ」

「んじゃ俺ずっとベース弾けないじゃん」


「もぉ!今から帰るときの話しないでよ!」


父の優しさは嬉しかったが、優奈がここにいられるのはこの指が治るまで。それだけは裏切るわけにはいかない。

食べ終わると自分で片づけて洗い物をする優奈。

まるで新婚のような生活に少し照れもありながら


「寝るか」

「うん♪」


寝室には勝也と優奈の制服が並んでハンガーにかけてあった。それを見て一緒に暮らし始めたことを実感しながら布団に入る。

いつものように勝也が腕枕しようとすると


「あたしが腕枕する」

「ん?…うん」


優奈が伸ばした腕に頭を乗せるとそのままギュッと腕を首に巻き付けるようにして抱きしめてくれた。胸元に顔をうずめ、優奈の甘い匂いに包まれて目を閉じる。


すると、眠れなかったはずの男がそのまま一瞬で寝息を立て始めた。


「え…あれ…寝ちゃったの?」


解散騒動の少し前にして以来一度も無かったため少しは期待していたのだが…


「やっと眠れたんだもんね、今日は我慢したげる」


ようやく眠れた勝也の髪をなでながらそのまま優奈も眠りについた。


 翌朝目が覚めるともう隣に優奈はいなかった。

久々の熟睡は頭をスッキリさせてくれて、あくびをしながらリビングへ行く。

化粧中の優奈がそこにいて


「…おはよぉ…」

「おはよー♪すぐ寝たねぇ、一瞬だったよ」


「やっぱお前の匂いがあるだけで落ち着くわ」


トイレに向かいながらのこんな一言が優奈を喜ばせる。


「パン焼いといたから食べて」


このトースターもいつの間にか優奈が買ってきたものだ。

こうして見ると一人で住んでいた頃に比べてかなり物が増えている。

パンを食べながら


「お前さぁ、バイト代ほとんどこの部屋と俺のために使ってない?」


「それがどうかした?」

「せっかく働いてんのに少しは自分の…」


「自分のためだよ」


食い気味に答える。

化粧の手を止めてこっちを見ると


「あたしがこの部屋で使いたいモノを買ってるの。そのためにバイトしてるの。貢いでるつもりもない。あたしは昨日からじゃなくてもっと前から『ここに住んでる』んだよ?」


「…ごめんなさい」

「余計な事考えてないで早く食べなさい」


「はい…」


食べ終わると皿を片付ける。

ちょうど化粧の終わった優奈と2人寝室に移動して制服に着替え、指に包帯を巻かれてからゴミを持って一緒にアパートを出た。


「今日は居酒屋さん休みだよね」

「うん。だから島村さんトコの予定だったけどこの指じゃ弾けないしな」


「じゃあ今日はそのまま帰れるの?」

「一応顔だけは出しとくよ。事情説明して…ま、音聞くぐらいなら出来るし」


「一緒にご飯食べれる?」

「うん、それまでには帰る」


放課後、いつもの曲がり角で別れると優奈はスーパーで買い物をしてアパートに帰り夕飯の支度をしていた。

そこへ母から、おかずを多く作ったから取りに来いとの電話。

優奈が実家に戻ってみると…何人家族だ?というぐらいの量を持たせてくれた。


帰ってきた勝也が驚くぐらいの豪華な夕食になり、テレビを見ながらそれを食べ終える。


片づけて洗い物をしていた優奈が


「お風呂沸いたよー」

「あぁ…うん」


手の包帯を自分で外すと浴室へ向かう。

もう傷口はかさぶたになっていて血はにじんでいないが、逆に今濡らすとそれが取れてまた出血するかもしれない。

風呂に入り、頭は何とか右手だけで洗えたものの背中はどうしても半分洗えない状態で


「優奈ー!ちょっと背中だけ洗ってくれー」

「あ、はーい!」


パタパタと足音がして浴室のドアが開く。

泡のついたスポンジを優奈に渡すと


「…やっぱ一緒に入っていい?」


「いいけど狭いだろ」

「大丈夫♪」


一旦ドアを閉め、パパッと服を脱いで入ってきた。

鏡に映った優奈の裸は相変わらずとんでもなく綺麗で、久しぶりに見たこともあって少し緊張しながら背中を洗ってもらう。

すると


「今日はすぐに寝ちゃったりしないよね」


「なんで?」

「あたしがどんだけガマンしてると思ってます?」


「ん~…でもなぁ…」

「えー!なに?今日もしないつもりなの?」


すると少し真面目な声で


「2日もベース弾いてないんだ。モヤモヤしてっからどんな事するかわかんねぇぞ?」


「え~…楽しみぃ♪」



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