21 16歳
ある日の夜。
2人でテレビを見ながら優奈が勝也の手や腕をマッサージしている。
最近は家で練習した後や少し時間がある時に優奈が筋肉をほぐしてくれるようになった。
「ねー、そういえば誕生日プレゼント何がいい?」
「は?なんで今頃」
「あたしの誕生日に一緒に祝おうって言ったじゃん…また忘れてる」
「そぉだっけ?…別にいいよプレゼントなんて」
「ダメ。実際の誕生日の時は教えてくれなかったんだからちゃんとしたい」
「ん~…じゃあ弦買って?アーニーボールのハイブリッド」
「わかった。いつものオレンジのヤツだよね」
「優奈は何がいい?」
「あたしはなんにもいらないからその日は一緒にいたい」
「は?それはズルいだろ。俺はちゃんと言ったのに」
「だって一緒にいれるのが一番嬉しいんだもん」
本当に何もいらない、ただ誕生日の日は一緒にいたい。
それが優奈の本音だった。
それからしばらく経ったある日。優奈が一人で島村の店を訪れる。
「こんにちはー」
「はいよー。お、優奈ちゃん…あれ一人?」
「はい♪アーニーのハイブリッドください」
「お、勝也のお使いだな?」
「いえプレゼントです♪」
「なるほどねぇ、アイツにとっちゃぁ嬉しいプレゼントだよな」
そういうと弦を袋に入れて、しかもオマケしてくれた。
「それと相談があるんですけど…」
「ん?どうした」
「あの…やっぱりあたしランコア欲しいんです」
「あぁ、初めて来た時言ってたね。勝也はいいって?」
「話してません。買ったとしても言いません」
「どうして?」
「楽器は弾くものであって飾るものじゃない!って怒られそうだし…」
「はは(笑)…確かに言いそうだな」
「ですよね(笑)あの後ホントは買うのヤメとこうって思ったんです。でもこの前やっとベースを始めたキッカケとかどうやって手に入れたとか…ブランカに入った時の事とか教えてくれて、それでやっぱり欲しくなって」
「あの時の話か。ようやく教えてくれたんだ?」
「島村さんがいなかったらあたしは勝也に知り合えてなかったんですね。ホントにありがとうございました」
「俺に礼言う事じゃないよ、あいつはこの街に来てブランカに入る運命だったんだ」
「あたしにとっても他のベースじゃダメなんです。あの黒のランコアじゃないと」
「わかった。勝也には内緒なんだね?」
「はい♪」
すると島村は電話をかけ始める。
しばらく会話した後電話を切り
「う~ん…」
「どうかしたんですか?」
「ランコア、今は受注生産らしいんだ。在庫は無いって。しかも注文が規定本数に達しないと生産開始しないそうだ」
「…え?それって…手に入らないって事ですか?」
「今のところは…ね」
「そんなぁ…」
「中古なら探せば見つかるだろうけどそれでは意味ないもんね」
「はい…」
トボトボと歩く優奈。
…勝也と同じベースが欲しかった。部屋に飾りたかった。
ミーハー的な思いではなく、勝也にとって何よりも大事な宝物であるあのランコアを自分のそばに置いておきたかった。いつでも一緒にいる気持ちになれると思ったからだ。
だがそのベースは手に入らないと言われた。
「あ~ぁ…どうしよう…」
どこかの楽器屋にたまたま置いてあったりはしないだろうか。
そんな思いから知りうる限りの楽器屋を回ってみた。
だがどこの店にもランコアどころかkiller自体置いてなかった。
数日後。
勝也がバイトで遅くなる日、みぃからの電話が鳴る。
「おーう優奈。アンタ今日ヒマ?」
「あ、みぃちゃん♪別に用事は無いよ~」
「久しぶりに涼子と3人でご飯いこーぜ」
「行くー!」
久しぶりの女子会。涼子もみぃもお酒メインのためお迎えは無く電車で集合する。
この超絶な美人3人が一緒に歩くととんでもなく華やかな光景であった…が選ぶのはいつも居酒屋や焼き鳥屋。このギャップもまた彼女たちらしい。
「元気だった?優奈とは最近あんまり会ってなかったもんね」
「あたしも店では会うけどあんまり話とかは出来ないからこうやって会うのは久しぶりだよね」
「だってオーナーさんだもん」
「そういえば優奈のおかげですっごく流行ってるらしいじゃん」
「あたしのおかげとかじゃないよぉ」
「こういう自覚のないトコ、ホンット誰かさんにソックリ(笑)」
それからしばらくはいつものように楽しい会話が続いていた。
「そういえばさぁ、こないだやっとベース始めたキッカケとかブランカに入ったいきさつとか教えてもらった」
「まだ教えてもらってなかったの?」
「だってそういうの自分から言ってくれるような人じゃないモン」
「あの時はビックリしたよ。Syouがいきなり電話で『すっげぇベース見つけた!』ってすっごい興奮して」
「平蔵もだよ。夜中までずーっと聞かされたもん」
「それがまだ中学生だって聞いたときは開いた口が塞がらなかったけど」
「やっぱりビックリした?」
「ビックリなんてモンじゃないよ!何とち狂ってんだコイツラ…って」
「実際に演奏聞くまでは信じられなかったね」
「演奏聞いたら大丈夫だったんだ?」
「当たり前でしょ」
それからはまたブランカメンバーの失敗談や面白いエピソードなどで盛り上がる。
ふと涼子が
「そういえば優奈、こないだ何か欲しいモノがあるって言ってたけど買えたの?」
「あーまた思い出したぁ…」
ショボンとする優奈。
「なになに?何が欲しいの?お姉さんに言ってみな」
「ううん、もういいの。手に入らないって言われたから…」
結局何が欲しかったのかは言わなかった。
そこそこの時間になりお開きとなり、また電車に乗って帰る。
そのまま家に帰ろうと思ったがやはりアパートに寄る優奈。
まだ勝也の帰っていない真っ暗なアパートに入るとそのまま寝室に入って電気をつける。
そこには練習用のベースの横にあのランコアがスタンドに立てられていた。
「あ~ぁ…同じの欲しかったなぁ」
ベースを一目だけ見てから家に帰った。
それから約一か月。平穏な日々が続いていた。
ライブも2回あり勝也とも充実した毎日を送っていた。
優奈の誕生日を一週間後に控えたある日、電話が鳴る。
「優奈ー。アンタ来週誕生日でしょ?当日は邪魔しないであげるから前日にパーティーやるよー」
「えー?!いいの?嬉しー!」
誰が来るとも聞いていない。
だが涼子のことだから何か驚かされるような気がしてならなかった。
誕生日当日に休みを取ったため前日はバイトだと言う勝也。
涼子に誘われたという事だけを伝えておいて、その日を迎えた。
何故か集合が8時という遅めの時間からのパーティー。
場所は街中の個室居酒屋で…言われた通りにその店に入り、涼子の名前を出すと部屋に案内された。
そしてその部屋のふすまを開けると…そこには勝也を除くブランカのメンバー全員と涼子、そしてみぃがいた。
「…え?…え?…なんでみんな…」
「おー来たか!まぁ入れ入れ」
「優奈は一番奥のお誕生日席な」
平蔵に肩を抱かれて連行されると一番奥の席に座らされた。
ブランカのメンバーにだけは触れられても気にもならなかった。
驚く優奈をそのまま放置してパーティー開始を店員に告げるとすぐに爆量の料理が運ばれてくる。
飲み物が揃ったタイミングでBanの音頭で乾杯をしてもらうとそのまま宴会が始まった。
「信じられなーい…みんな揃ってる」
「一人重要なヤツがいねぇけどな」
「それは明日でしょ?」
「そうそう、そんで明日はそのまま流れるように始ま…」
またもや涼子とみぃの張り手が平蔵の頭に命中する。
いつもと変わらない大盛り上がりの宴会。だがそこに勝也がいないのだけが少し寂しかった。
しばらくするとSyouの携帯が鳴る。
「もしもし。おぉ!出来たか!よしよし。うん…うん、わかった。ちょっと出るわ」
Syouが席を立つ。そしてスッとメンバーも全員立ち上がると部屋を出て行った。
不思議そうな顔をしている優奈に
「そうだ、はい優奈。プレゼント」
「えー!?」
涼子がくれた袋を開けてみる。
中には涼子らしい、優奈の好みど真ん中の服が入っている。
「きゃー!可愛い~♪」
「あたしからはコレ」
みぃからは高そうなバッグだった。
「えー!こんな高そうなの…」
「可愛い妹の為だからね(笑)」
嬉しさのあまり涙ぐんでいる優奈。
その時またふすまが開きメンバーが戻ってきた。
「優奈、俺たちからお前にプレゼントだ」
するとメンバーの一番後ろからなんと勝也と島村が入ってきた。
「…え…勝也?!島村さんまで…」
「やっと出来たぁ」
「待ちくたびれたよ」
ツカツカと優奈のそばまでやってきた勝也だが、なぜかギターケースを担いでいる。
優奈の前まで来るとそのケースをスッと出し
「ほら、これがみんなからのプレゼントだってよ」
そういってケースを開ける。
その中から出てきたのは優奈が欲しくてたまらなかった、あの黒のランコアだ。
「……え?……え?」
「勝也と同じのが欲しかったんだろ?」
「健気な彼女だねぇ♪」
「ホント勝也にはもったいねぇな」
「こんな事言ってくれるコいねぇぞ?」
まだ状況が飲み込めていない優奈。
すると涼子が
「あんたは内緒にしといて欲しかったみたいだけど、島村さんがみんなに「どうしても優奈にランコアを見つけてやりたい」って声かけたの。それから全員で知り合いとか楽器屋さんとかホントに日本中電話かけまくって探して、ようやく一本だけ見つけたんだってさ」
「ごめんな?みんなにしゃべっちまって」
「…そんな…」
もうすでにこの時点で優奈の涙腺は崩壊している。
「ただのランコアじゃねぇぞ。見てみ?ピックアップもバランサーも全部同じ。ブリッジまで変えて完璧にKATSUYAモデルにしてあんだよ。ちなみにそれ組んだのも本人だけど」
「…え?…本人?」
「どうしてもそのランコア届くのが今日の夕方でな。それから勝也に来てもらって今までかかって2人で組み上げたんだ。勝也が納得するレベルまでバランス調整もしてある。今すぐにでもライブに使える『ホンモノ』だよ」
「でもあたし…自分で買おうと思って島村さんに…」
「ランコア本体はメンバーから。ピックアップとかは島村さんから。そんでそれを全部組み上げて自分のとまったく同じに仕上げたのが勝也。…どう?これが『みんなからの』プレゼントだって」
そこまで聞くと後は号泣だった。
頭をポンポンと優しく触る勝也に抱き着き声を上げて泣く優奈。
こんな凄い人たちが自分だけの為に日本中探して見つけてくれたベース。
勝也のランコア同様、優奈にとってもこのベースは一生の宝物になった。
翌朝の優奈の部屋。
目が覚めると同時に部屋の隅を見る。
そこには昨日みんなに貰ったベースがちゃんとスタンドに立てられていた。
「おはよ♪」
いつも勝也のベースにも生きている相手のように声をかける優奈。
これから毎日の日課となるベースへの朝の挨拶はこの日から始まった。
その日の夜、約束通り休みを取った勝也の部屋で優奈がご飯を作っている。
そして遅れて帰ってきた勝也の手にはケーキの箱。
そのまま料理を手伝う。二人で作り、二人で食べ、そして二人で片づけた後、二人でベッドに入った。
…薄暗い部屋の中で腕枕をされながら
「あ、渡すモノあるんだ」
そう言うと優奈がリビングへ出ていきすぐに戻ってきた。
「はいコレ。4か月遅れだけど誕生日おめでとう!」
優奈が差し出した袋は二つ。
一つには約束したベースの弦。
そしてもう一つを開けると
「え?これ…リストバンド?」
中に入っていたのは皮製の2本ベルトのリストバンド。
「マグネット入ってて腱鞘炎になりにくいんだって」
勝也の手首を心配した優奈らしい選択だった。
「弦だけで良かったのに…。でもすっげぇカッコいいなコレ」
早速手首にはめるとサイズもぴったりだ。
「それだったらライブの時にしてても違和感なさそうでしょ?」
「うん、ありがとう。…んじゃ優奈にはコレ」
カバンから小さな袋を取り出すと優奈に差し出す。
「えー?あたしは一緒にいてくれるだけでいいって言ったのに」
「お前だって弦だけじゃなかったろ(笑)」
驚きながら優奈が袋を開けると、リングになったピアスだった。
左の耳たぶに2個ピアスの穴を開けている優奈。
「気が向いたら1個だけコレに変えてくれ」
「わぁ…可愛い!」
リングには小さな飾りがぶら下がっていて、そこには小さく小さく「K&Y」と彫られていた。
鼻をすすり始める優奈に
「また泣くぅ」
「今日は誕生日なんだからいいじゃん!」
そのまままた優奈に覆いかぶさられてギブアップさせられる勝也だった。
翌朝、学校について教室に入ると
「おはよー!昨日は祝ってもらった?」
「うん♪」
「あれ?あんたピアス増えてるじゃん。そんな上に開けてたっけ」
「昨日夜中に開けたの。これで勝也の声がいつでも聴けるから」




