204 披露宴 ②
全員からの指名で司会役となった平蔵の挨拶。
芸人顔負けの流暢なMCで笑いも取りながら、早くも場を盛り上げていった。
いよいよ新郎新婦の入場へ。
ライブパーティーっぽくハードロックなBGMが流れ主役の2人が登場した。
教会に参列していない招待客にここで初めて涼子のウェディングドレス姿がお披露目され、大きな歓声とそのあまりの美しさにため息が漏れる。
少し緊張気味の新婚夫婦に平蔵からの容赦無い質問やツッコミ。
場の空気もほぐれはじめた頃数々のイベントが始まった。
島村の乾杯を皮切りに大きな大きな特注のケーキカット、祝辞に至ってはその場で平蔵がランダムに指名するという大盛り上がりな進行で、壮大に並んだ爆量の料理の前では招待客同士が笑い合いながら再会を懐かしんでいる場面も見える。
そこら中で大爆笑が起こり至る所でカメラのフラッシュが光っている中、新郎新婦の席は絶えずお祝いを述べにくる人達で溢れかえっていた。
前半のタイムテーブルが終了し一旦フリータイムとなるが、披露宴開始から座る間もなく動き回っていたメンバー達はここから更に大忙しになる。
ついにライブイベントの開始だ。
トップで出るのは勝也と蘭を擁するJUNCTION。
最初は文化祭のシークレットの時のように優奈にも声がかかったのだが、裏方業が忙しいという理由で逃げ切ったのだった。
1番手と言う事もありセッティングはすでに完了している中いつものド派手な衣装ではなくスーツ姿のメンバーがステージに上がると一気に客席の温度が上がる。
ボーカルの耕平が少し挨拶をした後、勝也に挨拶を求める。
さすがにここは断る事無く
「えっと…もう5年以上前になるのかな…。まだ中学生だった俺をバンドの世界に引きずり込ん…いや、導いてくれてからずっと2人には世話になってきました。今こうしてまだベースを弾いていられるのも、Syouクンを始め『あのバンド』のメンバーや散々俺を遠慮なくブン殴ってくれた涼ちゃん達のおかげです。いつまで経っても2人には人として追いつけないと思うけど、今日は精一杯感謝の気持ちを込めて弾きます」
トップを飾る勝也のスピーチは笑いを誘いながらもSyouと涼子の目に涙を溢れさせた。
その直後、勝也が肩からかけたのはフェニックスではなくあのランコア。
この2人の門出に他のベースを選ぶという選択肢は無くその気持ちは見る者全員に伝わり優奈にとっても懐かしくもあり新鮮な光景で、勝也があのkillerを持っただけで大歓声が起きる。
ブランカという名前を出さずに敢えて『あのバンド』と呼んだ事によってそれぞれの元メンバーの中でもブランカはほぼ『伝説化』しているのだと感じた。
さすがにこのドリームバンドのクオリティは安定で、今ではほぼKouの彼女と化している蘭も圧巻の実力を披露する。
JUNCTIONの後にはKouの『flap crony』。
この順番はただ単にKouと蘭ならキーボードをそのままの配置で共有できるからと言う理由だ。
Kouもまた自身がブランカに誘われた時のエピソードを盛り込んだスピーチから始まり、今や全国ツアーまで繰り広げる圧巻の実力を披露した。
そしてJun。
ブランカ解散後、メンバーの中で唯一バンドを結成したこの男も今では全国を廻るほどの人気となりメジャーからの誘いもあるようだ。
最後に平蔵とBanがステージに上がる。
この中で唯一『元ブランカ』が2人同時に演奏するのだが、そこに参加したのはもう一人の『初代ブランカ』Halleyこと緋咲である。
この光景には昔のブランカを知る招待客から大歓声が起き、たった今その事実を知ったSyouと涼子も大喜び。
優奈にとっては初めて聞く緋咲のベース。
だがその実力はさすがあのブランカの初代ベーシストだけあって勝也とタイプは違うものの圧巻の一言だった。
全バンドの演奏が終わるとここでまたフリータイムになる。
後半の催しの準備はもう最初のフリータイムでほぼ終えていた為、ゆっくりと演奏を聞く事が出来た女性軍。
ほっこりした気持ちで隅っこの一角に用意してあったスタッフ用の席に座っていた。
自分達も適当に食べるモノを取ってきて、お酒を飲みながら次の催しに向けて少し休憩していたのだが…紗季がボソッと呟く。
「…なんか懐かしいなぁ」
「ん?」
「ほら見てみ、ステージ」
それを聞いて2人も同様にステージに目を向ける。
後半舞台で色々行うため楽器の撤収中だったのだが、たまたまその瞬間は平蔵、Jun、Kou、Ban、そして勝也だけがいた。
すると優奈の口が無意識に言葉を発する。
「あー!ブランカだ!!」
自分でも驚きの発言…だがそのタイミングが悪かった。
鳴っているBGMはちょうど曲の転換時、そしてザワザワと楽しく盛り上がっていた場内がなぜか一瞬静まったこの無音の状態。
そこに優奈の声だけが響いてしまった。
「ちょっ…バカ!声が…」
「あっ…」
もう遅かった。
その声を聞いた者が全員ステージに目を向ける。
そこにいたのは同じく優奈の声を聞いて驚いた表情の、Syouを除く『元ブランカ』のメンバーだ。
すぐさまBGMは鳴り始めたものの客席の会話は戻らない。
そしてしばらくした頃
「…ホントだ、なんかなつかしー」
「今日はみんな別々だったもんね」
徐々にそこら中で会話が戻り始める。
するとそこで
「そういえばSyouは歌わねぇのかよ?!」
誰かが叫んだ。
おそらく緋咲の声だ。
そこからザワザワとざわめきが起き始めた。
ステージ上にいるメンバー達が驚きから完全に手が止まっている中、ついに観客席からコールが起きる。
『ブランカッ!ブランカッ!ブランカッ!ブランカッ!』
大騒ぎになってしまった。
招待客全員からのブランカコール。
そしてそのコールを聞いて完全に固まっているステージ上のメンバー達。
Syouは腕を組んだまま席に座っているが
(ヤバい…ヤバい…あたしとんでもない事…)
頭の中で究極に焦っている優奈。
紛れもなくこの騒動の発端は自分が無意識に発したあの言葉である。
収集がつかないほど盛り上がってしまった客席。
するとそのコールが大歓声に変わる。
平蔵がたった今巻き取っていたはずのシールドをまた伸ばし始めたのだ。
「うおおおおぉぉぉぉぉぉっ!!!!」
それを皮切りにJunが、Banが、Kouが、そして勝也が今片付けていたはずの楽器をまたセットし始めた。
「ちょっと……ウソでしょ…?」
大騒ぎになった客席の隅で大きく目を見開いている3人の女子。
たった今ステージ上で行われている事が受け入れられない様子だ。
それは涼子も同じだった。
両手で目から下を覆い、その見開いた目でステージ上を見つめている。
「おいおい…何やってんだよ」
一言だけ呟いたSyouは腕を組んだままでその『元メンバー』達の行動を眺めていた。
すると
『ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!』
一番に再準備を終えたBanの、腹の奥底に響くバスドラムの音が鳴り始めた。
そして
『ボォーーーーーーーーーーン!!』
勝也のkillerが大きな音を奏でる。
これだけでも相当な迫力の中、Junが…Kouが…そして平蔵が次々とその音を重ねていった。
あの懐かしい爆発的な音圧はやはり他のバンドとは一線を画している。
信じられない光景だった。
あの『伝説』とまで呼ばれた男達が今紛れもなく同じステージに立ち、音を奏でている。
息をするのも忘れ、ただただその見開いた目でステージを凝視する事しか出来ない優奈。
それはみぃと紗季も同じだった。
自分達が夢にまで見たあの光景が今現実となっている。
全ての楽器が音を発する中PAがバランスを即座に調整する。
そして後は全員がSyouを見つめて煽り始めた。
微動だにしないSyouとメンバー達の間にはアイコンタクトだけ。
すると客席からのブランカコールが変わる。
『ショーオッ!ショーオッ!ショーオッ!ショーオッ!』
その大歓声の中…ついにSyouが椅子から立ち上がった。
長文読んでいただきありがとうございました。
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