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27 彼女達

 勝也を取り戻すことは出来た。


だがそれがこれから待ち受ける激動の半年間の始まりでもあった事に優奈はまだ気づいていない。


あれから数日後、勝也がバイトで遅くなる日の夜に電話が鳴った。


「ちょっと出て来ない?」


「あ、涼ちゃん。うん…いいよ」


涼子の声は今まで聞いたことが無いほど暗く静かだった。


言われた店に優奈が到着し店内に入ると3人の女性が座っている。


「え…紗季ちゃん?」


仙台にいるはずの紗季がそこにいた。黙って席に座ると


「久しぶりだね」


紗季の声もまた暗く静かだった。

そして涼子が話を切り出す。


「聞いた?」

「…うん」


「勝也はどうしてる?」

「あたしを捨てて居なくなりかけたけど…なんとか止められた」

「え…捨て………はぁ…優奈がいて良かった…」


「勝也が一番ショックなのかもね。『あの約束』って勝也が入った時にはもう決まってた事だし」


「みんなは大丈夫なの?」


「自分達で決めた事だからね。でも今は逢ってもくれないけど」


「平蔵は電話にも出ない」

「Banクンも逢ってはくれたけど全くしゃべらなかった」


顔を見ると3人とも目を腫らしている。

彼女たちにとってもまだ受け入れられていない現実なのだろう。


「なんでなのかな…なんであんなに仲良くて凄い人達が、いくら最初の約束だからって…」

「バカなんだよ」


「え?」


「あいつらバカだから周りの事なんかお構いなしで自分たちの決めた事だけ信じて生きてるの。ブランカが無くなったら一番寂しいのは自分達のクセに…」


みぃのこぼした涙がそのやるせない悔しさを物語っていた。

どれだけ近くにいてもどれだけ言葉を向けても、あの男たちは何よりもブランカが大事だったのだ。


「もうどうしようもないのかな」


「あたしらの言う事聞いてくれるぐらいならとっくに言ってるよ」

「ホンットにバカだよね、ウチの男共って」


「仕方ないよ…そんなヤツらを選んだんだもん、ウチら4人は」


優奈だけではなかった。

ここにいる3人もずっと同じ思いをしてきているのだ。

特定の彼女を作らないJun以外の4人を選んでしまった自分達にとって、それは宿命ともいえる想いだった。


「涼子は一番最初からだもんね。ずっとブランカ見てきたし」


「そうなんだ?」


「結成したときにはもう付き合ってたんだよね」

「中学の時からだしね」


「すごーい…じゃあもう何年になるの?」

「7年?…8年かなぁ、もうわかんないや」


「みぃちゃんと平蔵さんは?」

「ウチはまだ4年とかじゃない」

「それでも4年…」


「紗季とBanも一緒ぐらいでしょ」

「ウチの方がちょっと後だよ」


「みんな長いんだぁ…それだけいっぱい色んなこと見て来たんだよね」


「最初なんてさぁ、よくこんなヒドいの集めたなぁってビックリしたよ」


「今とは違ったの?」

「ぜーんぜん。平蔵なんていっつもギラギラした目して誰とでもすぐケンカしてた」


「うっそぉ、あの平蔵さんが」

「Banだって全然しゃべらないし、口癖が『俺はなんでもいいよ』だったもん」


「信じらんない…」

「みぃと紗季と出会ってからだよ、今みたいになったの」


いつも冗談や下ネタばかりでみんなのムードメーカーである平蔵に、Syouと一番仲がいいものの互いに出し合う意見の衝突も一番多いBan。

今の彼らしか知らない優奈にとってそれは想像もつかない言葉だった。


「みぃと平蔵って最初はケンカ友達みたいだったんでしょ?」

「今でもそんなに変わらないけどね」


「紗季だってBanと初対面の時、挨拶より先にビンタだったじゃん!」

「あれはただの勘違いだったんだってば。あとでちゃんと謝ったもん」


「あとでって…ついこないだでしょ、謝ったの」


昔話が始まると暗かった雰囲気が少しだけ明るくなってきた。


「いいなぁ…あたしもそんな頃に会ってみたかった」


「そんな大したモンじゃないよ、あいつらって」

「だってみぃちゃんと紗季ちゃんがいたから変わったんでしょ?平蔵さんもBanさんも」


「あんたがそれ言う?」

「ホント、優奈だけは言っちゃダメなヤツだ」


「なんで?」


「一番変わったのは勝也だよ。優奈のおかげでね」


「そんな…あたしは何もしてないもん」


「勝也ってさ、優奈と付き合う前はもっとなんか生意気っていうか怖いっていうか、影あったじゃん」

「そうそう。みんなの弟分みたいな存在ではあったけどもっと目つき悪かったしあんな優しい顔じゃなかったね」


「まったく、お姉さんは何度手を上げた事か」


「ホンットによく涼子に怒られてたよねぇ(笑)またそれで口答えするモンだから余計張り倒されて」


「そ…そうなの?」


「そのクセ終電無くなって涼子の部屋に泊めてもらったりとか」

「まぁ~ホントに涼子にとっては『手のかかる弟』だったもんね」


「ちょっとあたしばっかり?あたしはビンタだけどみぃはグーだったじゃん!」


「あ、そういう事言う?それなら紗季は思いっきりお尻蹴ってたよね」

「あれは勝也が口答えするから…」


「おんなじじゃんっ!」


突然ポロポロと涙をこぼし始めた優奈。突然の涙にみんなは驚き


「ちょっと…どうした?!」

「そ、そんな…ちょっとだけだよ、蹴ったのって…」

「今はウチに泊めたりとかしてないから!」


すると涙を拭きながら笑顔を見せ


「…ううん…違うの、なんか嬉しくて。…みんなに可愛がられてたんだなぁって…。あたしが知ってた勝也はいつも一人ぼっちだったから」


それを聞いて安心した3人。

同時に優奈がどれほど勝也の事を想っているかも伝わってくる。


「優奈…これからもずっと勝也のそばにいてあげてね」


「え?」

「あんたなら勝也の事任せられるよ」


「なんでそんな事言うの?もう終わりみたいに…」

「ブランカが解散したらもうアイツらが会う機会も減っていくだろうしね」


「そんなことないっ!!」


突然大きな声を出す優奈。周りの客も驚いてこちらを見ている。


「…コラ」


「ごっ…ごめんなさい…でも機会なんて減らない…だってあんなに仲いいじゃん!きっと『バンドはこれで終わるけど次は何する?』って6人で絶対なんか企んでるよ!ブランカが終わったって…あの人達が離れ離れになんて絶対に…」


途切れ途切れになりながらも必死に訴え、泣き崩れる。

それを聞いてまた涼子たちも涙を溜め


「うん…そうだね」


「きっとそうだよ、あいつら気持ち悪いぐらい仲いいもん」

「今の優奈見たら焦るんだろうね…『バレてたか』って」


優奈を慰める言葉だとはわかっている。

優奈もまたあの男たちから音楽を奪ったら他には何も残らないことも分かっていた。

ただ認めたくなかっただけだった。


しばらくして涼子が口を開く。


「いつだったかなぁ…みぃと二人で飲んでたらSyouから電話来てさ。勝也が手ェつけられないから今すぐ来いって言うの。場所聞いたらたまたま近くだったからすぐに行ったんだけど、そしたら勝也がベロベロに酔っぱらっててさ。

『未成年にどんだけ飲ませてんのよ!』って怒ったら『だって止めたのに自分からガバガバ飲みやがって…』って。

で、立つことも出来ないぐらいだったからSyouに『優奈呼ぼうか?』って聞いたら、勝也がいきなりムクッと起き上がって『呼ぶな!』って。で『そんな事してたら優奈に嫌われるよ』って言ってやったの。

そしたら『あいつは俺の事何もわかってないんだ』って…」


「…え?」


【打ち上げはもちろん遊びでの集合やミーティングと集まる理由を作ってはすぐ飲み会を開くブランカ。未成年ではあるが当然勝也もノンアルという訳もなく、他のメンバーほどではないがそれなりに酒は飲む。

その日はまた6人で遊んでいることは知っていたが、まさかこんな状況になっているとは思いもしなかった涼子。酔ってクダを巻いているのだと思い


「へ~、アンタの事理解出来んのなんて優奈だけだと思ってたけど?」


すると急に下を向き、しばらく黙った後で


「アイツ…綺麗すぎるんだよ…」


みんなただのノロケだと思った。


「なんだこのヤロォ、確かに反則ぐらい綺麗なのは認めるけど」


「違うよ、中身が綺麗すぎるんだ…」


「…中身?」


「あんなに一生懸命でまっすぐで…必死に俺の事追いかけてくる。あんなに心が綺麗なのに俺なんかの事…アイツにはもっと優しくて大事にしてくれてカッコいい彼氏が出来るはずなんだ。俺なんかの隣にいるような女じゃ…」


優奈の健気さや純粋さ、一生懸命なところはここにいる誰もが認めていた。

だがそれが逆に勝也を追い詰めていた事など誰も気づいていなかった。


「お前…」


誰もかける言葉が見つからなかった…


が、次の瞬間


 バッチイイィィィィィン!!!!


居酒屋の個室に大きく響き渡る張り手の音…全員の目が真ん丸になる。


「…ってぇぇぇ…」


「あーちっちゃい男!…何?優奈が可愛くて健気でまっすぐ自分を見てくれるからビビってんだ?確かにそれじゃあアンタなんかに夢中になってる優奈が可哀想だね!

自分に自信がないの?それともまだあの女の事引きずってんの?自分にはもったいないとか馬鹿な事思ってんなら別れれば?

自分が優奈に釣り合うような男になろうって気が起きないんだったら、さっさと別れた方があの子の為だよ!!」


大きな大きな怒鳴り声の後、もう一発くらわそうと振りかぶった涼子の腕を全員が止める。


「ま、まて!涼子!落ち着けっ!」


「こんなくだらない男は痛い目見ないとわかんないのっ!」

「いや、もう充分痛い目は…」


「こいつが目ぇ覚めるまで何回でもブン殴る!」


「わかったから!ちょっと一旦手を下げなって!」

「ホントに死んじまうから!」


本気でキレた涼子をなだめるのはかなりの時間を要した。

羽交い絞めにされてようやく冷静になった涼子がジッと勝也を睨みつけ


「今まで女を信用できなかったアンタを立ち直らせてくれたのは誰?冷たくしても突き放しても、それでも必死についてきたのは誰なの?優奈がいなかったらあんたは今でも人に壁作ってメンバーやあたしらだけとしか付き合いしてなかったでしょ。

知ってる?優奈と付き合うようになってからあんたホントに人間変わったんだよ?

そこまで自分を変えてくれたのは優奈だって…いい加減気づきなよ、この鈍感バカ男!」


ほっぺたを真っ赤に腫らした勝也はもう酔いから醒めていた。

そして涼子の言葉を黙って聞いた後


「あいつ…いい女だよね」


「男を見る目は無いみたいだけどね」】


またもや優奈は大泣きだった。紗季に背中をポンポンと撫でられながら号泣していた。


涼子の想い、そして勝也がそこまで想ってくれていた事が嬉しかった。そして…もし本当にブランカが解散する日が来たとしたら、そこから先は自分が支えていくんだと決心した。


「あたし…勝也のそばにいてもいいんだ…」


「当たり前でしょ。っていうかあいつの面倒みれるような女世界中探したってアンタしかいないと思うけど」


「言う事聞かない時あったら言ってきな?勝也なら平気で殴れるから」


「…出来るだけ言わないようにする(笑)」


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