14 両親
また平穏な日々が始まった。
ただ一つだけ変わった事といえば
トントントントン…カチャカチャ…カチャン!…バタン!ガサガサ…カチャン!…ドスン!
「おはよー!」
「…ん~…苦し…」
「ほら、起きてー!」
「…お前は毎日毎日飛び乗らないと起こせねぇのか?」
「可愛く起こしてたら起きないじゃん」
「…まだ早いだろぉ」
上に乗った優奈を抱きしめてまた目を閉じようとすると
「お、始まっちゃう?あたしはいつでもウェルカムですけど」
「起きる」
「…ちくしょぉ」
カギを渡した翌日から毎朝優奈が起こしに来るようになった。
勝也が着替えや歯磨きをしている間に洗濯物を入れたりゴミの日にはゴミを出したりと、本当に主婦のように家のことをしてくれるようになっていた。
勝也と付き合う前の優奈は家でも反抗期で会話もなくあまりウマくいっている感じではなかったが、勝也と出会ってからの優奈と母は友達のようにすごく仲良しで、彼氏が出来た事、家がものすごく近い事、バンドをやっていてどんな人で自分をどれぐらい大事にしてくれるかなど包み隠さず話していた。
母に料理も教わり始め、洗濯物のたたみ方や掃除の手順など色々な事を教えてもらい、そして「まだ子供は作らないように!」というオープンな話までするようになっていた。
勝也の準備が終わると2人で学校に向かう。そして今日は
「あのね、今日初めてバイト代が入るんだ。今度休みっていつ?」
「ん?えーっと…金曜日だったかな」
「じゃあ金曜の夜カレー食べに行こ」
「カレー?」
「約束したじゃん、あたしが働いて貰ったお金でご飯食べに連れて行くって」
「あぁよく覚えてたな」
「覚えてたなって…そのためにバイト始めたんですけど!」
「ごめんごめん、でも今回はいいや」
「はぁ?なんで…約束!」
「俺は来月のバイト代で連れてって?今日貰うのはお前が初めて自分で稼いだお金だろ?家族連れて行ってこい」
「……え?」
「お前が自分でお金稼げるようになるまで育ててくれたのは誰だ?感謝してきな」
「……そういうとこ好き♪」
言われた通り優奈は家族を夕食に連れて行った。
近くのファミレスだったがそれは両親にとってどんな豪華な料理よりも御馳走で、涙を浮かべて喜んでくれたそうだ。
今回の優奈の招待が勝也の提案だったことを母に伝えるともう母の気持ちは収まらず、一度家の夕食に連れてくるように何度も言われた。
「っていう事なんだけど来てくれる?」
「えー…緊張するからヤダよぉ」
「なんでよ、このままずっと会ってくれないつもり?」
「そうじゃねぇけど」
「あたしはもう誰にも隠したくないんだもん。堂々と付き合いたい」
「そりゃぁそうだけど…」
「ね?お願い。ウチのお母さん、もう勝也のファンみたいになっちゃって」
「わかったよ…いつ?」
「今日!バイト休みでしょ?」
今日は金曜日だった。
学校が終わると2人でアパートまで帰る。いつもなら一緒に部屋に入る優奈が
「じゃ今日は家に帰って準備手伝うから6時頃来て」
「…わかった。あー緊張するなぁ!」
「大丈夫だって。じゃあね!」
そういうと走って帰っていった。
6時ちょうどに優奈の家の前に着くとドキドキしながらインターホンを鳴らす。
「はーい♪いらっしゃ…う、うわ…」
「やっぱ変か?」
「ううん、すっごくカッコいい!」
精一杯の礼儀としてスーツを着てきた勝也。そして手土産のケーキを渡すと
「こんなお金使わなくて良かったのに」
「そういう訳にはいかないよ」
優奈に案内されて家に上がるとリビングへ通される。
初めて会った母に挨拶しようとした時、ちょうど優奈の父も仕事から帰ってきた。
驚いたことに勝也と同じケーキの箱を持っていた事で笑いが起こり、少し緊張がほぐれる。そして改めて
「初めまして。ご挨拶が遅れて申し訳ありません。優奈さんとお付き合いさせていただいている松下 勝也と申します。よろしくお願いします」
ペコッと頭を下げると両親も丁寧に挨拶してくれた。
それから夕食を御馳走になる。
これは優奈が作っただのこれはこんな失敗をしたから慌てて作り直しただの色々聞き、家で優奈はいつも勝也の話ばかりすると姉からの暴露もあった。
両親も楽しそうにしてくれていて場が和み、夕食が終わって勝也と父が買ってきたケーキが箱どころか中身もカブっていた事に大笑いしながら優奈達はコーヒーの準備をしていた。
夕食時からお酒を飲んでいた父はまだ飲んでいて、少し酔いも回ってきたように見え始めた頃
「勝也君。君はどういうつもりで優奈と付き合っているんだ」
その言葉で一瞬にして空気が変わった。
「え…お父さん何言い出すの?」
「母さんは黙ってなさい」
「お父さん、ちょっと…ヤメてよ」
父の目は酒に酔っている目ではなかった。それを見てまっすぐに見つめ返し
「僕はまだ高校生で何もわかっていない子供です。でも僕は今の気持ちだけで優奈さんを選んだ訳ではありません。この先どうなっていくのかわからない人生の中で、それでもずっと一緒にいたいと自分なりに決心しました。正直本当に悩みました。優奈さんを笑顔にできるのかどうか、自分なんかでいいのかどうか」
「答えは出たのか」
「それはいつかどちらかが先にこの世を去る時がきたらその時にわかると思います」
勝也はそこまで考えて優奈を選んだ。優奈自身さえも初めて聞いた言葉だった。
それは将来さえも意識しているとも取れるほどの言葉で、母と優奈、姉までもが涙ぐんでいた。
「もういいでしょお父さん…せっかく今日は楽しかったのに…」
その言葉には答えずに父が続ける。
「君と付き合うようになってから優奈は変わったよ。私たちとも会話が増えた。気遣ってくれるようにもなったし、夜遊びも朝帰りも無くなった。楽しい家庭が帰ってきた気分だった。それまではほとんど優奈は私とは目も合わせてくれなかったからね。
…彼氏はどんな男なんだろう、優奈をここまで変えたのはどんな人間なんだろう、ずっとそう思っていた。今日君に会って納得したよ。君と一緒にいるのならもう心配ないだろう。私の娘をよろしく頼む」
「…え?」
そういって頭を下げた父。
女性たちは泣き出す。勝也が責められていると思っていた優奈は父の本音を知って号泣し、抱き着いていた。
「おいおい、いつ振りだ?優奈に抱き着かれるなんて」
「ありがとうお父さん…」
そのまま父が続けた。
「家がすごく近いそうだね。またこうやってたまにはここに来なさい。ウチの母さんのご飯はちょっと自慢出来るレベルだから」
「…ありがとうございます」
「それから優奈。本当ならずっと一緒にいたいだろ」
「それはもちろんそうだけど…」
「たまになら勝也君のトコに泊めてもらってもいい。ただし、しょっちゅうはダメだよ?母さんが寂しがるから」
「えっ?」
「ホ…ホントに?!」
「そのかわり街をふらふら遊びまわったり朝まで連絡も無しに帰ってこなかったりはもうダメだ。まぁそんな事したら私より先に彼に怒られるだろうね」
「もうすでにそれはキツくキツく言われてるから大丈夫」
「それともう一つ、孫の顔を見せるのはまだまだ先にしてくれよ?」
ドキッとさせられるほど結構父もオープンだ。
それからは夕食時よりももっと笑いが増え、母もよほど父の言葉が嬉しかったのか普段よりも多くお酒を飲んでいる。本当に温かい家庭なんだとつくづく思った勝也だった。
父は酔っぱらってソファでウトウトし始めた。
それを見ると母に頭を下げ
「そろそろ失礼します。今日は御馳走様でした」
「また来てね」
「はい」
玄関までついてきた優奈が
「送ってく」
「バーカ、そんな事したらまた俺がここまで送って来なきゃいけなくなるだろ」
「それ続けたらずっと一緒にいれるね」
「今日はお父さんのそばに居ろ。あんな事言ってくれる父親って…よっぽど勇気のいる事だと思うよ」
「うん、そうする。明日の朝なら行っていいよね?」
「あぁ」
一人アパートに戻る勝也。その道中色々考えさせられた時間だった。
そして翌朝
トントントントン…カチャカチャ…カチャン!…バタン!ガサガサ…カチャン!…ドスン!
「おっはよー!」
「ん~…お前それ何とかならねぇのかよ…」
「ならな~い♪ねぇ早く起きて?今日の朝ご飯は豪華だよ」
「ん…なんで?」
「うちのお母さんが腕によりをかけたから」




