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193 18歳

 少し早めのバレンタインの後、またしばらく逢えない日が続く。


予定通りバレンタイン当日は仕事、そしてそれから3日後には優奈の18歳の誕生日だ。


去年の17歳の誕生日。

もうこれが家族で過ごす最後の誕生日だろうと言った父に対し来年も一緒に祝いたいと言ってくれた勝也。

その言葉通り今年も夜は優奈の実家でパーティーの予定だったのだが


「…え…帰れないんですか?」


「うん、ちょっと急に入っちゃって…せっかくの誕生日だしなんとかしてあげたかったんだけどごめんね」


「そんなぁ…」

「ま、何か美味しいモノでも御馳走するから頑張ろ」


ついに途切れた。

今までお互いの誕生日やクリスマス、正月とイベント事は幾多の危機を乗り越えてでも一緒に過ごせたのだがよりによって18歳の誕生日に逢えない事が決まってしまった。


「そっか、仕事なら仕方ないじゃん」


「でもせっかく勝也が毎年実家がいいって言ってくれたのに…」

「お前が帰って来れる時にパーティーすればいいだろ。卒業式も無理言って空けてもらったんだからここはガマンしとけ」


「え~…当日が良かったぁ~…」


母にも電話を入れ、残念そうな声を聞いて余計に落ち込む優奈だった。


 その日は地方で撮影があり、どう頑張っても仕事終わりに一人で帰ることも出来ない。

いつかは記念日やイベントがあっても仕事で勝也に逢えないという日も来るだろうと薄々予感はしていたがよりによって高校最後、しかも18歳という少し特別な誕生日にそれが現実になるとは思いもしなかった。


事務所のプロフィール等で公表されている優奈の誕生日。

まだ数日前だというのにすでにフライングでSNSなどにお祝いメッセージやDMが来始める。

それを見てさらにどんよりした気分になり素直に喜べない思いだった。


 前日の16日。

その日の仕事を終えてホテルに到着した。

明日は遅くまでかかる予定のためマネージャーが一日早い誕生日としてご飯を食べに連れて行ってくれた事もあり、もう時間は11時を過ぎている。


荷物をベッドに放り投げると上着も脱がないままで電話をかけ始めた。


「おう終わったか」


「うん…」


「何ショボくれた声出してんだよ、往生際の悪いヤツだな」

「だってぇ~…」


「で、帰って来れる日は決まったのか?」


「…あさってだって…もうヤだぁ…」

「んじゃ帰りにちょっとアパート寄れよ」


「…寄るって何?そこに帰るんですけど!」


「そんな怒んなくたって…」


もうすぐ日付が変わる。

せめて18歳を迎える瞬間は電話だけでも繋がっていようとベッドでゴロゴロのたうち回りながら話していたのだが


「あ…ちょっと一回切るぞ?」


「はぁ?!もうすぐ12時になるじゃん!!絶対ダメ!」

「お前にちょっと見せたいモノがあんだよ」


「だったら12時になってからっ!」


「…ワガママだけはどんどん進化してくな、お前」


結局12時を過ぎて


「はい、おめでとさん」


「なぁんか心がこもってないぃ……ありがと」


「んじゃ一回切るぞ?」

「なぁに?何があんの?」

「切りゃぁわかるって」


「ぶうぅぅ……すぐかけてね」


渋々一旦電話を切る。

すると膨大な量のおめでとうLINEやSNSからの通知が入り始めた。


もしここに勝也さえ一緒にいてくれたらこのお祝いラッシュも嬉しいはずなのだが、今は一旦切られた電話を待つ事しか頭にない。

どんどん入ってくる通知をボーっと眺めていると、その中の一つに勝也の名前を見つけた。


「…え?」


たった今電話を切ったはずの勝也からのLINE。

急いでそれを探し出して開いてみると、そこにはメッセージも何もなくミュージックファイルが一つだけ貼られている。


「何これ…」


ファイルの名前は『I for you』…あなたのために、という意味だ。


心臓が大きく音を立て始める。

スマホの音量を上げ、恐る恐るそのファイルをクリックすると


「…え…Junさん…?」


一番近くでずっとブランカを見続けてきた優奈は、勝也のベースだけでなく他のメンバーの音さえも聞いただけで判別できる。

ギターだけで始まるそのイントロの終わり、さすがにドラムの音は打ち込みだがそこに乗っかってきたのは間違いなく勝也のkillerの音だ。


「……っ!」


キーボードは間違いなくKouの音。

そしてさらに入ってきたボーカルの声は…なんと勝也だった。


一気に涙が溢れだす。


フルメンバーではないものの、あの懐かしいギターとベースとキーボードの音が奏で始めた曲は優奈も聞いたことのないバラード。

そしてその歌詞は勝也が優奈と出逢ってから今までの想いを凝縮したような内容である。


間違いない…これは優奈だけの為に勝也が作ってくれた曲だ。


自分の泣き声でその曲が聴こえなくなるほどに号泣し、両手で顔を抑える。


こんな美しいバラードは今まで聞いたことが無い。


そしてその歌詞の中にはっきりと刻まれていた『君を愛してる』という言葉で優奈の涙腺は崩壊した。


何度も繰り返し再生する。

だがそれを聞くたびに同じだけの涙が溢れ出す。


今年の勝也からの誕生日プレゼント…それは今までにも感じたことのない感動だった。


しばらくしてようやく勝也に電話をかける。


「…ふえええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ~ん……」


「その様子だとちゃんと聞けたか」


勝也の声を聞くとまたもや涙が勝手に溢れてくる。

そして優奈が泣き止むまでの間、ずっと勝也も無言のままだった。


やっとの思いで言葉を発することが出来るようになると


「…ありが…とう…」

「へへ、なかなか照れ臭いもんだな」


「…JunさんとKouさんまで…」


「あ、やっぱお前にはバレたか。こないだJunクンとこ行ってたっつったろ?あん時にJunクンとこで録ってもらったんだ。Kouクンのキーボード入れてもらおうと思って一緒に行ったら『俺にも弾かせろ!』だって」


「…あたしだけの…?」


「当たり前だろーが。前にも言ったけどJunクンはバラード作らねぇしさ、『なんでブランカの時にこういうの出して来ねぇんだよ!』って怒られたけど」


「…一生大事にする」


「二度と作曲なんてしねぇからな。それ無くしたらもう知らねぇぞ」


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