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19 海

 明日から新学期が始まる。


冬休み最後の日、アパートで化粧をしている優奈に


「なぁ今日海行かね?」

「海?いいけど…こんな寒いのになんで」

「行きたいから」


「ふーん…じゃもうすぐ終わるから行こっか」


優奈の化粧が終わるといつもより少し厚着をして出かける。


電車を乗り継いでしばらく走ると徐々に視界に海が開けてきた。

海と言ってもドコを指して言っているのか聞かされていない。

ただ勝也と海に行くのは初めてで、それだけでも充分楽しんでいた。


とある駅に差し掛かろうとしたとき


「降りるぞ」

「あ、うん」


夏ならもっと賑やかなのかもしれない駅。

ほとんど人気のないホームを歩くともう潮風の匂いがしてきて


「あ~海の匂いだ」


そのまま改札を抜ける。

車通りはそれなりにあるが歩いている人はそう多くない。


「メシ食いに行こ」


いつの間にか手を繋いでいた2人。

そのままブラブラ店を探すのかと思いきや、通りから一本曲がるとズンズン入っていく。


「ねぇ…ここら辺来た事あるの?」

「あるよ?だから来たんじゃん」


「あ、そういう事だったんだ」


てっきり「海が見たい」という漠然とした目的なのだと思っていた。

そして少し歩いたところにあるカフェに入り、席に案内されると


「ここ結構好きなんだ」


「このお店に来たかったの?」

「いやそういう訳じゃないけど…」


どうやらここも目的地ではないようだ。

勝也と2人で出掛けられるならどこでも楽しめるが、よく思い出してみると今日の勝也はいつもと少し雰囲気が違うような気がしてきた。

それなりに会話もあるし笑顔も見せてはいるが…。


ご飯を食べ終わるとまた海方面に歩いていく。そして通りを渡って海岸に出た。


「やっぱり寒いけど冬の海ってのもいいね」

「…うん」


しばらく海岸を歩くと防波階段に腰かけた勝也。

隣に優奈がチョコンと座ってしばらく海を眺めてから


「…ここ?」

「うん」


「ねぇ、なんかあった?」


「なんで?」

「なんか今日いつもと違う」


「何が?」

「わかんないけど…なんか違う」

「ふ~ん…」


そういうとおもむろに優奈の肩に腕を回しそのまま引き寄せてキスをする。

黙って受け入れる優奈。

そしてその顔が離れると


「どうしたの?やっぱいつもと違う…勝也の方からしてくれる事なんてめったにないじゃん」

「そーか?」


その後しばらく沈黙が続く。ジッと横顔を見つめてくる優奈に


「ここにお前を連れてきたかったんだ」

「…なんで?」



「ここは俺にとって特別な場所だから」



「特別な場所?」


「ブランカに入る時も、お前と向き合おうって決めた時も、康太の件があってブランカを抜けようって決めた時も…いつもここだった」


「…え…」


それだけ言うとまた黙ってしまった勝也。

ここはそう簡単に「特別」と言ってしまえる場所ではない。

今の話を聞いただけでも勝也の人生で大きな決断をする大切な場所のようだ。


そこに自分を連れてきてくれた意図はわからないものの、今ようやくすべてを受け入れてくれている事が実感として伝わってきた。


「…そんな大事な場所なんだ」


「大事ってわけでもないよ、ただちょっと特別なだけ」

「それを大事って言うんじゃないの?」


「あ…そっか」


優奈に向けた笑顔はもういつもの勝也だった。

安心した優奈も笑顔でつつき合ったりし始め、さっきまで感じていた違和感はもう無かった。


「あそこの橋ずーっと行ったら向こうの島に渡れんだよ。行ってみるか?」

「うん!」


車でも渡れるほど結構な距離のある橋だが2人で歩き始める。

真冬の海風は凍えるほどに寒かったが腕にしがみつく優奈の笑顔は絶えることは無かった。


そして橋を渡り切った頃


「ねぇ、なんでここに連れてきてくれたの?」


何気なしに聞いた優奈に


「ん?この先決めなきゃいけない特別な事っていつでも絶対お前が関わってると思ったから。だからお前に海を見せに来たんじゃなくて…海にお前を見せに来たんだよ」


「…え…」


とてつもなく大事な言葉をあっさりと語った勝也。

あまりの驚きに言葉を失いそのまま目に涙を溜め始めた優奈に


「何泣いてんだよ」


「…泣いてない…もん…」


「よし、今年のお前の抱負決めてやる。今年はそう簡単に泣かない事!」

「…だって勝也があんな事言うからじゃんかぁ…ふええぇぇぇん…」


「ありゃ、本気で泣きやがった…。涙と鼻水が凍ってパリパリになるぞ」


「もぉ!…ホントに嬉しかったのに台無しじゃん!」


手を振りかぶって叩くマネをする優奈。そして土産物屋などをブラブラと…後はいつものデートになっていった。


急に思い出したように


「あ!抱負で思い出した!結局初詣行ってないじゃん!帰ってきたら行くって約束だったのに!」


「あ、ホントだ」

「初売りも結局行けなかったし行きたかったトコ全部行けてない…」


「よし、今から全部行くぞ」


大急ぎで橋を渡り、電車に乗ってそのまま街へ繰り出した冬休み最終日だった。


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