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16 遠征

 ある日、優奈のスマホが鳴った。涼子だった。


「優奈ー、今ドコー?」

「あー涼ちゃん♪勝也のアパートだよー」


「って事はそこに勝也もいる?」

「いないよ、晩御飯つくりに来ただけだもん」


「相変わらず通い妻してんじゃん(笑)ちょっと話あるから出てこない?」

「もう出来たからいーよ。ドコ行けばいいの?」

「迎えに行くよ」


しばらくするとまた電話が鳴り、出ると涼子が車で迎えに来ていた。

カギをかけて階段を降り車に乗り込むと


「あー!みぃちゃんもだぁ」

「あったりめーだ」


車は発進して近くのカフェに入った。

飲み物を頼んでしばらく談笑していると


「ねぇ優奈。あんたクリスマスの予定は?」

「ん~、一緒に居たいけど怖くてまだ聞けてないの。バイトとか入ってたら終わりだし…」


「やっぱりなぁ(笑)ホント、ウチの奴らって自分たちで楽しんでばっかりでウチらにはちゃんと伝えてくれないよね、やっぱり勝也もそうだったでしょ」

「なんで…なんかあるの?」


「今年もクリスマスは遠征なんだ、仙台に」

「…せ…仙台?じゃあ一緒にいれないって事?」


「Banの彼女がいんのよ、仙台に。それで年に一回だけでもブランカのBanを見せてあげたいってみんなの企みでこの時期に行くんだけど、これがまた自分らだけで盛り上がっちゃってあたしらには全然報告しないの。こっちから聞いても「え、来るの?」みたいな感じ」


「あ、Banさんも彼女いるんだ…そりゃそうだよねぇ、あんなにカッコいいし」

紗季(さき)っていうんだけどね、またこれがかっわいいの。それでさ、今年は優奈もいるしウチらもここしばらく旅行とかも行ってなかったし…」


「行きたい!っていうか行く!」


「まだ最後まで言ってませんけど…」


「だと思った♪しかし付き合って初めてのクリスマスだってのにもうちょい気ぃ使ってほしいよねぇ優奈」


「もうそういうのは諦めたから平気だよ。ブランカ以外の理由だったらブチギレるけど」

「強くなったじゃん。言っとくけどあいつらには内緒ね?突然行ってびっくりさせてやろ」


しばらくの女子会の後、また涼子がアパートまで送ってくれた。

そしてしばらくすると


「ただいまー」

「おかえりー」


優奈がバイト休みの日はこうして奥さんのように晩ご飯を作って待っている事が多くなった。

勝也がシャワーを浴びている間にテーブルに並べる。上がってきてテレビを見ながら食べている勝也の顔をジーッと見ていると


「ん?」


「おいしい?」

「うん」


それでも見続けていると


「なんですか?」

「ううん、別になんでもない」

「…なんでもない人がそんな顔で見ないでしょ普通」


しばらくの沈黙の後


「もうすぐクリスマスだねぇ」


勝也の箸が止まる。チラッと優奈の方を見ると笑顔でこっちを向いていた。


「あ…えっとぉ…そ、そう…らしいね…」

「どうする?どっかご飯食べにっていっても今からじゃ予約なんて一杯だろうし。あたしは一緒にさえいられればいいからここでご飯食べよっか」


「…いや…あ、あのぉ…」

「楽しみだなぁ。あたし彼氏とクリスマス一緒に過ごすの夢だったんだ」


「…ご…ごめん…クリスマスちょっと無理なんだ…」

「無理って?」

「だからその…ここにいないっていうか…ライブが…」


「ここにいないって?ドコでライブなの?」

「えっと…せ、仙台…」


「は?冗談でしょ…付き合って初めてのクリスマスだよ?」

「そうなんだけどその…前から決まってたっていうか…毎年恒例っていうか…」


しばらく沈黙があった後


「…説明してくれる?」


涼子に聞いて全て知っている内容をもう一度勝也の口から聞く。

そして説明が終わると


「そうなんだ…でも仕方ないよね、Banさんだって彼女に会いたいだろうし…うん、わかった…」


体育座りのまま顔を真下に向けて落ち込んで見せる。さすがにこれはマズいと思ったのか


「ご、ごめん…もっと早く言えばよかったんだけど…その…。えっと…その代わり優奈のいう事なんでも聞くから!」


「…なんでも?」

「う、うん。えっと…俺に出来る事なら…だけど…」


顔は下を向いたままで


「じゃあ今までよりもっといっぱい一緒にいてくれる?」

「うん」


「もっといっぱい泊まりに来てもいい?」

「…お父さんがいいって言うなら」


「何でもいいからお揃いの何か欲しい」

「…わかった」


「じゃあガマンする…その代わり今度からはちゃんと決まった時に教えて」

「わかった、ちゃんと言う」


必死に答える勝也。

下を向いたままの優奈が笑いを堪えてペロッと舌を出している事など全く気付いていない。


それからの勝也は本当に優奈のいう事を聞き始めた。

出来る限り優奈と一緒にいるようにし父の承諾を得たと聞けば泊まりに来ることを許した。ただ一つ、お揃いの何かだけは休みが合わず買いに行けなかったが。


学校が冬休みに入った24日の朝。


ブランカのメンバーはJunの家に集まっていた。涼子もみぃも優奈も見送りに来ている。Banだけは前乗りで出発させたためサポートのKouを含めた5人での移動になる。

機材や荷物を積み込むと


「気を付けてね」

「おう、サンキュ」


「今度からはウチらにもちゃんと教えてよね」

「わかったよ」


涼子もみぃも彼氏との別れを惜しむ中


「いってらっしゃい…頑張ってね」

「ごめんな。帰ったらすぐ連絡するから」

「…待ってる」


シンミリした別れを済ませるとJunの運転するハイエースが出発した。

そしてそのハイエースが通りを曲がって見えなくなった途端


「よし!作戦開始!」

「おーっ!」


急いで涼子のレクサスに乗り込むと猛スピードでそれぞれの家を廻って荷物を積む。

最後に涼子の住むマンションに車を停め、そこからタクシーで駅へ。

おつまみやお菓子、飲み物を大量に買って新幹線に乗り込むとそこからミニ宴会のような酒盛りが始まる。


「どんな顔すんだろうね、あいつら」

「もうそれが一番楽しみ!写メ撮ってやろっと」

「今からドキドキする~」


「優奈、よく勝也に黙ってられたね」

「必死でガマンしたもん。でもその代わりにって色々言う事も聞いてもらっちゃったからちょっと可哀想だった」

「ヒッド~!悪人だコイツ」


「しかし勝也も変わったねぇ、別人みたい」

「そうなの?」


「そりゃそうだよ。前までなら絶対自分の考え変えなかったしもっと怖い目してた」

「それは思う。目つきが全然違うよね今は」


「でも確かに最初まだ相手にされてない頃は目が怖かったかも…」


「それが今ではアレだもんねぇ」

「ま、最高の女捕まえたって事だね」


「違うよ、あたしが最高の男捕まえたの」

「うるせー!なんだこの女」


楽しい会話は止まることを知らなかったが


「でもさ、あいつらの彼女になった時点でもうこういうのは諦めないといけない事だもんねぇ」


「こういうのって?」

「そりゃそうだよ、何よりも仲間が好きで何よりもブランカが好きで、その仲間を彼女に会わせるためにみんな協力して遠征して…。これが我慢出来なかったらアイツらの彼女は務まらないもんね」


「…あ…」


一瞬で後悔した。

勝也が何よりも大事にしているブランカ。その中の一人のメンバーの為にみんなが毎年仙台へ行くことを計画していたのだ。

ブランカの次に自分がいられればいい。そう言い聞かせていたはずだったが、初めてのクリスマスに二人っきりでいられないというひがみから勝也に交換条件を出すような卑怯なマネをしてしまった。それでもその交換条件を飲んでくれた勝也に申し訳なく思った。

…会ったら謝ろう。そう決意すると一刻も早く会いたくなってきた。


「早く逢いたいなぁ…」


窓の外を眺めながらボソッと呟いた。


「ついさっきまで会ってましたけど?」

「かぁ~!この純粋さをドコに忘れて来たんだあたしは…」


思わず顔を真っ赤にする優奈だった。


仙台駅に着くとホームから改札を抜ける。

初めて来る仙台に少しテンションが上がりキョロキョロ辺りを見渡していると突然叫び声が聞こえた。


「きゃぁぁ!!みぃー!涼子ー!」


驚いてそっちの方向を見るとものすごい勢いで駆け寄り飛び掛かるようにみぃに抱き着いてくる女性。

バンバン!と背中をたたいてハグすると今度は涼子に襲い掛かる。

目の前で起きたこの抱擁に呆気に取られていると涼子に抱き着いたまま肩越しに目が合い


「あー!優奈だ?!そうだよね?!」

「え?あ…は、はい…」


そう返事をした次の瞬間には背骨が折れるかと思うほどキツく抱きしめられていた。


「よく来たねぇ!っていうかホントに信じられないぐらい可愛い~~!」


「…ちょっ…えっ?…いや…さ、紗季さん?…苦し…」

「あ、ごめんごめん♪やっと会えたからつい…(笑)」


「どうしてあたしの名前…」

「ん?そりゃぁBanクンや涼子達からしょっちゅう話聞かされてるもん、勝也にものすごく可愛い彼女が出来たって。色々事件起こした事もね」


「あ…えっと…それは…」


「しかしよくあのワガママ坊主手なずけたよね、大したもんだよ」

「えっと…安東 優奈です、よろしくお願いします」


「うん、あたしは紗季。元々は同じ街に住んでたんだけどね、仕事の都合で今はこっちにいるの。よろしくね」


どうやら紗季も涼子やみぃと同じ匂いのする人だったのがわかり安心する。

そしてその頃、トイレにでも行っていたのかBanが遅れてやってきた。


「おー、来たか。しかしアイツらに内緒なんだって?とんでもねぇサプライズ仕掛けるな、お前ら」

「まさかバラしてないでしょうね」


「いう訳ねぇだろ。俺だって命は惜しいからよ」


「Syouと平蔵と勝也の部屋はこっそりダブルに変更しといたからね」

「さっすが紗季!相変わらず気が利くねぇ」


「え…一緒に泊まれるの?!」


「当たり前でしょ、アンタ何しに来たの?(笑)」


勝也の部屋以外で初めての外泊。飛び上がりそうなぐらい嬉しかったのをグッと堪えた。


ブランカが到着するまでまだ1~2時間ぐらいはかかるだろう。

ライブハウスは駅からそう遠くないところにあり、あまり遠くには行けないものの紗季とBanが車で近くを案内してくれることになった。

冬の仙台はさすがに寒く、道路の端には少し雪が積もっている。


「ホワイトクリスマスになったらいいのになぁ…」


ボソッと呟いたみぃの言葉に心の中で大きく頷く。

初めてのクリスマスを知らない街で一緒に過ごせる。それだけで一生忘れられない想い出になる事は確定していた。


新幹線の中のプチ宴会の影響でそれほどお腹は減っていなかったため少しドライブしているとBanのスマホが鳴る。


「あいよー。おぉもうそんなトコか?結構早かったじゃん。…うん…うん、わかった。じゃあハコの前で待っとくわ」


車内に緊張が走る。そして電話を切ったBanが運転している紗季に


「紗季、そろそろ着くみたいだから向かって」


いよいよブランカが到着する。どんな反応をするのか、怒られたりしないだろうか。緊張で手汗が凄い事になっている優奈。


15分ほどで今日出演するライブハウスに到着した。

車をその前に停めて車内で待っているとそれからまた15分ほど経ったころ


「ほら、来たぞ」


今朝見送ったはずのハイエースが後ろからやってきた。

紗季の車の後ろにそれが停まるとドアが開いてメンバーがぞろぞろと降りてくる。

心臓が口から飛び出そうなほどの緊張の中、Banと紗季がまず車から降りた。

メンバーと紗季が再会を喜んでいると


「あ、今日友達も連れて来たんだ。降りといでー」


その言葉で後ろのドアが開き、3人が車から降りる。


この時のBanを除くブランカ全員の顔は一生忘れる事はないだろう。

ポカンと口を開け、ハトが豆鉄砲を食らったような真ん丸な目をして固まっている。そして


「来ちゃった」


その涼子の言葉でようやく


「…は…はぁぁ?!!」


予想以上の驚きっぷりに仕掛け人たちは大爆笑。

そんな中、逢いたくて逢いたくてたまらなかった優奈は思わず勝也に飛び掛かるように抱き着いていた。


「ちょ…お前…えぇぇっ?…なんで?」

「3人で企んだの。見送るフリして先に行って待ってようって」

「なんだそりゃぁ!…マジかよ」


ようやく状況が飲み込めたメンバー達も大笑いに変わった。


「すっげぇなお前ら…心臓止まるかと思ったよ」

「だって朝はウチにいたもんなぁ」

「やってくれるよまったく」


「良かったじゃん勝也。ずっと車の中で優奈の事気にしてたもんな」


「…え?」


「もっと早く言ってやれば良かったって。独りぼっちにさせちゃった~ってよ」

「ちょ…Kouクン!」


「ウッソー!優奈も新幹線の中で「早く逢いたい…」って泣いてたんだよぉ」

「ちょっと涼ちゃん!泣いてはないでしょー!」


仙台の街のライブハウス前でギャーギャーと大騒ぎのブランカファミリーだった。


予定を変更してバックステージパスを人数分に増やしてもらい客席に女性4人を座らせた状態でリハが始まる。


初めて見るリハは優奈にとって緊張の場だった。

さっきまで大騒ぎで笑っていたメンバーはすでにミュージシャンの顔になっていて音チェックが続いている。チューニングする姿やウォーミングアップの仕方など関係者にしか見れない光景にドキドキしていた。

そして総合チェックの為に1曲通しの音出しが始まる。ブランカの演奏をたった4人で椅子に座って聴く。なんと贅沢な瞬間なのだろうと感動していた優奈。

まだリハの段階なのにメンバーは凄く楽しそうで、今回のライブの件ですこしでもスネた顔を見せてしまった事を後悔もした。


リハが終わるとOPENまでは空き時間となる。楽屋に入っていつもの爆笑の時間を過ごしながらメイクや髪のセットを済ませ、そしてライブが始まった。


1年に1回しか訪れない仙台でもブランカの人気はものすごく、去年も来たというファンがたくさんいたと後で紗季が教えてくれた。



ここ仙台でも圧巻のライブを繰り広げ大盛況で終わる。

ライブハウスの店長も「年に一回と言わずもっと来てほしい」と毎年同じ言葉をくれるそうだ。仙台でも出待ちのファンがいて一緒に写真を撮って貰う子やプレゼントをくれる子、ワチャワチャと人混みに飲み込まれるメンバーを遠巻きに見ているとスッと紗季が隣にきて


「もうあのシーンには慣れた?」

「いえ…未だに慣れません。あの人が「ブランカのKATSUYA」でいる間はみんなのモノだから仕方ないのは判ってるんですけど…」


「優奈っていいコだね」


髪をクシャッとされる。

ひとしきり騒がれた後、店長がマネージャーのようにファンに終了を告げてまたハコの中に戻っていくブランカ。

外で待っていた優奈達もまた中に入る事を許され楽屋に入ると何やら大声でモメている様子。

急いで楽屋のドアを開けるとSyouとBanの大声が響いている。


「こればっかりは譲れねぇ!」

「お前は何にもわかってねぇんだよ!」


「ちょっと!どうしたのよっ?!」


急いで涼子達が仲裁に入ると


「だから牛タンにはレモンだろうがよ!」

「辛味噌の旨さ知らねぇくせに偉そうに言うなっつってんだよ!」


「………は?!」


揉めていたのは牛タンの食べ方だった。

まだ言い合いしている男どもの頭を遠慮なくパァン!と叩くと


「いい加減にしないとそろそろ紗季がキレるよ」


その言葉で急に言い合いが止まった。どうやら紗季はキレると手が付けられないようだ。

そしてまた大爆笑が起こる。涙が出るほど笑った後


「打ち上げ予約してある店で両方食べれるからどっちも食べてからモメれば?」


相変わらず子供みたいなブランカ。だがそのギャップが彼らの魅力でもある。

機材を積み込んで車を移動し、まずはホテルにチェックインしてから行動という事になったが


「え…俺優奈と一緒なの?」


「アンタの部屋はダブルに変更しといたよ」

「ふーん…」


「…なんか不満そう」


一旦荷物を置きにそれぞれの部屋に散らばる。

優奈と2人で部屋に移動すると結構な部屋だった。


「こんな部屋取ったんだ、紗季ちゃん」

「うわぁなんかすごいねぇ」


荷物を置いてベッドに飛び乗る優奈。子供のようにはしゃぐ姿を見て


「ほら、早く用意して打ち上げ行くぞ」

「はーい」


カバンから服を取り出し着替え始める勝也に


「あの…ごめんね?急に来たりして」


「なんで謝んの」

「だって騙したみたいな感じだから」


「そういうのはサプライズって言うんだろ」

「でもね…クリスマス会えないからってスネた振りして色々ムリ聞いてくれたじゃん」


「フン!まぁ何か企んでんのはわかってたけどな」

「え…気づいてたの?」

「当たり前だろ、まさか突然仙台まで来るとは思ってなかったけど」


そういうと上着を着ながら


「俺の事を一番理解してるお前がブランカのライブでしかもBanクンを彼女に逢わせる為って聞いてスネるはずがないじゃん。これは何かあるなってのは最初からわかってたよ」


自分の事を一番理解している…そう思ってくれていたのが何より嬉しかった。

抱き着いてしまいそうなのをグッと堪えると


「なのになんでいっぱいいう事聞いてくれたの?」

「だってクリスマスをお前のために空けてやれなかったのは事実だし」


もう堪えきれなかった。いきなり後ろから抱きつくと


「でもおかげで最高のクリスマスになったよ」

「「お前のおかげ」でな」


着替えを済ませてロビーに降りるともうみんな集まっていた。


「おっせぇな!もう早速一回戦始めちゃってんのかと思っ…」


瞬間に涼子とみぃの平手が同時に平蔵の頭に炸裂する。そして夜の街に繰り出し打ち上げに向かった。


年に数えるほどしか会えないBanと紗季は終始笑顔で見ている方も幸せな気分になる。

みんなたらふく飲んで食べて…タンの食べ方については両方食べた後お互い和解したようだ。


打ち上げも終了し店を出たところで


「涼子、ちょっとブラブラしよーぜ」

「うん!」


JunとKouは彼女連れではないためこのままもう一軒飲みに行くことにしたらしく、それぞれのカップルは別々にデートする事になった。

みんなと別れてようやく二人っきりになるといつもよりももっと密着するように腕にしがみついてくる優奈。


「やっぱこっちは寒いな」


「…あたしはあったかい♪」


もう夜も遅いというのに街路樹や店の軒先はものすごいイルミネーションで彩られ幻想的にも見える。

どこを見てもカップルばかりの街で同じようにカップルとして歩けるのが嬉しくて


「クリスマスに彼氏と過ごすって夢が叶っちゃった」

「ちょっと特殊な感じになっちゃったけどな」


「でも地元じゃこんなにくっついて歩けないじゃん、勝也は目立つから」

「お前に言われたくねーよ」


優奈もまた地元ではその可愛さで超有名な人なのだ。


華やかな街の中でちょこっと店を覗いてみたりデートを楽しんでいると、可愛いアクセサリーがたくさん並んでいる店を見つけた。

優奈の希望でそこに入ると


「わぁ!かっわいー」


目をキラキラさせて店内を見て回ると、そこであるネックレスを見つけた。

小さなプレートが付いていて名前を彫ってくれるらしい。


「これ欲しいなー。ねぇKATSUYAって入れてもらっていい?」

「ん、どれ」


優奈のお腹に両腕を回し後ろから抱きしめるように密着して肩越しに覗き込む。

街中なのにこんなにイチャイチャしてくる勝也は初めてで思わずドキッとさせられた優奈。超至近距離に突然現れた勝也の頬にピトッと頬を引っ付ける。最高にあたたかい幸せを感じながら


「…あたしこれ買ってくる!」


このままずっとこうしていたかったが、心臓の鼓動が勝也に伝わってしまいそうで思わずパッと離れてレジへ向かう。


「これください。あの…KATSUYAって入れてほしいんですけど」


すると後ろから勝也が来て


「すいません。それキャンセルで」

「え?」


優奈がびっくりしていると


「こっちにしてください」


勝也がレジに出したのは優奈が持ってきたシルバーではなくプラチナのペアネックレス。少し太めの男性用と細い女性用が2つ並んで入っていて同じようにプレートが付いている。


「女物の方にはKATSUYA。男物の方にはYUNAって入れてください」

「…え?…え?」


驚いている優奈には見向きもせずスッとお金を払う。


「ダ…ダメだよこんな高いの…」


「クリスマスプレゼント。お揃いの何か欲しいって言ってたろ?」

「でもこんな…」


「前に言ったよな、意味のない事に使うのがイヤなだけだって。いくら高かろうがこれ以上に意味のあるモノあるか」


レジの前で、店員のお姉さんの前で優奈は涙をこぼしてしまった。

お姉さんはニコッと笑顔になり


「カッコいい彼氏さんですね」

「…はい。自慢の彼氏なんです♪」


出来上がるには少し時間がかかると言われて店内をブラブラする。

しばらくして呼ばれネックレスを受け取り、笑顔で見送られて店を出たところで


「うわぁ…」


この店に入る前とは別世界だった。

イルミネーションの中に雪が降り地面はもう真っ白になっていて、まるで幻想の中にいるかのような美しさに目を奪われる。

紗季の車の中でみぃが言っていた「ホワイトクリスマス」だった。

ハッと気づいてスマホを取り出した優奈が


「ねぇ、2人っきりの写真ってまだ撮ってなかった」


そういうと雪が積もるイルミネーションをバックに優奈が自撮りでスマホを構える。

ピタッと頬と頬をくっつけてシャッターを押そうとした瞬間に勝也がほっぺにキスをした。

バッチリ撮られたキス写メを見て顔を真っ赤にし


「あー!勝也の顔見えないじゃん!」


嬉しそうに照れながら文句を言うと


「いっぱい撮ればいいだろ」

「……うん!」


結局これ以上無いほど最高の想い出となるクリスマスになった。


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