203 披露宴 ①
ちょうど撮影の休憩時間にJunからの電話。
「ウェルカムボードのサイズってどれぐらいになった?」
「え~っと縦が60センチで横が120センチ!」
「おいおい、でっけぇの作ったな」
「書きたい事いっぱいあったから自然にそれぐらいに…(笑)」
多忙極まりないメンバーばかりだが、それぞれが連絡を取り合い自分の担当部分の準備を進めていた。
集まれる者は出来るだけ集まり色々な案を出し合って全員に伝えていく。
優奈も普段撮影などで仕事をしているツテを使いウェルカムボードの作成を担当した。
会場はあのいつも出ていたライブハウスを押さえ、ビュッフェスタイルの料理を用意してSyouと涼子の席を中央に配置してあとはフリー席という事にした。
オールスタンディングなら500以上は入るキャパだが披露宴っぽく座席を置くと150席ほどになるそうだ。
Syouと涼子には招待したい人のリストを作るようにだけ伝え、後は当日までこのメンバー以外には極秘事項となった。
「ライブやるって誰とやるの?」
「へへ、JUNCTION集めた」
「え!マジで?!」
「まさか和装のヤツら連れてく訳にもいかねぇし、それにアイツらならSyouクンも涼ちゃんも知ってるしな」
「ヤバぁ…また楽しみがいっこ増えた♪」
Syouの結婚式となると当然ライブパーティーになる。
元ブランカのメンバーもJunとKouは自分のバンド、そして平蔵とBanはメンバーを集めてセッションバンドを作るらしい。
各バンドの持ち時間はそう長く取れないためせいぜい2~3曲ずつだという。
そこで勝也もあのメンバーに声をかけ、全員即答で一日限りの『初代JUNCTION』復活が決まった。
そして優奈も『この日に仕事入れても絶対行かないから!』とマネージャーに食って掛かり、当日とその前後合わせて3日間を強引に休みにしてもらった。
仕事が無い時間の全てをその準備につぎ込み、おかげで勝也と逢えない寂しさも紛れながらいよいよその日が近づいてくる。
11月3日。
雲一つない晴天に恵まれた初秋の日。
優奈の父に送ってもらって教会へ。
男たちは全員キチンとした礼服に身を包み、女性たちも華やかな装いだ。
Syouと涼子の両親や親族が集まる中、友人として呼ばれたのはこのメンバーのみ。
これだけは2人の絶対の希望だったそうだ。
男たちは新郎側、そして女性軍は新婦側の席に分かれてその時を待つ。
大きく鐘の音が鳴り最後部の扉が開く。
神父の後に続いて入ってきたのはタキシードに身を包んだSyou。
その姿は凛々しく、カッコ良かった。
バージンロードの真ん中あたりまで進むと振り返りその入り口を見つめる。
もう一度鐘が鳴り響くと再び扉が開いた。
そこには父親と腕を組んだウェディングドレス姿の涼子だ。
優奈達の目から一気に涙が溢れる。
勝也を追いかけ始めブランカを知ってからずっと問題を起こしたり迷惑ばかりかけてきた自分をずっと優しく守ってきてくれた大好きな涼子。
その『姉』の晴れ姿は想像以上に幸せそうで美しかった。
滞りなく式は終わり、全員が外に出て両側に花道を作る。
ここで初めて勝也の横に並ぶと両側から大量の花びらをかけられながら腕を組んで歩いてくる新郎新婦を迎える。
見ているこっちが幸せな気分になるほど最高にお似合いの2人だった。
全員揃っての記念撮影の後『あの安藤優奈が来ている!』と驚いていた両家の親族たちから写真撮影やサインをせがまれ、恐縮しながら応える優奈に笑いも起きていた。
「じゃーなSyou、時間遅れんなよ!」
「おいおい、ホントに内容何にも教えてくれねぇのかよ」
「だから言ったじゃん、言われた時間に来るだけでいいって」
「けど…」
「ギャーギャー文句言うな。もう準備は全部出来てんだ、観念しやがれ」
「じゃぁみんなとりあえず着替えたら集合なー」
結局Syouは話に参加させてもらえず置き去りにされる。
するとその時
「優奈ぁ!!」
「…ん?」
振り向いた優奈の胸元に飛んできたのは
「わっ!……え…これ…」
「みぃと紗季はもう時間の問題でしょ?一番色々と乗り越えなきゃいけない事多いんだから…アンタにあげる」
花嫁からのブーケ。
それは『幸せの御裾分け』という意味だ。
一気にぶわっと涙をこぼす優奈。
そのブーケを大事に抱えて一旦帰宅する。
アパートに戻ると急いで今度はパーティー用の服に着替えた。
勝也は礼服ではない黒のスーツ、優奈も同じく黒のパンツスーツでお揃いにも見える動きやすい服装へ。
今日は優奈の父がフルで運転手役を引き受けてくれたため移動に困ることは無かった。
荷物も多い事から勝也の車での移動。
ベースを2本と色々詰め込んだバッグを2つ積み込み、それから優奈が依頼していたウェルカムボードを引き取りに行くとそのままあの懐かしいライブハウスに到着した。
「でっかぁ!めっちゃいいじゃん!」
「おぉ、こりゃいいな」
優奈渾身のウェルカムボードはメンバーからも大絶賛だ。
それを受付前に飾ると中へ入る。
「うわ、すっごぉ!」
会場の中は、歴史を刻んできたブランカのボーカルへの店側からのサービスで相当本気の飾り付けがされている。
まだまだOPEN時間までは時間があるがもう既にいつでも開催出来るほどの状態だ。
全バンドのリハまでは時間が取れないため、代表してJunのバンドが音出しをしていた。
すると
「あー!耕平久しぶり~!」
「あ…ゆ、優奈さん、ご無沙汰…してます」
Syouの披露宴で歌うというプレッシャーと、久しぶりに見た優奈のあまりの美しさに緊張が倍増していた耕平だった。
懐かしい面々との再会の喜びもそこそこに今日の優奈達はやる事が山ほどある。
「紗季~!ケーキ届いたぞ!」
「わかったぁ!」
「みぃ~!花束と電報はどこに置いとくんだ?!」
「楽屋のカーテンの裏に隠しといて!」
「Junさん!会費の釣銭はぁ?!」
「俺のカバンに入ってるから出してくれ!」
誰も腰を下ろして休む暇などなく、ついには各バンドのメンバーさえも借り出される。
時間も押し迫り爆量の料理が次々と運び込まれていく頃、後は最終確認待ちとなった。
一旦楽屋に集まったメンバー達。
すでに疲れた表情でそれぞれが椅子に座って一息つくと
「…結婚かぁ」
「もう籍は入れたんだよな?」
「うん、今日の朝一番で役所に出して来たって」
「って事はもう夫婦なんだ」
「なんかまだ実感湧かないなぁ」
「本人達が一番実感湧いてねぇだろ」
「ここまで来たらやって良かったって思ってもらえる披露宴にしたいね」
「大丈夫、ウチらが本気出したらどうなるかあの2人に見せてやろ」
その時、店長がノックして入って来た。
「主役のお2人さん到着だよ~」
「よっしゃいくぞぉ!!」
気合を入れて全員で新婚夫婦を迎えに出る。
Syouと涼子は一旦楽屋に押し込み、教会とは別に用意していたウェディングドレスに着替えさせ、後は呼ぶまでここから出るなという指示だけして閉じ込めた。
いよいよ会場OPEN。
受付はやはり優奈の願望叶わず蘭が担当する事に。
教会には友人を呼んでいない為ここで一気に御祝儀ラッシュとなり、勇太と洋司も急遽借り出される。
優奈も知っている懐かしいバンド業界の人達や、alesisでのバイト時代に知り合った業者の人、一緒に働いていたよしみの姿もあった。
「あ、島村さぁん!」
「おぉ優奈ちゃん久しぶり」
「今日は乾杯の挨拶よろしくお願いしますね」
「それだけどなんで俺なんだ?もっと他に…」
「そこは全員一致で一番最初に決まった事なんで」
あまり大っぴらに顔は出せないものの知り合いを見つけるとスルスルと挨拶に行く。
「ご無沙汰です緋咲さん」
「おぉ、悪いなリハ来れなくて」
「結局音出しはJunさんトコしかやってないんでみんなぶっつけです。今日は楽しみにしてますね」
「なんで今更俺なんか引っ張り出すんだって話だけどなぁ…ま、Syouと涼子の為だって言われちゃ仕方ねぇよ(笑)」
平蔵とBanの急造ユニットに呼ばれたのはブランカの初代ベーシスト『Halley』だった。
続々と招待客が集まってくる。
もう既に会場は開演時間を待たずして早々に満員になりいつでも始められる状態になった。
「よし、んじゃちょっと早いけど始めるか。みんな気合入れてけよぉ!!」
「おぉーっ!!」
ついにみんなで作り上げた披露宴がスタートする。
長文読んでいただきありがとうございました。
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