136 復活 ⑥
みさ達との待ち合わせ時間が迫ってきた頃みんなで店を出る。
ゾロゾロとライブハウスに向かって歩いて行くと入り口から少し離れた辺りにもう全員揃っていた。
「あ、来た……っていうかあのメンツで…」
「なんかすっごい光景見せられてない?」
「…あの中にいて違和感ない優奈って何気に凄いよね」
合流するとやはりなかなかの大所帯だった。
勝也がメサイアで出るという噂はもうとっくに広まっていてハコ前にはかなりのブランカファンも集まっていたのだが
「うわ…ブランカだぁ」
「ヤバ、鳥肌たった…」
人だかりが割れ、入り口までの道が開けられるとその中をこの大所帯が通っていく。
なぜか緊張している康太が
「なんか関係ないのに俺達まで凄い扱いされてる…」
「関係なくはねぇだろ、勝也の親友なんだから」
「わ!平蔵さんがしゃべってくれたっ!」
「俺だって話ぐらいするっつーの」
このあたりから優奈の口数が減り始める。
話しかけると返事はするがそれ以外はボーっとしたような放心状態に近い表情だ。
「ねぇ優奈……」
「ちょっと!今はそっとしといてあげな」
あの涼子達でさえ今の優奈にはなかなか話しかけられない。
それほど優奈の心はここには無かった。
(もうメイクも着替えも終わったかな…どんな事話してんのかな…)
メサイアの出番は後攻。
まだ先に対バンのステージがあるというのにもう待ち遠しくて仕方がない。
先攻のバンドのSEが始まり、ライブが始まる。
テーブルも椅子も撤去されたホールの1番後ろは見る人の為にひな壇のように段が上がっていて、そこに陣取ったブランカ達は置き場所のないビールを片手にジッとそのステージを眺めていた。
当然ブランカが全員来ている事を知っているそのバンドはガチガチに緊張し動きも演奏も固いままでそのステージを終える。
そしていよいよその時が来た。
優奈の目が急に見開き、その周りにも緊張が走る。
ステージの照明が落ちて先攻バンドがハケていく。
そして入れ替わるようにメサイアのメンバーがセッティングへ出てきた。
ブランカのライブの様に白い幕で隠されている訳ではないためその動きが見て取れる。
真っ暗な中ブラックライトの照明だけで人の動きがかろうじて見える程度の明るさの中
『キャアアァァァァァ!!!!!!』
大歓声が起こった。
最後に出てきた人影…黒のシャツではあるが、ブラックライトに照らされるとその黒の刺繍が青白い怪しげな発光を見せている。
一気にグッと胸がつまる優奈。
鼓動は早くなり体中に鳥肌が立つのがわかった。
勝也がステージにいる。
今朝アパートで見送った最愛の彼氏がベーシストとしてついにライブハウスのステージに立とうとしている。
誰も優奈に声など掛けられない状況だがその目に涙が溢れているであろう事は全員が分かっていた。
祈りを捧げるように胸の前でギュッと両手を握りその視線は一時たりとも彼から離さない。
暗がりの中チューニングをしている姿。
足元のエフェクターの位置を直す姿。
そして使うかどうかも分からないがマイク位置を合わせる姿。
その動き全てがブランカの時のKATSUYAそのものだ。
優奈を含め同級生やブランカファミリーのテンションも上がってきた頃
勇太のギターの音が指慣らしのように鳴り始める。
そしてそれは徐々に単調なメロディを奏で始め、そしてもう一人のギターがそのバックでコードを鳴らしだした。
「おいおい…このままいくのか?」
誰もがこの後にSEが鳴ることを予想していたが…それを覆すようにハイハットのカウントが響くといきなり曲を始めたのだ。
突然の爆音とともに会場のボルテージが一気に上昇した。
そして誰もが驚くほどの存在感を発するベーシスト。
体中の毛が逆立つようなあの懐かしい感覚と共についにKATSUAが復活した。
勇太を見に何度か訪れた事のあるメサイアのライブ。
だが今目の前で繰り広げられているステージは以前見たものとは全くの別物だった。
勝也が出ているという事実を除いてもその音圧はまったく違うモノで、明らかに一人のベーシストによって実力そのものが底上げされているのが分かる。
「メサイアってこんなにスピード感あったっけ…?」
平蔵でさえも唸るほどの楽曲を立て続けに披露していく。
圧倒的な勝也の実力に少しでも追いつこうと必死に練習し続けたメサイアのライブは、クラスメイトや親友たちも呆気にとられるほど凄まじいステージだった。
ライブ終了後のホール内では放心状態の優奈を中心にまだ誰もが動けないでいた。
そして全員の頭の中には同じ言葉が渦巻いている。
『やはり勝也はベースを弾かせると圧倒的にカッコよく、そして恐ろしいほどに上手い』
去年の文化祭以降クラスメイトとして一緒に過ごしてきた『親友』だが、やはり彼は紛れもなく『元ブランカのKATSUYA』だった。
ようやくみんなが動き出すと裏口の出待ち軍団が大騒ぎする方へと足を向ける。
そこには先攻バンドやメサイアのメンバーがすでに出て来ていてファン達と談笑していた。
遠巻きに見てもまだ勝也の姿は見当たらない。
少しゆっくりめに近づいていったその時、大きな歓声が起こり勝也が出てきたのが見えた。
目に涙を溜めながらもそこに向かおうとしない優奈だが
「ほら、行っといで」
と涼子に背中を押される。
「…え……でも……」
ブランカ時代のクセで堂々と出来ない優奈。
するとその姿に気づいた途端
「優奈ぁっ!!」
群がるファンのど真ん中で大声で叫ぶ勝也。
ここで優奈の我慢は限界となった。
猛ダッシュでその輪の中心へと駆け出すと迷わず飛び掛かるように抱きついていった。
「…ふえええぇぇぇぇぇぇ~ん………」
号泣しながらしがみつく優奈を抱きしめる勝也。
その姿を見てようやく傍へと寄って来たブランカ達が声をかけようとしたところで
「あ~!!なんだよあの水!!いやがらせだろっ!!」
「ぎゃはははは!!バカヤロー!お前があんまり水のウンチク垂れるからみんなあれしか思いつかねーんだよっ!」
「違う水持ってったらまた味が違うとか文句言うだろーが(笑)」
Junの復活ライブの時と同様、久々のブランカの集合は周りの大注目を浴びている。
「あ、そーだ。勇太ぁ」
「えっ?…あっ、はいっ!!」
いきなりSyouに声を掛けられて驚く勇太。
「凄ぇライブだったよ、カッコよかった」
「…えっ……えっ??」
驚いた表情の勇太に更にJunが
「よぉ、今度ウチとやんねぇ?」
「…えっ?!」
「俺んトコも入れろよ」
Kouまでが参戦してくる。
「えっ?!…いや…あの…えっ?!」
「あ、勝也は出すなよ?反則だぞ」
ファンたちの目の前であのJunやKouから直々に対バンの申請をされるメサイア。
あまりにも光栄な事ながらその事実に戸惑う勇太達メンバーに
「大丈夫だよ、こんなバカをヘルプで入れたりしたからちょっとベースの奴には頑張ってもらわねぇといけないかもだけど…あのステージなら十分こいつらとやれるよ」
あのSyouからも認められた。
驚きと感激のあまり勇太は泣き出してしまう。
そしてみさ達や蘭も群がってきては次々に
「すっごいカッコよかったぁ」
「なんかいつもの勇太じゃないみたいだったよ(笑)」
たった一人のベーシストのおかげでバンドとしての成長までも手に入れた夜だった。




