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182 Kou ①

 打ち上げの翌日から優奈の仕事が忙しくなってきた。


学校へもなかなか来れず泊りになる事も多い。

かろうじて家に帰れる日もあるもののほとんどが夜中でアパートにも寄れない上に、また翌朝も早くから出ていかなければならないという多忙ぶりだ。


勝也とは仕事の合間の休憩時間にホンの少しだけでも電話をかけるようにはしていたがそれも毎回話せるとは限らず、関係者や共演者との会話で時間が取れなかったり勝也がベースに夢中になっていて電話に気付かないという事も多かった。


 ある日の平日、今日は前日からの泊りでの仕事だったがそれが予定の変更で午前中には終わってしまった。

その仕事を終えると一目散に実家へと戻り大急ぎで制服に着替え


「お母さんっ!!学校まで送って!!」


まだネクタイもしていない状態ながらすでに玄関で靴を履き大声で叫ぶ。


みんなに逢いたい。

そして何より勝也に逢いたい。

その一心でたとえ午後からだけでも学校に行きたかったのだった。


 ガラッ!!


「あ~!優奈ぁ!!」


全員の視線が優奈に集まる。

ちょうど時間はお昼休みの真ん中辺りで昼食も済んだ頃だ。

みんなが笑顔で出迎えてくれる中、当の勝也はしっかりと熟睡中だった。


「起こせばいいじゃん」


「ん?会うの久しぶりだから不機嫌な顔見んのヤだし」


確かに本心は叩き起こしてでも顔を見たかったが今はこの寝顔だけでも充分だ。

周りを親友たちが取り囲む中でもチラチラとその寝顔を満足そうに眺めている優奈。


「そういえば勝也って毎日ちゃんとお昼食べてた?」


「…え~っと…どうだっけ…はは(笑)」

「ほっほ~ぅ、起きたら説教だな」


自分が仕事でいない間もご飯はちゃんと食べるようにと何度も約束したのが守られていないらしい。

なかば予想通りではあったがここは怒らなければいけないところだ。


久々の学校はやはり居心地良くいつもの雰囲気で出迎えてくれる。

そんな中で


「優奈ぁ…ちょっとだけいい?」


「ん、どしたの」

「ちょっと…ちょっと来て」


蘭から内緒事のように呼び出されるのは初めてだ。

その表情は怒っているわけでもなくどこか緊張しているようにも見える。


優奈と蘭が2人でいると相当目立つため校舎の裏までわざわざ連れていかれた。


「どした?珍しいね」


「…うん、ちょっと相談したい事あって…あの…えっと…」

「なぁに?なんかちょっと怖いんですけど」


「あのね…優奈ってKouさんと連絡取れたりする?」


「Kouさん?そりゃ取れるけど」


「…あの…ちょっと相談っていうか教えて欲しい事があって…」


いつもの堂々とした毅然な態度ではなくモジモジしているところが可愛く思えた。


「って事はキーボードの事?」

「うん、新しいの買おうと思ってて…Kouさんが使ってるのと同じヤツだから」


「あ~そういう事か。うん、あの人に聞くのが一番いいね」

「でしょ?そんでさ、聞いてほしい事書き出しといたんだ」


綺麗な字で質問事項がビッシリと書き込まれた紙を数枚差し出された。

それをジッと見ると、受け取らずにいきなりスマホを取り出して電話をかけ始める。


「……?」


「もしも~し!優奈です、ご無沙汰してます。…え?ケンカなんかしてないですよぉ(笑)あのね、萬壽釈迦の蘭が聞きたい事あるらしいんですけど、この前言ってたツアーっていつからでしたっけ?」


「ちょ…ちょっと?」


「あ、そーなんですか。じゃあお店の方に行けば…はい…はい…わかりました、じゃあそう言っときますんでお願いしま~す」


蘭を無視して勝手に電話を切ると


「来週からツアー出るから今週なら店にいるって。いつでもおいでってさ」

「そうじゃなくてっ!優奈が聞いてくれればいいの!あたしが直接なんて…」


「本人に直接聞くのが一番分かりやすいじゃん。あたしが聞いたってキーボードの事は全然わかんないし」


「だってちゃんと話した事もないのにっ!」

「じゃあ今回が初だね(笑)」


「あのねぇ!誰もがあんたと同じようにしゃべれる相手じゃないんだよっ??」


「前のJunさんの復活ライブの時分かったでしょ?みんな勝手に距離置き過ぎなだけなんだってば。他のバンドの事は知らないけどあの『ブランカファミリー』に限ってはそんな心配いらないよ」


「……う……」


優奈を介して教えてもらえればと思っていた蘭だったが、勝手に優奈が約束を取り付けてしまった事によって早くも緊張感漂う表情になってしまった。


そのまま2人で教室へ戻ると蘭は優奈に渡すつもりだった質問事項の紙をまた熟読し始める。


その姿を微笑ましく眺めていたところ隣の席の男がムクッと体を起こした。


みんながニヤニヤと笑いながら見てくるのに気づき


「……なんだよ」


すると康太がチョイチョイと横を指さす。


「…あ?…なん………おーーーっ?!?!」


絵にかいたような二度見の後、真ん丸な目で驚く。


「おはよ」


「ぎゃぁっはっはっはっは!!!!!」


みんなの大爆笑が巻き起こる中


「な、なんだぁお前!……仕事はっ?」

「早く終わったの」

「終わったって…あ、そうですか」


少し嬉しそうな表情になった勝也。

ところが


「お昼何食べた?」


「え?…えっと…ぉ…何だったかな…はは♪」


「昨日何時まで弾いてた?」

「…な、何時だったっけ…そんなに遅くは…10時とか」


真剣な眼差しでジッと睨まれ


「…3時…ぐらいかも…」


「夜ご飯は?」

「えっと……」


そのまま無言の威圧を感じ、ようやく観念して


「ごめんなさい…」


「ホンット信じらんない!約束したよねぇ?(怒)」

「はい…」


結局久しぶりの再会は怒られっぱなしになった勝也だった。


その日の放課後


「島村さんトコぉ?」


「うん、だって今日お前来るなんて知らなかったし」

「そんなぁ~…」


「ピックアップ載せかえたの2~3本鳴らすだけだからそんなかかんねぇよ」


「ぶぅぅぅ~!」


久しぶりにアパートに帰れると思っていたのだが勝也は予定を入れてしまっていた。

だがそこでふと気づくと


「あ、じゃああたしもちょっと寄り道して帰っていい?」

「寄り道って…大丈夫かよ」


「ちゃんと変装グッズ持って来てるし1人じゃないから平気だよ」

「ふぅん、いいけど気ぃつけろよ」


そこで勝也と別れると蘭に声をかける。


「…き…今日っっ?…今からぁ??」


「うん、なんか予定ある?」

「…別にないけど…その…心の準備って言うか…」


「まぁだ言ってんの?そんなの平気平気♪さ、行こっ!」


戸惑う蘭の手を引いてKouの店へと向かった。


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