23 転校生
2年に進級して1か月ほど経った頃、転校生がやってきたらしい。
勝也の組でも優奈の組でもなかったが、にわかに周りが騒がしくなってきた。
どうやら一昔前の不良ドラマのように片っ端から周りに攻撃的な態度をとるメンドくさいタイプのようだ。
優奈の耳にも入ってきてはいるものの、勝也にさえ絡んでこなければ自分には関係ないと気にも留めなかった。
ある日、優奈がトイレから戻ってくる途中見たことない男子生徒が向こうから歩いてくる。後ろに数人引き連れているのを見た瞬間に
(あぁ、これが例の転校生ってヤツか)
目を合わせないように伏目がちにすれ違おうとすると
「うおっ!すっげぇ可愛いコいるじゃん!なになに?どこに隠れてたのぉ?」
大きな声で騒ぎ出す。
チラッと見るとどうやら視線は優奈に向けられている。
視線を反らしてそのまま行き過ぎようとするがその転校生・寺山が隣にスッと並び
「ねぇ何組?名前なんて言うの?彼氏いる?電話番号教えてよ!」
馴れ馴れしくしつこく話しかけてくる。
完全に無視していた優奈だがグッと腕を掴まれた瞬間その手をバッと払い、冷めた鋭い目で睨みつけると
「ちょっと馴れ馴れしいんじゃない?気安く話しかけないでよ」
そういうと教室へ入っていった。
あまりの一瞬の出来事に固まっていた寺山は自分が従えていた男子生徒に
「おい…あいつ名前何て言うんだ?」
「安東だよ、安東 優奈。…あいつはヤメといた方がいいよ、彼氏いるから」
「あ?彼氏がいようが関係ねぇんだよ。あいつ俺の女にしよっと」
それからの寺山はしつこかった。
事あるごとに優奈の前に現れ付きまとってくる。クラスが違うため勝也たちは気づかなかったがそれは徐々にエスカレートしていった。
それが数日続いたある日
「なぁ優奈ぁ。そろそろ俺の女にならねぇとこっちもいつまでも大人しくはしてねぇぞ」
「は?…誰に断って呼び捨てにしてんの?」
今まで完全に無視していた優奈だが呼び捨てにされた事でついにキレる。
「お前こそ誰に口きいてんだ?なんなら力づくで言う事聞かせてやろうか」
「こっちはちゃんと彼氏いるんだよ!」
「だったらここに連れてこい。そいつの口から「優奈は寺山さんにあげます」って言わせてやるよ(笑)」
ただならぬ雰囲気についに岳が隣の教室へ走る…が、こんな時に勝也はいなかった。
たまりかねてみさ達にそれを報告すると大慌てで康太や陽平が隣の教室へ走る。
あまりの横暴ぶりに見かねた男子が横から震えた声で
「ヤメた方がいいよ…安東の彼氏ってブランカのKATSUYAだぞ?」
「あ?ブランカ?なんだそりゃ」
「バンドだよ、有名な…」
「ん?あぁ、見た事あるわ♪KATSUYAって…ベースだっけ?あいつだろ、killerとか書いた『ダッセェ』ベース使ってるヤツ」
『ダッセェベース』
寺山のこの一言で優奈の顔がみるみる変わり恐ろしいほどに怒りをあらわにした鬼のような表情になると、次の瞬間
パァァァァァァン!!!
優奈の平手が寺山の顔面を捉えた。
周りが全員凍り付く中
「いってぇ!てんめぇ!何しやがんだ!」
「ダセェ?あれはこの世に一本しかない世界一のベースなんだよ!」
最低な寺山は、女である優奈の胸ぐらをつかむと本気で殴る気で思いっきり振りかぶる。
そこへ康太と陽平が飛び込んできた。
「何やってんだゴラァァァ!」
叫びながら飛びかかるが、寺山の強さは尋常ではなく逆にボコボコにされてしまった。
「…康太!陽平!」
ケンカが強いと言われていた康太でさえ勝てない。
本当にこの寺山にのさばられてしまうのか…。
そんな時ヒョコッと勝也が教室を覗く。
騒然とした雰囲気の中ボコボコにされた康太と陽平を見つけた。
そしてその中へ入ってくると、ボタンが引きちぎられて胸の谷間が見えるほど胸元がはだけている優奈が目に入った。
「勝也、来ちゃダメぇ!!」
その言葉も優奈の姿を見てしまった勝也には届いていない。
ツカツカと教室の中に入ってくると寺山に向かって歩きながら
「…やったのはお前か」
優奈の叫び声でこの男が勝也だと理解した寺山は
「お前がKATSUYAって奴か?悪いけど今日から優奈は俺の女にする事にした。お前は引っ込んでろ、わかったな」
黙ったまま寺山に向かって歩いていく勝也。
向かってくる勝也に対して殴りかかる寺山。
そして次の瞬間…
バコォォッッ!!
人間の体から出るとは思えない大きな音と共に寺山の体はバク宙のように後ろ向きに回転し、そしてうつ伏せに顔から落ちる。
「…あが…が…」
そのまま寺山の前にしゃがむと、髪の毛を掴んでグイッと顔を上げさせた。
頬と鼻の骨が折れて顔の形は変わっており、まるで水道の蛇口をひねったかのように鼻からものすごい量の血を吹き出す寺山に
「転校してきてちょっと張り切り過ぎちゃったか?俺にちゃちゃ入れてくるんならいいけどよ『俺の女』と『仲間』に手ェ出したら…次は殺すぞ」
聞こえているのかいないのか、勝也が手を離した途端そのまま自分の鼻血の海に顔をベチャッと落とす寺山。
スッと立ち上がるとそのまま優奈のもとに歩み寄り
「ケガは?」
「ううん、大丈夫」
はだけた胸元を勝也がスッと手で開いて確認するがひっかき傷さえもついていない。
すると自分のYシャツのボタンを数個引きちぎり、それを芽衣に渡して
「ごめん芽衣ちゃん。優奈のボタンちょっと縫ってやってくれない?」
「あ…は、はい…」
一連の光景を見ていたみさ達は
「…つ…強ぉっ…」
「一発じゃん…」
「そりゃそうでしょ。勝也ってあの緋咲さん並みに強いって噂だからね」
いつの間にか隣に立っていた桐川 蘭がボソッと呟く。
緋咲…この街に住む者ならほとんどが知っているだろう、外見は物静かだがこの街の悪ガキ全員が頭の上がらない人で誰も逆らう事の出来ない恐ろしいほど強い男だ。
「マ…マジで…?」
それから康太と陽平のところへやってきた勝也。
「ほら、教室戻るぞ」
康太と陽平2人に肩を貸して立ち上がらせると
「みさぁ、タオル濡らしてこい。ありさは自販機で水買ってきて?千夏は保健室行って消毒液とバンドエイドもらってきな」
「…あ…はい!」
素早い的確な指示にすぐ動く3人。
教室から飛び出し、廊下を走っていく途中
「あいつ、優奈に手ぇなんか出すから…」
「でも…『俺の女』と『仲間』だって…」
「仲間で良かったぁ♪」
それ以降、学校で寺山の姿を見ることは無かった。




