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22 クラス替え

 3月に入るともうすぐ終業式が来る。

その後は短い春休みとなるのだが


「ね~、どっこも行けないのぉ?」


「だから言ってんだろ。普段俺に合わせて週末とかばっかりしかライブ入れないようにしてくれてんだから休みん時はちょっと多くやんだよ」

「もちろんライブには文句言わないけどさぁ…なんでそれ以外の日に全部バイト入れちゃうのぉ?」


「そりゃその分いっぱい入っとかないと極貧生活になるじゃねぇかよ」

「だからあたしもちゃんとバイトしてるじゃん」

「なんでお前のバイト代で俺が生活すんだよバカ」


もう何度も繰り返されたやり取りだった。


「みさ達とどっか遊びに行ってこいよ。2年になったらクラス離れちゃうかもしれないだろ」

「別にクラス離れちゃってもウチらの友情は変わらないモン…」


「俺とも違うクラスになっちゃったりしてな(笑)」

「…それは無い。ちゃんと神様は見てくれてるハズ♪」


実際、不安でいっぱいだった優奈。

もし勝也とクラスが離れたりしたら…それを思うと夜も寝つけなくなることも多かった。


終業式の日が来て、本当に色々あった激動の高校一年生が終わる。

誰一人留年することなく無事進級が決まったものの、この頃から優奈はピリピリし始めた。


ライブの日は入りから連れて行ってくれるようになったため朝から一緒にいられる。

スタッフとして雑用や手伝いをするのにも慣れ、ファンの子達から声もかけられるようになった。

涼子やみぃのように『KATSUYAの彼女』として認識されてきたのだ。


KATSUYAではなく勝也の彼女でいたい優奈にとっては複雑な心境ではあるが、最初の頃の「誰、あの子?」といった目で見られることを思えば居心地は良くなった。


春休みももう終わろうかという日、あまりにもふて腐れている優奈のために無理矢理一日休みを取った勝也。

大喜びの優奈とただの買い物ではあったが久々のデートを楽しんだ。


 そして新学期が始まる。


優奈のピリピリはピークに達し、勝也でさえ中途半端な冗談など言えない雰囲気を醸し出す中で学校に到着する。


掲示板前に集合すると、そこに新しいクラス分けが貼り出されていた。

先に来ていたみさ達が優奈に気付くも声を掛けられないでいる。


「勝也ぁ…見てきて」

「なんだよ、自分で見ろよ」


手を引かれて掲示板の前に出る。

その姿に周りが凍り付く中で恐る恐る優奈が名前を探すと……どうやら神様は優奈に味方してくれなかったようだ。


「……え?」

「ありゃ、ダメだったか」


「…はあぁ?!!何これー!!」


勝也とみさ達3人、康太や陽平までもが同じクラスになったのに対し、よりによって優奈だけが違うクラスになっていた。


驚いた表情のまま固まっている優奈。

さすがに誰も声を掛けられず、静かに周りの人数が減っていく。


本気で職員室に怒鳴り込みに行こうとする優奈をみんなで羽交い絞めにして必死に抑えてようやくなだめて止めるがドスの効いた明らかに不機嫌な目つきは治らず、不安いっぱいな気持ちで優奈を教室に連行した。


制服のポケットに両手を突っ込み、背もたれに大きく背中を預けて不機嫌そうな優奈。


新担任が教室へ入ってくると、名簿順に座っているため最前列にいた優奈に寒気がするような鋭い目で睨まれた。

極力目を合わせないようにビクビクした担任からの挨拶と説明のあと全員揃って体育館へ移動するのだが


「…あ…あの…安東さん?」

「あぁっ?!(怒)…えっ?あぁ、岳ちゃん…」


「あの…えっと…みんなが怖いって…」


「え?」


周りに気付くとみんなオドオドした表情でチラチラこちらを見ている。

唯一優奈に声を掛けられる人物として、あの一件でみんなに一目置かれていた岳がクラスのみんなに送り込まれたのだった。


「あ…ご、ごめん。岳ちゃんと同じクラスだったんだ?」

「うん…よろしく」


「ちょっと聞いてよ、あたしだけクラス離れちゃったんだよ?ヒドいと思わない?絶対誰かが裏で操作してるとしか思えない…どぉしたらいいのぉ」


あまりの衝撃の事実に知らず知らずのうちに周りにまで恐怖心を与えていた事にようやく気付いた。岳の顔を見るとスッと目つきが変わりようやくグチをこぼし始める。

すがるような顔の優奈の愚痴を聞き始める岳に、さらにクラスでの岳の存在感は高まっていくのだった。


とはいえやはり優奈と同じクラスになれた男子生徒の喜びはかなりのもので、「毎日同じ教室で顔が見れる」「なんなら会話する事さえ出来るかもしれない」と期待感も相当だった。



その日の帰り。

優奈の事を気遣ってみさ達や康太、陽平が周りを歩いていた。


「違う組って言っても隣じゃん?」

「そ、そうそう!なんなら休み時間とかなんて一緒にいれるし」


みんなの慰めにも耳を貸さずブツブツとひたすらグチをこぼす優奈。

ついには


「だって…あんなクラス絶対面白くないモン」


そこでついに勝也がキレる。


「だーーっ!…ったくブツブツうるせえなぁ!決まっちまったモンしょうがねえだろ!1年ぐらいガマンしやがれ!大体まだ何にも知らねぇクセに絶対面白くねぇだとか、同じクラスのヤツらに失礼だろうが!!」


ピタッと会話が止まる。

周りを歩いていた生徒の中には新しい優奈のクラスメイトもいて勝也に怒られシュンとなった優奈を見て可哀想と思いながらも、自分たちに対して失礼だと怒った勝也には嬉しさを感じていた。


もちろん行き帰りは勝也と一緒だが学校に着くと離れ離れになってしまう。

休み時間に教室に行っても勝也はいつものように寝てばかりで、おまけに春休みの分を取り戻すべくバイトの頻度を上げていたため夜も会えない日が多くあった。


優奈のモヤモヤがピークに達し始めていた頃に事件が起こる。


ボーッと考え事をしながらのバイトの帰り道、優奈が自転車の主婦とぶつかり病院に運ばれた。

怪我は左足と左手首の捻挫程度で済んだが、結構なキツさだったようで少しの間は三角巾で腕を吊り松葉杖という痛々しい姿になってしまった。

勝也も大慌てで病院に駆けつけるもケガの状況が大事には至らなかったと分かるとホッとし、その後またもやキツく叱られた優奈。


大事をとって2日間だけ休んだその翌日から、勝也が優奈を迎えに行き学校まで付き添うという状況になった。

少しだけ「ケガして良かったかも…」という想いがあったことは内緒にしておいた優奈。


復帰初日の朝、優奈のカバンも勝也が持ったまま教室へ入ると一斉に注目を集める。

優奈の席にカバンを置いたところで隣の席の女子生徒に声を掛けた。


「ごめん、こいつちょっと片手使えないから色々助けてやってくれる?」


「…えっっ?!…あ…は、はいっ!!」

「ごめんね?」


急に勝也に声を掛けられ驚いて顔を赤くする芽衣。真面目そうな感じの可愛い子だ。


椅子を引いて優奈を座らせ


「授業終わったら迎えに来るからここで待ってろ」

「え?大丈夫だよぉ、あたしが行くよ」


「俺の言う事が聞けねぇのか?」


「…はぁい…」


一年生の初めの頃からは想像出来ないほど素直に彼氏に従う可愛い女子になった優奈。


「おーい岳ー!優奈の事頼んだぞー」

「うん、わかった」


初日には誰も声を掛けられなかった優奈をなだめこんな時には勝也に頼られる岳。

もう2度とイジメられないどころか信頼の目で見られ始めている。


「あの…良かったらカバンから教科書とかだそうか?」


「え?あ、ごめんね。ありがと」


勝也に頼まれたという以前に元々本当に心の優しい芽衣。

あまり友達がいる雰囲気ではないが甲斐甲斐しく優奈の世話をし始めた。教科書の準備や片づけ、荷物を動かしたり座る時には椅子を引いてくれたりと本当に気が付く子で、いつしか優奈と芽衣は仲良しになっていった。


「芽衣ちゃんもう大丈夫だよ。自分で出来る」

「ダメ、松下クンに頼まれてるから」


そういって色々と手を貸してくれる芽衣。気づけば周りの男子生徒も微笑ましく見ていた。


優奈を色々手助けするようになると、芽衣の献身的な態度や優奈に限らず誰にでも優しいその人柄が周りの目に入るようになってくる。

元々その美貌と人柄で人を惹きつけていた優奈と同様に芽衣の内面的な部分が露になるとまた人はそこに惹かれていった。


優奈の傷も癒えて普段通りに何でも出来るようになった頃、それまで放課後は毎日教室に迎えにきていた勝也に


「もう迎えに来てくれなくても大丈夫。また明日からあたしがそっち行く」

「そっか」


そういうとクルッと芽衣の方を向き


「すっごい助かってるって毎日優奈が言ってたよ。色々ありがとね」


「…え…そ、そんな…あたしは全然何も…」

「ううん、ホントに助かったよ。芽衣ちゃんお母さんみたいだった」


「あたしの方こそ…色々いっぱい話してくれてありがとう。楽しかった…」


優奈とのつながりが途切れてしまう…そんな思いもあったのだろう。

目に涙をため始める芽衣。友達もほとんどおらず、人見知りなのも影響してあまり人と楽しく話すことなど無かった。

それがある日突然、学校一の美人と一番近い距離で過ごせたどころか自分にもそのとびきりの笑顔を真正面から向けてくれていた事に幸せを感じていた。

ケガでもなければ自分が優奈とこんなに近い距離で話すことなど無かっただろう。

そんな思いが溢れていたのだ。


「ちょ、ちょっとどうしたの…芽衣ちゃん?」


急に泣き出した芽衣に驚いて頭をよしよしする優奈。


「お前芽衣ちゃんに色々ワガママ言ってたんじゃねぇのか?ようやくそれから解放されるって喜びの涙だな、これは」

「ちょっと人聞きの悪い…そんな事ないよねぇ?芽衣ちゃん」


自分とは住む世界が違うと思っていたこの2人が自分の事を『芽衣ちゃん』と呼んでくれる。それもまた芽衣の涙をどんどん溢れさせている事には気づかない。


翌朝、今日から一人で教室へ入ってきた優奈。

もう昨日までのように優奈のカバンを机にかけてあげる事も教科書を出してあげる必要もない。

話しかける内容も思いつかない芽衣に


「芽衣ちゃんおはよー!」

「あ…お、おはよう…」


「ねぇねぇコレ貰ってくれる?」


「…え?」


優奈が差し出したのは小さな紙袋。

それを受け取るとモジモジしながら開けてみる。

すると中から羽のついた可愛いキーホルダーが出てきた。


「うわ…か、可愛い…」


キラキラした目でそれを眺める。

…そしてハッと気づいたように


「…これ、あたしに?」

「うん♪ホラあたしとお揃い」


優奈が見せたカバンには同じキーホルダーがぶら下がっていた。


「お揃い…優奈ちゃんとあたしが…?」

「友達とお揃いってあたしも初めてなんだぁ」


「友達…あたしの事…友達って言ってくれるの?」

「あたしと友達じゃイヤ?」


首が取れそうなぐらい左右にブンブンと思い切り振って否定すると


「ありがとう…この学校来て初めて友達出来た…」


「え?」


それを聞いていた周りのクラスメイトは唖然とした。


いつも大人しく一人静かにしている芽衣。

それは他人に壁を作っていたのではなく輪の中に入っていく勇気が無かっただけで、本当はみんなと話したかったのだと。

それを瞬時に察知した優奈は


「んじゃあたしが第一号だ♪大丈夫、芽衣ちゃんならあっという間に友達たくさんできるよ。あたしが保証する」


「…うん…うん…」


昨日に引き続き今度は嬉し涙を流す芽衣。


「このキーホルダーね、昨日勝也が『芽衣ちゃんに何か御礼したい』っていうから2人で選んできたの。そんであたしも便乗して芽衣ちゃんとお揃いがいい!って言って無理矢理2つ買わせちゃった」


「え…これ…松下クンが?」

「そうだよ?芽衣ちゃんに無理矢理あたしの世話させちゃったからって」


周りの女子達にものすごく羨ましそうな目で注目される芽衣。

それ以降優奈は頼りになるしっかり者の芽衣になつき、事あるごとに行動を共にしたがるようになった。

そうなると当然他の女子達も芽衣に近づき、仲良くなり、いつしかみんな悩み事が起きるとすぐ芽衣に相談するようにまでなった。


それは他のクラスにまで知れ渡りその存在感は徐々に大きくなっていく。


ド派手な外見をしたギャル系の女子から少しこわもての男子に至るまで、この学年で一番頼りになる「お母さん」のような存在へ。


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