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25 別れ ②

 翌朝、母の声で目覚めた優奈。


「優奈ー!学校に電話しといたほうがいいのー?」


「…電話?」


いきなりガバッと飛び起きて時計を見ると、もう授業開始の時間ギリギリだった。

大きな音を立てながら階段を駆け下り


「なんで起こしてくれないの!今日は絶対迎えに行かなきゃいけなかったのに!」

「何度も起こしたわよ、アンタが起きなかったんじゃない」


「もおぉ!」


大急ぎで制服に着替える。

昨日あれから家に戻り、勝也の話を思い出して泣きながらそのままうたた寝のように眠ってしまった。

化粧をするヒマもなくすっぴんで家を飛び出る。

普段ならありえないことだが今は一刻も早くアパートに行きたかった。

猛ダッシュでアパートの階段を駆け上がるとカギを開けて中に飛び込む。


「勝也ごめんっ!もう授業始まっ…」


寝室に勝也の姿は無かった。


トイレにも浴室にもいない。

最後にリビングへ行くといつもより整頓されているように見えた。

そしていつも2人でご飯を食べていたテーブルの上には仙台で買ったお揃いのネックレスがポツンと置いてある。


「着けるの忘れてたんだよね…もう学校行っちゃったんだよね…」


YUNAと彫られたプレートのついたそのネックレスを握りしめるとアパートを飛び出した。


バスを待っている余裕などない。

通りに出ると手を上げてタクシーを止めて飛び乗る。


学校へ着くと当然授業中だったが、そのまま自分のクラスではなく勝也たちの教室の扉を力いっぱい開けた。


 バァァン!!


その大きな音に驚いた全員の注目を浴びる。


「あれ、優奈」


「はぁ…はぁ……勝也は?」


肩で大きく息をしながら問いかける優奈に


「今日は来てないよ」

「2人とも来ないからサボってどっか行ったんだろって言ってたんだけど」


それを聞くと一瞬にして目に涙をいっぱい溜め、来た方向に向かってまた走り出す。


ただ事ではない雰囲気に授業中にも関わらずみさ達が飛び出してきた。

廊下を走っていく優奈に


「ちょっと!どうしたの?!優奈ってば!」


その声でピタッと立ち止まる。

バッとみんなの方を振り返るともう頬には涙がつたっていて


「…勝也が……勝也がいなくなっちゃう…」


「えっ?」


それだけ言うとまた走り出した。

慌ててみさ、ありさ、千夏、康太、陽平が全員走って追いかける。

学校の外へ出た辺りでようやく追いつくと、横を走りながら


「何があったのよ!いなくなるってどういう事?!」


優奈が立ち止まった。

大粒の涙を流している優奈の周りをみんなが取り囲むと、声にならないようなか細い声で


「…ブランカが解散するの。それで昨日の夜、別れてほしいって言われた。あたしは絶対別れないって言ったんだけど笑顔しか返ってこなかった…。アイツきっと学校ヤメてこの街から出ていくつもりなんだ…」


泣きじゃくりながらなんとか説明する。


「解散っ?!…え、なんでっ?」

「そんな…あんなに仲いいのに」


「でも、だからってなんでお前と別れる必要があんだよ!」

「バンドとお前とは関係ないだろ?!」


周りもうろたえる中


「勝也が行きそうなトコは?部屋にはいなかったんだよね、だったらウチらも一緒に探す。あいつに居なくなってほしくないのは優奈だけじゃない!」


みさの言葉に頷き、全員で一緒に探し始めた。


バカだった…。

今思えば勝也の最後の笑顔はものすごく寂しそうだったように思う。

よく考えれば簡単な事だった。

あの男がそう簡単に考えを変えるはずがない。

優奈を家に帰らせるためにあえて嘘をついただけだ。

そんな事にも気づかず、別れを回避できたと信じていた鈍感な自分を責め続けながら探し回る。


 バイト先、楽器屋、ブランカが使っていたスタジオ、出ていたライブハウス、よく買い物に寄ったスーパーまで、思いつく限りの場所を探し回ってみてもどこにも勝也の姿はない。


手分けして探してくれていたみんなと駅前で合流する。

肩で大きく息をし、汗だくになりながら集まった親友達も全員首を横に振った。


ガクッと膝から崩れ落ちる優奈。

もう他に探す所など思いつかない。

座り込んで両手で顔を覆い泣きじゃくる優奈にみさがソッと隣にしゃがみ、肩を抱く。


「…ドコ…に…いるの?…勝也がいなくなったら…あたしは…」


「あきらめるな優奈。見つかるまで探そ?」

「もう…他に行くトコなんて…」


その時、優奈の頭の中に勝也の声が響いた。


(ここは俺にとって特別な場所だから…)


ハッと顔を上げ


「…海だ」


「え?」


急に立ち上がり駅の中に駆け込んでいく。そしてみんなその後に続いた。

電車に飛び乗ると、みんな行き先もわからないまま優奈を囲んでいる。


「海?」

「そこにいるのか?アイツ」


「勝也が…大事な事を決める時いつも行く場所があるの」


もうそこしか思いつく場所はない。そこに行って勝也が居なかったらダメかもしれない。

優奈の目に涙は無かった。


駅に着くと電車を降り改札を出る。

いきなり駆けだすだろうと思われた優奈だがゆっくりと歩き始めた。


道路を渡り細い道を抜けると海岸べりに出る。

誰も言葉を発する者はなく黙ったままの6人が防波階段に出た。

そして下を向いたままだった優奈が大きく深呼吸して視線を前に向けると…




少し大きめのカバンとギターケースを横に置いたまま、座って海を見ている男がいる。


「ホントに…いた…」


その寂しそうな勝也の姿に一気に涙目になる6人。

すると陽平が優奈の背中をポンと押し


「ここから先はお前一人で行ってこい」


「…頑張ってね」

「まだ絶対間に合うから」


「首に縄付けてでも連れて帰ってこいよ」

「勝也の隣は優奈でないとダメなんだからね?」


そう言われ、みんなの目を見て


「…うん…ありがとう…。行ってくる…」


ゆっくりと歩き始める。

親友たちが見守るその後ろ姿は明らかに震えていた。


「大丈夫かなアイツ…」

「大丈夫。勝也の心を動かせるのは優奈しかいないよ」


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