184 Kou ③
あまりの潔さに少し感動してしまったKou。
もしそんな話が来たとしてもただ断ればいいだけとも思えるが、そこで自分達の進むべき道にブレーキをかけられるぐらいなら解散を選ぼうというあまりにも単純であまりにも潔い約束だった。
「スタジオで遊ぶぐらいなら一回邪魔しに行こうかな」
「えっ?!」
Syouにしか聞こえていないと思っていたその発言にブランカ全員が反応した。
「よっしゃぁぁ!!!」
一気に盛り上がってしまったブランカメンバーを見て
「あ…遊びに行くだけだぞ?入るなんて言ってねぇからな」
「一緒に音出せるだけで十分だよ。どんな感じになんのか楽しみだなー」
「Kouだけじゃなくてみんな来りゃいーじゃん、お祭りみてぇに(笑)」
本当に嬉しそうなメンバーを見てため息をつくKouだった。
翌週の夜、大所帯となったためいつもより大きなスタジオに集まる。
前もって渡していた音源から、初めてキーボードを入れたブランカの演奏が始まった。
その1曲が終わった頃、その場にいた全員の目の色が違っていた。
「す…すげぇなおい…」
「Kou一人でこんなにブ厚くなんのかよ」
「ギターソロんとこもすっげぇカッコよくなってるし」
「これだよこれ!この厚みが欲しかったんだ!」
子供のような笑顔で楽しんでいるブランカを見て
「ブランカってスタジオでもライブの時みたいな雰囲気なんだな」
「あぁ、ホントにカッコいいバンドだ」
2時間のスタジオは本当に楽しい雰囲気だった。
そしてその後は当然のように飲み会へと発展したのだが…
みんなが相当盛り上がり始めた頃、flap cronyのメンバー同士の会話。
「なぁKou。お前ブランカやってみたくなったんじゃない?」
「…は?」
「俺達から見てもホントに楽しそうだったよ。Kouならブランカにもっと幅を増やせ…」
「ちょっと待てよ、何言って…」
「見てみたいよな、あのブランカのライブでKouが弾いてるトコ」
「あぁ見てみたい」
「そういうつもりでスタジオ入るんじゃないって言っただろ?何をお前らまで…」
実際ブランカのメンバーは一度たりとも今後の事について触れていない。
だがflap cronyのメンバーの方からそれを切り出した。
「俺はお前らと一緒にやっていきたいから…」
「それは分かってるよ。でもお前が一番生かせる道に進んでくれないと俺達が逆に気ぃ使っちまうし…」
メンバー同士での言い合いが始まる。
だがそれを聞いて
「ウチはもうKouを誘ったりしねぇよ?」
「…え?」
「確かにKouのキーボードは最高だよ。俺達がずっと欲しかった音とテクだった。もしKouがフリーだったとしたら、どんな手を使っても欲しいヤツだ。
けど…それ以上にコイツはカッコいい男だよ。自分が信じて選んだメンバーを何よりも大事にする。それは俺達と同じ考えだ。だったら…そんなバンドからKouを引き抜くなんて出来ないよ」
「それに今日来てくれたしな。スタジオで一緒にやれただけでも俺達は充分満足だ。また禁断症状出てきたらスタジオで遊んでくれりゃいいからよ」
「………………」
Kouのブランカに対する見方は完全に変わった。
自分達が売れることを大前提に活動するバンドがほとんどな中、この男達は何よりも仲間を大事にする。
それが喉から手が出るほど欲しいミュージシャンだったとしても、仲間を裏切らせてまで声をかけることはないと言い切った。
しばらくシーンとした空気が流れる。
そしてその後
「俺はflap cronyのメンバーだ。抜けるつもりは無い。これからもこのバンドでこいつらとやっていきたいと思ってる。けど…もしこっちのライブが無い時だけでもいいって言うんなら…」
「え?」
「試しに一回ぐらい…」
「ホ…ホントに?」
「入らねぇぞ?あくまでもサポートってカタチで…」
「うおおおぉぉぉぉぉ!!!!」
Kouが話し終わるのも待たずに雄たけびを上げるブランカ。
「マジかぁ!!ホントに弾いてくれんのかよっ!!」
「すげぇ!絶対音変わるぞっ!!」
「これで怖いモン無しだぁ!!」
子供のような喜びようを見てflap cronyのメンバーは呆気にとられている。
「…ホントはこんなにKouの事欲しかったんじゃん」
そしてそのままサポートとして加入が決まったKou。
鉄壁のキーボードを手に入れた事でブランカの勢いもまた更に加速していった。
それからブランカの解散に至るまでの間、ライブの日程は全てflap cronyへの報告とダブルブッキングの回避確認が絶対義務として続けられていったのだった】
「すごぉい……」
「信頼関係が出来上がってからの加入って強いですよね」
カウンターの上に身を乗り出し、食い入るように話を聞いていた優奈と蘭。
「まぁアイツらじゃなかったら入ってねぇのは間違いないな」
「やってみたら楽しかったでしょ」
「そりゃ楽しかったけど…Junの作る曲はすっげぇ奥深いし要求してくる内容もすげぇから結局キーボード3連にするハメになっちまうしよ。平蔵の作る音なんて『その音ギターで出されちまったら俺のいる意味ねぇじゃん』ってぐらいもの凄い事してくるし、Banのドラムもこっちがリズム外したら殺されるんじゃねぇかってぐらいドス効いてるし、おまけにSyouのあの声だろ?最後まで『俺なんかでいいのかな』って思ってたよ」
Kouも例にもれず『自分が一番ヘタクソだ』病である。
「あたしはブランカを知った時からKouさんがいるのが当たり前だったから、なんか不思議ですね」
「でも…Halleyが抜けて勝也が入った時、1回だけヤメようとした事あったんだ」
「…え?」
「Halleyのベースだって充分すぎるほど上手かったけどさ。初めて勝也の音を聞いた時『こんなスゲェ奴が入るんならもう音が薄くなる事ねぇじゃん』って思ったんだ。おまけにその勝也とBanが組んだリズム隊なんて…」
「で…抜けるって言ったんですか?」
「あぁ、でも話し半分も聞いてもらえなかった」
「でしょうね(笑)」
「結局最後の最後まで付き合わされる羽目になっちゃったよ」
そんな話をしているところへ優奈のスマホが鳴る。
「もしもーし。あ、終わった?今ね、Kouさんのお店にいんの。…ううん、蘭がKouさんに聞きたい事があるって言うから連れてきただけ。うん…うん…わかった。んじゃあたしも帰るね」
その会話の最中にはすでに椅子から立ち上がろうとしている。
「あ~ぁ、タイムアップだぁ…」
「勝也に逢えるとなりゃもう無理だな(笑)」
「Kouさんっ!お会計してくださいっ!」
「いーよ、お前らから金なんて」
「えー!ダメですよっ!!」
「そんな事より蘭、お前一回俺のPhantom使ってみろよ」
「…え?」
「さっきも言ってたけど安い買い物じゃないんだから1回触ってみてから決めた方がいいだろ?近いウチに持ってってやるから電話番号持ってけ」
そういいながら自分の携帯番号をコースターの裏に書いて渡してくれた。
「そんな!大事な楽器を借りるなんて…」
「大丈夫だよ、だって俺Phantom8買っちゃったし」
「えぇ~っ!8買ったんですかぁぁ???」
「だから今7は余ってんだ。使ってみて気に入ったら考えな」
「ちょっと蘭っ!!早くっ!!もう置いてくよ!」
「わーかったってば!もう…あの…じゃあ電話しますっ!!」
「ご馳走様でしたぁっ!!」
もう既に優奈はドアから体半分外に出ている。
「おぅ、気ぃつけてな」
丁寧に蘭が御礼を述べて外に出ると、もう優奈は駅に向かって全力疾走だった。
追いかけても無駄だろうと優奈の背中を眺めながら
「…ありがとね」
優奈のおかげで今まで憧れの存在だったミュージシャンの連絡先を聞けた蘭。
少し紅潮した顔で感謝を伝えようにも、その背中はどんどん遠くへと走り去っていくのだった。




