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15 岳

 ある日の土曜日。

朝日が差し込む部屋の中、一つの布団で勝也と優奈は爆睡していた。


父から許可された勝也の部屋へのお泊り。

昨晩も優奈の勢いは止まることを知らず、最後は意識を失うように2人とも眠りに着いたのだった。

しがみつくようにして寝ていた優奈が先に目覚めると隣ではスヤスヤと眠る勝也の顔。

一緒に朝を迎えるという事は目が覚めた瞬間から一緒に居られるという事で、何よりもそれが幸せだった。


それから2人で起き出すとシャワーを浴び、ようやく昨日ぶりに服を着ると優奈の化粧を待ってから出掛ける。今日は色々と買い物があった。


「チェストでしょー、それから部屋着もいるし。お鍋とかフライパンももうちょっと欲しいかな」


なかなかバイトの休みが合わない2人だが優奈が時々アパートに泊まるようになってからは色々と不便な部分があって優奈の物を少し部屋に置こうという事になり、無理を言ってようやく土曜日に休みを合わせたのだ。


昼間に私服でデートなど記憶にないぐらい久しぶりの事で優奈のテンションもかなり高い。電車に乗って街に出るとさすがに土曜日とあってかなり人は多かったがそんな中を堂々と手を繋いだり腕を組んだり普通にカップルのようなデートだ。

買わなければいけないものもちゃんと見ながらブラブラと目に着いた店に入ってみるのも楽しかった。大喜びでずっと笑顔でいる優奈を見ると勝也も自然に笑顔になっている。


優奈と康太が腕を組んでいる場面を勝也に目撃されたあの場所に来た時に一瞬だけ優奈がビクッとしたものの、スッと優奈の手を握り


「腕組むより手繋ぐ方が勝ちだよな」


その一言で優奈のトラウマは無くなった。


チェストだけは配送にしてもらい、あとは大きな袋を勝也がいくつも持って買い物がほぼ終わる。

ふと見ると可愛い下着屋さんがあり


「あ!下着も見てっていい?」


「さすがにそこは着いてかねぇぞ」

「えー!なんでよー!カップルだってみんな一緒に入ってるよ」


「ヤだ!その辺で待ってるから一人で行って来いよ」

「一緒に選んで欲しかったのにー…じゃあどんなのがいい?」


「別にどんなのでも…あ!あの横がヒモになったヤツ見てみたい」

「エロ~い♪んじゃ、あったら買ってくる」


一旦別行動になる。

勝也の希望である紐パンの上下を物色し2セットほど買って出てくると勝也が同い年ぐらいの誰かと話していた。

優奈が出てきたのに気づくとその人と別れて戻ってきて


「いいのあった?」

「あ、うん。ちゃんと紐のヤツ買ったよ。ねぇ今の人って」


「ん?あぁ優奈は知らないだろうな。3組の川田 岳(かわた がく)っていうんだ。お前に引っ張り出される前、唯一俺が話したりしてたやつだよ」


「え…友達いたんだ」

「なかなか失礼な発言だな。まぁ友達っていうか」


夕方になっていたため今日は外でご飯を食べようという事になった。

あれから結局実現していなかった優奈の奢りでカレー屋へ入る。


「やっぱ女に奢ってもらうのって…なぁ」


「ダメ、その代わり今日の買い物ほとんど勝也が払ってくれたじゃん。ここは絶対あたしが払う!それにあたしは勝也とご飯食べるためにバイト始めたんだから」

「わかったよ」


それからカレーを待つ間


「さっきの…川田クンだっけ。前から知ってたの?」


「あぁ、前に同じトコで単発のバイトした事あったんだ。あいつ事故でオヤジさん亡くしてお袋さんしかいなくてさ、なのに下に小さい妹がいて、遅くまで働いてるお袋さんを助けるためにバイトして妹の面倒も全部アイツが見て…ホントにすげぇヤツなんだよ。それからたまに学校とかでも少しだけ話したりするようになった」


「ふぅん…なんかカッコいいね」

「うん、あいつは男としてすっげぇカッコいいよ。俺尊敬してんだ」


勝也が同い年の気弱で真面目そうな男を尊敬していると言った。

人を見た目で判断しない勝也らしい言葉だったが、それは当然優奈にとっても少し特別な存在になる。


週が明けた月曜日、いつものように一緒に登校した2人だが優奈はそのままトイレに向かった。

そしてトイレから出てくるとすこし先に川田がいた。


(あ、川田クンだ)


だが川田は一人ではなく、周りに2~3人の同級生がいた。


(ちゃんと友達もいるんだ)


そう思ったが少し様子が違う。

見るとどうやらイジメられているようだ。それを知った瞬間優奈の目つきが変わる。

スッと近くまで行くと


「『岳ちゃん』おはよー」


周りにいたイジメっ子達は飛び上がるほど驚いていた。

それは本人も同じで


「えっ?!…え…あの…おは……えっ?!」


その一言で空気が変わったのを確認するとそのまま教室へ戻っていく優奈。その後ろでは


「お、おい…なんでお前が安東に挨拶してもらえんだよ!しかも「岳ちゃん」って…知り合いなのかよ」

「え…いや…僕にもなんでか…」


それ以来川田を見かけるたびに優奈は声を掛けるようになった。

徐々にイジメっ子達も迂闊にちょっかいを出せないようになっていった。

優奈の思惑に気付いていた勝也もクスッと笑うだけで優奈に任せている。


ある日、トイレから戻ってきたみさが優奈に声を掛ける。


「ねぇ、アンタの名前がちょっと耳に入ったんだけど」


「どこで?」

「3組の前。なんか大人しそうなコが囲まれてて「どうせ安東に頼んで知り合いのフリしてもらってんだろ!」ってイジめられて連れてかれたよ。なんか関係あんの?」


「…わかった」


そういうと席から立ち上がり、寝ている勝也の元へ行くとポンポンと肩を叩いて起こす。

優奈が寝ている勝也を起こすなどよほどの事でみんな驚いている中


「ねぇ、一回だけ手伝って」

「んぁ?」


「ちょっと守りたい人がいるの」


「…わかった」


2人で教室を出る。何が何だか分からないままみさ達3人も後に続いた。


校舎裏に行ってみると岳は囲まれ、暴言を吐かれ蹴られたりしていた。

そこへ優奈がズンズン進んでいくと


「何やってんの?一人に寄ってたかって」


「あ…安東…」


「ダッサ!」


「じゃあ安東はコイツとどういう関係なんだよ、どうせこいつに頼まれて知り合いのフリしてんだろ?でなきゃ接点なんて…」

「なんでそんな事アンタたちに言わなきゃいけないの?」


「関係ないならほっといてくれよ!」


優奈にビビって目も合わせないまま大声で虚勢を張る同級生。

口答えしたその男達を見てみさはため息をつき


「あ~ぁ、知~らない」


その時、眠さからモタモタ歩いてようやくその場に辿り着いた勝也が現れる。

一瞬で血の気が引く同級生たち。


「あ、勝也…」


「か…『勝也ぁ』?!お前なんで呼び捨てに…」

「岳ちゃんは勝也の親友だからあたしにも関係あんの。これ以上なんか文句ある?」


「え…親友……」


それを見ていた勝也が


「岳ぅ、お前メンドくせぇの味方につけちまったな」


「『岳』って…」


勝也と岳がお互い名前で呼び合うほどの関係だとは夢にも思わなかった同級生達。

あからさまにうろたえると岳に頭を下げて謝り逃げるように走っていった。


詳しい話は分からないものの、勝也が名前で呼び優奈が守ろうとする。

これだけでみさ達にも川田の存在は受け入れられ


「もうちょっと自分で歯向かったりしろよ、岳ちゃん」

「そうそう、あぁいうのって黙ってるといくらでも調子に乗っちゃうよ」

「もうこれで二度と手ぇ出しては来ないだろうけどね」


「でももし歯向かって僕がケガとかしちゃったら妹が困るから…」


相変わらず家族のために一生懸命な岳。それを聞いてクスッと笑うと


「また来年もミキちゃん連れてプール行くか」


「はぁ?!勝也、プール行った事あんの?!うっそぉ!あたし連れてってもらった事ないんだけど!」

「お前と知り合った時にはもう夏終わってただろーが」


「信じらんない!今度行くときは絶対あたしも仲間に入れてよね、岳ちゃん!」

「あ…えっと…う、うん…」


「おーい、あと3人忘れてませんかぁ」

「はい決定。ちゃんとミキちゃん紹介してねー」


「うるせぇ事になりそうだな、こりゃ」


優奈の行動で一人のイジメられっ子が一目置かれる存在に変わった日だった。


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