206 再結成
「おっはよ~~!」
「おう、おはよ」
「おはよ~」
「わぁ~!前の位置に戻ってる~!」
「朝早くからJunが1人で全部戻したんだって」
「配置だけじゃねぇぞ、電気も水道も全部使えるようにしといた」
「お、もう水道使えんのか!」
「てめぇまさかまた水風船持ってきたんじゃねえだろうな」
みんなのテンションも高い。
久しぶりに集まったこの懐かしい空間はやはり居心地のいいモノだった。
するとそこに、ついにKouが蘭を連れて登場した。
「おはよ~!」
「…お…お邪魔しま……わぁ、映画の中みたい!!」
「蘭、リアクションが初めて来た時の優奈と全く一緒(笑)」
「え~そうだっけ?」
この身内しか入れない溜まり場に初めて来た蘭だが早くもみんなに大爆笑される。
「あ、そーだ。朝からここの準備してたからまだ買い物行ってねぇんだよ。肉とか酒とかみんなで手分けして…」
「はーい!」
「優奈は留守番!」
「え~!!なんでぇ?!」
「あんたバカなの?『安藤優奈』が普通にスーパーなんて行ったら大騒ぎになるに決まってんでしょ」
「ちゃんと変装するもんっ!」
「ダメダメ、あんたは大人しくここで火ぃ起こしたりお皿洗ったりしときなさい」
「やぁーだぁー-っ!!」
子供の様に駄々をこねるも結局聞き入れられず、買い物は男連中が分かれて担当し女性陣は準備のために残る事になった。
以前は前日のライブのギャラから出していたためお金がかかることは無かったのだが
「昨日の披露宴代がだいぶ余っちまったんだ。ホントは全部Syouに祝儀代わりにやろうと思ってたんだけど今日の分ぐらいそこから出してもバチ当たんねぇだろ」
酒担当と食材担当に分かれてそれぞれお金を預かり、Junの家にある車を借りて買い物に出かけた。
残された女子達は久しぶりに使うお皿やコップなどを洗ったりバーベキューコンロを出してきて火を起こしたりと準備を始める。
と、蘭が嬉しそうに
「Kouさんからここのバーベキューの話はよく聞いてたんだ。毎回最後は平蔵さんが大暴れして大変な事になるんだって」
「ライブの次の日はよっぽどの事が無い限り毎回これだったしね」
「いいなぁ~、こんな楽しい事してたんだぁ」
その会話を聞いていた紗希。
「でもこれからまた復活するんだよ、今度は蘭も含めてね」
「…なんか今でもここにいるのが信じられないんです。あたしがこんな身内だけの集まりに呼んでもらえるなんて」
「だってアンタも身内じゃん」
「…え…」
「いくらKouの彼女になったからってウチらの中で1人でもいい顔しない人がいたとしたらそれは身内じゃない。アンタだからみんな喜んで受け入れたんだよ」
「…そ…そんな…あたしなんて…」
「みんな言ってたもんね、あんな最高の組み合わせなのにまだ付き合ってないのがおかしいって。ひょっとしたら蘭はその気無いのかも…とか」
「そんな!…あたしだってずっと…」
「ま、Junは別としてKouに彼女がいないのはずーっと不思議だったもんね。残念ながら男としてすっごいカッコいいし」
「蘭なら認めるよ。Kouの彼女としても新しく増えるウチらの身内としても文句ない」
めずらしく蘭の目からはどんどん涙が溢れ出てくる。
蘭にとってもこの『姉達』の優しさや思いやりは特別なモノだと感じたようだ。
だが優奈は
「でもあたしは毎回参加するのは難しいかなぁ」
「そりゃしょうがないでしょ、ライブだって滅多に来れないんじゃない?」
「あ~ぁ、やっと『再結成』って夢が叶ったのに…」
優奈の発した『再結成』と言う言葉でみんな黙ってしまった。
しばらくの沈黙の後
「優奈ぁ…ホントにありがとね」
「え?」
「アンタがあの時叫んでくれなかったら再結成してなかったと思う。あたしにはあそこで『ブランカ』って名前を出す勇気は無かったから」
「勝也がライブ前にスピーチした時『あのバンド』って言い方したでしょ?…あ、もう名前も出しちゃダメなんだって…ちょっと寂しい気分だったんだ」
「あの後も誰もその名前は出さなかったし」
「あたしホントに無意識で、口が勝手にしゃべっちゃったぐらい自分でもビックリしたんだ。でもこれで再結成って夢が叶うんならどれだけみんなに怒られてもいいやって」
「まぁ怒る人いるはず無いけどね」
「勝也はなんか言ってた?」
「ん………泣いてた」
「えっ?!」
「帰り道全然口聞いてくれなくて家帰った後も部屋から出て来なくて…スッゴイ怒ってるんだと思って謝りに行ったら1人であのランコア見つめてたの。それで…『これでやっとまた思いっきり弾ける』って」
「……………」
みんなあのFINALでの勝也の涙を思い出していた。
そしてこの再結成で優奈にだけ見せた涙。
勝也にとってどれほどブランカが大事な存在だったのかが手に取るようにわかる。
「あいつ世界にまで出といてあれでもまだ思いっきりじゃなかったんだ…」
あの男はどこまで進化するのか、身内でありながら少し寒気も覚えた4人だった。
買い物に行った男連中が続々と帰ってくる。
専用にしていた大きな冷蔵庫が満杯になる程の大量の酒と、これはどう考えても食べきれないだろうと思われるほどの食材。
やはりこの男達は加減と言うモノを知らなかったようだ。
野菜を切ったり肉を串に刺したりギャーギャー騒ぎながら準備しているとSyouと涼子が到着した。
「おはよー!みんな昨日はありがとな」
「ホントに最高の披露宴だった!」
「お、新婚さんじゃん」
「昨日はさぞかし『新婚初夜』ってヤツを…」
久しぶりに涼子とみぃの同時張り手、しかも今回は紗季の回し蹴りまでが平蔵にヒットする。
大爆笑になりながらふと蘭に目を向けたSyou。
「おー蘭!やっと来たか」
「あ…は、はい!」
「昨日からちゃんとKouの彼女になったんだもんね」
「聞いたよ。こんな辛気臭い男よく今まで待ってあげたねぇ」
「あの…あたしなんかまで呼んでもらってありがとうございます。よろしくお願いし…」
その挨拶に涼子の目がギラッと光る。
「あ!…ちょっ…」
優奈が言いかけた時にはすでに紗季によって蘭が羽交い絞めにされていた。
「…え?!…え?!」
次の瞬間涼子とみぃに両脇を思いっきりくすぐられる。
「きゃああああっっ!!!!ちょっ!…なにぃぃぃ???ダ、ダメェっ!!!」
「ごめぇん…この人達、身内に敬語使われると異常に怒るの。言うの忘れてた」
「もっと早く言ってよぉぉぉぉ!!!ごめんなさいぃぃぃぃぃ!!!」
ソファにグッタリ倒れこむまで散々いたぶられた蘭だった。
それから3年振りのバーベキュー大会が始まる。
開始早々からどんちゃん騒ぎになり、お腹がよじれるほど笑い続け、こっそり水風船を買いに出ようとした平蔵をみんなで押さえつけたりしながら宴会は夜になるまで続いた。
コンロの火もくすぶり始めた頃
「あ!涼子、せっかく持ってきたの渡してねぇじゃん!」
「ホントだ…忘れてた(笑)」
大きな紙袋を持ってきていた事を忘れていた2人。
急いでその袋を開けると一人ずつ名前の書いてある箱を渡していく。
「ん?何コレ」
「俺達からの御礼だ。あんなすげぇ披露宴してもらったから…ま、引き出物だな」
「なぁに気ぃ使ってんだ気持ちわりぃ」
そう言いながらみんなで箱を開ける。
中身はそれぞれの名前が入ったステンレス製のタンブラーで
「へぇ~、こりゃSyouのセンスじゃねぇだろ(笑)」
「またこれからここで飲み会も多くなるし、ここ専用に置いといてもいいな」
そのタンブラーは今までのファミリーに加えて蘭にも手渡された。
「え…あたしも…?」
「昨日Kouから電話あったの、蘭と付き合う事にしたって。っていうか元々最初から蘭の分も作ってあったしね。いつかこうなる事は分かってたから」
「…え…」
またもや大泣きする蘭。
「蘭ってこんなによく泣く人だっけ」
「お前が言うなっ!!」
優奈の発言に大爆笑が起こったものの、そこから話はついに本題に入る。
「いつ頃から動ける?」
「半年もありゃぁ今入ってる仕事は片付くぞ。Banは?」
「俺もツアーが2か月後には終わるしその後はレコーディングが3本だけだ」
話の内容は間違いなくブランカの再始動に向けてだった。
途端に女性陣は口を閉じる。
「JunとKouは?」
「ウチはとりあえず解散って形だけど、みんなその後はまた一緒にやるってさ。最後に1本だけツアー組もうとは思ってる」
「ウチもみんな送り出してくれた。これが最初から一番望んでたカタチだって。でもやっぱ俺も最後にツアーやって終わりたい」
「問題は勝也か…」
みんな相当の知名度になっているミュージシャンばかりだが、やはり海外にまで進出している勝也は別格と言える。
しかしこの男は飄々とした顔で
「俺もあっち抜けるから大丈夫だよ?」
平然と答えた。
「お前そんな簡単に言うけど…」
「ブランカやるのに俺だけ仲間外れはヤだ。確かに『あとは勝手にベース探してくれ』ってのは無責任すぎるから代わりのベーシスト紹介しようと思ってんだ」
「代わりってまさか…優奈?」
「そんなことしたらネットが大炎上するって(笑)…晋平だよ、あいつならひょっとしたら俺よりあぁいうジャンルに向いてるかもしれないし」
「晋平ってお前の跡にJUNCTIONのベース弾いてたアイツか」
「確かにいいベーシストだよな」
驚いた顔の蘭が優奈にヒソヒソ声で
「ちょっと…晋平だって…」
「あたしも今初めて聞いた…」
「明日メンバーにはちゃんと話してくる。今決まってる分とその先の予定もあるかもしれないけど、俺も半年後には絶対間に合わせるから」
これで期日が決まった。
あと半年すればいよいよ伝説のバンド・ブランカが再始動する。
それを目の当たりで聞いた優奈は
(…ヤバ…鳥肌が止まんない……)
長文読んでいただきありがとうございました。
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