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198 約束

「え~!今日帰るんですかぁ?!」


「そうだよ?一応今日まで臨時休業にはしてあるけど明日は朝早くから仕込みしないと」

「そんなぁ、全然ゆっくり話して…」


「もう会えなくなる訳じゃないんだから」

「だってぇ~…」


家に向かう道中でその事実を知った。

今日の夜はまたゆっくりみんなで宴会だと勝手に思い込んでいた。


「ホントは今朝来る予定だった所をウチが無理言って昨日来てもらったんだよ」


「せっかく明日も休みなのにぃぃ!」


ワガママを言い出す優奈。

その気持ちは勝也の両親も喜んでいるのだが、明日は予約が入っているためキャンセルする訳にはいかないのだった。


「また休みが取れたらゆっくり帰ってらっしゃい」

「ぶぅぅ~…」


「って訳で俺はちょっと一休みしたら車で送ってくからお前は久しぶりに実家でゆっくりしとけ」


「ええぇぇ~っ!勝也も行っちゃうのぉぉ?!」

「そりゃそうだろ、車の方が早いし」


一気にふて腐れる。

卒業式にも無事参加し、滅多にない休みをこのままみんなで楽しく満喫できると思っていただけにものすごい落胆ぶりだった。


すると行き道は勝也の父が運転してくれたからと、帰りのハンドルを握っていた父が


「明日の朝には帰ってくるんだぞ」


「え?」


「本当は今日の君らの人気ぶりを見て一緒に写真を撮るのは無理だろうと思ってた。けど勝也君のおかげで私の夢が叶った。なら今度は私が優奈の望みを叶えてやろう。2人で御両親をしっかりと送り届けてきなさい」


「い…いいの?!」


「その代わりさっきも言ったが明日の朝には帰ってくるんだぞ?2人一緒に」

「うんっ!!」


運転中のため抱きつくことは出来なかったが、優奈の満面の笑顔はそれを十分伝えていた。


それならこのまま6人でという密かな思いもあったが、そこまでワガママも言えない上に勝也の両親も気を使ってしまうだろう。

今は両親ともう少し一緒にいられるという幸せと、勝也と少しでも長くいられることに満足した。


安東家に到着すると、今度はいつ会えるか決まっていない事を理由にどうしてもお茶ぐらいは飲んで行けと両親に勧められて一旦家に上がり込む。

その間に着替えを済ませようと思っていた優奈だが


「ああぁぁ~っ!」


「なんだ、今度はどした?」

「よく考えたらあたしのスマホで2人の写真撮ってないっ!!」


「…は?」


「みんなとばっかり撮って…最後の制服姿で2人で撮ってないいっ!」


急に大騒ぎし始める。

勝也と優奈のツーショットが欲しいと色んな人には撮られたものの、自分のスマホにはそれが一枚も残っていない事に気付いたのだ。


「誰かに送ってもらえばいーじゃんか」

「誰かってもう誰に撮られたのかわかんないもん!」


「うるせぇヤツだな全く…」


そういうとスマホを取り出し電話をかけ始める。


「あ、耕平。あのさ、悪いんだけど今日俺たちのツーショット撮ってくれたヤツ探して貰ってきてくんない?『ウチの人』が自分のスマホで撮るの忘れたって大騒ぎなんだ。

…見つかんなかったら?なかなかマジでキレてらっしゃるから覚悟しといた方がいいぞ」


突然無理難題を耕平に押し付ける。

だがその会話の『ウチの人』という部分で優奈の機嫌は少し穏やかになった。


そして優奈にキレられる事を恐れた耕平からは、必死で探し回っただろう何枚もの2人の写メが後日無事送信されてきたのだった。


仕方なく家の前で2人の写メを撮る。

それで一旦気を静めた優奈はようやく服を着替えに部屋に入った。

3年間お世話になった制服を綺麗にハンガーに吊るし、下着姿のままでしばらく眺めていると


『コンコン!』


部屋のドアがノックされる。


「はぁい」


部屋に入ってきたのは勝也だった。


「なんだよ、まだ服着てねぇのか」

「ちょっと制服眺めてたの」


制服姿の勝也と下着姿の優奈。

2人でそれを眺めていると


「なぁ…お前のネクタイ俺にくれない?」


「え?」


「お前が3年間…まぁ最後の方はあんまり着れてなかったけど、ずっと使ってきたネクタイだろ?大事にするから卒業記念に俺にくれよ」


「…え…でも…」

「ダメ?」


「いや、そうじゃなくて…」

「なんだよ」


「今勝也がしてるの…それあたしのだよ?」


「…は?」


「勝也が免許の合宿行ってた時、1人で寂しいから勝也のネクタイしてたの。それで結局そのまんま…」


「…なに?んじゃどれが俺のでどっちがお前の…」

「えっと…今勝也がしてるのがあたしのでこっちが元々勝也の…」


「あ~!もぉわかんねぇ!なんでお前はそういうややこしくなる事を!」

「2週間もあたし置いて行っちゃうからでしょぉ!」

「取り替えたんならまた元に戻しとけよ!」

「そのあとバタバタしてたんだもん!」


結局言い合いになる。

その声は1階のリビングまでハッキリ届いていて


「あ~ぁ…またやってる」

「いつまでたってもずっとあのまんまなんでしょうね、あの2人は」


「だからやっていけるんだろうな」


最終的に2本並べてアパートに飾るという事で話は落ち着いた。


それから両親の荷物を取りに行くため家を出るが


「この2人の休み待ってたらいつになるかわからないから今度主人と2人でご飯食べに行きますね」


「いつでもいらしてください。あ、もちろん部屋は用意しときます」


別れを惜しんでアパートに向かう。


卒業式用の服から普段着に着替えた両親とようやく制服を脱いだ勝也。

そして少しして4人で出発した。


運転は勝也で助手席には優奈が乗り、両親は後ろでゆったりしている。

この光景も優奈がいつかしてみたいと願っていたモノだ。


道中の店に入り4人でご飯を食べ、そしてほどなくして実家に到着した。


夜に帰るか明日の朝早くに出るか、どっちにしても少しはゆっくり話も出来るだろうと思っていた優奈だったが


「さて、んじゃ帰るか」


「…え?」


家に上がり込んで1時間も経っていないというのに帰ると言い出す。


「なんで?お父さんも帰るのは明日の朝でいいって…」


「ちょっと寄りたいトコあんだよ」

「え~!もうちょっとゆっくり…」


「早く来ねぇと置いてくぞ」


「もおぉぉぉ~!」


一瞬本気で自分だけ残ろうかとも考えてしまったが渋々勝也と共に実家を出る。

恒例の母との抱擁の後、助手席に乗った。


窓を開け両親が見えなくなるまで手を振ると


「寄りたいトコってこんな日にドコに…」


「ホントは俺一人でオヤジとお袋送ってくるつもりだったから、夜にお前連れ出して行こうと思ってたんだけどさ。一緒に来たからそのまま帰りに寄ろうかなって」


「…え?」


最初から優奈をその場所に連れていくつもりだったという。

行き先がどこなのかは分からないもののそれを聞いて少し大人しくなる。


どこに向かっているのだろう…だが勝也がそういうのなら自分は黙って乗っていればいい。


しばらくすると車は優奈にも見覚えのある景色の中を走り始めた。

そしてその道の先は…



もう辺りも日が落ち始め空はオレンジ色になっている。

その中でコインパーキングに車を停めた。


ここは勝也にとって…いや、優奈にとっても特別な『あの海』だ。


無言のまま車を降り、そのまま海岸べりに出るとゆっくりと散歩するように歩き始める。

防波階段の真ん中あたりまで来ると、どちらからともなく歩くのをやめて腰を下ろした。


「久しぶりだね」

「あぁ」


ここに来るのは去年の夏、アメリカ帰りの勝也と2か月ぶりに再会し彼氏として取り戻したあの日以来だ。


水平線の向こうは綺麗な夕焼けで幻想的に見える。

そんな中しばらく無言で海を眺めていると


「明日の夜出んのか?」

「ううん、あさっての朝で大丈夫」


「そっか…次はいつ逢えるんだろうな」

「…うん」


「もう学校は卒業しちゃったからこれからはホントに仕事メインだもんな」


「けど今までみたいにちゃんと帰って…」

「これからは俺も土日だけって訳じゃなくなるんだぞ」


「…あ…」


「今まで以上に時間は合わなくなる。何週間も顔見れない時だってくるだろ。それでも耐えられんのか?」


「あたしは耐えられる!去年の夏の事思えば…今はちゃんと勝也の彼女だって胸張って言えるもん!」


「そっか」

「…なんでそんな事言うの?勝也は耐えてくれないの?」


「お前、この先もずっと俺の彼女でいるつもりかよ」


「…え…」


勝也の言っている意味が分からなかった。


自分はずっと勝也の彼女でいる事は許されないのだろうか。

このまま社会人になってお互い忙しい生活になれば、いつかこの生活は終わりを迎えるという事なのだろうか。


「…別れ話するために来たの?」

「そうじゃねぇよバカ」


「じゃあなんでずっと彼女でいちゃダメなの?」

「ダメだから」


「なんでよ!理由は?!」


優奈の声が徐々に大きくなる。

しばらく黙った後小さくため息をつくと


「…いつになるかはわからない。まだまだこれから始まるトコだしどんな未来になるかもわからない。けどいつか俺にちゃんと自信がついてお前の人生背負っていけるって思えたら、その時は…」


「……え……」


「その時は……『彼女』やめて俺の『妻』になれ」


「……っ!!」



プロポーズだ。



今ここでという訳ではない。

ただいつか必ずその日が来るという誓いをしてくれたのだ。


驚きのあまり言葉も出ず真ん丸な目をして勝也を見つめる。

ジッと海を見たままの勝也の横顔は少し照れ臭そうだった。

そして


「それがイヤだったらずっと『彼女』のままでもいいぞ」


途端に大粒の涙が一気に溢れだす。


「ふえええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ~~ん…………」


さすがに号泣だった。

勝也にしがみつくように抱きつき、大声を上げて泣いた。


「まだ指輪も渡さないし婚約者とも呼ばない。けど…お前の旦那の席は俺が予約しとくよ」


生まれて初めて受けたプロポーズ。


その相手は…

高校1年の時に自分から好きになり何度もくじけそうになりながらも必死に追いかけ続け、色んな苦労を乗り越え数々の崖っぷちも乗り越え、自分の全てをぶつけてきた最愛の男だった。


あの時自分が選んだ道のせいで別れを選ばなければならなくなった。

あのままベースも学校もやめてどこかへ消えてしまっていたかもしれない。


必死の想いで勝也を見つけ、そして必死の想いで取り戻したこの場所に連れて来てくれたのはこのためだったのだと気づいた。


辺りが真っ暗になるまで優奈の号泣は収まる事無く続いた。

そしてようやく収まると


「ところで返事聞いてねぇんだけど」


クシャクシャに化粧も崩れた顔のまま勝也を見上げて


「…よろしくお願いします」


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