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135 復活 ⑤

 いよいよライブ当日となった。


緊張から昨日はなかなか寝付けなかった優奈。

ヘルプが決まって以来夜に一緒にいたり休み前に泊まることはあっても勝也がずっとベースを離さないためご無沙汰であるものの、今はそれに対して文句を言わなかった。


朝早くから起き出すとライブ当日に何が必要なのかを知り尽くした優奈がカバンに荷物を詰め始める。

そしてその準備が出来上がった頃


「おはよ~、そろそろ起きて~」

「…ん…ん~…」


モソモソと寝返りを打ってまだ寝続けようとする勝也に


「今日ライブだよ~」


そのたった一言でムクッと起き上がる。


顔を洗ってリビングへ行くと優奈が化粧をしているテーブルにはもう朝食が用意されていた。

それを食べながら


「誰と一緒に来んの?」


「みさ達と待ち合わせはしてるけどブランカのみんなの分のチケットもあたしが持ってるから結局全員集まる事になるんじゃないかな」


「すっげぇ大所帯だな。そんなゾロゾロ来なくてもいいのに」

「勝也が出るって聞いてあの人達が来ない訳ないじゃん」


今日はメサイアとして出る為優奈は同行しない。

付き合い始めて以来勝也のライブに入りから一緒に行かないのはおそらく初めてだ。


「え~っと、メイク道具も入れたし衣装も入ってるし…お水とかは向こうで買うでしょ?あとタオルと…」


「いつものセットだから簡単だろ」

「なんか久しぶり過ぎて忘れ物とかあったらヤだもん」


「大丈夫だってば。そんな派手にしないしベースさえありゃライブは出来る」


化粧の途中で思い出したように荷物を再確認しに行く優奈。

緊張からか何度も何度も確認しつつドタバタ走り回っている。


「今日打ち上げあんのかなぁ」


「え…聞いてないの?」

「だってなんでか知らねぇけどみんな毎回テンパっちゃってそれどころじゃなかったんだもん」


勇太が言っていた『レベルの違い』。

当然他のメンバーも同じ思いであり、リハに入る度に新たな課題や発見が生まれて練習に必死だったのだろう。


「まぁどっちにしたってお前はずっと一緒にいるだろ?」

「もちろん」


勝也が出る時間になった。


ブランカ時代は一緒に出ていたが今日は初めて勝也を見送る。

逆にそれが新鮮で泣きださずに済みそうだったのだが


「行ってらっしゃい、頑張ってね」

「んじゃ後でな」


そういうとグッと抱き寄せ軽くキスして


「長い事待たせてごめんな」


「え?」


「久しぶりにベーシストになってくるわ」


その一言で一気に涙が溢れる。


「…もぉぉ……せっかく化粧したのにぃ……ふええぇぇぇ~ん……」


「ありゃ、ごめんごめん(笑)」


結局泣いてしまった優奈をギュッと抱きしめ


「ちゃんと見に来いよ」

「…うん…」


そう言い残して家を出た勝也の後ろ姿を見えなくなるまで見送った。


化粧を直し、片付けや掃除洗濯をノンストップで済ませる。

もちろん時間は山ほどあるのだが全ての用事を済ませると寝室へ入り勝也のkillerをケースから出す。

そしてスタンドへ立て


「ごめんね、まだアンタが出て来なきゃいけないトコじゃないんだって。ここで勝也の事見ててあげてね」


優奈にとってこの勝也の相棒はもう生きているのだ。


片付けやゴミ出しも終わり服も着替えいよいよいつでも出られる状態になった。

勝也を見送るときは精いっぱいの空意地を張ってみたものの、今日がライブだというのに一人で部屋で待っていられるはずなどなく


「やっぱダメだ…もう出ちゃお」


Junの復活ライブの時と同様、まだまだ早すぎる時間ではあるがライブハウスへ向かった。


いつもブランカが出ていたライブハウスよりもう一駅向こうまで電車で行くと、駅前のドラッグストアに入り水を10本ほど買う。

正直なかなかの重さだが今の優奈には苦ではない。

そこから歩いて10分弱、川沿いの通りにあるライブハウスに到着する。


入り口の扉を開けて受付内にスタッフをみつけ


「すいません、メサイアさんに差し入れ渡してもらっていいですか?」


水を渡すとそのまま外に出る。

目の前の川の方へとブラブラ行ってみたが特にする事もない。

だが駅前の方に戻る気はなく少しでも勝也の近くにいたかった。


ジッと川を眺めながら今日の夜には勝也の復活が見られる事への期待とドキドキが止まらない様子の優奈。

すると後ろから


「やっぱりね~、いると思った」

「……え?!」


聞き慣れた声に振りかえると涼子とSyouが立っている。


「涼ちゃん……Syouさんも」


「お前の事だから一人で家でなんて待ってられなかったんだろ」

「あ…はい」


「やっと見れるんだもんね、アンタが一番見たかった姿」


その言葉でまたジワッと目を潤ませる。


「まだ早いって」

「…だってぇぇ~……」


「おーっす!」


「…え?」


振り返ると平蔵とみぃ。


「だからお前ら来るの早すぎるんだってば」


「テメーもだろ」

「もう朝から平蔵が『早く行こ早く行こ』ってうるさいのなんの」


「ウチと一緒」


平蔵達までやってきた。みんな今日という日を楽しみにしてくれていたようだ。

その想いに目を潤ませていると


「やっぱいたじゃん」

「まぁヒマな奴らばっかだなぁホントに…」


「人の事言えるか?」

「結局お前らバカばっかだからな」


あの伝説のバンドが勢揃いした。

もうその時点で優奈の涙腺は崩壊している。


「あ~あ~もう泣いちゃった」


「Banの顔が怖かったんだろ」

「テメーが言うな!」


みんなが勝也の為に集まってくれた。それだけでもう感動だった。

すると


「なぁお前ら…ひょっとしてそれ水じゃねぇだろうな」


「ん?」


よく見るとそれぞれが手にビニール袋をぶら下げている。

その中身を一斉に出して見せると


「ぎゃあっはっはっはっはっはっは!!!!!!!!!」


全員が差し入れに同じ水を買ってきていた。


「バッカじゃねぇのかお前ら!!」

「しかも銘柄まで一緒ってどーいう事だよ!!」


「だってよぉ、昔あいつ『水は水でも銘柄によって味が違うんだ!』とか熱弁してやがったろ?」

「そのあと利き水させたら全然当たらなかったけどな」


「しっかしどーすんだこの量…貰った方もプチ迷惑だぞ?」

「いーじゃんいーじゃん、いっぺんに持ってこーぜ」


すると優奈と同じくみんなライブハウスの入り口から入り受付に届ける。


「…う…うわ…ブランカ…………」


「決して嫌がらせじゃないぞって伝えといてください(笑)」


「あ!あの…Junクン、バンド作ったんでしょ?ウチにも出てもらえないかな…」

「あー、ありがとうございます。ぜひ」


すでにJunのバンドの知名度はかなり上がってきているようだ。


それからまた外に出ると


「駅前の方まで行きゃなんか店あるんじゃねぇの?」

「来るとき探しといた。昼飲みやってたぞ」


あのJunの復活祭の時の様にみんなで居酒屋へ移動する。

やはり昼間なだけあってスッと席は確保できた。


「しかしメサイアとは予想外だったな」


「解散した時『どっかに頼まれたらやるかも』とは言ってたけど、まさかあいつがビーパンとはねぇ」

「ゴリゴリのハードロッカーのクセしやがってなぁ?」


「まぁ問題はあいつが本気出さねぇかどうかだな」


「え…どうして?」


「考えてみろよ。Junみたいにイチから集めたんじゃなくて元々存在するバンドなんだぞ。おまけにメンバーチェンジじゃなくて1回限りのヘルプだろ?今までのメサイアのカラーってのもあるし、次のライブにはちゃんと正規のベースが戻って来る。…ここで勝也が本気で弾いちまったら一気にベーシストの差がハッキリわかっちゃうじゃんか」


「…あ……」


勝也が言っていた事と同じだった。

やはりこのレベルの男達同士ならただ弾くだけという訳にはいかない理由さえも理解していた。


「でも……実は……」


それから優奈はみんなに今回の件を説明した。

正規ベーシストのコピーではなく勝也のフレーズで演奏してくれと頼まれたことを伝えると男達は沈黙した。

そして飲み物にも手を付けないまましばらくして


「どう転ぶか…だな」

「あぁ、ヘタしたら『メサイア』終わるかもしれねぇ」


「…そんなに?」


「有名なヤツとか上手いヤツがヘルプに入ったらそのライブは確かに大成功するよ。でも本当に大変なのはそのあとだ。『あの時のライブの方が良かった』ってなっちまえばもうそこで先は無い。おまけにそのヘルプが……勝也なんだぞ?」


みんなの背筋に冷たいものが走った。


「確かに…そのあと戻ってくるベースの人は大変だね」

「まぁでもさすがに勝也だってそのヘンの事はちゃんと分かってるだろ」


「いや、ところが困った事に…あいつは本物のバカだ♪」


平蔵のオチで大爆笑に。

だがやはりみんな心の中ではベーシストとして復活する勝也のライブが楽しみで仕方ないと言った様子だった。


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