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137 復活 ⑦

 その後、JunとKouがメサイアを連れてハコへと戻っていく。

出演を打診されていた店長を見つけると『メサイアと対バンなら出る』といった驚きの提案を出した。

それを聞いた店長も大喜びし『それならイベントにしよう!』と張り切りだしてしまった。


結局Jun達とメサイアの対バンが本当に決まってしまい、正規ベースの回復を待って日程を決めるという状況まで話が進んだ。


ここでブランカのメンバー達が帰り支度を始める。


「あれ、打ち上げ顔出していかないの?」

「あぁまた今度にするわ」


「今度って…俺今日だけだよ」

「打ち上げじゃなくたってお前と飲む機会はイヤほどあるからよ」


「それに平蔵なんか打ち上げに呼んだらまた水風船ばらまかれるぞ」


ここはライブ終了後にホールで打ち上げを催してくれる。

続々と宅配の料理が運び込まれていく中


「今日は『メサイアのKATSUYA』でしょ?他の人たちの相手してあげなよ」

「ウチらはあんたの悪口を肴にちょっと飲んで帰るから」


「そっか、わかった。来てくれてありがとね」


「…えっと…あたしはどっちに行けば……」


「あんたバカなの?」


紗季の突っ込みで優奈が大爆笑された後ブランカが帰る事になった。

一応見送りにハコの前まで勝也と優奈が一緒に出るとゾロゾロと全員がついてきてしまう。


「なんか俺ら人気者みてぇじゃん」

「『みたい』って……」


相変わらず自覚のない平蔵だった。


「じゃあな」

「うん、ありがとね」


その去り際にふとSyouが振り返り


「…勝也ぁ」


「ん?」


するとみんなが振り返った。

そして全員の気持ちを代弁するかのように


「やっぱりお前はすげぇベーシストだよ、外から見て思った。お前と一緒にやってきた自分がちょっと誇らしく思えたよ。…んじゃな」


Syouの言葉に元ブランカ全員がニコッと笑顔で追い打ちをかける。

それはみんな同意見だといった表情で


「おだてたって何にも出ないよーだ!…じゃあね」


周りから見てもやはりこの男たちは心の底でまだ繋がっているのだという事がはっきりと伝わる光景だった。


 元ブランカが勢揃いした上に萬壽釈迦やインパラ、メッシュといったそうそうたる客を集め、そして何より勝也の復活に一役買った形となった勇太。

JunやKouのバンドまで出演にこぎつけてくれたメサイアに店長は相当上機嫌の様子で、今日は全て店持ちという驚きの打ち上げを提供してくれた。おまけに飲み放題である。


『ミキを預かってもらってるから』と岳と芽衣は帰ったものの、みさや康太達も当然参加しての打ち上げとなった。


結構遅い時間まで騒いだ後お開きとなる。

一旦楽屋に戻り荷物を持ってハコ前で集まると


「あ、勝也。これ…」


「なんだ?」


勇太が封筒を差し出してきた。


「ちょっとで悪いんだけど…その…ギャラ…」


それを聞いて目つきを変える。


「てめぇキレられてぇのか?」


「…え」


勇太の後ろにいたメンバー達もキョトンとする。


「せっかく楽しいライブだったのに最後にぶち壊すんじゃねぇよ。俺は金を貰う為に弾いたんじゃない。お前らだから…メサイアだから弾いたんだ。じゃなかったらたった2週間しかないのに引き受けるかバカ」


「…で、でも…」

「あんましつこく言うとそろそろ優奈がキレるぞ」


ふと見るとギャラを渡そうとした勇太を睨みつけ本当に不機嫌になりつつある優奈。


「あ…うん、わかった。じゃあ…手伝ってくれてありがとな!」


「おう、じゃーな!楽しかったよ」


メンバーからも口々に礼を言われ、何故か写真も撮られて勝也の復活ライブは幕を閉じた。



 その帰り道…途中までは友人達とも一緒だったが最終的に2人っきりとなる。


何故かあまり口を開かず、ずっと勝也の横を歩いている優奈。


「どした、疲れたか」

「ううん全然大丈夫」


優奈はこの懐かしい空気を噛みしめていた。


ライブの後、今日ステージに上がっていた勝也と2人っきりで帰るこの道。

スポットライトの中で大歓声を浴びていたベーシストが最後に帰ってくるのはやはり自分の隣だった。


ブランカ時代には当たり前のように繰り返してきたこの帰り道がどれだけ居心地よくて最高に幸せなひと時だったのかを思い出していた。


「ねー」

「ん?」


「楽しかった?」

「あぁ、楽しかったよ」


「良かったぁ…やっぱベース弾いてる時が一番幸せそうだったよ」

「ん~…でもちょっと気づいた事もあった」


「なぁに?」


するとスッと優奈と手を繋ぎ


「今まではベースを弾く事自体が一番幸せだって思ってたけどさ」


握った手に少し力を入れて


「今は…『お前が見てる前でベースを弾くこと』が一番幸せだわ」


優奈の目が真ん丸になる。

そして立ち止まるとしばらく沈黙したあと


「……え?」


耳を疑うような言葉だった。


父に買ってもらったベースを弾き続けるために…

一番大好きな仲間と一番大好きな居場所のために…


その2つの想いだけの為にここまで登り詰めて来た男が初めて言い放った新しい幸せ。


「…ふ…ふえええぇぇぇぇぇぇぇ~~ん…………」


涙腺が崩壊するのは一瞬だった。

言葉も何も発することも出来ずその場にしゃがみこんで号泣する優奈。

この男はどれだけ自分に幸せと感動をくれれば気が済むのだろう。


「あ~ぁ、まぁた泣きやがる」

「……だぁってぇぇ~………ふええぇぇぇぇん………」


泣きじゃくったまま子供のように手を引かれてアパートまで辿り着いた。


以前と同じように勝也のカバンを開けて今日着た衣装やタオルなどを取り出し、洗濯をしながらその他の細かいものまで片付ける。


そして後は洗濯が終わるのを待つだけとなった夜中


「よっこいしょ」

「キャッ!」


予告もなくいきなりお姫様抱っこされた。


「ライブ決まってからぜーんぜんだったから…ちょっと限界なんだなこれが」


「…あたしはとっくに限界超えちゃってましたけど♪」


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