192 バレンタイン
勝也も復調して2月に入り少し経った頃、ある夜にありさからの電話が鳴った。
「もしもーし久しぶり~」
「久しぶり!元気にしてんの?」
「元気は元気だよ。寂しさは限界だけどね」
「あ、勝也にも会えてないんだ」
「週に1~2回ぐらいは顔見れるかな…寝顔だけって時もあるけど」
「そりゃ寂しくもなるねぇ」
「じゃなくてみんなの顔見れてないのが寂しいんだってば」
「嬉しい事言ってくれるじゃん」
「で、どーしたの?」
「ん…やっぱいいや。勝也にも会えないぐらい忙しいんじゃ無理だし」
「何よー気持ち悪いんですけど」
「相談したい事あったんだけど会える時間ってないよね」
「会える時間かぁ…今度の日曜日のお昼からでよかったら実家帰るけど?」
「…え…あ、でもそれなら勝也と…」
「勝也はその日仕事なの。夜には帰って来るはずだからそれまでなら大丈夫だよ」
「…ホ、ホント?じゃあその時間ちょっとだけ貰っていい?」
「何よ、水臭い言い方ぁ…(笑)で、相談って?」
「会ってから話すよ。外では無理だろうから家行っていい?」
久々の親友との約束は優奈にとっても楽しみだった。
そして日曜日、午前中に打ち合わせを終えてその足で地元に向かう。
まず真っ先にアパートに寄り予想通り溜まっていた洗濯物を洗うとそれを干して少し掃除をしてから実家に帰った。
部屋着に着替えてゆっくりしていると
『ピンポ~ン♪』
「は~い」
玄関まで迎えに出てきてドアを開ける。
「久しぶり~!」
「わっ!!」
ありさだけではなくみさと千夏もいる。
「みんないるじゃ~ん!!」
「ありさだけなんてそんな抜け駆け誰が許すかっつーの」
「ポロッと口滑らしやがったからね」
「…無条件降伏でした」
久々の集合は一気に優奈のテンションを上げる。
そして家へと招き入れて
「そういえばありさ、相談あるって言ってたけど」
「あ、そうそう。あのさぁ優奈ってよくお菓子とか作ってたじゃん?」
「最近は全然だけどね」
「でさ?もうすぐバレンタインだからなんかチョコ使ったお菓子とか教えてくれないかなぁって」
「そっか、もうそんな時期なんだぁ」
「そんな時期って…アンタ何か準備とかしてないの?」
「勝也に?」
「当たり前でしょ、やっぱ毎年手作りとか…」
「あたし勝也にチョコあげた事無いよ」
「…は?!」
全員目を真ん丸にして驚く。
「…なんで?」
「なんでってあの人甘いモノ食べないし」
「いやけど一応バレンタインっていう…」
「だから毎年その日はカレー作ってる」
「カレーはいつもじゃん」
「だって一番喜ぶんだもん」
「ビターとかなら?」
「ん~、それでも食べないと思う」
みんなキョトンとしていた。
料理も出来てお菓子作りも得意な優奈が勝也にチョコをあげたことが無いという。
「そっかぁ、じゃあ無理か」
「いっぱい買ってきたのにね」
「あ、それ材料だったの?」
見ると3人がかりでスーパーの袋をいくつも持って来ていた。
「うん。でも食べない人に作ってあげてもねぇ?」
「いーじゃんみんなで作ろーよ。あたしが食べる(笑)」
それから4人でキッチンに移動すると、チョコを溶かしたり型を作ったりとゴチャゴチャワイワイ大騒ぎでお菓子作りを始める。
やはり芸能人として扱われみんな気を使っているのが分かる仕事の現場よりこうして親友と騒いでいる方が何倍も居心地が良かった。
ありさが康太の為に作るのは当然として
「みさは誰にあげんの?」
「え~…今から探す」
「なんだよ(笑)千夏は?」
「え…あたしは…えっと…」
「陽平でしょ」
「…えっ?!」
「ちょ…ちょっとぉ!まだそう決まった訳じゃ…」
「え~!!なになに?なんか面白そうな事になってんじゃん!!」
「そ…そんなんじゃ…もぉぉぉぉぉ!!なんで言うのよぉぉ!」
真っ赤な顔でありさを責める千夏。
優奈がしばらくいない間に何やら様子が変わっているようだ。
「蘭も最近Kouさんといい雰囲気みたいだし、なんかあたしだけ取り残されてる気分…」
「そうなんだってねぇ」
「は?アンタがくっつけたんでしょ」
「勝也にも言われたけど全然そんなつもりじゃなかったんだよね~」
「芽衣ちゃんも岳ちゃんがいるし…もし千夏と陽平がくっついちゃったら独身はあたしだけだぁ」
「別に焦んなくてもいーじゃん」
「その余裕の顔がハラ立つ!じゃあ優奈がいない間だけ勝也貸りてい~い?」
「…そうなったら多分あたしは笑顔でみさを殺せると思う(笑)」
完全に手は止まり、ただの大爆笑の女子会のようになっていた。
「あ!チョコ固まってる…」
「ヤバ、ちょっとしゃべり過ぎた」
「もっかいやろ」
それから会話もしつつもう一度最初から始めたのだが
「…やっぱりあたしも一回ぐらいあげてみよっかなぁ」
「いーじゃん!そーしなよ!」
「そうそう、あげるって事が目的みたいなモンだし」
「ホワイトデーは期待しない方がいいと思うけど(笑)」
みんなで作ったバレンタインチョコ。
食べてくれないまでもせめて渡してみたくなった。
夕方になりありさ達は手作りチョコを持って帰っていった。
優奈も綺麗にラッピングした箱とカレーの材料を持ってアパートに向かう。
今日から2月14日までの間に勝也に逢える予定は無いため今日を早めのバレンタインとしてカレーを作る準備をしていた。
慣れた手つきでテキパキとカレーが出来上がった頃
「ただいま~」
「あ、おかえり~」
しばらく逢えていなくても久々に逢ったような挨拶は無い。
それが逆に心地よい気分でもある2人。
キッチンで鍋のカレーを焦げないように混ぜている優奈の肩越しにチョコンと顔を乗せて覗き込み
「やった、久々だ」
「すぐ食べれるから手ぇ洗ったら座って」
言われた通りに手を洗い、それからリビングに入って腰を下ろした勝也。
「…ん?何コレ」
テーブルの上にあった小さな箱を手に取る。
「え?あぁ、一応バレンタインだしと思って作っちゃった。後であたしが食べるからそこ置いとい………え?」
優奈が目を向けるとすでに箱は開けられ、中の生チョコを勝也が一粒食べたところだった。
「…た…食べたの?」
「ダメだった?」
「だって……甘いのに…」
「うん甘かった」
「…食べれるようになったの?」
「い~や?」
「じゃあなんで…」
「甘いモノは嫌いだけどお前が作ったモノは好きだもん」
「……え…」
「手作りなんだろ?だったら『俺にも食べれる』チョコじゃん」
驚きの表情で固まる優奈。
前に言われたことがある。
優奈が時間をかけて作ってくれた物が食べれないはずはないと。
目に涙を溜めて呆然としていると
「おい、カレーが焦げる!!」
「あ!ご、ごめん!」
カレーをよそいながらチラッと視線を向けると
「残りは後で食べよ」
大事そうに箱にフタをしている勝也が見えた。
いつもこの男はどれだけ尽くしてもそれを一瞬で『幸せ』にして返してくれる。
これでまた明日からの仕事を一生懸命に頑張る気分になれた。
(ごめんみさ…やっぱ勝也だけは貸せないや)
心の中で呟く優奈だった。




