201 拠点 ②
みんなの希望で部屋の中を案内する。
まずこの大きな大きなリビング。
キッチンも一部屋と言ってもいいぐらいの広さがあり、それから廊下に出ると扉がいくつもあった。
トイレだけでも相当な広さで、そこから廊下に面して二部屋。
一つは本当に使っていないようで優奈の洋服専用。
もう一つは勝也のベース部屋のようだ。
あれ以来killerからの楽器提供も増え今では6本のベースがこの部屋に並んでいる。
お風呂も洗面が二層ある広い脱衣場にガラス張りの浴室は街並みも見えて相当な広さ。
そして突き当りにはメインの寝室。
中は相当な広さで大きなキングサイズベッドにこの部屋専用の浴室まである。
「ヤベぇ、完全に成功者の部屋だ…」
「それは個人的にこんな部屋に住めたらでしょ」
「だって実際に住んでるじゃん」
「勝也がホントにお金使わない人だから仕方ないんだもん」
「凄いなぁ…ここに2人で住んでるんだ」
「あんまりここでゆっくりする事無いけどね。時間がある時はアパートに帰るし」
「今勝也って日本にいるの?」
「うん、いる……あ、そうだ!みんな今日って何時ぐらいまでいれるの?」
「別に終電まで大丈夫だけど」
「なんで?」
「今日打ち合わせだけだから終わったら勝也がここに帰って来るの!」
「マジか」
「みんなでご飯食べて待ってようよ、持ってきてもらったら外に出なくていいし」
「でもせっかく久しぶりに会えるのにお邪魔じゃ…」
「勝也ならどっち選ぶと思う?」
「優奈には悪いけど、もっと久しぶりな分こっちだな(笑)」
もう外は夕暮れが始まっていて、大きな窓から差し込む夕陽はそれだけでもドラマの中にいるような世界だった。
「ピザとかでいいよね」
そういいながらありさがスマホで検索し始めると
「あ、ここの下の階に入ってるお店ならそのまま届けてくれるよ。イタリアンか中華か、お寿司もあるけど何がいい?」
「え~っと…優奈に任せる」
「分かった」
すぐに部屋の電話機を取ると内線のように短い番号で電話をかけ始めた。
「すいません。上の3901ですけどパーティーっぽい感じで適当に。7~8人ぐらい…あ、もうちょっと多めがいいかな。シャンパンとワインもお願いします。それも適当で」
それだけ伝えると電話を切った。
「それだけ?メニューとか…」
「適当に作ってくれるから大丈夫だよ」
「えっと…割り勘で…」
「せっかく来てくれたんだからご馳走しますって」
「でも…」
「大丈夫。案外安いんだよ、ここのお店」
それからベランダに出てみたり大きなソファに座ってみたりとみんな思い思いに過ごした。
トイレを借りては感動し、備え付けの巨大な冷蔵庫を見てはまた騒ぐ。
そうこうしているウチにインターホンが鳴った。
優奈が玄関までパタパタと走っていき、すぐさま
「康太ー!陽平ー!ちょっと取りに来てー!」
呼ばれた2人が玄関まで行くとレストランで見るようなサービスワゴンが何と3台。
「このままリビングまで押してってテーブルに置いたらワゴンだけ持って来て」
「あ…あぁ、分かった」
この量と料理の豪華さに驚きながらも言われた通りにする2人。
リビングで待ち構えていた女子達の顔を見て
「なぁ、今ちょっと優奈が金払ってるトコ見えちゃったんだけど…あれ絶対10万ぐらいあったぞ」
「…え?」
「確かにこの豪華さだったらそれぐらい…」
「そんな…いきなり押しかけたのにそんな大金…」
突然現れた自分達の為にそんな大金を一人で払わせる訳には…
と、後ろめたさを感じていたところ優奈が部屋に戻ってくるなり
「ねー、みんなの靴隠しとこーよ」
「…え」
「勝也のビックリする顔見てみたくない?」
「お…おぉ、いいじゃん」
結局支払いの件に触れるタイミングを逃したままみんなでイタズラを始めるのだった。
「勝也待ってなくていいの?」
「だって何時に帰ってくるか分かんないし、それに終わったら電話かけてくるから大丈夫だよ。先に始めよ」
人数分のグラスを出し、陽平に栓を抜かせてシャンパンで乾杯した。
パーティー風にと注文したイタリアンはどれも色とりどりの豪華な皿で
「ウマぁっ!こんなの初めて食った!!」
「普通そういうのってお箸で食べるモンじゃないと思うんだけど」
「勝也だっていつも『箸くれ』って言うよ」
「陽平も(笑)」
「あー!そういえばアンタ達ってあれからどーなってんの?」
「え…なんで優奈が知ってんだよ…」
「高3の時のバレンタインにあげたヤツ、優奈んチで作ったって言ったでしょ」
「そうそう、あん時についポロッと(笑)」
「なぁんだ結局みんな知ってたのか」
「おかげでついに独身はあたしだけに…」
「みさも専門学校でカッコいい人見つけたって言ってたじゃん」
「…あいつは顔だけだった(笑)」
久しぶりの身内ノリは本当に楽しく、気づけばみんなお酒も進んでいる。
その時
「あ!ちょっとみんな静かに!」
優奈のスマホが鳴った。
一瞬にして会話が止まり、みんなシーンとなる中
「もしもし。あ、終わった?…うん…うん、どれぐらい…30分ね、わかった。じゃあ気を付けてね~」
優奈が電話を切った途端に全員からため息が漏れる。
「別に息まで止めなくてもいいのに(笑)」
それからの30分、妙な緊張感を感じながらみんながその時を待つ。
そしてついに玄関の方からガチャッ!と音がした。
全員の会話が止まり、そして静かに気配を消していると
「ただい……えっ?!」
「おっかえり~~!!!」
「なっ……なんだぁ?!?!」
「ぎゃっはっはっはっは!!!!!」
真ん丸な目をした勝也を見て大爆笑になった。
「どしたぁ?!なんなんだよ!」
「たまたまこっちまで来たからって連絡くれたの」
「お邪魔してまーす!」
「でも…靴とかなんにもなかったぞ?」
「隠しといて驚かそうと思ってな」
「ほほぉ、やってくれるじゃねぇか」
満面の笑顔になった勝也。
持っていたバッグをソファに放り投げると優奈の隣に座り
「久しぶりだなぁ」
「ビール飲む?」
「何か知らねぇけどその小洒落たボトルのヤツでいいよ」
シャンパンを注ぎながら
「なんかもうちょっと持ってきてもらおっか」
「まだこんなにあんじゃん、これでいい」
「でもみんな食べ始めちゃってるけど…」
「別に箸つけたからって味は変わんねぇだろ」
こんな部屋に住んでいるからと言ってもやはり勝也も何も変わっていなかった。
ようやくみんな揃った中でまた乾杯し、宴はどんどん盛り上がっていった。
そこそこの時間が経った頃
「ちょっとぉ寝ないでよ?!」
ふと見ると康太の目がトロンとしてきている。
「アンタここドコだと思ってんのよ、地元じゃないんだよ?」
「こいつは毎回恒例だな」
「ホンット信じらんない。こんなの連れて帰る自信ないし…」
するとまるでそれが当然かのように勝也が
「明日大丈夫なら泊まってけよ」
「え?」
「康太はそこのソファにでも寝かせとけ。4人ぐらいなら確か布団あったよな?」
「うん、こないだお父さん達が来た時のがある」
「でも急に来たのにそんな…」
「今更気ぃ使うなよ、気持ち悪りぃ顔して」
「ちょ…顔は関係ないでしょぉぉ?!」
勝也と千夏のこのやり取りも高校の時のままだった。
結局みんな泊めてもらう事になり、康太は巨大なソファに転がされて一瞬で眠りについた。
それからまた宴は続き、もうかなり夜も更けた頃
「やっぱこっちでもタバコはベランダか」
「ん?あぁ、優奈が煙イヤがるからな」
ベランダでタバコを吸っていた勝也の横に陽平がやってきた。
勝也がスッと出した煙草を一本取ると火をつけてもらう。
そしてキラキラ輝く夜景を2人で見ながら
「しかしすっげぇトコだな」
「こんな広いトコいらねぇっつったのによぉ、経費使わなきゃダメだからとかなんとか…ったく」
「そんだけめちゃくちゃ稼ぐからだろーが」
「そんなの知らねーよ、いくら貰ってるとか」
「未だに自分の稼ぎ知らねぇの?」
「知らない」
「ホンットお前は昔から変わんねぇな」
それからしばらく話した後
「あのさぁ、さっき食った晩メシの事なんだけど…」
「ん?」
「あれ、優奈が1人で払っちゃったんだよ」
「…だから?」
「いや『だから』じゃなくて…いくらなんでもあんな金額奢ってもらう訳には…」
「優奈がそうしたかったんだからいいじゃねぇか」
「そんな…10万以上払ってんだぞ?」
「アイツの性格はお前らもよーく知ってんだろ?優奈はそんな事で見栄張ったりカッコつけたりなんかしない。遊びに来てくれて嬉しかったからそうしたんだよ」
「けど…」
「俺と優奈にとってお前らは特別なんだ。こんな関係は金で買えるモンじゃない。だからこそお前らを精一杯もてなそうとしたんだ、素直に『ご馳走さん』って言っとけ」
あの卒業式の日の最後に勝也が言った言葉を思い出した。
『お前らは俺の宝物だ』
その想いは優奈も同じだった。
みんなより稼ぎがあるから奢ったのではなく、彼女なりに大事な仲間をもてなしたかったのだという心を知った陽平。
「やっぱお前ら2人はすげぇよ」
「は?別になんにも凄くなんかねぇよ」
「ま、お前ら本人が気付くことは一生ないだろうな」
ギャーギャー騒ぎながら4人分の布団を敷いている女子達。
その光景を窓越しに見ながら
「いくらこっちにいる方が多いったって、こうやって顔合わせりゃ一瞬であの頃に戻れる。それがホントの親友ってモンだろ」
長文読んでいただきありがとうございました。
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