205 ブランカ
『ウオオオオオォォォォォォッッッ!!!!!』
Syouが立ち上がった途端、客席のボルテージは早くもMAXになった。
ゆっくりステージに向かって歩くとヒョイッとその1mほどの段差に飛び上がる。
Syouがついにセンターマイクの前に立った。
ステージ上から客席を一周見渡すとそのまま後ろを振り返り
「…一夜限りの復活ってヤツか」
マイクを通してそう語りかけたものの、メンバーからの視線は
『……は?』
といったモノだった。
それが何を意味するのか…
ずっと鳴り続けていたBanのバスドラムがさらにその音量を上げ、メンバー達の煽りもさらに大きくなっていく。
「おい……だってお前らはそれぞれ…」
その問いかけにもメンバー達は少し口角を上げただけの笑顔で答える。
呆気にとられたSyouに向かってさらに煽りは加速する。
(…お願い…夢なら醒めないで…)
肺が苦しい。
心臓が口から飛び出そうだ。
目に涙を一杯ためた優奈達3人はその視線だけの会話をしっかりと理解した。
しばらく無言のまま見つめ合うメンバー達。
全員の眼差しの意味を理解したSyouが
「…後戻り出来ねぇぞ」
「今度は…解散の約束なんてしねぇぞ」
語りかけるたびに大きな煽りで答えるメンバー。
そしてステージ上から
「涼子ぉ…2人っきりで静かに暮らそうなんて言っちまったけど、こいつらが約束守らせてくれねぇみたいだわ」
その言葉に目から大粒の涙をボロボロと流しながら何度も何度も大きく頷く涼子。
それを確認すると
「またこの5人…いや、今度はKouも逃がさねぇ。メンバー『6人』…」
最高潮に達したメンバー全員の煽りの中
「今日からもっかい…『ブランカ』だあぁぁぁっ!!!!!」
Syouの絶叫と共にBanのハイハットカウントが入る。
そしてあの懐かしい爆発音が奏でられた。
その曲は、あのFINALライブの最後に演奏したブランカの代名詞『WILD SIDE』
解散したあの日と同じ11月3日。
招待客が観客へと変わり、ついに伝説のバンド『ブランカ』がここに復活した。
あの頃のライブさながらの盛り上がりを見せる中、勝也が大きく足を開いて腰を落とした懐かしいプレイスタイルを見せる。
解散以降一度も見せたことのなかった本気モードだ。
さらに圧巻だったのはその息の合い方。
昨日も一緒にプレイしていたんじゃないのかとまで感じさせる3年振りとは思えない完成度の演奏は、披露宴会場を一瞬にしてライブハウスに変えてしまった。
そして何よりもこの男達の幸せそうな顔。
普段見せる笑顔とは全く別の、本当に心から楽しんでいるあの懐かしい表情だ。
全員がステージ際まで押し寄せてオールスタンディングのライブの中、優奈、みぃ、紗季、そして涼子は立ち上がる事も出来ずただただ大粒の涙を流している。
たった今目の前でブランカが復活した。
それは4人がずっと願っていた共通の夢だった。
その信じられない光景に腰が抜けてしまったかのように動けないでいた。
そこから先はほとんど覚えていない。
最愛の彼氏が一番戻りたかったあの場所で自分にも向けた事の無い最高の笑顔でベースを弾いている姿を呆然と見ていた優奈。
たった1曲だけの復活ライブは気づけば最後のSyouのシャウトで終わっていた。
大熱狂の観客の前でその演奏を終えると、無言のままそれぞれが楽器を下ろす。
そして何故かステージから降りて楽屋へ向かって行った。
通りすがりに平蔵が
「悪い勇太。ちょっとだけ繋いどいてくれ」
進行用のタイムテーブルをポイッと渡し6人は無言で楽屋へ入っていく。
突然司会を任されて大慌ての勇太を残しウェディングドレス姿の涼子を含めた女子4人も楽屋へ向かった。
楽屋へ入ってもまだ会話はない。
最後に優奈がその部屋に入ると
「あ…あの…ごめんなさい…あたしとんでもない事…」
ボロボロと涙を流しながら頭を下げる優奈。
すると突然Syouに抱きしめられた。
「…え?」
代わる代わる全員から順番に抱きしめられる。
最後にはそれを見守っていた勝也にも。
あの時の優奈の言葉がブランカを復活させた。
それ以降これと言った会話はないままほんの少しだけその空気に酔いしれると
「よっしゃぁ!最後まで突っ走るぞぉ!」
全員が楽屋から出て会場に戻る。
大汗をかきながら何とか場を繋いでいた勇太からマイクを受け取った平蔵が後半の催しを進めていく。
花束贈呈、祝電披露と続きそして最後に新郎の挨拶へと進むと、しばらく客席を眺めた後静かに口を開いた。
「今日は何か凄い一日になっちゃったけど…本当は教会で式だけ挙げるつもりでいたんだ。
けど俺の大事な仲間達がそれを許しちゃくれなかった。
そいつらだけでこんなに最高な披露宴を作ってくれた。
ホントにどれだけ感謝してもしきれないぐらいの…最高の披露宴だった。
今日ここに集まってくれたみんなに…それから今までずっと支えてくれた仲間に、これから涼子を幸せにすることで恩返し出来たらなって思います。
ここにいる全員が証人です。
今日から…またブランカのボーカルとして生きていきます。
本日はありがとうございました!」
盛大な拍手の中、新郎新婦が退場する。
来てくれた招待客に小さな引き出物を一つずつ渡しながら見送ると、これで披露宴は無事幕を閉じた。
2人の両親や親族も来てくれていたため、身内と一緒にSyouと涼子は帰らせた。
夕方から始まったライブパーティーだが、結構遅くまでかかる予定だったため2次会はセッティングしていない。
来てくれた島村や緋咲などと少し話に花が咲いた後、この会を作ったメンバーと蘭や勇太など少数の出演者だけが残った。
全ての片付けを全員で分担して済ませ、搬出して最後に清算する。
Syouの結婚式である事とブランカ復活の祝儀代わりにと、予定していた金額よりも大幅に値下げしてくれた店長。
全員で何度も御礼を述べ、これで全ての予定が終了した。
しかし外に出てJunのハイエースに荷物を積み込む間も、ブランカ復活の話には誰も触れようとしない。
あまり会話の無いまま積み込みが終わった頃
「よぉ、明日久しぶりにウチでバーベキューでもやるか」
「おぉいいな。打ち上げ代わりにやろうぜ」
「優奈は仕事大丈夫なの?」
「うん、明日まで休み取っといたから」
「Kou、もういい加減そろそろ蘭連れて来いよ」
「え…でもそのバーベキューって」
「あぁ、連れてくよ」
「えっ?!」
「明日みんなの前で俺の『彼女』だって紹介する。イヤとは言わせねぇぞ」
「…え……うんっ!!」
「わぁぁ♪」
大粒の涙を流した蘭を優しく抱きしめる優奈。
明日また集合する事になり今日はここで一旦解散となる。
それぞれが手を振って帰宅の途に就こうとした時Junの電話が鳴った。
「あれ、Syouだ…。もしもーし何か忘れモンでもしたか?」
そこから少し会話した後、電話を耳から離し
「Syouが明日みんなでバーベキューでもしねぇかって(笑)」
「ぎゃっはっはっは!!!」
「やっぱこいつら考える事同じだね」
結局全員揃う事になった。
それから本当にみんな別れて家に向かう。
タクシーに乗った勝也と優奈。
だがその帰り道、勝也の口数は極端に少なくほとんど口を開かない。
披露宴は大成功だった。
勝也があのkillerを弾く姿をまた見れた。
そしてあのメンバーでのたった1曲の復活ライブ。
本当なら話したい事は山ほどある。
この帰り道も大盛り上がりで帰れるものだと思っていた。
だが思い出してみれば披露宴終了から今までほとんど勝也と会話を交わしていない事に気づいた。
他の人とは普通に話して笑顔も見せていた。
だが自分とは目も合わせてくれていない。
怒っているのだろうか…
自分達の意志ではなく優奈が発した言葉によってその場の勢いのように決まった再結成。
そんな引き金を引いてしまった自分に対して不機嫌になってしまったのだろうか。
タクシーがアパートに到着する。
無言のままお金を払いそして荷物とベースを持って階段を上がり、夜中で人の気配もないのに勝也はいつもの玄関から、優奈は隣の玄関から入る。
優奈が隣の部屋を通って2人の部屋へ入ると、廊下に荷物の入ったカバンを置いたまま勝也は一人寝室へ閉じこもっていた。
口も聞かないまま寝室から出て来ない所をみるとやはり怒っているのだろう。
勝也のカバンを開け、自分の荷物も開けて洗濯機を回し、スーツを脱いでシワにならないようにハンガーにかけた後下着姿のままソファに腰を下ろした優奈。
どうしよう…
今まで勝也を怒らせたことは数えきれないほどあるが今回ばかりは弁解のしようがない。だがこのまま機嫌が直るのを待っているわけにもいかない。
ゆっくり立ち上がると静かに寝室に向かう。
『コン…コン…』
ノックをしてみるが返事はなかった。
恐る恐るそのドアを静かに開けると、勝也はスーツも脱がないまま体育座りのような恰好で座っていた。
そしてケースから出してスタンドに立てたランコアを見つめている。
「あの…ごめんなさい。あたし…勝手にあんな事口走っちゃって…勝也の気持ちも考えないで…ホントに…ホントにごめんなさい…」
涙声になりながらも精一杯の謝罪のつもりだったが返事はなかった。
「明日…みんなに謝ったら一人で帰ります。そこまでは連れてってください…」
そこまで言うと後は言葉が出て来なかった。
そのままドアを閉めようとすると
「優奈ぁ」
ようやく言葉を発した。
「…はい」
「あの東京のでっけぇマンション、引き払え」
「……え……」
「お前はまた他に部屋探して引っ越せ。もうあんな高い家賃なんか払ってらんねぇ。早いウチに手続きしとけ」
「……なんで…」
するとしばらく黙ったあと
「俺は今日からまた『ブランカのKATSUYA』だ。和装バンドなんかやってるヒマはない。収入も無くなる…ここの家賃とかもまたバイトで稼ぐ生活になる。けど…けどそれでも……」
言葉が途切れ途切れになる。
その声が徐々に涙声になっていく。
背中を向けたままの勝也の肩が震え始めた。
そして何度も何度も鼻をすすりながら
「これでやっと…やっとまた……思いっきり弾ける……」
そこまで言うと大きく肩を震わせて泣き始めた。
「………っ!」
怒っていたのではなかった。
不機嫌な訳でもなかった。
ただずっとその涙を堪えていたのだ。
あのFINALでたった一度だけ見た勝也の涙。
だが今日はあの時のような悔し涙ではなく自分が一番戻りたかった場所へ戻って来れた喜びの涙だ。
たまらず部屋の中に飛び込み、勝也の前に廻って膝立ちになると自分の胸にギュッとその顔を抱きしめて優奈も号泣した。
その優奈にしがみつくように抱きしめ返すと子供のように声を上げて泣き出す勝也。
「…ありがとな……優奈……」
声をかけようにも言葉が何も出て来ない。
「……うん……うん…」
その抱擁は深夜まで離れることは無かった。
長文読んでいただきありがとうございました。
☆やリアクション、コメントなど頂けると励みになります♪




